真実の隙間2
ポエニクスには、ウンディーネの飛竜に乗って向かった。ウンディーネは国を離れる事ができないのはアンの話の中でもあったが、ウンディーネが世界の呪いの鎖によってキュアノスの地に縛り付けられているからであった。
先程まで会っていたウンディーネは仮の姿、思念体と言うもので立体映像みたいなものであり実体ではない。
ウンディーネがミニエーラに旅立つ時に行っていた世界の歪みを直すとは、その思念体を実体へ戻し、今にもひび割れて砕けそうなこの地の結界を自分の魔力を注ぎ込む事で修復している事であった。
アンの話であった世界が炎で包まれた時、その炎は消えた訳ではなく地下奥深くで四体の竜である精霊王達が結界の柱となって押さえ込んでいると、ウンディーネから旅立つ前に話をされたのだ。
「まーわかっとったことやけど、ポエニクスはあっついな...」
「これでも、ウンディーネ様の防御魔法が掛かったネイトケープを身に付けているからこそ、そこまで暑さを感じないのだ。少しは我慢をするんだ、ヴァン。火山へ入れば、この比ではないはずだ」
「かー...まじかぁ...わい、そんな暑いの得意やないんやけど...しゃーない、わいの分のナイトケープ用意してもろたんや、耐えるか...」
ヴァンはカロとアテネと同じオフホワイトのフード付きのナイトケープ端を持ってパタパタ仰ぎながら、小さく溜息を漏らす。
ナイトケープをパタパタ仰ぐと中のヴァンがいつも肌身離さず腰の両脇に装着している愛用している拳銃ではなく、黒く光る拳銃になっていた。カロの魔法石と鉄を混ぜ合わせた魔宝具。
因みにデニスの甲冑も同じで、特殊魔法で魔法石と鉄を溶かして融合させると黒光する。普通の魔宝具は魔法石を嵌め込むだけなので、その威力と言ったら倍以上である。
ただし、その黒く光っている魔宝具は魔力が高くないと使えず、フリークではヴァンとデニスくらいである。混合血は生粋の人間より丈夫で寿命も長く、兎に角魔力が強い。ヴァンにはエルフと狼獣人の血、デニスには狼獣人血が流れている。
ヴァンの場合、エルフの血そのものは濃くなく、家系図から見れば狼獣人の血の方が濃い。星の雫の特徴が出たのは隔世遺伝で、魔力がフリークで一番強いのは三混合血であるからであり、他のフリークの人間では稀に見ない。妹も同じ星の雫の特徴を持っているが病弱で、ヴァンが特殊変異なのかもしれない。
ヴァンがキュアノスに入って倒れたのは強力な魔法を使っただけでなく、フォルケが難なく飛行できているのはヴァンの魔力を常に供給しているからである。他のフリークの民も注いではいるが、ヴァンは秀でていてもしかしたらエルフの近衛隊上位四者に魔力は近いくらいかもしれない。
だとすればヴァンこそ、キュアノスに残った方がと良いのではと言う意見もエルフとの会議で出たが、目的がキュアノスの民を狙ったものではなく別の意図の方が濃厚であった。
アンの予知から想定すればこの世界そのものが危機に落ちるのは分かっていた事で、エルフ狩りをしたところで戦力は上がるが国そのものを落とすのは難しい。
各国には、精霊王が存在して精霊王を倒さない限り国を乗っ取る事はできず、幾ら人喰鬼を増やしたところで精霊王に勝てる訳もない。ただ、精霊王は民に力を貸す事はできても民を直接傷つける事ができず、民だけ潰し合いになるだけという考えに至ったのである。
狙いはポエニクスの竜を利用して、世界を滅ぼす。
今は三柱結界で封印され眠りについているが、その結界を破れば竜は目覚め火の海と化すとアンから伝えられていたのだ。
その為にエルフや狼獣人を狩り強靭な人喰鬼を作りたかった、と考えれば合点がいくのである。
ただ、自分の住んでいる世界を壊してしまえば、自分達も生きていくことはできない。何故そんな事をしなければならないのかは、理解に苦しんだ。
ポエニクスの火山を間近に、ヴァンは両拳銃を取り出して魔力を注入してブレイドへ変化させた。
「ヴァン、それナイフにもなるのか」
横にいたカロは、ヴァンのナイフ型ブレイドを目にして興味深々に覗いてくる。
「せや。前のは形状変化できへんかったけど、鍛冶屋のゴヴニュさんとクレドネさんに頼んでん。まぁ...その二者が形状変化できる魔法使える訳やないから、わいが魔法石に魔法掛けたんを使ってもろたんやけどな」
「え!そんな事もできるのか、ヴァンは。凄いな...ん?ゴヴニュさんとクレドネさん知ってるのか?」
「そりゃー当たり前やん。カロ達が来たから本格的に動いたけどもや、来る前から、この作戦動いてんねんし、わいは他の国とも遣り取りしてるーちゅたやろ?」
「...確かに」
「特殊魔法で魔法石と鉄を溶かして融合させるんは鍛冶屋のおっちゃんに聞いてるとは思うけど、あれ、生粋の狼獣人にはできんのや」
「え?どう言う事?」
カロはいつになく興味津々なのか、食い気味に顔を寄せる。それを面白そうにヴァンは眺め、話の続きを始める。
「ほんま、こーいうの好きやなカロは。魔法石を魔力注いで、魔法石を火を起こして燃やして、ビックハンマーで打ち込むと道具に変化できるんが狼獣人。鉄の方を変化できるんは人間なんよ。やから防御魔法みたいにスペル、呪文ちゅーたらいいんか?は使わん。あれは、魔法陣に魔法を発動する為のスペルが見えんかもしれんが刻まれて、発動する為のスペルを言葉にすると精霊がわいらの魔力を糧に力を貸して、魔法が発動するんやけど、それとは異なるんよ。わいらにとってはそれが普通やから、なんで言われても困るんやけど、わいらや狼獣人の民はそういうのを特殊魔法言うてるんやけど、魔力がエルフより断然弱いけど特別に持ってんねん。で、話戻すけど、狼獣人と人間の混合血やからこういうの作れんねんって話」
ヴァンはそう言って、ブレイドを掲げる。
「そっか...得意分野が分かれてるって事か...因みに、生粋の狼獣人って?」
カロはブレイドをまじまじと見ていたが、ふと思い出した様にヴァンに視線を戻す。
「確か...シュッツァーだけや。シュッツァーの両親はもう亡くなってるきーてるからな。まぁ、せやから族長は、本来シュッツァーがなるべきなんよ...そこら辺の事情はよー知らんけど... 荒型も生粋の狼獣人がなる形態のはずや...それが混合血ができたちゅーと... 人喰鬼いうんは、得体がしれんで恐ろしい...ちゅーこっちゃ...やから...今更やけど、ほんま、きーつけいよ」
カロは話しているうちにいつもの笑みが消えて真剣な顔付きになっているヴァンを見つめ、自分自身も気を引き締めて深く頷く。
「やから...わいはこれで...絶対ににーやんを止めんねん」
ブレイドの柄をグッと握り締めてじっと見つめた後に、ヴァンは拳銃に戻すとホルスターへ仕舞った。




