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ロク  作者: にゃんちぃ
第五章 敵陣進攻(続き)
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十三話:必ず生きて戻れ!


 午後、作戦室。ナムチはまだ術後の調整をしているらしく、アルタゴス、シタハル、ねこ父との打ち合わせとなった。



「富士地下トンネル封鎖作戦の最終確認をしていくぞ。シタハル、昨日申しておった霊界急行列車の運行休止中に、霊虎が溜め込んだであろうエネルギー量の算出はできたか?」


「はい。運行休止になった本数、平均乗車数、そこから運行再開後に平均より増加した乗車数を差し引きまして概算値を出したところ、霊界の生活エネルギー三ヶ月分相当と出ました」


「そんなにか!」


「はい。しかも悪いことに、わたしたちが塞ぐために炭化ケイ素を送り込むエネルギー量よりも、圧倒的に少ないエネルギー量で地下鉱物を飛ばすことができるのがわかりました。わたしたちは炭化ケイ素を作り出し、成形した上、ポイントを特定して誤差なく送り込みをしなくてはなりませんが、霊虎の場合はひとまず近場の異空間に転送するだけですので、エネルギー消費が少なくて済むのです。具体的には追加されたトンネル二本分で、霊界の生活エネルギー二ヶ月分で可能ということがわかりました」


「では、まだ一ヶ月分の余力を残しておるということじゃな」


「はい、そうなります。もちろん、あくまでも想定上での試算ですので、本当のところは霊虎のみぞ知る、ですが……」


「それはよい。じゃが、生活エネルギー三ヶ月に相当する数の霊魂がここに来ておらぬというのは、間違いないのであろう?」


「はい。そこは間違いありません」


「これはなかなか大変なことじゃ……」


「では、作戦は予定通り、霊虎とは戦わない方針になりそうですね」


「そうじゃな。それどころか、ムリは一切禁止じゃ。命を最優先じゃ。誰も死なぬことを大前提の作戦とする。よいな!」


「はっ!」「はい!」



 班の構成や、作戦実行の手順などは変更なし、となった。ひとつだけ変更があったのは、班ごとの担当オペレーターである。三班程度であれば、シタハルだけで十分対応が可能ということで、シタハルが集中して行うことになった。その方が全体の把握が早いということらしい。



「これ以上、霊虎の力を増大させるわけにはいかん! 富士地下トンネル封鎖作戦を成功させ、霊虎を討ち取るその第一歩とするぞ!」




     ※     ※     ※




 その後は、みんなが作戦準備に取り掛かった。

 ロクらは無事手術を終え、術後回復から戻ってきたところだった。



「どうなんだ? うまく昇華球を放てそうか?」


「ううん、まだ全然。ナムチさんに言わせると、今回の手術でサルメと同じ昇華球を作れる条件は整ったらしいのだけれど、サルメのその作り方がとても複雑なんです。一度やってみたのですがとても難しくて、習得までには時間がかかりそうですね」


「そうか、わかった。じゃあやっぱり霊虎との戦闘は避けて、ムリはしないようにしなくちゃな」




 そんな話していると、アルタゴスがやってきた。僕の青白い閃光の計測結果が出たのと、霊虎のマーキング除去の時に頼んでおいたヤツが出来上がったらしい。



「まずタカさんの攻撃時の霊圧エネルギーですが、わたしたちの霊圧エネルギーと少し質が違うようです。細かな解明まではもう少し時間がかかりますが、簡単に言えば質が高い、ようです」


「あら、アルタゴス。その言い方だと史章が優秀に聞こえてしまいますよ」



 ロクの横槍に、アルタゴスは困った顔をして苦笑いをする。ロク、それは僕を苛めるというよりは、アルタゴスを苛めることになっているぞ!



「アルタゴス、気にしないで続けてくれ」


「それとタカさんの二割の力というお話しから逆算しますと、タカさんの総エネルギー量はキャスミーロークさまの七倍分になります」


「ん? 僕はそんなにロクを回復はできないぞ。ゼロからフル回復するなら、その半分のハズだけど……」


「筋肉量が増えたことによって、霊圧エネルギーも増加したのかもしれませんね。詳しいところはナムチにでも伺ってください。キャスミーロークさまの総エネルギー量は本日お測りしたものですので、間違いありません」


「ああ、それで昨日、あんなに回復したんですね。おかしいな? と思ったんです」


「そうか。ロク、ちょっと後で確認してみよう」


「ええ、いいですよ」



 僕は握り拳を作って、力を入れてみたりする。力は確かに以前よりは出せるのがわかる。持久力の方も、昨日のロクとの打ち合いを三分以上やって、まだまだ余裕があった。スピードも一分間を繰り返しやっていた時よりも、途中からは圧倒的に速くなっていたハズだ。そう考えれば、七倍というのも不思議じゃないんだろうか……。あとで、ナムチに聞いてみよう。



「それと、タカさん、頼まれていたものです。ひとまず三種類、煙幕玉と閃光玉、それに砂鉄玉です。全員が(ひと)玉ずつ、計三玉所持できるようにしています」


「おお、アルタゴス、ありがとう。どこまで効くかはわからないけれど、少しくらいの隙を作れればな」


「ピンチの時には意外に有効かもしれません。こういうものを使われたことはないでしょうから」


「なんだか面白そうなものを作ってもらったのですね。使い方を教えてくださいよ」



 ロクが目を輝かせて覗き込んでくる。新しいモノに目がないのだ。



「うん、あとで作戦実行メンバーには説明しなきゃだから、演習場で実演してみせるよ」

「えー、その実演はわたしがやりたい!」

「ったく……。アルタゴス、予備はどのくらいある?」

「ハハハ。大丈夫ですよ。数はたくさんありますから」

「すまないな」



 結局、全員が一個ずつ、実際に使ってみることになった。砂鉄玉はその後の掃除が大変なので、お試しは煙幕玉と閃光玉で行われた。



「ぐはぁー。これー、忍者のヤツだねぇー」

「よく知ってるじゃないか」

「フフフー、使ってやろー」

「やみくもに使うんじゃないぞ! 使えば使うほど効果がなくなるんだからな」

「ちぇーっ! タカくんのケチぃー。ケチケチしすぎぃー」

「おい、そういう問題じゃないんだよ!」

「史章、わたしは反省するわ。サルメを見ていて、わがままばかり言うもんじゃないと、たった今、しっかりと気付きました」

「あー! キャスミー、ひどーい!」



 こんなんで大丈夫なんだろうか……、まったく先が思いやられる。




     ※     ※     ※




 翌朝、午前五時。


 全員が準備を整え、これからの任務に緊張と興奮で紅潮している。

 霊虎の拠点に初めて、いよいよ乗り込むのである。

 間違いなく、恐怖もあるのだ。

 その恐怖を克服せんと、各々が己を高めている。

 いつも陽気というか、おちゃらけているサルメですら

 口を真一文字に結び、神妙な面持ちでいた。


 ねこ父が面前に立ち、鼓舞をする。



「これより、霊虎の懐を叩く!

 この戦いは先の襲撃の、

 追善合戦の第一歩である!


 但し!

 戦わずして勝つ!

 よいな。決して勇むな。

 したたかに行動せよ。

 必ず生きて戻れ!」



 皆、表情を引き締める。



「では、参るぞ!」



 ロクの合図とともに、部隊の全員が富士の地下へ、それぞれの目指すべきポイントへと空間移動する。移動そのものは予め決められた通りであり、そこは何ら問題ない。警戒すべきは、到着したその瞬間である。何事もなく作戦を遂行できるか、それとも敵が待ち構えていて、すぐに戦闘に入ってしまうか?


 霊虎の分身思念体を打ち破って、三日。これまで霊虎は立て続けに攻撃を仕掛けてきた。果たして僕らが攻めてくることを予想して準備しているか否かである。もし僕が霊虎の立場でいたならば、さらに追い打ちをかけるにはどうすればいいか、ということに考えを巡らせているだろう。けれど、間違いなく防衛を怠ることはない。僕らの攻撃をどれほど深く読み切れていて、どれほど防衛態勢を整えているか? 分身思念体との闘いでは、圧倒的な力の差は歴然だった。少しでも油断してくれていることを願うばかりである。




 ほどなくして、僕らロク班の目標地点、七番トンネルの上方側の出入口に到着する。


 周囲を見回す。僕らはぽっかりと空いた空間の中にいた。広さはテニスコート一面(いちめん)ほどだろうか。下には口を大きく開けたトンネルがあり、長く続いているのがわかる。上にもトンネルがあるが、それはまだ掘り始めたばかりのようで、五メートルほどで止まっていた。恐らく、一番トンネルとの接続を図るものであろう。



 そのトンネルを掘るべく働いている下級霊たちが

 異変を察知し、僕らの姿に気付く。


 ネモーリが、僕らの周囲にいた数体の下級霊を薙刀で一掃、

 関門海峡でもそうしていたのだろう、そのまま吸収する。

 少し離れたところにいる下級霊は、

 僕とロクが射撃で昇華させていく。


 ひとまずは周囲にいる下級霊は一層できた。決してゆっくりできるわけではないが、それでもひと呼吸、息をつける状況になった。



「史章、見えておるか? もう少し磁波を強くしてやろうか?」


「思った以上に大丈夫だ。強くしなくていいぞ。霊虎に気取られるのが早まるだけだしな」


「よかろう」



 近場に霊虎の姿はない。気配は……、ある!

 上のトンネルの、行き止まりよりもまだ先。

 戦った分身思念体の二倍程度の霊圧エネルギーを感じる。



「ロク、これはムリだ! ここの一本だけで、撤退だ!」


「ああ! わかっておる!」



 僕らの存在に気付いて、

 遠くの方から向かってくる下級霊の群れをよそに、

 七番トンネルの中央辺りに空間移動。

 計測札を貼り付ける。


 なんとか、一本は成功した。ちょうどその時、シタハルから部隊全員への思念会話が入る。



「霊虎は一番から五番のトンネル内にそれぞれいます。上側のトンネルを警備しています。前回の二倍の強さがあるようです。全部隊、速やかに撤退してください!」



 それを聞いて、ロクが「よいか?」と僕に聞いてきたので、「行こう!」と答える。僕らの次の目標のトンネルは十番、下側である。そこには霊虎はいないことになる。ロクはもうひとつ、トンネルをつぶしていいか聞いてきたのだ。三十秒以内で終えられるなら、たぶんギリギリ行けるだろう。十番トンネルへの空間移動をしながら、シタハルへ確認する。



「シャルは接敵してないのか?」


「してます! 交戦中です!」



 シャル班の最初の目標ポイントは五番トンネルだった。

 やはり捕まってしまったのだ。



「サルメは、逃げられたのか?」


「今、設置完了です。これから離脱するところです!」



 そこまでやり取りしたところで、十番トンネルに到着。今度は端っこではなく、直接トンネル中央部に空間移動してきた。すでに完成したところの方が下級霊はいないことがわかったし、時間的余裕もないので、ロクが直接ここへ飛んできたのだ。


 すぐに計測札を貼り付ける。


 これで二本の成功! うまくいった!



「シャルの援護に向かうぞ!」



 ロクがそう言って、

 空間移動に入ろうとしたその時である。



「シャル班、離脱! 離脱に成功です!」



 シタハルが叫び声をあげた。

 うまく煙に巻いて逃げ切れたようだ。



「ロク、僕らも撤退だ!」


「よし!」



 予定の本数を塞ぐことはできなかったが、それでもここは良しとすべきだろう。霊虎は分身思念体を五つに分けて配置、防衛態勢を敷いていたのだ。その中で三本から四本は塞げたのである。壊滅的とはならないだろうが、十分な痛手にはなるハズである。ここからは作戦通り、姉島への空間移動をして撤収だ!



 そこに、サルメから思念会話がくる!

 なんで、サルメから?

 おかしい!


 思念会話はすべて霊殿経由にしていたハズだ。



「出れないよー。閉じ込められたねー」

「どういうことだ! サルちゃんっ!」

「霊虎にぃー、防御網ぅ、張られたー」




     ※     ※     ※




 ―― 霊殿 ――



 シャルの離脱の報告を聞いて、一安心した瞬間、

 全員の霊圧エネルギーが途絶えた!

 感知が出来ぬのだ!



「なんじゃ!? シタハル! どうなっておる!」

「わかりません! 全員の信号が消えました!」

「思念会話は! 繋がっておるのか!」

「呼びかけておりますが、誰からも返事がありません」

「なんじゃと!」

「呼びかけ、続けますっ!」

「ええいっ! アルタゴス、何かのエラーか!」

「いえ、そのようなことはないハズですが……。今、原因を究明中です」

「早うせいっ!」

「はっ!」



 ええい! ええい! ええいっ!!


 何も分からぬではないか!

 思わず作戦室を走り回る。

 こんな時こそ、どっしりと構えねばならん!

 それがわかっていても、居ても立ってもいられぬ!


 作戦室には、爪研ぎもない。

 イライラが治まらず、

 思わず作戦室の扉で爪を研ぐ。


 いかん、いかん。

 思い直し、僅かな痕跡も見逃すまいと、

 富士地下へ意識を集中する。

 が、ぼやけていて、何も中の様子が見えぬ。


 もう分身思念体を飛ばそう!

 そう思った瞬間、

 アルタゴスが大声を上げた!



「大王様、判明しました。霊虎が、防御網を張りました」

「な、なんじゃと!」

「計測札の信号も途絶えておりました。そして…………」

「どうした!」

「全員、閉じ込められたようです」

「な! ひと班もか、ひと班も離脱できなんだというのか!」


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