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君と私と竜と白と黒  作者: 雨月 そら
真実への始まりの戦い
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目覚め

 アテネとヴァンが人喰鬼(イーター)と対峙して数分しか経っていないというのに人喰鬼(イーター)もろとも姿を消したのを、カロは今だに階段の所で見ているしかできなかった。杭である焔に包まれた鷲は残すところ、尾の1柱のみ。

 カロは焦らずにはいられなかったが気が動転する程ではなく心臓は緊張でドクドクと早く胸を打つが、頭はやけに冷静だった。

 階段の下はマグマ溜まりで(ドラゴン)まで飛び移るには、人並みの脚力では難しかった。一歩間違えれば滑り落ちて、マグマへ真っ逆さま。

 アテネの様に身体能力も高くなければ、ヴァンの様に飛行魔法を使う事も出来ず、どうすれば焔に包まれた鷲まで辿り着けるかで模索しているうちに出遅れ、一先ず様子を伺うことにしたのだ。

 そこで分かった事といえば、焔に包まれた鷲は人喰鬼(イーター)の黒い血に染まってしまうと砕け散ってしまうということ。

 とすれば、人喰鬼(イーター)にダメージを与え黒い血を流されてしまうと全ての封印は解けてしまうとカロは考えたが、かといってこのまま此処に居続ける訳にも行かず足が自ずと止まる。


 「カロ、分かったはずだよね?...なら、一旦逃げる...それもありなんじゃないの?」


 ずっと黙りだった黑が、ボソボソと耳打ちしてくる。カロは仲間を置いて逃げる事に抵抗があったが、ふとヴァンの言葉を思い出した。胸元辺りのナイトケープをグッと掴んで一瞬眉をグッと寄せたが、敵が動かないことを確認して素早くくるりと(ドラゴン)に背を向けて前を真っ直ぐ見据えた。

 火山の出入口には飛竜が待機してるはずで、キュアノスへ一旦戻り皆と打開案を考えればいい方法が見つかるかもしれないと僅かな望みを抱え、全速力で駆け上がって行く。

 だが、それをあっさり狼がカロの上を飛び越え、目の前に立ちはだかった。

 狼とカロには間合いがあり、一歩どちらかが踏み出せば攻撃できる範囲である。狼が一歩近づけは、カロは一歩下がるしかできずジリジリと押し戻される。

 ゆっくりとゆっくりと階段を強制的に降ろされて、元いた場所へと戻される。これ以上下がれば命がないとカロは覚悟を決め、狼から視線をじっと離さず脇の鞘からそろりと刀を抜いて真正面に構えるが、狼は階段の上からカロを見下ろすだけで一向に攻撃をしてこない。

 カロが使える魔法はたかが知れていたが、クーアに唯一教えてもらい会得した魔法がある。それを使うのは、今しかチャンスがない。


 「強化(ブースト)!!」


 刃がキラキラ輝き出し、カロは柄をグッと握ると前屈みに地面を蹴って狼目掛けて刀を突き出し先制攻撃に動く。

 狼はその巨体にも関わらず、軽やかに交わして壁をつたいカロの背後を取るとフードを噛み付きそのまま(ドラゴン)へ飛び乗って尾の焔に包まれた鷲まで一気に駆けていく。手前で狼は止まり、焔に包まれた鷲へカロを乱暴に放り投げる。

 カロは焔に包まれた鷲に背中をぶつかり、その場にズルズルとしゃがみ込む。人喰鬼(イーター)が焔に包まれた鷲に触れればその身を炎が襲い覆ったが、カロはその影響を全く受けていない。ただ鋼の様な硬さで強打すれば痛みは伴う。

 それでも防御魔法が掛かっているお陰で背中の痛みはさほど感じず、ジェットコースターの様な肺への圧迫感で一瞬眩暈がした程度。握り締めていた刀も手の中で、焔に包まれた鷲で背を支えてよろりと立ち上がり、頭を軽く振ってもう一度刀を構え直す。

 それを狙ったかの様に狼が飛び掛かってきて、カロは斬り掛かろうとするが黒い血が流れるのを咄嗟に恐れて瞬時に刀を半回転して刀の頭で狼の顎を狙う。

 狼の顎に決まったが殆どダメージはなく、鋭い爪がカロへ上から振り下ろされる。それを刀の方向を縦から横に流して爪を刀で受け止めるが、力は断然狼の方が強く押し負け地に膝を突きそうになるが、瞬時に物凄いスピードで黑が狼の目に突撃して狼は体勢を崩して横に飛び退く。

 どことなく交戦的ではない狼も、黑の攻撃は効いたのか威嚇する様に吠える。グルルルと鋭い歯を剥き出しに、体勢を低くして今にも飛び掛かってきそうな勢い。

 ただ斬り付ければ黒い血が流れ、焔に包まれた鷲から遠ざけられる程の力はない。もう一度、刀を持ち直して構えるがカロはどんどん焦り心臓はバクバクと早く、息が荒くなる。


 「カロ!焦るな。よく思い出すんだ、峰打ちだ。あの狼は頑丈だ、カロの力で血が出る程の傷を付けるのは難しい!」


 黑はスーっとカロの肩に戻り、そう言ってカロの耳元で怒鳴る様に制する。

 カロは雰囲気に呑まれしていたが耳がキーンとしながらも、はっと気づく。ふっーっと細く吐いて冷静さを取り戻し、カロを横目でチラッと見てから小さく頷く。


 峰打ち


 そう言葉が浮かぶと何故か頭の中がより冴え、辺りは変わらず煮えたぎるマグマなのに暗闇の中のいるみたいだった。

 もう狼と自分以外何も見えない、そういう極地的感覚にカロは不思議と懐かしさを感じていた。

 ふっーーーーっと深く息を吐き出すと、カロの目付きが鋭くなり、刀の背面である峰に持ち替え頭の上に構える。

 相手の出方を見極めながら互いにジリジリと距離を縮め、先制したのは狼。大口を開いて飛び掛かるところを、冷静にカロはいなし斜め横から刀を思い切り振り下ろすと狼の首の部分に刀の峰が綺麗に決まる。

 狼がよろけるかと同時、狼の片方の手だけが人間の手となりグンっと伸びてカロの首を掴む。尋常ではない力で振り解けず、カロの首はどんどん締まり意識が朦朧となっていく。

 どんどん狼は人の形へ移り変わっていくのに力は衰える事はなく、濁った金色の目は赤く赤く不気味に染まり狼だった男はカロを掴んだまま自分の顔に近づける。

 カロは朦朧とする中、その男の目を逸らす事が出来ずにじぃーっと取り憑かれた様に見つめてしまう。すると、ドクン、ドクンっと大きく心臓が跳ね血が激しく巡り、頭がカァーっと熱くなった。黑が一生懸命何か言葉を投げかけているのも、分からないくらい。

 男が声には出さずに口を動かすと、カロの目は見開いて虚になる。

 にっーと男の口角が釣り上がれば、男はカロから手を離して少し一歩下がる。男がクイクイっと挑発する様に人差し指動かせば、カロはカッと怒った様に力任せに刀を上に構えて振り下ろす。

 男は抵抗せず、カロの刀は首から斜め心臓まで深く斬り裂いた。黒い血がバッと盛大に噴き上げ、黒い雨が降った様に一帯を濡らす。その中で男もカロも黑も血塗られ、何もかもが真っ黒に染まる。

 カロの意識は戻っているはずなのに動きが止まっていて、黑が幾ら呼びかけても反応がない。少してからカロは急にガタガタガタと小刻みに手が震え、持っていた刀を穢らわしいものとばかりに投げ捨てる。

 男はニヤニヤ嫌な笑みを浮かべ、黒い血を垂れ流したままカロの手を無理やり掴むと力任せに焔に包まれた鷲まで引き摺っていく。

 男はカロに何か耳元でボソボソと小さい声で囁いた後に焔に包まれた鷲を男が掴めば、炎が燃え上がるよりも黒い血の流れの方が早く一気に染め、黒い岩石の様になると呆気なく砕け散った。

 そこから(ドラゴン)はどんどん黒く侵食されていき、真っ黒く染まるのはあっという間であった。


 ガタガタガタガタ!!!


 地面が揺れる、いや、(ドラゴン)が目覚めたのだ。

 赤黒く染まった(ドラゴン)が動き出しその巨体を持ち上げ立ち上がると地響きが凄い。大きな翼を大きく広げ一振り動かせば、マグマ溜まりはボコボコボコと活気付いて一気に爆発し噴き上げる。その中を全く動じる事なく(ドラゴン)は上へ、空へと悠々と飛んでいく。

 カロは、(ドラゴン)の尾に掴まっていた男に首根っこを掴まれ無事ではあった。防御魔法もあって外傷らしいものはないが、意識が混濁していてただ(ドラゴン)乗っかっている事しかできない。

 (ドラゴン)が空へと抜け出すと両前足を広げ胸を張り、ガァァァァっと怒声を張り上げれば空気が、木々が、地面さえも震える。

 そこから大きく尾を斜め上に振り上げ前屈みで大きく翼をバサァ、バサァっと羽ばたけばカロ達は一気に空へと吹っ飛ばされてしまう。そこからは落下していくしかなく、男は火山の中へ消え、黑は自分の翼で何とか空を飛ぶ。


 だが、カロだけは(ドラゴン)が丁度大口を開けた口の中へと落ちていってしまった。


 黑はなす術もなく、自分のこの小さな身体を呪った。

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