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君と私と竜と白と黒  作者: 雨月 そら
アンの追憶
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夢予眼とスルトと真実8

 その時は、アウラーの別れと一緒で、無情にも神託通りやって来た。


 お婆婆は、禍い日から一年前位に他界し、アンは神託通りに夢予眼(プレシエンツァ)になった。

 ただ、夢予眼(プレシエンツァ)が覚悟が必要だと言うお婆婆の言葉が、アンは受け継いでから身に染みた。

 色鮮やかでキラキラと輝いて美しかった世界が一気に色褪せ、白黒の世界で生きると言うことは心が段々と死んでいく様でもあった。色があったからこそ判別できていたものも今では困難で、心地いい風も砂が舞うのも、色が無いからこそ視界を遮り煩わしさを感じた。そんなことは、一度も感じた事がないのに。

 それに瞳に受け継がせる魔法である、覚悟はしていたものの、思っていた以上に痛んで、思い通りに見えない苦痛で苦しんだ。

 そんな来る日も来る日同じ苦痛を繰り返し、ある時高熱が出て、そのまま死を覚悟した時、夢を見た。


 世界が炎に包まれ、崩壊していく。

 逃げ惑う者の悲鳴、耳を塞ぎたくても塞げず、見たくもないのにその夢は鮮明に目に焼き付いた。

 暗転して、一瞬のうちに何が起こったか分からないが、世界は大きく歪んで、気持ち悪い程に何も無かった様に忘れさられてしまう。


 その夢を見終えて、アンは身体中汗だくで涙を流しながら目が覚めた。


 それが今、目の前で起こり始めている。


 最初の始まりは、ポエニクスの大火山が大噴火したのだ。あそこはサラマンダーが住む神聖な場所で、聖域だったからこそ噴火をした事は一度もない。

 溶岩がどんどん流れキュアノスの豊か水を侵食し、それは水の流れと混ざり合って世界を火の海へと変貌させていった。

 こうなっては手の打ちようがなく、火の海を避けて砦、イシュカ城へと生き残った者は集まっていた。

 イシュカ城は、ウンディーネの住処だ。いくら、火の精霊王と呼ばれる(ドラゴン)の力で火の海になったとしても、拮抗する力には早々に飲み込めない。

 ただ(ドラゴン)は、スルトと同じ神族(テオス)、一度荒神なってしまえば手の付けようがない。

 ウンディーネ、ノーム、シルフはそれぞれの国で、何故か今まで一度も見たことのない美しく色鮮やかな(ドラゴン)の姿になって、それはもう人柱の様に頑丈そうな光の鎖に己の拠点地に縛り付けられて全く身動きできない状態になっていたのだ。


 それは、契約違反だったからと、後にウンディーネから聞いた話だ。


 そうなってしまったらもう世界は終わりかと諦めていた時、この世界の創造主であるスクルドが現れた。この世のどの者よりも美しく、月の様な黄金色の髪、運河の様に腰まである艶のあるウエーブが掛かった長い髪に、太陽の様に燃える様にでも穏やかな瞳を持った女性。

 皆が皆スクルドを見た瞬間に、神が助けに来てくれたのだとそう思える程、神々しかった。

 そしてスクルドは神族(テオス)として、サラマンダーを封印する術をエルフに授けたのだ。


 それは、目、心臓、尾っぽのそれぞれに、


 3つの神の杭を打つ


 であったが、方法は残酷だった。

 その杭にはエルフの生きたままの命が必要で、サラマンダーが死せるまで一緒に封印され押さえ込む、要は人柱となれという内容だった。


 アンはその時初めて、神を恨んだ。


 何故、エルフなのか。

 何故、魔力の強い三者(さんにん)で、自分の娘であるのか。

 何故、神がその役目を果たして助けてくれないのかと。


 自分にこんなにも罵倒するだけの言葉を持ちえていたのかと言う程にめちゃくちゃに罵り、声が潰れそうになるまで悲痛に叫び続けた。

 声が枯れ何も言葉が出なくなって、後ろからそっとアウラに抱き締められた。


 「お母さん...ありがとう...でもね、知ってたの...知ってて...私達はそれを選んだ。みんなが助かるなら、私達の命を捧げようって...だからもういいんだよ...私達の為に怒らなくても......大丈夫だから」


 涙声のアウラの言葉を聞けば、アンはアウラの腕を力いっぱいに抱き締めて、アウラの温もりにもう怒りは薄れ静かにはらはらと涙を溢した。

 それでもアウラーも、息子のゼフィールもいなくなって、アウラまでいなくなってしまえば自分が自分でいられない気がして、道理は理解できたが母としてアウラを離す事が出来なかった。

 多分、こうなる事が分かっていたから、アンにだけは本当の事を誰も伝えなかったのだと語りながら思った。



 . . . . .


 「それで...母さんは...人柱になったの?」


 アンはもうその事を思い出して何度も何度もないて後悔して、それでもどうすることもできなくていつしか長い年月の内に悲しい気持ちはずっと奥底に追いやり隠した事で、涙が出てこなくなっていた。

 けれど、こうしてクーアに尋ねられて今まで堰き止めていたものが外れたかの様に、涙が溢れてきた。


 「そうじゃ...今も...すまんな...その後の事は詳しくは知らんのじゃ。アウラの奴、わしに峰打ちして眠らせおった。流石に体術ではもうアウラに勝てなくてな...」


 クーアも滅多に泣かないアンが泣いた事により、一緒に恥ずかしげもなく流れるままに泣いた。


 「...お前の父、アパルもな...大した男でな...愛しい嫁と二度と会えなくと分かっていても、子供とわしの為に一緒に行きたいのを歯を食いしばって留まったんじゃ。だからあやつ、歯を食いしばり過ぎて奥歯がガタガタっだっただろう?」


 「...あ...そういう...そっか...でも僕は、父さんのギザギザの歯、好きだったけどね」


 二者(ふたり)はひとしきり泣いて泣き止んで涙を拭くが目はうるうるさせたまま、同時に苦笑いした。


 「まぁーたく、アウラーもそうだが、お前の父親もこの話は僕がします、お母さんは安心して下さいなんて言って、先に行っちまって。自分の話だけわしに聞かせて、結局わしがぜーんぶ背負う羽目になったじゃないか。全く、薄情もいいところだよ」


 「...そうだね...もっと、長生きして欲しかった...よね」


 「...ふっ...お前は本当に、アウラーに似ていい子じゃのう...」


 そう言ってアンは弱々しい手で、クーアの頭を優しく優しく撫でた。

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