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ロク  作者: にゃんちぃ
第四章 霊界急襲さる
39/80

六話:霊殿を襲う暗闇

 

 そろそろ休みたい……、寝たいぞ……。


 関門海峡任務開始から、まだゆっくり休めていないのだ。反省会議が終わったら自宅に戻ろう! なんて思っていたのだけれど、問題点が多すぎて、やることが多すぎて、それどころではない。

 とはいえ僕の軟弱非力な体は正直で、さすがに倒れそうだ。ナムチの栄養剤のおかげで、どうにかなっているとしか思えないほどの疲れっぷりである。一つ一つのやるべきことを片付けているのに、それをする度にやることが増えていくような状況である。


 本当は、安徳帝との別れをしっかりと噛みしめておきたいのに、心に刻んでおきたいのに、アイツに言われたことがあまりにも重要過ぎて、それどころではなくなってしまった。少なくともねこ父やアルタゴス、場合によってはウワハルにも話しておかなくてはいけない。みんなが天叢(あまのむら)雲剣(くものつるぎ)について、僕のあの謎の攻撃について調べてくれているのだ。まさか八尺瓊(やさかにの)勾玉(まがたま)とセットで使うだなんて、いくら調べたってわかるはずもあるまい。他にもいろんな問題が山積している以上、みんなに無駄な時間を使わせるわけにはいかない。


 とにかく急いで王の間に向かう。向かいながら、ウワハルへの連絡はロクにも協力してもらおうと、思念で呼びかける。



「ロク、今、どこにいるんだ?」


「……。んー、何か呼びましたか? ……。もう……、休んでいます……」


「そうか。ならいいんだ。ゆっくり休んでくれ」


「史章は……、まだ戻ってこないんですか……」


「ああ、もう少しだけやることがあるからな」


「早く……、戻って……きてくださいね…………」


「戻って? お前、僕の部屋にいるのか?」


「はい……。史章のベッドで…………」



 お前には自分の、大きなちゃんとした部屋があるだろうが、まったく。

 このぶんだと、シャルもダメかなぁ。とりあえず聞くだけ聞いてみよう。



「シャル、今、大丈夫か?」


「あ、タカぁ。どうしましたかぁ?」


「今、なにしてるんだ?」


「今わたしはお風呂に入っていますぅ。タカも入りに来ますかぁ?」


「お前は僕がロクに呪い殺されるのを楽しみにでもしているのか?」


「ウフフフ。お風呂気持ちいいですよぉ」



 思わず立ち止まる。なんかおかしい。



「シャル、お前何か飲んだ?」


「はいぃ、キッチンの冷蔵庫にあった炭酸を何本か頂きましたぁー」


「そうか……。風呂で寝るなよ!」


「はぁい」



 ダメだ。まあしょうがない。二柱とも関門海峡任務で頑張ったしな。なんとか自分で頑張るとしよう。

 そうこうしているうちに、王の間に着く。ノックをする。



「ねこ父、いますか?」


「なんじゃ? 入ってよいぞ」



 入るとねこ父は、寝間着を着ていた……。すっかり休息モードである。ナイトキャップまで被っていた。



「あれ? 今何時でしたっけ?」


「下界時間では夕方の五時ごろじゃの。今日は疲れたでのぅ。早めの就寝じゃ。で、どうしたのじゃ?」


「あ、では手短に。先ほど安徳帝と接見してきたのですが、形代・天叢雲剣は本物らしく、僕しか使えないそうです。ひとまず反省会議の時に出ていた、回復と攻撃の違いもわかりましたので、詳細は明日にでも改めてお伝えします」


「うむ、わかった。アルタゴスが解明に取り組んでおったのぅ。中断するように伝えておこう」


「助かります。あのぅ、こんなこと頼んでいいものか……、出来ればウワハル……、情報部にも伝えといてもらえませんでしょうか?」


「フォフォフォ。なにやらギクシャクしておったのぅ。よかろう。なに、同時連絡すればいいだけの話じゃ、気にせんでよい」


「ありがとうございます。助かりました」


「おヌシも疲れておろうから、今日はもう休め」


「ありがとうございます。そうさせていただきます。では、よろしくお願いします」



 ふぅ、やれやれである。ひとまずはこれで、みんなが無駄な動きをすることはなくなるだろう。僕としても、ねこ父の助けでやることが減らせた。あとは、ねこ母とサルメへの貢物の準備だが、僕一人じゃ現世には戻れない、ロクもシャルも休んでいることだし、明日にさせてもらおう。


 そう思ったそのとき、思念会話が飛んでくる。



「タカくんー、今、ひまー?」


「サルちゃんか?」


「おー! 当たりぃー」


「今までバタバタしてたけど、ようやく、少しだけ落ち着いたところだ」


「プリンまだぁー? ボクも今日は仕事終わったのー。プリン食べてみたいなーと思ってー」


「うん、買いに行きたかったけど、今までバタバタしてたから、明日じゃダメかな?」


「今から一緒に買いに行くぅー?」



 コイツは遠く離れていても僕の心を見透かすことができるのか?

 いずれにせよ、サルメと二人きりの行動は恐ろしすぎるぞ。

 僕の本能が、それをしてはダメだと言っている!



「お前も……、僕がロクに呪い殺されるのを楽しみにしているのか?」


「フフフー。ボクならー、タカくん守れるよー」


「話を(こじ)らせる方向にもっていくな!」


「あははー、タカくんはやっぱり面白いねー。まあじゃあ今日はいいやー。タカくんも頑張ってくれたしねー。その代わりぃー、プリンはモロロフにしてねぇー」


「なんだ、もう調べたのかよ……。わかった、明日手配するよ」


「うん、じゃあー、おやすみぃー」


「ああ、お休み」



 なんとか回避できた。やれやれである。


 ひとまず今日中に絶対すべきことはやれたことだし、先送りしようと思ったことは、期せずして当人に伝えることができた。みんなも疲れて休んでいるようだし、僕も今日はゆっくり休むとしよう。風呂に行くとシャルはもうあがって居なかったので、シャワーだけでもと汗を流す。すっきりして部屋に戻ると、僕のベッドの上にはロクがいた。



 ど真ん中…………。



 おいおい。しょうがないのでソファーで寝ることにした。

 僕の待望のゆっくりを、くつろぎを、どうしてくれるんだ!


 それでも、完全に疲れ切っていたのだろう。明日に回したいろんなことを、もう一度頭の中で整理して、予定を組み立てようと考えていたのだけれど、最初の一つを考える前に眠ってしまっていた。




 ※    ※     ※




 ―― ドォォオオンッ!!!! ――




 轟音と大きな揺れ!!

 飛び起きる!

 ここはどこだっ!!


 何が起こったのかわからない。部屋を見渡し、霊殿の自室と認識する。変な匂いが外から流れ込んでくる。何の匂いだ? 血の匂い! ベッドにいたロクもムクリと起き上がる。ロクはねむけ眼で僕を認識すると、それでも反射的に掛け布団をはぎ取り、外へ出ようとした。



「ロク! 待てっ!!」


「外を見てきます!!」


「いや、待つんだ!! 匂いが変だ!!」


「でも……、早くいかないと!」


「待てっ! ここは霊殿だ! お前でなくとも、対応できる奴がたくさんいる!」


「見たらすぐに戻ってきますから!」


「ダメだっ!! おかしいんだ! 血の匂いがする!!」


「血!? これは火薬の匂いです!!」



 血の匂いと火薬の匂い? …………!

 もしかして! 鉄か!!



「わかった。じゃあ、僕が行くから、お前は僕の中に入れ!!」


「どうして!?」


「これが、血とか火薬ならまだいい。けれどもしも、もしもこれが鉄だったら、砂鉄とかだったら、この霊殿にいる全員が動けなくなる!!

 だから、お前だけは絶対に動けるようにしておかないと、それこそとんでもないことになるんだ。お前まで動けなくなったら、この霊殿はおしまいだ! わかるか!!」



 まだ不十分な睡眠からの寝起き直後で、さらに得体の知れない動揺の中で、ロクはしばらく僕の言葉を理解しようとしているようだった。



「僕の考えがハズレなら、そのときは自由に動いてくれていいんだ。反対に、アタリなら、敵襲はない。敵も動けなくなるからな」


「わかりました! それならばシャルも呼んだ方が……」


「ああ。でも、ロクはできる限りほかの霊体たちにもこの危険について呼び掛けてくれ! 外には出るなと! 防御網を張れと! シャルには僕が呼びかける!」


「わかりました!」



 ロクは僕の中に入ってくる。窓の外に目をやると、黒い砂塵が舞い、常に明るいハズの霊殿が黒く覆われていた。やっぱり砂鉄か! それを確認して、僕はシャワーを浴びた後テーブルの上に投げ出していた羽衣とバスタオルを手に取り、部屋を出る。移動しながら羽衣を羽織り、砂塵を吸い込まないようにバスタオルを念のため口と鼻を覆うように当て、シャルに思念会話で呼びかる。



「シャル、シャル、大丈夫か? 今どこにいる?」



 応答がない……。



「シャル! シャル!!」



 くそう! 反応なしか!



「ロク、シャルの部屋まで飛んで連れて行ってくれ!」


「わかりました!!」


「誰か連絡はついたか?」


「お母様だけは。それ以外というか、霊殿は全員繋がりません……」


「ねこ母に、砂鉄の可能性については伝えたか?」


「はい、なんとか!」



 シャルの部屋の前に着く。さすがに早い。ドアを開ける!

 シャルは、ベッドの上ですやすやと眠っていた……。

 なんとも緊張感のない顔で……。


 そういえば、コイツは酔っぱらっていた。そう思い出し、冷静に部屋を見渡す。窓を開けることなく眠ったのだろう、砂鉄は舞い込んでいるが窓際だけで微量だ。バスタオルを口元から外し、少しだけ匂いを嗅ぐ。砂鉄の匂いを確認するつもりだったのだけれど……、ものすごく酒臭かった…………。



「シャル! シャル! シャルっ!!」



 ロクはシャルを必死に揺らしている。意識がないのを呼び戻すように……。



「ロク……、シャルはたぶん大丈夫だ。ゆっくり起こしてやるといいよ。

 あ! その前に、この部屋に外気が入って来ないように防御網を張ってくれ!!」


「えっ!? は、はい。わかりました」



 ロクとシャルが無事なら、どうにか切り抜けられそうな気がする。少しだけ安堵して、窓の外に目をやった。

 黒い砂塵は、まだモクモクと舞っている。いったい、どういうことだろう? ひとまず状況を整理してみる。大きな爆発音があって、その直後にもう鉄の匂いがした。何か砂鉄を詰め込んだものを爆発で拡散させたのか? 今から手を打てることは何だ? まず、砂鉄をどこかにやりたいな。風。



「ロク、どうやったら、この霊殿に風を吹かせることができる?」


「えっ? 風ですか? うーん、穴をあけるとか?」


「それで風が吹くのか?」


「わかりません……。ですが、磁場を崩して穴をあけると吸い込まれます」


「なんだかおっかないな……。ねこ母と話しはできるか?」


「多分ムリです。もう、審判所を完全封鎖して、隔離してしまったと思います」


「うーん……。あ、言仁(ときひと)! ロク、防御網を張ったまま移動するぞ! 僕の周囲(いち)メートルほどでいい、移動に合わせて防御網も移動させてくれ!」


「えっ? シャルは?」


「もちろん連れていくさ。しかし、霊が酔っぱらうとかあるのかよ」


「えっ? シャルは意識を失ってるんじゃ……」


「シャルは酔っぱらってるだけさ。僕の中に放り込んでくれ」


「大丈夫なんだ……。よかった。じゃあ、放り込みます」



 ロクがシャルを僕の中に押し込んだ。なんか酒臭い……。こっちまで酔いそうだぞ! まったく……。

 ともあれ、シャルは僕の中に入れたまま、もう一度ロクも僕の中に入って移動を開始する。



「史章、なんか臭いですよ」


「僕じゃない! シャルだ!!」


「シャルがこんなに臭いわけないじゃないですか」


「僕がこんなに臭いわけないじゃないですか! とはならないのかっ!」


「ん? えっ? えっ! わたし!?」



 とてつもない緊張感の中にあったのだけれど、思わず笑ってしまった。ロクは酒を飲んだことがないらしい。まあ、いつかゆっくりしたときにでも、この危機を乗り切った後にでも、一緒に酒を飲んでやろう。



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