最後の戦い1
黑の肩にしがみ付くのに精一杯で、何もできない心は自分がいかに足手纏いかと思い知らされながら、それでも黑と離れてはいけない様な気がして必死にここまでしがみ付いてきた。
それは、黑と離れるのが怖いかったからでもある。自分の小さな身体では、何かの拍子で吹っ飛ばされて一人取り残されてもおかしくはないと、それを思うだけで恐怖に震えそうになった。
「心...」
黑が心に顔を向け、心配そうな視線を向けてくる。
「...大丈夫」
優しく語り掛け、じっと心配そうに見つめてくる黑を、見つめ返す。黑が自分を想っているとそう思うだけで恐怖で冷えた心もじんわりと温まり心強さが湧いて、一抹の不安も不思議とすっと消えた。
黑はその心の目を見て、小さく頷くとニフリートへ視線を向ける。
「...ニフリート、他の子達の事、任せるよ」
「ええ、もう私達では、太刀打ちでそうにないものね...こっちは任せて...生きて...また会いましょ」
黑はハッとした様な顔をして、小さく頷くとうっすらだが笑みを浮かべた。
「カロ、あんたも元気に帰って来なさいよ。そしたら、また稽古つけてあげるわ」
「あぁ、分かった。じゃ、行ってくる」
心のその言葉を最後に、黑はゲミュートに飛び乗ってサラマンダーが暴れている空へと駆けて出した。
サラマンダーの近くまで駆けていけば、そこにはサラマンダーだけでなく、二頭の竜が必死に応戦していた。
一頭は青白い竜でサラマンダーが吐き出す炎を水を吐き出して相殺し、栗色の竜はサラマンダーを止めようと鋭い牙を剥き出し首元に噛み付き、鋭い爪で胴体に爪を立ててしがみ付いている。
それでもサラマンダーの勢いは抑えきれず狂った様に暴れ、ひっきりなしに炎を吐き出していた。それはもう、苦しみでもがき泣いている様にも見えた。
「...時間の問題だな...」
目の前の光景を悲しそうな目をしてそう呟いた黑は、ゆっくりと瞬きをしてから心に顔を向ける。
「...心、私はこの世界を救う為に、行かなければいけない...」
黑はそう言って、心を両手で掴んで肩から下ろすとゲミュートの背にそっと乗せる。
「...でも、心、君が側にいてくれるだけで...なんだか力が湧いてくる...そんな気がするんだ。だから...身勝手は承知で、逃げずに、此処にいて見届けて欲しい」
急に離されて心は心細くて恐怖が蘇ったが、それでも黑の真剣な眼差しと、その言葉を聞いたからには頷くしかなかった。
黑は心にいつになく優しく微笑むと、ゲミュートから颯爽と飛び降りた。
そして、黑はこの世界で一番最初に見た、漆黒の竜の姿に変わり、勢いが止まらないサラマンダーへと一気に飛んでいく。
その姿は、どの竜よりも美しく輝いて見え、心はこんな最中なのにも関わらず、目を奪われた。




