救出2
急に引っ張り上げられ、放り出された心は状況についていけず唖然としたまま少し放心状態でいた。
「心...大丈夫?」
黑に呼び掛けられて、心はハッと意識が戻って黑の方に視線を向ける。ただ、なんだかぎこちないというか、いつもと視線が違うようで違和感があった。
「...緊急だったから...仮で私が今まで入っていた、機械の竜に入れたけど...調子はどう?」
「え!?」
心は驚いてキョロキョロと身体を見回すが、可動域が狭いし機械だからか上手く動かせず、ただ確かに身体は漆黒色でメタリックに光り、樹脂の様な如何にも機械な感じである。
「私の器が私の元に返って来て、心の魂は剥き出しだったから...ただ、それでは長時間は耐えられないが...とりあえずは、この場をしのがないといけないからね」
「...わた...ん?...俺は...」
心は心配そうな声音を出し、それを察した様に黑は優しい笑みを浮かべる。
「...大丈夫...私が必ず、心を助ける」
『愛し子、そろそろ』
頭の中に急にゲミュートの声が響き、心の不安も驚きで掻き消えて落ち着きなくキョロキョロする。先程まで自分の事で手一杯で周りが見えていなかったが、段々と落ち着いて見てみれば自分は空を無意識に飛んでいるし、その真下に黑はゲミュートの背に乗ってゲミュートは宙に浮いている。
「あぁ...あの二者も早く助け出さないと、飲み込まれてしまうからね」
「あの二者?」
心は飛んでいる事の方が違和感で落ち着かず、黑の肩に留まる。
「アテネとヴァン... あの二者は、あのサラマンダーの中だ」
黑は少し遠くのサラマンダーを指差し、心はその指差した先を見る。
「...行こう」
そう呟いた黑は指差した手を広げて力を込めると手が光り輝いた。そこには一頭の竜が己の尾を噛んだウロボロスが光り描かれ、宙に出現する。そして次の瞬間には、眩い光に飲み込まれた。
心は眩しくて閉じていた目をゆっくり開ければ、辺りは大量の様々な散りばめられ写真の様なものが波の様にうねり、そこを光の道が切り拓く様にずっと一直線に伸びている。その光の道を、ゲミュートは駆けて行く。
「...こ、これは?」
「これは記憶の渦...この世界を維持する為に切り取られた不都合な過去の記憶...ずっとサラマンダーが抱え...呪いの根源となったもの」
「...呪い?」
「心は...記憶の渦で見たと思うけど、この世界一度崩壊しかけた原因は、神族が地の神と契約を反故したせいで代償としてその原因たるもの、その時には既に手遅れで、収まりきらずに世界そのものが呪われてしまったけどね」
「...契約って?」
「この世界はシンモラを守るためのもの...何者もそれを脅かしてはならず...それを脅かすものは排除すべしとされている」
「...それは......神族は...直接手は下せないんじゃないのか?」
「...直接手を下さなくても、恩恵を止めれば生きられなくなる...他の命を喰らうものには、それが手に入らなくすればいいだけのこと」
「...兵糧攻めってことか...」
「そうだね...恩恵とはその役割を果たして得られるもの...生を受けたから無条件に必ず得られるものではないってことだよ」
「...でも...役割って言われても...」
「神族は、役割を果たす為にいるのだから、それを違えれば罰が与えられる。それが世界維持して行く為に、必要なんだよ。間違っていれば、正さなければいけない立場にいるのが、神族。それを、四大精霊は怠ったのだから...神族失格だったって事だよ」
「... 悪気があったわけじゃないのに...」
「神族に、それは許されない。彼等は未熟だったとしか、言いようがないね」
心は開いた口を閉じて言葉を飲み込むと、それ以上言うのを止めた。ただ、四大精霊の気持ちも分かるだけに、やるせなさだけ残って悲しくなった。
「...ところで...黑やスピカちゃんも誰かと契約して器を手にしたのか?」
「...契約をするのは、地に根付く一般の神族だけ...私達は器なるものが側にいるから、器が必要な時は借りればいいんだよ」
「ん?どう言う事?」
「聖獣が、器となる」
「え?聖獣が?でも、黑の聖獣ってゲミュートじゃないのか?」
「そう。でも、それは個々の聖獣。ウロボロスとしては、白龍がいる」
「ん?四大精霊は...」
「四大精霊と契約したのは、眷属の竜で、それぞれの属性の妖精を束ねる王達だ」
「...ん?白龍を二者で分け合ってるのか?」
「白龍はニ体で一対だ。ニ体の内一体が私の器になって、もう一体はこの世界を繋ぎ止めてる」
「んん?なら、スピカちゃんは?」
「あれは...神魂...あー... 世界樹の者をそう言うのだけれど、世界が修復した後、その神魂が何故か二つに分離してしまって...星の雫の生まれたばかりの赤子と融合してしまった。本来なら...個々の聖獣を器にするべきところが、ミニエーラの人柱に二体ともなっていたし、白龍は繋ぎで使えない...だからだったのかもしれないが...何故、そんな中途半端な感じで目覚めたのか分からない。スピカ自身は、自分がウロボロスで、だから私と双子なのだと言う事は覚えていない。不完全な状態...結局、その時ではないから、完全には目覚めなかったのだと思っている」
「...話聞いてもよく分からないけど...エラーが生じてイレギュラー的な事が起こったって事?」
「...私自身がよく分かってないから...なんとも言い難いが、きっと何か意味があってそうなったんじゃないかと...思うしかない」
「...そうか...黑にも分からない事があるのか」
「それは、そう。私は、全知全能ではないからね」
「...そっか」
「さ...アテネの所に着いた様だ。まずは、救出を優先させよう」
「りょーかい!」
少し先では眩い光が輝いて、心達を乗せたゲミュートは躊躇なく一気にその中へ飛び込んでいった。
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