美しき別世界、キュアノス
ウンディーネからこの世界のことを教えてもってから数日が過ぎ、私は一人で近くの一本の大樹がある丘へ来ている。スカイブルーが広がる澄んだ空、過ごしやすい春のような暖かな風が気持ちよく、よい散歩日和だから。樹の陰に入って寝転び見上げた空は、地球と変わらない。はぁ〜っと溜息をついて上体を起こすと、樹にもたれ掛かり、近くを見下ろす。中央が尖塔で扇状に広がるスノーホワイト色の建物、外国の教会のようにも見える。その建物を中心にコバルトブルーの泉が広がり、その周りは深緑の森に囲まれている。その森の上空に青み掛かった白いワイバーンのような飛竜が、飛んでいる時点で地球ではないのを実感する。
この世界はピリアと呼ばれ、火・風・水・土の四大元素ごとに大陸が別れ、それぞれの元素に属する違う種族の国があり、元素の源泉たるマナそのものとされる竜王がそれぞれの国を守護し、竜の力は精霊を使役して具現化するらしく、精霊王とも呼ばれ、
火の精霊王は、サラマンダー
風の精霊王は、シルフ
水の精霊王は、ウンディーネ
土の精霊王は、ノーム
の愛称で親しまれているらしいが、今は、飛竜以外の竜を見ることはないそうだ。竜はどこへいったのかは、ウンディーネにも分からないらしい。
ウンディーネが精霊王と同じ名なのは、それぞれの元素のマナ量が一番大きい者は、竜に守護されし者とされ国君として国を守る役目を受け、名も精霊王と同じものを授かるのだそうだ。
この世界の民は、四大元素の影響受けているので、必ず魔法が使えるそうだ。貯められるマナ量は個人差あるので、使える魔法も大小異なりはするが、魔法は身近なものらしい。だからウンディーネと最初に会った時に、黑をパッと出したのは空間魔法という魔法。マナ量によって入れられる容量が変わるが、一般的な初級魔法らしく、入れたものの時は停止するので、劣化や腐敗はしないから、腐敗する食べ物は空間魔法へ仕舞うのが一般的だとか。だから当然、便利家電の冷蔵庫とかはないし、まず、電気が存在しない。けど、出し入れは微量のマナでいいが、空間確保は大きくなると結構なマナを消費するらしく、何でもかんでも入れはせず、棚とか物置小屋とかは普通にある。
それで、今いる国はキュアノスと言って、水元素の影響を受けるだけあって、水が豊富で、ウンディーネがいる建物以外、建物らしいものはない森なのだが、森のいたる所に湧水や滝や泉があり、ウンディーネがいる建物の泉を中心に地下を通じて全て繋がっているらしい。
それから、ここの民は、エルフ。会ったのは、ウンディーネと会った次の日、近衛隊を紹介され時。尖った長い耳が特徴的で、金髪碧眼の色白で見目麗い。見た目の優劣はあるが、どのエルフも美男美女。特に近衛隊の上位四者は、群を抜いて美しい。でも、ウンディーネほどではないが。
コンコン
額を金属製のものがノックし、地味に痛い。視線を、いつの間にか頭に乗ってきた黑に向ける。
「どうしたよ?」
「時間だよ」
うげっと苦い物でも噛んだ時のような顔をしてから、カロは、深い溜息をつく。
「行かないとか、選択肢ないよねぇ?」
空笑いしながら言ってみるも、
「そうだね」
素っ気ない返事が返されるだけだった。