思い出の味1
カロ達がミニエーラに来てから、半年近くが過ぎていた。
キュアノスで会ったイカれた二人もその仲間も動きは特段なく、歪みの影響もなく穏やかな日々。今までが嘘であるのかの様に。
だが、クーアの新たな槍が二週間くらいで出来上がっても、武器や防具の製造は続いて平和になったわけでないのだと思い出させる。
その中で、狼獣人の民とより親しく穏やかに過ごしていたが、カロの記憶は一向に戻る気配はなかった。
「カロー、今日は一緒にあーそーぼーよー」
「そうだよー。ねぇーねぇー、いいでしょー?」
「ねーねー、クロは何処?一緒じゃないのー。ねーねー」
ナビールと食材を調達に行く為、家を出ようとしたら双子に後ろからタックルされ、捕まった。
すっかりオネストとジョリーの双子に懐かれて、遊び相手と化していた。
半年という年月で成長したこの双子。
狼獣人は、人間でいう所の十歳くらいになると身体の早熟が一気に始まり、二十歳くらいで成長は緩やかに止まって、二百歳くらいから段々と外見的に歳を取るらしい。エルフは成長過程は変わらないらしいが、千年生きるのは普通だとクーアから聞いた時は驚いたものだ。
双子は、会った当初はまだ幼く、愛くるしい小さな顔に若草色のつぶらな瞳と二人共におかっぱ頭で見分けがつかなかった。
今も似てはいるが、オネストはジョリーより背が伸びて筋力もつき、顔付きも男らしく声も低くなりつつある。ジョリーの方は女性的な丸みを帯び、髪も長くし可憐な少女だ。
ただ、成長したのは外見だけで、中身は変わってはいないが。
子供慣れしていたカロは、他にも多くの子供達に好かれていた。
子供達と遊んだり、眠ったりしたと色々した中で疑問に思うことがあった。
全体の人口も国としては少ない五十人程度。子供と年配者が多いのに対し、その中間層、子供の親世代が極端に少ないなとカロは思っていた。
その答えは、シュッツァーとの何気ない会話から分かった。
隣の国 風の都 フリークからの奇襲があったから。
民は人間で、元は一緒に物づくりなどで交流し合い仲良くしていた。それがいつしか黒いモヤが隣に国から出始めてから、国が荒み、穏やかだった人々も狂気に狂った様になり交流も絶えた。
そして、奇襲。物を奪い、人も連れ去るか殺すという暴挙が始まったのだそうだ。ここミニエーラだけでなく、キュアノスでも。
ミニエーラの民は、防御魔法特化型。特にノームは群を抜いて防御魔法使いで、四国一。鋭くそびえ立つ山は当初思った通り、ノームの魔法による要塞だった。この強固な要塞で周囲を守っていることで静穏を維持してきた。
だから、キュアノスではなく、急遽ミニエーラへ来ることになったということをカロは後で知った。
「ねーねー、話聞いてる?ねーボケちゃった??」
双子のことから脱線して今までのことを思い耽り切ない気持ちでいたら、怪訝な顔して見上げてるオネストが袖をを引っ張ってそう言ってきた。会話をする時、オネストが兄だからか、必ず先に話し出す。
「もー人間だからおじいちゃん?」
そう言うのは、勿論反対方向のカロの腕に抱きついてきたジョリー。悪戯っ子みたいな笑みを浮かべている。
「誰が、おじいちゃんだ!...はぁ〜。今日は、ナビールと木苺を摘みに行く約束してんの!クロとは別行動!」
双子はカロを挟んだまま、顔を輝かせて顔を見合わせる。
「ジャムだ!」
「ジャムだね!着いてこ!」
「えぇ...着いてくるの...」
「「うん!!」」
双子には秘密でやりたいことがあるが、こうなったら断固譲らないと思ったカロは諦め、溜息を一つ漏らす。
双子に両腕を抱きつかれ戯れつかれながら、ナビールの元へ向かった。
「...オネストとジョリーも一緒...ですか?」
「「そうそう、一緒!!」」
「...家を出る時に捕まった」
「そう...ですか。仕方ないですね」
相変わらず、おっとりとした柔らかい口調で、少し困った様な笑みを浮かべたナビールも諦めた様だった。
ナビールは、ノームを青年くらい成長させたといっても過言ではなほど似ている。ただ、ナビールの方が大人びいた外見で、背も二倍くらいはあり、髪型はポニーテールと違いはある。
今が旬の木苺のある森は、住居から砂漠とは反対方向に何キロか進むとある。そこには果物やきのこなど様々な食材がある。歓迎会で出された果実酒の元になっている葡萄もここにある。ただ、一年通して気候は殆ど変わらないものの実るものは違う様だ。その実るもので大体の時間の流れが分かるとのことだ。
カロ達が籠を背負って、木苺が実る場所へと着いた時には、先に卵の調達に行っていたクーアが居た。
「やぁ、みんな、遅かったね」
遅くはないがと思いつつ、手を振るクーアに手を振り返すカロ。半年も一緒にいたことで、クーアとの距離も縮まり敬語ではなくなっていた。
「卵は?」
カロが尋ねると、クーアは腕組みをするとにっと口元を釣り上げた。
「僕に抜かりはないよ。早朝の霧が濃い時間帯に、茶大鶏の巣から卵を見つからない様に忍び足で取ってきたよ。見つかると凶暴で煩いし、血眼になって追いかけてくるからね」
「それはご苦労なことで」
「いえいえ。カロは追いかけ回されてトラウマだものね」
はははと視線を逸らし、空笑いするカロ。初めて卵を取りに行った日、カロは地球サイズの鶏を想像していた。しかし、二メートルぐらいの背丈があったのだ。奇声を上げ涎を垂らし目が血走った茶大鶏を見た時、バケモノだと恐怖した。
この世界の生き物は皆、規格外に大き過ぎて最初のうちはカロはたじろぐことが多かったが、狩りや食材調達に何度も何度も行くうちに慣れ、弓も人並みには上達した。したのだが、茶大鶏だけはどうも苦手意識が強かった。
「さーさー。女衆達が待ってますよ。沢山取って早く帰りましょう」
いつも通りに柔らかい笑みを湛えたナビールが優雅な動作でパンパンと小さく手を鳴らすと、皆一斉にはーいと返事をして動き出す。
真っ赤に熟した木苺から甘い匂いが漂ってくる。
「甘いね〜!」
「ね〜。美味しい〜!」
双子は我慢できず、口に放り込んで食べている。両手を頬に添えて、にこにこと笑い合う双子。見るからに、味は保証された。
それから黙々とカロは摘んでは籠へと入れていった。
暫くして、トントンっと肩を誰かに軽く叩かれ、カロは手を止めて振り返る。
「そろそろ、帰りましょう。籠もいっぱいになりましたし」
ナビールに籠を指差されて気づいたカロ。作業に集中し過ぎていたようだ。
ナビールの言葉にうんといって頷けば、家へと皆で戻って行った。
戻って台所に行けば、女衆がわいのわいのと楽しそうに動いていた。
カロが地球で作っていたカステラを思い出し、作るのに協力してくれているのだ。
幼い時に絵本で見たネズミが作るカステラが美味しそうでよくねだって作ってもらい食べたり、誰かにねだられて作って食べたさせたりしたものだ。
ただ、誰となのかは思い出せないけれど。
卵、砂糖、小麦粉、牛乳、バターを思い出したレシピ通りに混ぜ合わせていく。スキレットに混ぜた液体を入れて、石窯に入れて焼き上げる。
香ばしく甘い香りが漂ってきたら手袋をして中身を確認し、表面がきつね色になったら取り出す。
熱々のカステラを少し冷ますために、鍋敷きに置いた。
すると匂いに釣られて、ジャム作りを手伝っていた双子がすすっと寄ってくる。流石に熱いので側で見ているだけだが、涎を垂らしそうな顔付きで、目をキラキラさせ釘付けだ。
程よく冷めた試作第一号カステラを二つのスプーンで救って、双子の口に放り込んだ。
「「ん!!!美味しぃ!!!」」
分量が合っているか心配だったが、丁度よく出来たようだ。
雛鳥の様にパクパク口をさせて、次のカステラをねだる双子に、待て待てと手で制する。
漂ってきている甘い木苺の匂いの元へカロは向かう。
ナビールとクーアが女衆に囲まれながら、鍋に入った真っ赤なジャムを煮込んでいる。
「ねぇ、それちょっとくれない?」
「いいですけど...まだ、できてませんよ?」
ナビールにOKと指で合図して、近くにあったお玉でジャムを少し救って、カステラの元へ。
ジャムを円を描く様に垂らす。
「よし!食べてよし!」
「「やった!!」」
大人しく待っていた双子は、一斉にカステラを救って食べ始める。
「「ううん!!!すごく美味しい!!!」」
双子は顔を見合わせ、すごくいい笑顔で笑い合った。その後は、勢いよく平らげたのは言うまでもない。
本当は驚かせたくて内緒で作る予定だったが、これはこれで良かったのかと思うカロ。これで他の子供達や甘いものが大好きな鍛冶屋の二人を招いて食べさせられると内心ウキウキしながら、カロはまたカステラを作り始めたのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次回も思い出の味となります。
カロの思い出の味は思い出せるのか?です。
引き続きよろしくお願いします!




