風の竜の追憶1
シルフは四大精霊として生まれ四大元素のうち風を司り、性格も一番無垢であった。
生まれてから暫く個体差といえば身に纏うマナの色ぐらいで、無垢な子供そのもの。だが属性に絶大な影響を受ける為に、水は慈悲深く癒し包み込み、火は義理堅く強く逞しく、地は好奇心が強く平等に優しく、風は無邪気で汚れを知らないという土台の上で変化した。だから興味が違うのだ、外部から受ける影響も違って当たり前で、個体が定まっていない穢れなき存在からそういう過程を経て成長していけば、外見も内面も全然違って当然というもの。
神族として生まれたのには意味がありそれは果たすべき役目の為に生きるのだから無として生まれても必然的にそうなるべくしてなって、シルフが無邪気で子供であるのも、そういう決められた事であるとも言える。
四大精霊は眷属関係で結束が強いけれど、シルフは喜怒哀楽の楽が強く出た性格で、楽しそうと直感すると勝手にどっか行ってしまうことも日常茶飯事であった。
そこでピリアというこの星、この世界を四大精霊の中で初めに見つけたのがシルフであった。興味を持ったのは、漆黒色の子が見ていたからではあるが、それも運命であった。
そう、その漆黒色の子こそ、黑であり、スルトであったのだから。
シルフが迷い込んだのは、夜の様なのだが少し青み掛かって宝石が散らばった星空の様な場所で美しくもどこか儚げでとても静かだが穏やかな場所。
その中央には虹色の球体が月明かりの様に輝き浮かんでいて薄いピンク色をしているのに、真珠貝の様な青みや紫みに見える事のある不思議な色味をしている星であった。
そこに同じ背丈のスルトが先に居て、じっと見守る様にその星を眺めていた所にシルフが気づいてやってきたのである。
「ねぇねぇ、何見てるの?」
シルフには疑うという概念がない為に誰とでもずっと前からの仲の良い友達という様に接するのはいつもの事でスルトにも当然そうであったのだが、その時は少しいつもと違って子猫が親猫に甘える様に近づいた。
それは、スルトの眷属に四大精霊も含まれるので無意識化に惹き寄せられたとも言える。
「...妹を、見てる」
スルトの表情には変化がなく素の表情のままなのだがどことなく心配した様な視線で、シルフには一切目を向けることがなくずっと同じ一点を見続けている。
それでもシルフは問題ない様でスルトを真似する様に、同じ場所を覗き込んだ。
そこには、スルトとは正反対に穢れのない純白色の髪の長いとても美しい少女が膝を抱え丸くなりながら眠っていた。よく見れば妹と言うだけあってスルトとよく似ているのだが、女性らしさがその子には強く滲み出ていた。
神族には性別というものは存在しないが、人間の様に女性的、男性的、中性的な外見を象り役目の影響でそう見えるだけで、世界樹では魂のみなのだから、本来は光る朧げな物体でしかない。
「あの子がスルトの妹?」
「...そう」
「スルトは目覚めてるのに、まだ起きないの?確か、双子だよね?なんで?」
困った様な顔になったスルトはちらりとその時初めてシルフを見て、少しの間何かを考える様に視線を落としてから、また妹に視線を戻した。
「...まだ...その時じゃないんじゃないかな...私も詳しくは分からないけど...スクルドが言うんだから、そうなんだよ」
シルフは意味が全く分からないという顔をしながらも、理解しないままそっかと言って頷いた。
そうしてそれからというもの、スルトとシルフはただじっと妹を見守る様になった。
ただある時、他の三者がシルフを心配して後を付けた。
基本的にはお互いを干渉しすぎない関係性ではあったが、何処かへ勝手に行ってしまっても必ず何があったのか帰ってきたら必ず話をしていた、話好きなシルフが黙って姿を消すのは今までになかったのだ。
そんな三者を全く気にすることなくシルフは楽しそうにスキップしながら、いつもの様にスルトが居る場所へと行た。むしろ、いつも以上にご機嫌である。
それに対して三者は黙って付いて行く事に罪悪感を感じ、同じ場所にいるのに入口で止まって中の様子をこっそり伺っているだけである。
そこへスルトの隣に行ったはずのシルフが、軽快な足取りでタタタと走って戻ってきた。三者は突然の事で、隠れる事も逃げる事も出来なかった。
「なんで、入って来ないの?」
シルフは三者が一緒に来てくれているものだと思っていたらしく、小首を傾げて不思議そうな顔で三者を交互に見つめている。
そのシルフの反応に三者は、互いの視線を合わせると小さく笑い出す。
「「ごめん、今行く」」
そう嬉しそうに一斉に声に出し、皆でいつも集まる時にはそうしている様に、仲良く手を繋いで中へと入っていった。




