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君と私と竜と白と黒  作者: 雨月 そら
真実への始まりの戦い
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滅びへの序曲、兄への想い

 フリークは、シーンっと静まり返りっていた。毒毒しく真っ黒な煙を吐き騒音を奏でギラギラとした照明で照らされていた大型化学プラントのような工場でさえも、今は停止している。

 その工場群の奥、枯れ地に寂しく古城というよりは廃墟の様に不気味な城がポツンと聳え立っている。その城門の前に、カロ達とキュアノスで戦った猫背の男がフードを被っていつもの曇天を見つめ無言で立っている。ただ、目元はフードで見えないのでどんな心境なのかは分からない。

 そこへ背後からフードを被り同じ格好をした男達が二者(ふたり)出て来て、ローブからは大きな狼の尻尾が見えている。元狼獣人(ルプス)と思われ、その中で一番すらっと背の高い男が猫背の男に何か耳打ちする。


 「ふーん...やっと始まったのかぁ...はっ!じゃ、彼方さんはー、彼方さーんで頑張ってーもらって、我らは我らの()()の仕事をしよーじゃないかぁ。俺は、シルフ様の為、悲劇を終わらせよう...さぁ!目指すは、ポエニクス、嘆きの(ドラゴン)


 そう言った猫背の男は、クククと甲高く不気味に笑う。そして背後にいた男達は狼化し、さっき耳打ちした男の背に乗って猫背の男はポエニクスの火山へと向かって行った。



 . . . . .


 シュッツァーは目の前のかつて本当の兄だと慕っていたルフタを見れば見るほど哀れで悲しくなった。

 狼獣人(ルプス)には、通常の人型、通常戦闘時の狼型、オーバーリミットの荒型(ビースト)がある。

 狼獣人(ルプス)は性質上、マナを循環させる核が内にある。その核で制御されている為に力も精神もコントロールできている。だが、戦闘時にマナを取り込みすぎると限界突破、オーバーリミットしてしまい核が大破して力が全開放されてしまう。

 この状態になると見境がなくなり暴れるだけ暴れ、敵を駆逐するまで蹂躙し味方さえ手出しができず力尽きるまで放置するしかない。

 ただ荒型(ビースト)は感情的になるものではなく、意図的に強化(ブースト)魔法を幾重にも掛け続けないといけない為に簡単になるものでもなく、ここぞというピンチの場合にのみ使われる最終奥義の様なもの。一歩間違えば心臓に負荷が大きい為、死ぬ場合もある。

 その荒型(ビースト)に、ルフタはなっている。

 荒型(ビースト)の見た目の最もの特徴は()()()である。心臓が激しく動き血流が体内で噴射した様な状態で目が活性化し体内の血で赤く染まる。

 弱点はもちろん、心臓と目。ただ鋼の様に固い身体、動体視力は狼型以上、牙も爪も頑丈で武器そのものである。弱点が分かっていても、易々どうにかできるものではない。

 シュッツァーは心の何処かで、ルフタは元に戻り自分達の元へ帰って来るものだと希望を抱いていた。

 以前、キュアノスでルフタに特長が似ている人喰鬼(イーター)がいると情報が入っ、生きている事に歓喜し救う事ができると思っていた。元狼獣人(ルプス)人喰鬼(イーター)を目の当たりにしても話は通じると信じ、まだ取り戻せると心の何処かで思っていた。

 けれど荒型(ビースト)になってしまった以上、経験上まともに生き残った者はいないし、会話など皆無。何故、ミニエーラでは荒型(ビースト)を禁忌とされているのかも理解しているからこそ、辛くてしかなかった。

 能力値でいけば、ルフタは格下。通常であれば、互角に戦えなくもない。けれど、ルフタの横にいる大男は忘れもしないルフタを掻っ攫った張本人であり、シュッツァーの顔の傷を作ったのもその男である。痛みは感じないはずなのにジンジン痛み、この男の様に人間でも人喰鬼(イーター)であれば狼獣人(ルプス)と互角以上に渡り合えのを思い出させ、今の自分では到底太刀打ち出来ないとも感じていた。

 覚悟を決めるしかないと、渡されていたが傲りで鉤爪型の強化と共に防御力も向上させる魔宝具(アダート)を目の前の床に転がして置いたが、両前足に嵌め込んだ。最悪の状況を想定して造られたもので、最悪の状態と判断したのだ。


 ルフタがすっと体勢を低くし床を蹴り猛スピードで駆け出し勢いよくジャンプしてフォルケに飛び乗った。ルフタが通った跡は抉れ、ジャンプし着地した場所は床が異様に凹んでいる。

 ルフタが見据えた先、それはシュッツァーで、大きな口からフーーーーーーっと白い息を漏らしてぐっとまた体勢を低くし床を蹴った。弾丸の如く先頭にいるシュッツァー目掛けて飛び、鋭い爪を大きく振り上げその勢いのままシュッツァーの顔面目掛けて振り下ろす。

 シュッツァーは魔宝具(アダート)を通して強化(ブースト)展開し終え、爪をすんででかわしてから直様ルフタの腕に喰ら付く。後で格の違いに震えている双子の狼を、守る形で一歩も引かない。

 ルフタがもう片方の爪を繰り出しシュッツァーの顔面を嬲っても、必死に喰らい付くのを止めない。魔宝具(アダート)がなければ、とっくに顔面の肉は裂けているところ。

 ただルフタの身体は思っている以上に固く噛み付いているだけで致命傷は与えられず、重石の役目しかしていない。双子の狼は、恐怖もあるがシュッツァーすらそんな感じでいて手出しできずにいる。ただ、シュッツァーの勇姿を目の当たりにした双子はもう、震えてはいない。

 ルフタの攻撃をまともに喰らいながらもシュッツァーはそれでも喰らい付いていき離さず、ルフタは煩わしさに大きく片手を振り上げ殴り掛かろうと動作が大振りになって僅かな隙ができた瞬間、同時に双子の狼はシュッツァーを飛び越えてその腕に喰らい付く。そこから、必死に三頭は床の方へ強引に引っ張る。

 流石のルフタも三頭相手では重いのか動きが一瞬止まった、その瞬間にルフタの下の床が光り出す。キュアノスの魔方陣が出現し、青白い強い光の柱を放つとルフタ共々一瞬にして消え去り、光が再度強く立ち昇るとそこにはデニスが現れ光は弱まり粒子になって散りじりになって消えた。奥の方でニフリートと共に潜んでいたバクサは、直ぐ様デニスに合流する。


 「あっれま〜。ここで会ったが百年目?なぁ〜んて、いっやぁ〜相変わらず、人相悪いねぇ〜オヤジ殿?」


 くるくるっと持ってるステッキ回して、右手でキャッチすると大男に向ける。


 「ええ加減、悪縁はここで断ち切ろうや!醜態さらしよって、さっさとお陀仏せぇ!テナークス!!」


 デニスは胸、手、足にキラキラと光る黒い甲冑を付けて両手の拳をガンっと胸の前で合わせ、テナークスを見据えて睨み付けた。



 . . . . .


 三頭の狼は地上に降りると直ぐに森の方へ全速力で駆けていき、ルフタは魔法の光で目がやられたのか両手で目を覆い低く唸ってその場に立ち尽くしている。

 奥に元々控えていた近衛隊の医療班が一気に拘束魔法を唱え、ルフタの真下には魔法陣が出現し、そこから青白い光の鎖が手足へ伸びて絡まると拘束し身動きが取れず無理矢理鎖を千切ろうともがいている。

 その隙に三頭はカロ達へ合流し終え、へたばった様に伏せの状態で荒い息をし目を瞑っている。


 「ご苦労様。これで暫くは、アレも動けないはずよ...にしても厄介ね...やっぱり...いつまで拘束できるかしら...」


 拘束しているがいまだに勢いが衰えないルフタの方を見つめながら、アルテミスは溜息混じりそう言って困った様な顔をし腕を組む。


 「...目と心臓を、狙えばいい...」


 シュッツァーは低くボソリと言って、片目をゆっくりと開く。


 「...助からないのであれば、一思いに逝かせた方がルフ兄の為だ...ジョリーとオネストを助ける為に命懸けでルフ兄はあの大男とやり合って捕まった...俺達にとって英雄で...でももう、あんな姿は見ていたくない...俺ができることは...」


 シュッツァーは苦しそうにそう言葉を吐き出して、珍しく目を潤ませ悲しそうにルフタを見つめてから目を背けて目を閉じた。


 「...その時が来たらお願いするから... 今は、いいから身体を休ませなさい」


 アルテミスはシュッツァーの気持ちが分かっているからこそ、優しくそう言葉を掛けた。


 「さて、こっちもジリ貧なのは確か...ここまで魔力全開できてる...防御魔法も展開中...残るは私とクーア、カロ...ってところかしら。援護射撃くらいはできる者も少なからずいるとは思うけど、私達だけでいけると思う?」


 アルテミスは少し背の高いクーアに視線を向けて、問い掛ける。


 「んー...正直、カロが足手纏いかな...攻撃をアレに仕掛けるとなるとスピードが重要だし、僕達のスピードにやっぱりついて来れないし実戦慣れしてないのは大きいかと」


 いつになく冷静な判断でクーアは淡々と話し、槍をギュっと握り締める。カロは耳が痛く耳を塞いでしまいたかったが事実であり、受け止めるしかないが悔しくて奥歯を噛み締め、刀をギュッと握り締めると小さく眉を寄せ顔を俯かせる。


 「...なら、ヴァン君が目を覚ましたら姉さんと一緒に、ポエニクスへ行ってもらった方がいいわね。あの変態は、こっちには来ていないと見ていいと思うの。あの変態が来てたら、あのやたらと顔だけ綺麗だけど能面みたいなアイツも私の所へ必ず来るだろうし...と考えるとポエニクスへ滅びの引き金引に行った...が有力だと思うのよね」


 「...ヴァンの回復具合にもよるけど...三者(さんにん)はキツくない?」


 「でも...お婆婆の予知を考慮すれば、カロ君達はポエニクスへ行かないとじゃないかしら?仮にカロ君が駄目でも、入れ替われるんでしょ?」


 アルテミスはカロの肩でじっと置物みたいに黙りを貫き通している黑をチラリと見てから、クーアへ視線を戻す。


 「...さぁ...としてもカロが怪我しないとも限らない...本当に行かせるべきなのか...僕は疑問だよ」


 冷静な顔付きのクーアであったが、本音が漏れて薄らと苦悩した顔を浮かべて視線を逸らす。


 「...だと思ったわ...なんだかんだ理由をつけて、クーアはカロ君を戦場には出したくないと...そういうことよね」


 クーアは目を閉じて、黙ってしまう。


 「カロ君の気持ちも、考えなさい。此処へ立ってるのだって、相当の覚悟な訳でしょ?友だと言うならば、そこは汲み取るべきだし...結局、大事をとって隔離しても結局巻き込まれる...そう...思うわ。私の感って、結構当たるのは、知ってるでしょ?」


 じーっと見つめるアルテミスに、静かに目を開けてクーアは視線を合わせる。


 「...そうだね。ごめん、僕が、間違ってた」


 「と言うことだから、カロ君、クロちゃん、まずはヴァン君の所へ行ってもらえるかしら?折角ここまで来てもらったけど、ごめんなさいね。案外あっさり敵を殲滅できちゃったから、活躍できる場もなかった...のは幸いなのかどうかだけど...最悪な事態はこっちは避けられそうだから...で...その後、ポエニクスへ行って頂戴」


 「...分かりました...ただ...ウンディーネやスピカをあの状態で放置したまま、アテネも連れていって大丈夫なのかが...」


 「多分、問題ないわ。ウンディーネ様の加護が強くなってきてるのを、感じるもの。きっと目覚めてると思うわ...まぁ、それも含めて確認してから行動するのも遅くないでしょ。お願いできるかしら?」


 「...分かりました...そうしてみます...なら、これで。アルテミスさん、お気をつけて」


 刀を鞘に戻したカロは、アルテミスにペコっと頭を下げる。


 「じゃ、またな...クーア。お互いに元気な姿で...また会おう...気をつけて」


 「もちろん...カロも...黑も気をつけて...行ってらっしゃい」


 カロとクーアは、互いに見つめ合ってから返事を返す様に頷く。そして、カロはイシュカ城へと駆け出した。

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