火の竜の追憶3
「うわぁあああ!!なんや!かっけえぇ!!」
サラマンダーとフルールが惹かれ合って目が合った運命的な瞬間を、全くそんな雰囲気になってる事に気づかず興奮気味なヴァンの大きな声によって遮られた。
じっと見つめ合ったままのサラマンダーとフルールはその声によって、はっと意識が戻ってどこか恥ずかしそうに視線を逸らす。
あの一瞬は、お互いに何も語らなくても心が通じ合った、不思議な感じがしていた。
それからは二人は、ちょくちょくサラマンダーに会いにいった。ヴァンがサラマンダーに興味深々で大きな翼に憧れ、フルールを強引に引っ張って行ったのだ。
サラマンダーとフルールはどちらかといえば控えめで積極的ではなく、そうしたヴァンの無邪気で思いのまま行動するその勢いに助けられ、話が通じてなくても互いに心を通わせられる時間が増えていった。
ただ、そんな頻繁に抜け出せば親にバレてしまうのは当然で、キツく叱られた二人はまだ小さな子供だったから行くのを止めるしかなかった。
サラマンダーは急に来なくなった二人の事を思うと今まで以上に寂しくて、その寂しさを埋める様に歌った。それは呼び掛ける様な歌であった。
その歌はフルールに届いて、会いにいけない苦しさとサラマンダーの寂しい気持ちを感じて毎夜ひっそり涙した。
そんなフルールを見ていたヴァンは、自分がいかに軽率であったかと悲しくなった。
それから暫くは親の目があって抜け出す事はなく、大人しくして元気のなかったヴァンが急に笑顔になった。
「ジャーン!」
ヴァンは珍しくコソコソと、小さな小袋をフルールに見せて手渡す。
「何?」
「ふふふ、これは眠り粉」
「え!」
大きな声をあげそうになったフルールをヴァンが慌てて片手で口を塞ぐと、自分の口をきゅっと結んで人差し指を立てた。
「ばか、しーや。わい、仲よーしてるミニエーラの行商に頼んで、もろたんや」
そう耳元で囁くとフルールが落ち着いた事を確認してから、フルールの口から手を離した。
「どうするつもり?」
怪訝そうなフルールに、ヴァンは悪戯でもする様な笑みを浮かべる。
「夜にや、とーちゃんとかーちゃんにこれ嗅がせて、ちょこーと眠ってもらうだけや。そんでな、フルールはあの竜に会いに行きぃ」
「...駄目...だよ」
小さく首を振って悲しそうな顔をするフルールに、笑顔だったヴァンは眉を下げてそれでも必死に笑顔を作るとフルールを慰める様にそっと抱き締めた。
「わいがなんとか隠すから、な。会いに行きぃ...フルールが泣いてるの...辛いねん」
そうしてヴァンの協力の元、フルールはサラマンダーに頻繁ではなくなったが、今度は一人で会いに行く様になった。
それからフルールが小さな子供から少女へとどんどん成長し元々あったギフトの能力も一緒に成長しいき、竜の姿のサラマンダーとも話ができる様になっていた。
会話ができる唯一の存在でもあり、フルールは清らかで優しく、一緒にいるとサラマンダーの心を暖かく包み込んで穏やかにした。サラマンダーの中ではもう、かけがえのない大事な人となっていった。
そういう気持ちはフルールにも伝わっていて、特別自分に優しくしてくれるサラマンダーに恋心を抱くようになった。
特別な事をする訳でもなくて、たわいもない会話をしたり、ただ寄り添って、時には歌を歌う。互いに互いを想い合い、想いを募らせ一日一日、その想いが蓄積していく。
時が経てば経つ程に、変わらない日常を送っていても心が通えば強く惹かれ合って、二者は当然の様に愛し合う様になった。
側に居られるだけで幸せで、別な事を望んでいなかったのだが、それを周囲は許しはしなかった。
ずっと側に居られれば、
そう願いあって、
それだけの事でも、神族と人間と掛け離れた存在だったが為に、周りから無理矢理引き剥がされてた。
けれど、既に心に芽生えて花が咲いた様に互いが互いで満ちてしまえば、誰がどうしようとお互いが強く求めあってしまい、今更離れる事はできなかった。
その結果、サラマンダーは最愛の人を目の前で失った。
もう一生フルールに会えない苦しみで抑えきれない程に苦しくて苦しくて、自分の愚かさと、目の前の人間を八つ裂きにしたい程に憎んで、フルールを大切に想う気持ちで光輝いていた心は、ドロドロと闇に呑まれて輝きを失っていき、火山が噴火した様に激しい怒りに支配されてしまった。




