追憶 始まり
暗闇の中、一者の男と、一者の少女が並んで何か同じものを観ている様に宙に浮かんで座っている。
男の周りは何もないのに椅子でもあるかの様で、背もたれに肩を預けて座る位置は少し前にずらし足を前に投げ出して頭の後ろで両手を組んで寛いでいる。
「ヨルムンガルドさぁ...いつまでその格好?」
隣で肘置きに両腕だらんと投げ出し足を組んで気だるげに椅子にもたれ掛かっている、子供というより大人な雰囲気を醸し出すヨルムンガルドには目もくれず、男は見逃せないテレビでも観ているかの様にじっと一点方向を見つめている。
「それをいうならさぁ〜、ナリだっていつまでその冴えないオジサンしてるわけ?なんかさぁ〜ぁ?血だらけでキモいよ?」
ナリは先程までカロと対峙して火山の中へ落ちて行ったはずの男の姿なのだが、ヨルムンガルドはそう言ってる割には興味ないらしくナリと一緒で全く相手を見ようともせずに同じ方向をずっと観ている。
「あー...まー...んーそうだねぇ...痛くはないけどブッキミー!でもさー、此処での役目はお互い終わった訳だしさー...僕達は次のステップへ進まないとじゃない?...今更此処で姿変えるのもさー、めんどいなぁー的な?」
「それねぇ〜、分かる〜」
「...僕も、結構だけどさぁー...ヨルムンガルドのその姿も結構な悪趣味だよねぇー」
ヨルムンガルドはフルールの姿で、自慢げにふふんっと鼻を鳴らし怪しくも不気味に微笑む。
「そう?ただのコピーなんて、簡単だしぃ〜?でもほら、まんまだと辻褄合わないじゃない?結構、それっぽく儚げ演出してたと思わな〜ぃ?」
「だからそれが、悪趣味っていうかさー?でも、ヨルムンガルドの色欲にカロが当てられちゃって、可愛いかったよねー」
そこで初めて、お互いに向き合う。
「「全くだよねぇ」」
にこーっとお互いに笑みを溢すと、面白がって笑い転げながら派手に手を叩いた。
「さ...興が醒めたしさー...帰りますか?」
「だねぇ〜」
二者の笑いも然程長くもなく、そう言い残して一瞬のうちに姿を消した。
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カロは目覚めたのは暗闇の中だった。ただ、カロが目覚めると反応した様に光が灯り、目の前にはポツンと光の粒子がキラキラと星屑の様に輝いて地面から上に昇っていく柱があり、その中に四匹の竜の絵が描かれた黒い表紙の豪華な本が一冊宙に浮かんでいた。
地面に胡座を描いてぼんやりと座っていたカロはその本へ惹きつけられる様にじっーっと暫く見つめてから、そっと手を伸ばして本へと触れた。
本は触れられた瞬間目覚めた様に閉じていた表紙が勝手に開き、パァーっと眩い光を放つと一帯を全て包み込んだ。
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穢れのない真っ白な部屋には中央に葉が青々生い茂った立派な大樹と、地面にはとても浅いが澄んだ綺麗な水が一面に広がっている。大樹の近くではポコポコと心地いい音を立てて湧水が湧き上がり、常に綺麗な水が溢れていた。
大樹は菩提樹に似ていて、ルドラクシャに似た両掌で覆える位の、
一つは青白く光る実
一つは萌葱色に光る実
一つは栗色に光る実
一つは紅焔に光る実
というなんとも不思議な色の異なった四つの実がなっていた。
その部屋に時折前触れもなくふっとそよ風が如く現れのはスクルドで、その四つの実に一つ一つ優しくふーっとキラキラと星屑の様に煌めく息を吹き掛けては、また直ぐに何処かへ消えていった。実は息を掛けられると喜んでいる様にピカ、ピカっと蛍の様に淡く綺麗な光を放ち、暫く光を灯す。
それがどれくらい続いたか、スクルドが小さな子供と手を繋いで現れた。髪や目は漆黒の様に美しく黒々した美しくも、中性的な顔付きの子であった。ただ子供にしてはやけに落ち着いていて、何処となく気品を感じた。
スクルドとその子がじーっと見つめ始めると、急かされたかの様に四つ実は一斉に水の中へとポトンっと落ちた。
スクルドとその子は下を向いてまたじーっと実を見つめ、ポコポコポコっと実から小さな気泡が上がってくると顔を見合わせてにっこり微笑んでスッと消えた。
それからまた幾らか時が経ってから漆黒色の子は以前と全く変わらぬ姿で、今度は一者で現れると膝を抱えてしゃがみ実を眺めている。ただじっと微動だにせずに観ていたのだが、何を思ったか人差し指を水面にそっと触れた。
ハーブの様な音色が微かに響き渡って水面に波紋が幾重にも幾重にも美しく広がった後、急にピタッと静寂が訪れて水面も静まり返る。
そこから一気に実のある場所からボコボコボコっと気泡が湧き上がり、ザァバーっと水が盛り上がると実の色に光り輝く美しい四柱の少年風な同じ顔の子供が水から出て来た。当然、水は盛大に漆黒色の子の全身をびしょびしょ濡らしたのだが、全く気にしていない様子でそのまま四柱の子供も見上げると嬉しそうに小さく微笑んだ。
言葉を交わさなくてもお互いがお互いをしっかりと認識出来ている様で、四柱の子供達が嬉しそうに笑顔で見つめ返せば、漆黒色の子は小さく手を振ってその場から消えた。
そして、この時、四柱の精霊王は誕生したのだった。




