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ロク  作者: にゃんちぃ
第三章 関門海峡任務
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八話:ボクも頭に来てるんだ!



 ロクとシャルが削り、サルメがその削ったところを昇華する。しばらくこの連携攻撃を続けているのだが、まだ相手をジリ貧にするまでにも至っていない。むしろこのペースだと、こちらの方がジリ貧なのだ。



「もう少し膨張させて、削った傷跡に触らせたらどうなる?」


「よし、やってみよー!」



 サルメは拡張を少し大きくして、傷口に触るようにする。すると、一瞬だけであるが、傷口に触れた分だけ弧を描いた形に削れた。そして、削れた個所は、他のところからその部分を補うような形で復活した。つまり、これは小さくなったということだろう。これは行けそうだ。ただ、さっきより進歩はあるけれど、やはりまだ時間はかかる。

 それでも、さすがにロクとシャルである。すぐにこちらの意図を理解し、サルメが狙いやすいような個所を攻撃するようにしていた。



「なあ、サルちゃん」


「ボクはー、さっきよりはー、忙しいけどー?」


「うん、ごめん。やりながら聞いて欲しいんだ。いきなり本体、それこそ核がある辺りを打ったらどうなるんだ?」


「それはダメー。相手の霊圧エネルギーが少なくなってー、戦意喪失してないとー、昇華はできないよー」


「なるほどな。うーん、でもこれじゃあ持久戦になってるんだよな」



 当然だが、持久戦では絶対量が強大な敵の方が圧倒的に有利になる。おまけに敵を削るエネルギー量よりも、こちらの消費エネルギー量の方が上回ってしまっている。



「悪いんだけど、サルちゃん、敵の肩口に一発やってみてくれないか?」


「もー、タカくんは、ボクのはなしー、信じないんだからー」



 そう言いながらも、一発、肩口に打ち込んでくれる。ビー玉サイズの黒球体は肩口に当たると、そこで膨張し、削り取っていた。が、いつもならそこから収縮する黒球体は収縮できずに崩壊する。崩壊した中から黒い靄が出て、敵の肩口に戻っていった。一見すると失敗なのだが、ちょっとした妙案を思いついた! これはいけるかも!



「ほらねー」


「いや、いいんだ、サルちゃん。いいか。サルちゃんがさっきのをやって、崩壊する前にロクとシャルに切るなり、打つなりしてもらうんだ。そしたら、削り取ったところが弱まるから、もう一回サルちゃんが削り取った球体めがけて飛ばすんだ!」


「うへー、それって、ボクめちゃくちゃしんどいじゃーん! タカくん、きらいー」


「回復は僕がしてやる。あと、今度、内緒でプリンやるから」


「プリン? プリンってなにー?」


「うまいんだぜ」



 なんでプリンと言ったのか、自分でもわからなかったが、少なくとも僕の知る限りでは、『プリンが大嫌い!』という女性は見たことがない。もっとも、サルメにはまったく意味のない交渉カードだったのだが……。とはいえ、攻撃の意味は理解してくれたようで、しぶしぶながらもサルメは肩口にもう一度、黒球体を放つ。



「ロク! 削った球体を攻撃してみてくれ!」



 サルメの球体が、削って膨張したところで、ロクが刀で切りつける!

 そこから黒い靄が出てくるが、敵の肩口に戻ることはない。サルメが先んじて放った二発目が黒い靄に当たると、それは見事に昇華された。



「よし! この攻撃で削ろう! サルちゃん、核を狙いたいところだけど、先ずは削りやすいところでいいぞ!」


「ぐへー、重労働ぅー。ぶらっくぅー」



 そうは言いつつも、さすが霊殿一と言われるだけある。サルメは両手を使って、敵の両足を狙う。膨張を少し大きくして、削りを大きくする。そこにすかさず、二柱が刀を振るう。刀を振るっているときには、もう既に二発目を打ち込んでいた。敵の体が少し小さくなるのが、ほんの僅かではあるけれど、初めて視認できた。


(これは、サルメの霊圧エネルギーが要る!)


 僕はすぐに腹に気を集める。少し雑ではあるけれど、一瞬だけ目を瞑り、その気をなるべく綺麗に練る。すぐ横にいるサルメに肩に手を当て、直接流し込むイメージをする。ロクの一回分に相当する量だ。サルメはこれでひとまず全回復したはずだ。残りはまだ四回分ある。



「うーん。いいねー、タカくんのー」



 サルメはまた二発分、さっきより少し大きめのものを放ち、削り取り、昇華する。さらに二発、と繰り返す。敵の図体は、ロクの三倍程度にまで縮まった。これで完全に立場は逆転した。今、エネルギーを削り取られているのは、確実に平知盛の方だ。




 僕たち全員が『よし! いける!』と思ってしまった。誰一人としてそんなつもりはなかったのだけれど、それは間違いなく、油断だった。

 二倍半程度の図体まで削り取ったところ、突如として平知盛は大きくのけぞって、息を吸い込む。炎でも吐き出すかのような姿勢だ。皆が、何かを吐き出すと、身構える。が、敵が出してきたのは『声』だった!


(ヤバい!)


 僕は咄嗟に両耳を手でふさぐ。同時に、心の中で叫ぶ!



『耳をふさげ! 例の攻撃だ!』



 が、遅かった。


 ロクもシャルも動けずにいる。隣のサロメも動けずにいる。僕は、敵との距離があったことも幸いして、声が届くと同時ぐらいに耳をふさげた。すこし頭がぐらついたが、まだ動ける。

 敵は薙刀でシャルに襲い掛かり、一刀両断。左腕と左足を切断される。シャルの切断面からは、まるで血が流れ出るように、黒い靄が出続ける。平知盛は、体を反転させると、今度はロクを狙う。

 ロクのところに行きたかった。それでも行けなかった。そもそも間に合わないし、次にサルメを狙うのがわかった。今、僕はサルメを守らなくてはいけない! 僕らの勝手な判断でこうなっている。サルメを巻き込むわけにはいかないんだ。シャルが作ってくれていた防御網は、当然、さっき消えてしまった。


 ロクが切りつけられる。肩口から斜め一閃。ロクが大きくのけぞる。


(くそう! くそうっ!!)


 悔しくてしょうがないのだけれど、僕はサルメを守る! サルメを僕の後ろにやり、形代・天叢雲剣を構える。戦国武将に勝てるはずはない。僕は剣道をやったこともなければ、刀の握り方すら知らないのだ。とにかく敵の攻撃を受けきることだけを考える。

 相手の薙刀も刀も、実際のものではない。霊圧エネルギーで再現されたものだと考えるべきだ。ならば、やっぱりこの形代・天叢雲剣に、僕のエネルギーを注ぐしかない気がする。だが、一歩間違えれば、敵を回復させることになる。せっかくここまで、全員が苦労して削ってきたんだ。僕の判断ミスで、回復させてしまうことはできない。


(腕が飛んでもいい。このままで受けてみる!)


 平知盛はこちらに向かってくる。

 やはり気を向けられると、とてつもなく恐ろしい。

 足と手が、がくがくと震える。

 敵はまっすぐこちらに向かうまま、突きにくる!

 おいおい、突きを払うなんてできないぞ!

 後ろにはサルメがいるから、避けることもダメだ。


(刺し違えしかないか!)


 剣士は対峙すれば相手の力量がわかるという。僕がとてつもなく弱いことを認識して、油断してくれることを祈るばかりだ。それならば、少しは可能性がある。どうせ差し違えしかないなら、胃の辺りでも狙って、核とやらに一発ぐらいお見舞いしたいもんだ。


 ドンッ!!!!


 右わき腹に、遅れて猛烈な痛みが走る。僕の切先は、相手に届きもしなかった。


(痛い、痛い、痛すぎる)


 敵は、薙刀を引き抜く。さらに激痛が走る。敵が振りかぶるのが目に入る。


(くそう、くそうっ! 届けぇぇええ!!)


 死力を尽くして、前へ。前へ、前へ!



「うおぉぉおおおおおおおお!!!!」



 とにかく必死、気力だけだった。

 剣が青白く、光っているのは見えた気がする。

 今、痛いところが、右わき腹だけだ。

 どういうことだろう?

 (おもて)を上げる。

 敵の大きな図体がある。

 が、動きは止まっている……気がする。

 敵の図体に、穴があって、その先が見える。

 よくわからないけれど、チャンスかもしれない!

 痛いけれども、一歩前に踏み込む。

 すべての力を振り絞って、斜めに振り下ろす。



「うがぁああ」



 相手の悲鳴のようなものが聞こえる。

 どうなっている?

 僕は、痛みで思考がまとまらない。

 視界も、だんだんと狭くなっていく。

 僕は、意識が遠のくのを自覚する。

 ロ……ク……、大丈夫……か?




     ※     ※     ※




(しまった!)


 何たる不覚。体が動かぬ。さきほどとは違う。

 視界はある、思考もある。磁場を操っておるか。

 敵が、シャルを切りつける!

 次はワシ、その次はサルメか!

 横目で、史章とサルメがいる方を見ると、

 史章はなんとか動けておるようじゃ。


(史章! 逃げよ! 逃げよ! 逃げよっ!!)


 敵が近づき、振りかぶる。

 すべて見えて、すべてわかるのじゃが、動けぬというのは、なんと忸怩たる。


(くうっ!!)


 先ほどの弓武士のときは、史章の言うように、意識を整えることで動けた。じゃが、此度(こたび)は違う。磁力で抑えられておるのであれば、それを超える磁力を動かせばよいこと。なぜ磁力を操れぬのかが、わからぬ。

 切りつけられたところから、霊圧エネルギーが漏れ出る。傷が深い。漏れ出てしまうのであれば、少しでも傷口を塞ぐのに使った方がよい。磁力のコントロールが出来ぬゆえ、すんなりとはいかぬが、それでも動けるようになったときに、しっかり動けるようにしておきたい。


 そうしながらも、やはり横目で史章の方を見る。

 史章が形代・天叢雲剣を構える姿が見える。

 サルメを守るようにしている。


(バカものが……、おヌシの方が脆いのだぞ!)


 史章との思念会話が出来ぬのも解せぬ。


『シャル、聞こえるか?』


 返事はない。

 手足を失った程度でシャルが死ぬことはない。

 どうやら、シャルも完全に封じ込められているようじゃ。

 史章の方を見やると、突き刺されていた。

 くそぅ! ワシが止血してやらねばならぬというのに!

 敵が薙刀を振りかぶり、史章を切りつけようとしている。

 史章がこれ以上の傷を負えば、さすがに厳しくなる。


(ええええい! 動かぬか!)


 そのとき、閃光が走る!!


(なんじゃ!?)


 敵の腹を貫通していた。束縛が解ける!

 瞬時に、敵の方へ向かう。

 今、()()()()()()()()で向かう!


 敵は、史章に追撃しようとして、腹を撃ち抜かれた。

 が、一発ぐらいではダメじゃ。

 根性で、あの薙刀を振り下ろすであろう。

 その前に、なんとしても史章を救う!


 敵が振り下ろす前に、

 ワシは背後から平知盛を切りつけた!


(間一髪!! 間に合った!!)


 すると、史章が敵の前面から、さらに切りつける。

 そして、そのまま史章が崩れていくのが見えた。


(許さん! 断じて許さんぞぉぉおお!!)




「シャルっ! 動けておるかっ!」


「大丈夫です!」


「史章の治癒を頼む! ワシはこやつを始末するっ!!」


「ボクも頭に来てるんだ!! キャスミー、大玉喰らわせるから、ギタギタにやってー!!」



 サルメが全エネルギーを注ぎ込んで、

 平知盛を丸々飲み込むサイズの黒球体をぶつける!



「うがぁああ」



 すかさず、ワシは右腕をマシンガンにして打ち込む!

 怒りに任せて打ち込む!

 シャルに注意されるまで、打ち続けた……。


 サルメは最後のエネルギーを使って、昇華させた。

 終わった…………。





「史章は?」


「大丈夫です。それよりもロク、早くご自分の傷をひとまず治してください」



 わたしはお構いなしに史章の傍へ行く。気づけば、小さな姿になっていた。でも、そんなことはどうだってよかった。



「たかあき! たかあき!!」



 史章の頬をさする。



「たかあき!!」


「うっ。……。あ、ああ、ロクか。……大丈夫そうだな。よかった……。」


「バカですか! こんな時に人の心配なんかして! ああ、よかった。ああ、よかった!」


「サルメは……? 大丈夫……? シャルは……? 大丈夫……?」


「二柱とも大丈夫です」


「よかった……。ああ、痛みがないってことは、治してくれたのか。ありがとう」


「シャルが治しました。わたしは、にっくき平知盛をやっつけてやりました」


「よく……、やった。お前は、……泣き虫だなぁ」



 そう言うと、史章は横になりながら手を伸ばし、

 わたしの頭を撫でた。


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