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君と私と竜と白と黒  作者: 雨月 そら
廻り始めた運命
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試練2

 「よく来たな。さて、始めようか」


 カロに気づいたアテネは、にっこりと微笑んだ。

 あんなに激しく動いていたように見えたのに汗もかかず、涼しい顔で木刀を肩に乗せて歩み寄ってくる。

 微笑んでいても、今までのスパルタが思い出され、恐怖しか感ず、たじろぐカロ。


 「今日は体力作りはひとまず休んで、魔法の特訓だ。異世界から来たらしいが、この世界では魔法を使えない者はいない!必ず使えるはずだ!だからまず、マナの取込み方を覚えてもらう!」


 魔法を覚える方が楽できるかと一瞬思ったが、このアテネに限ってそんなことはありえないと首を振る。

 アテネからマナの取込み方を教わっているのだが、説明が雑で身振り手振りだと、いまいち要領を得ない。

 お互い頭を悩ませていると、近衛隊上位四者のうちのふたりの青年がこちらにやってくる。


 「アテネねぇ様〜、それじゃぁ伝わらないわよぉ〜。ねぇ〜、クーア、そう思わな〜い?」


 「え?あ、うーーん、ど、どうだろう。惜しい感じ、なんじゃないかな...」


 「ほーう。なら、どこが悪いのか分かってるいるんだな、二フリート」

 

 アテネは明らかに怒りを抑えているような顔。

 ニフリートと呼ばれたアテネと顔立ちや髪質が似ているが、垂れ目に右側に小さな涙ぼくろがある、オールバックに耳の上辺りの三つ編みはアテネと同じ形のエルフの青年の方へと、ズカズカと歩いて向き合う。

 二フリートの方が10cm以上は背が高く、がたいもいいはずだが、怖くなったのか顔が引き攣り始めている。


 「私はぁ〜...そう、そう、クーアがあっちでそう言ってたから〜、代わりに、そう、しょーがなくよぉ〜、ねぇ様!」


 「ほぉう?クーアが、ね...」


 「えっ?えぇ!!いや、あのですね、あーー、僕は、アテネさんの所為ではなく、カロ君の理解力が問題なんじゃないかと。異世界人ですし、ね?」


 さり気なく貶しておいてこっちに振るのは可笑しいと不平な視線を返すも、凍りついた空気に耐えられず、不本意だが小さく頷く。


 「......そうか。私も説明上手な訳ではないからな。口で説明するなら、クーアの方が適任だな...。それに近衛隊が三者も、ここに留まるのは時間の無駄だな。さぁ、ニフリート、私達は本来の仕事に戻ろうか」


 ニフリートへのアテネの満面の笑みは恐怖でしかなく、カロも凍りつきそうになる。

 当然当事者はもっと恐ろしいという顔をし、アテネに襟首を掴まれながら乱暴に引き摺られてどこかへ行ってしまった。

 その様子をじっと唖然としながら見送った後、クーアと見つめ合ってしまい、急にお互い笑い出す。


 「先程は、失礼しました。改めてまして、近衛隊で治癒師(ハオロン)...怪我や病気を治療担当している、クーア・バハルです。宜しくお願いします」


 へらっと力が抜けたような笑みの目は、元々細長いのもあって糸目になっていて、柔らかい雰囲気を醸し出している。それはクーアの性分なのかもしれない。

 握手を求めるように出された片手を握り返して、ふと気づいてじっと相手を見つめる。

 クーアは、他のエルフとは少々異なり、耳は尖っているが人間ぐらいの大きさで、瞳の色は紺色、ポニーテールに結んだ尻尾が短い髪の色は紺色からグラデーションが掛かって毛先が白く、額にはレトロな感じのゴーグルをしている。


 「...愛の告白ですか?」


 「へ?...い、イヤイヤイヤ〜あはははは」


 慌てて手を離すが、挙動不審に視線をキョロキョロしてしまう。


 「残念ですねぇ〜」


 「えぇ!!」


 「あっは、冗談ですよ。カロ君って、面白いですね」


 クーアは、笑いのツボが入ったかのように笑いを片手で堪えながら、もう片方の手で腹を抱えて暫し笑い続け、パンと小さく両手を鳴らすと急に真面目な顔をして、何事もなかったようにマナの取込み方を教え始める。演技かと思うほど、切り替えが早く信頼していいのか不安になるものの、教え方は丁寧で上手い。


 「そうです。マナは自然の中にあるものですから、春の暖かく優しい陽射しが自分に降り注いでいるようなイメージをしてください。次は、マナが頭からつま先まで全身を巡るイメージを維持して、そう、そうです。いいですね。そしたら、へそ辺りがじんわりと温かく感じますか?そう、それをゆっくり呼吸して吸収するイメージをしてください」


 じわりじわりと温かみを感じ、身体が汗ばむ。ゆっくりとした呼吸を繰り返し、取り込んでいくと、マナは感じなくなる。

 何か変化があるかと両手や腹の辺りを見たものの何も起こらないので、失敗したかと焦ってクーアを見る。


 「大丈夫です、マナがカロ君自身に馴染んでいるのが、見えていますから。上手くいきましたね」


 へらっとした笑みを浮かべると、クーアはじーっと、カブトムシを見つけて目がキラキラ輝いてる少年のような瞳で、カロの頭上辺りを見ていおり、不気味過ぎて後退る。


 「ご、ごめんなさい。その小さい(ドラゴン)が気になって」


 頭上を指差されて、やっと黑のことを思い出す。

 アテネの鍛錬の時は、薄情にも、いつもどこかへ飛んでいってしまうのだが、大人しく頭上にいるのである。


 「いやぁ〜、どんな仕掛けなのかなぁ〜と。無機質なボディ、鉄石に似た物質でしょうか?こんな生き物は見たことないですし、機械ですよね?マナで動いているのも不思議ですよねぇ」


 早口で捲し立てて、言い終え、にやっと片方に口端を釣り上げるのを見てしまうと、マッドサイエンティストっぽく見える。丁度ナイトケープが白衣に見えなくもなく、更にそう感じるのかもしれない。

 少なからずの危機感からクーアと少々離れ、ため息をつく。おねぇ言葉や脳筋ゴリラとエルフには普通のものはいないのかと。

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