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君と私と竜と白と黒  作者: 雨月 そら
温かな思い出
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思い出の味2

 この世界の食事は素材そのものがいいのか、どれも美味しい。ただ、料理の種類があまり多くなく同じ様なものが続いたりする。甘味といえば、果物、蜂蜜をパンに塗る程度だ。

 だから、もっとお菓子の様なものが子供達に作れないかとカロは思い、カステラを作った。

 当然、今までにない食べ物で甘くてふわふわしたカステラは、子供だけでなく大人にも好評だった。皆が笑顔になることでカロの心はじんわりと温まり、漠然とする不安な気持ちも和らいだ。

 漠然とする不安は多分、目覚めないスピカの側に黑が行ってしまうからだろうとカロは心の隅では気付いた。

 黑がスピカと()()なのだと聞いて、それは仕方のないことだと分かってはいるが裏腹に、寂しさを感じずにはいられないカロだった。


 「ねーねー、カステラまた作ってよぉ」


 「うんうん、また食べたい!」


 カステラを作ってから、双子に付き纏われる日々を送っているカロ。今日も双子に両腕を抱きつかれせがまれ、いい加減うんざりして顔にはっきりと出していた。それでも双子には関係なかったが。


 「だーかーらー、他の人に作ってもらえばいいだろ!何故、私なんだよ!」


 「「カロのが一番美味しい〜」」


 「...にしても、今日は、ナビールと愛林檎(ポム・ダムール)を取りに行く約束なの!!」


 「「じゃ、一緒に行く!!」」


 カロは空を仰いで、はぁと大きな溜息を吐いた。もう、日常化したこのやり取り。きっとナビールも笑って許すことだろうとトボトボとナビールの元へ向かったのだった。


 この時期に収穫できる愛林檎(ポム・ダムール)は赤くて林檎(ポム)に似ている野菜。

 カロは林檎(ポム)は知っているが、愛林檎(ポム・ダムール)はまだ見たことがなかった。

 カロ達はいつもの森に入り、ナビールの案内で進んで行く。少し奥の方へ進むと細く左右に生えた木がアーチ状に絡まってトンネルの様に続いている。その木に絡まって緑の茎が伸び、赤い実を付けていた。これが、愛林檎(ポム・ダムール)の様だ。形は小さい林檎(ポム)で、真っ赤でルビーの様に輝いている。


 「カロは、愛林檎(ポム・ダムール)は初めてでしたっけ?」


 茎からヘタごともいだ実をカロに見せるナビールに、そうと軽く頷く。


 「このまま食べれるので、食べてみますか?」


 どんな味か気になったカロは、愛林檎(ポム・ダムール)を受け取り齧る。


 (...結構甘いけど...トマト?)


 カロはもう一度齧って味を確かめる。酸味より甘みが強い濃厚なフルーツトマトの様だなとカロは思った。

 その時、ふと微かに思い出す味があった。どうしても再現したくなって、収穫を終えたらすぐに台所へと向かった。


 レシピは簡単で、愛林檎(ポム・ダムール)、塩、チーズ、胡椒、オリーブオイルの材料を切って、乗せて、最後はフライパンで焼くだけ。

 チーズは、牛と羊を放牧する人達がいて、チーズや牛乳など色々持ってきてくれる。普段は飼っている牛や羊達と移動して生活しているので、ここには一緒には住んでいない。

 塩は塩湖がありそこから、胡椒とオリーブはいつもの森になっており、それから作っている。何気に材料は豊富にある。


 パチパチと燃えるかまどにフライパンを乗せて愛林檎(ポム・ダムール)を焼いていると、興味深々な双子が両側からカロの服を掴んで覗いてくる。その後には、ナビールが、それを囲う様に女衆が見ている。


 (圧が凄すぎないか?...大したことやってないけどなぁ)


 カロは皆の期待に小さく苦笑した。

 チーズがとろりと溶けてトマトとよい塩梅に絡み熱々に出来上がった愛林檎(ポム・ダムール)のチーズ焼き。

 皿に移すと皆の視線はそこへ集中するもの、カロへと移される。無数の目に見られ、たじろいだカロはさらに苦笑いを深めた。


 「どうぞ」


 カロはテーブルに皿とナイフとフォークを置いて、さっとそこから離れる。予想通りに皿に群がる人々。

 相変わらず興味旺盛だと思いつつ、カロは近くの椅子へ疲れたと腰掛けた。

 少しするとナビールが小皿に取り分けたのか、愛林檎(ポム・ダムール)のチーズ焼きを持ってきてくれた。


 「カロより先に食べてしまって、すみません。私も含め、みんな美味しいって言ってますよ。みんなわくわくして、楽しみにしていたんですよ。それにしても、カロは物知りですね。そういうカロといると、私も楽しいです。はい、これはカロの分です」


 「はは。私は、物知りじゃないよ。たまたま、みんなが知らない料理を知ってたってだけで。あー、ありがとう」


 ナビールは照れる様子もなくいつもの笑顔でさらっと言ってくるが、カロは照れ臭そうに笑い、皿を受け取った。

 時間が少し経ってじんわりと暖かい愛林檎(ポム・ダムール)のチーズ焼きを咀嚼する。

 凝縮された愛林檎(ポム・ダムール)の果汁が流れ、果肉とチーズが絡まり、調味料がいいアクセントになっていて、美味しかった。噛めば、噛むほど、あの味だと感じられる。


 (あの味...あの味...あの味...)


 後少しと思うのに、もやがかかった様に思い出せない。

 はぁと小さく溜息を吐いて、ナビールに一言いって、一人台所へ皿を置きに行った。

 そこには、残って雑用をこなす女性が一人。カロに気付き、空の皿を見つけると、笑顔で手を差し出してくる。皿を渡すとささっと手早く仕事に戻っていった。

 何故か気になって、カロは暫くその人の邪魔にならない様に入口で眺めていた。


 (......母さんもこうだったな)


 ふっと落ちてきた様に思った。それから、洪水の様に記憶が流れてくる。

 たまらず、入口から出て近くの壁へ寄り掛かった。

 最初は消化不良の様に気持ち悪かったが、徐々にそれも収まっていく。

 胸に手を当てて、はぁーっと息を深く吐き出した。


 全て、ではなかった。

 何が全てかは、知るよしもないが、途切れている、そう思うのだ。


 それでも、映画のフォルムの様に思い出す記憶は幸せだった。


 小さい頃の話だ。


 トマトのチーズ焼きは、トマトが苦手だった私の為に母さんが考えてくれた料理だ。

 簡単だけど、酸味が抑えられ甘みが増し、好きなチーズが乗ったことで、大好きになった。


 カステラも母さんが作ってくれたのだ。絵本を読んでもらった時に、私が食べたいと駄々をこねたのだ。母さんは嫌がる様子もなく、笑顔で作ってくれた。

 少し大きくなって、母さんと一緒に作ることもあった。

 母さんが作らなくなっても、幼馴染の(まもる)の兄妹達に作ってあげていた。家に遊びに行くと、双子の様にせがまれもしたなと。


 胸が暖かくて熱くて、何故か泣きたくなった。

 手にぐっと力を入れて堪えた。


 何故、こんな幸せな記憶を今まで忘れていたんだろうと。


 その時、背中がちくっと針を刺した様に痛んだ。

ここまで読んで頂きありがとうございます。


少し制作秘話?をすると、愛林檎ポム・ダムールは、フランスで愛のりんごと呼ばれていたそうです。

面白いなと思って採用してみました。

他にも呼称にはこの小説の中で意味があるものも含ませたてりもします。興味が湧いたら検索して頂くと楽しめるかもしれません。


次回は、祭の前夜の話です。

多分、ナビールとの話になるかなーと思います。


ではでは、引き続きよろしくお願いします!


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