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君と私と竜と白と黒  作者: 雨月 そら
真実への始まりの戦い
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再会と別れ

 「のう...クーア...少し風にあたりたいんじゃ...わしの木の所まで連れてってくれんか?」


 クーアはアンの瞳を見つめてから、頷くと壁際に立っていたカロに顔を向ける。


 「ごめん、カロ。ちょっと、ばーちゃん外に連れ出したいんだ...手伝ってもらえる?」


 黑が肩に止まっているカロは、背景の一部様に静かに腕を組み少し前屈みで佇んで目を閉じていた。クーアに呼ばれるとパッと目を開けて、クーアに視線を向けて小さく頷く。

 クーアにアンを背負わせるのを手伝って、クーアがおんぶし終わるとカロは後ろに付いてアン背に片手を添えてクーアと共に歩き出した。

 カロは初めてくる場所だったが何故か懐かしく感じ、葉が青々と茂える木は近くのアンの家よりも遥かに大きく逞しくその家を守っている様に見えた。


 「おお...着いたか...降ろしてくれるか?」


 クーアはアウラーが眠っている真上にそっとアンを地面に降ろした。アンは胡座を描いて両手を地面に付けて愛おしそうにそこをゆっくりと撫でて見つめている。クーアはしゃがむとアンの背を後ろから支え、それを見つめている。

 カロは少し離れた場所で静かに手を合わせてから、そこに佇んだ。きっとここは墓であるというのは、説明されなくても雰囲気で分かったからだ。


 「はぁはぁ...いや...間におうて...よかったわ...」


 そこにタイミングよく、ヴァンがデニスの肩を借りながら後方からゆっくりとだが歩いて来た。ただ魔力消失の影響はまだある様で、そう言ったヴァンの顔には疲労感が残っている。

 きつそうなヴァンに気づいたカロは直ぐに近寄って行き、ヴァンの空いているもう片方の腕を自分の肩に回して支えた。


 「すまんなぁ〜、カロ」


 そう言って笑うヴァンには、力がない。ヴァンはカロとデニスに支えられながらアンの側まで行き、丁度真横に腰を下ろした。カロとデニスは久しぶりの家族団欒を邪魔しない様に、少し離れた所に立って見ていた。


 「...はぁ〜、やぁっと会えましたねぇ、アンさん。伝鷹メサージュではよーやり取りしてましたけど...ヴァンです。ご先祖さん...ゼフィールさんがアンさんに会いたい、会いたいと言伝ありましてん。アンさんに綴った手紙、よーやっとわしの代で念願叶いまして渡せます」


 「ありがとう...ヴァン...ふふ...こうして見ると、ゼフィールの面影が確かにある」


 アンはヴァンの方に顔を向けると懐かしそうにじっと顔を見つめ、嬉しそうににこっと笑う。

 ヴァンは嬉しさに笑顔を返し、空間魔法(ストレージ)の中から一通の手紙と、アンの髪の様な丸くて掌サイズの大きく真っ赤なブリキの缶を取り出した。ブリキの缶にはフリークの魔方陣に描かれる片翼の翼が星で描かれている。


 「えーっと...アンさん...わいがゼフィールさんの代わりちゅーのもあれやけど...読ましてもらってもええやろか?」


 アンの容態を見れば、死期が近いのは直ぐに分かった。ヴァンは、これまでに多くのそういう場面を見てきたからこそだ。多くを語ることはできなくても、手紙の内容は知っていたからこそ、それだけは自分の口で伝えたかった。

 此処に来たのも、急に呼び覚まされる様に目が覚めてアンの所へ急いで行かないといけないと思ったのも、きっとゼフィールの思し召しだと思ったからだ。

 封筒から紙を取り出して、綴られた文字に視線を落とす。見つけた時には紙が痛んで、魔法でやっと読めるまで修復した。紙なんてものはそもそも昔も今も使う人間は殆どいなく、修復に手間取ったが復活して喜んだ事を思い出して懐かしく力なくも笑みが溢れた。


 「母へ。俺は、母さんが自由の翼を与えてくれたから、父さんの夢であった冒険を沢山できました。色んな所へ行き、色んなもの見て触り体験して、父さんと同じくフリークの民がより良く暮らしていける為に尽力を尽くしたつもりです。それもまた、父さんの願いでした。想像以上に冒険は楽しくやんちゃしすぎて、俺は片足を無くて空を上手く飛べなくなりました。そういう人間が、フリークには沢山いて、どうにか出来ないかと人生を掛けてやっと機械と魔法の融合で手足の代わりなる方法を見つけ、やっと実用化で来た時には、俺は歳を取りすぎてしまいました。会いに行くと約束したのに、本当にごめんなさい。でも、俺の子供、孫、何代目になるか分からないけど、必ずこの手紙と冒険で集めた母さんに似合いそうな髪飾り、そして父さんが教えてくれたキャンディがまた舐めたいと言っていたので、沢山贈ります。親不孝者でごめん、でも、ずっと、愛しています。妹のアウラと末長く仲良く、健康で、楽しく、笑顔でいられる生活を送れます様に、遠く離れたフリークより祈り、これで終わります。ゼフィール」


 ヴァンは、丁寧に丁寧に読み終えた。何度も何度も読み返しては、ゼフィールが綴った言葉通りに読める様に、ゼフィールならこんな感じで読むだろうなと想像して、ゼフィールになったつもりで練習した。

 涙をはらはら静かに流すアンの手に、そっと手紙を手渡してから、ブリキの缶の蓋を開けて中を見せる。


 「途中で、アクシデントがあったんか...見つけた時には中身は古びてしもうてて...キャンディは当時のものやないけど、今でもフリークでこのキャンディは特別舐めてたんで作れて、わいらが作ったもんで...すまんです。それと...やっぱり、髪飾りもボロボロでしてん。やから、当時のミニエーラの鍛治屋さんに同じの作ってもらったんです、堪忍」


 ヴァンはブリキの缶から、アイオライト色のキャンディ一つとブルー・スピネル色の星形の髪飾りを取り出すと手紙の上にそっと置いた。

 アンはそれを眺めて、震える手でそれを胸に抱くと小さくだが声を出してぽろぽろと泣いた。それを静かにずっと見ていたクーアもまた、涙で顔が濡れていた。


 「ばーちゃん...折角だから、その髪飾りしようよ」


 「...そう...じゃな...頼めるか?」


 「もちろんだよ、ばーちゃん...」


 クーアは涙を拭ってからいつも留めていた髪留めを外し、ほつれていた髪を結い直してから星形の髪留めを留めた。赤い髪に、キラキラと宝石みたいに輝く髪留めがよく映え綺麗で、クーアは自然に顔が綻ぶ。


 「ばーちゃん、よく似合うよ」


 「...そうか...ふっ...少し...疲れた。クーア...肩を借りるぞ」


 アンは足元に手紙を置きキャンディを握り締めると、クーアの肩に頭を寄り掛かりクーア掌にキャンディを置き手を重ねる。そして、近くにいたヴァンの片手をもう片方の手で弱々しくも握る。


 「...わしはいい子を授かった...子孫がこうして側に居てくれる...それだけで......わしが長く生きてきた意味があるというもの...ありがとう...クーア、ヴァン...」


 そう言い終えてアンは、一筋の涙を流してゆっくりと静かに目を閉じた。そして、永遠に目を開けることはなかったが、その顔は安らかでいい顔であった。

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