真実と嘘2
「私達は、総称して神族と言って、君の世界で言う所の神、時には、悪魔、時には、厄災と呼ばれる。全ての世界を内包する世界樹で、永遠の時を生き、カロの居た地球も含め、この夜空の星の様に沢山散らばる世界を見守っているんだ」
黑の話を真剣に聞いていたカロだが、急に目を細め、眉を寄せた。腑に落ちないとでも言いたげに。
「世界樹って言うのは、まー天界?って感じか?それより、神様?か・み・さ・ま??神様と今、一緒にいるの?」
「...まぁ、そうなるね」
「......え?ここは、天国とかじゃないんだよね??私、死んだらとかじゃないよね?」
口に出したからか、カロは不安そうにおろおろし始める。
「天国?天界と解釈するなら、そうだけど。...君は死んでないから。そもそも死んでたら、私の身体を貸す必要ないよね?」
「...あっ、そうだよねぇ...ははは。...だ、だとしてもさ、なんで、悪魔やら厄災って何?神様とは真逆じゃない?」
カロは気まずかったのか、誤魔化す様な笑みを浮かべ、取り繕った様に話を逸らしてきた。
「...そんなことはない。君の世界、君の住んでいた日本でも、神は二つの側面があり、荒々しい側面で災いを引き起こし、時として、優しく平和的な側面を持って仁愛を施すと謳っていたと思うけど」
カロは初めて聞いた様に、驚きで目を見開いている。
「なるほどねぇ。黑は物知りだなぁ〜」
関心して何度も頷く有様だ。
そもそも、カロにこの様な教養がある訳がなかったと思い出して、黑は溜息を付いた。
「じゃーさぁ、神様なら魔法とか使い放題なんじゃないの?そういえば、この世界の歪みとかあるって聞いたけど、パパッと直せたりしないの?あとさ、ここに来る前に変な二人組いたじゃん?あれもパパっとやっつけられないの?」
「あっはははは!カロは面白いのぅ〜」
ノームが腹を抱えて笑っているのも無理もない。
都合よく私達の思い通りにできる世界など、一つもない。
だからこそ、私達が必要なのだ。
だいたい、神族も意思はあって、個々の意思で力を振るえば世界はめちゃめちゃになると、黑はまた溜息を付いた。
そして、ふと、あの時のことが浮かんで胸が痛んだ。
「さっきも言ったけど、私達は見守る者。全ての世界の調和を守る為に存在する。本来、各々の性に従い、世界に力を注ぐ...例えば、光の力を平等に分け与えて世界に活力を与えるとかはあっても、その世界で起きたことに干渉はしない。何が起ころうと、その世界が起こしたことだから。ただ、例外はある。世界全体の調和を乱すと判断した場合にはね」
訝しげに見つめてくるカロは、んーっと唸ると黑を頭上へと乗せ、その場に座り込んだ。
「腰を据えて話そう、うん」
「急に何?」
「え?だってさー、分かるような分からないような...知らないことをあれこれいっぺんに言われてもさー。整理しないと混乱?するし。それに、なら何で、二人はこの世界にいるのか?とか」
「ほっほっほ。そうじゃの。ここからは、わしは説明しようかの」
ノームは夜空を見上げ、懐かしそうな目をして語り出した。
「わしらは、わし、ウンディーネ、シルフ、サラマンダー四柱...四人と言った方がいいかの..は、元々は、世界樹に住んでおったでの。ただの、わしらは、五芒星と呼ばれる中でも特別な存在のクロ、スピカ、後四人おるが、そうさのぉ...世界を管理する者とは違って、世界と共に生きる者なんだでの。世界の何処かに根を下ろす...住まなければならない定めなんだでの。...ほっほっほ。なかなか理解しづらいかのぉ」
ノームの言葉で、黑は頭上からカロを覗き見た。
眉間の皺がより深くなり、今度は酸っぱい物でも食べたかの様にぐっと口を窄めて変な顔だ。
「そうだのう。...わしらは、何処かの世界に住むことで、その世界の精霊を束ねる聖獣と契約をして初めて力が使うことができての、己の性を全うできるでの。クロ達は、世界樹、わしらは、世界の中の一つ、と場所が違うが、性を全うするのはお互いに変わらんでの。もちろん、それぞれ、役割は違うがの」
カロは徐々に少し首を傾げ、視線を上に向ける。暫くして、ノームに視線を戻した。
「...性と役割とかよく分からないけど、そういう逃げられないことがあって、だから今、ここにいると、そう言うことでいい?」
ノームは嬉しそうににっこりと笑みを浮かべ、同意する様に二度頷く。
黑もカロが理解しつつあることに嬉しく思う反面、
逃げられない
と言った時のカロの僅かに流れてきた不穏な気持ちが引っかかった。何も言わなかったが、気には留めておこうと、そう思った。
「そうだの。わしらはその定めに従って、特別なこの世界を、わしらで選んだでの。クロが言った通り、世界で起きたことはその世界でどうにかするしかないでのぉ。でものぉ、わしらではこの世界の歪みを抑えられても、元の様に直せないでの。だけどのぉ、ここは特別な世界だからの、クロが遣わされたんだろうのぉ」
「...ん?調和とかの関係??...じゃー、黑は救世主的な?そういえば、中でも特別って、そんな凄いのか黑は...んん??ていうか、私は何で一緒にここへ?何の力もないと思うけど...」
「私の身体に一時的に入ってるから、あくまで次いでだよ。世界に干渉するには、身体が不可欠だから。時がくれば、カロに貸した身体を返してもらわないと。今のままだと思うように力が使えないしね」
「え?それってまずくない?救いに来たのに力使えないんじゃ...」
「......確かにそうだけど、私一人では救えない。...そこにいるスピカの力も必要だから」
黑は視線をスピカへと落とした。
「そういえば、歓迎会の時はいなかったな。ん?......スピカちゃん、ここにいるの??」
「ほう。カロには、見えていないのかのぉ。なら、これでどうかの?」
ノームがそう言って、カロの背中をポンと叩く。一瞬、火花が散った様にそこが輝いた。
「あ、あれ?え!ゲミュートの側に...ええ?さっきまでいなかったよねぇ?ねぇ、黑!」
見上げてくるカロに視線を移した黑は、片足でカロの頭を軽くトントン叩く。
「少し落ち着いて。多分、スピカの力が弱まっているせいで、君には見えていなかったんだろうね。さっき、ノームが魔法で見えるようにしたから、見えるようになったってこと」
「はぁ〜驚いた。...よく分からないけど、スピカちゃん、大丈夫なの?」
カロは心配そうにスピカを見てから、確認するかの様に黑へと視線を向けた。
「...大丈夫だよ。スピカに今、注がれている光は土の精霊で、力の元のマナを注いでくれているんだ。属性が違うからすぐってわけにいかないけど、徐々には回復してるから...」
黑が目覚められたのは、スピカが力を分け与えたお陰だが、黑にしてみれば辛かった。
「なら良かった。早く元気になるといいな」
カロは黑を見上げながら、察した様に優しく微笑んだ。黑の気持ちを知らないはずなのに。
「...く、くすぐった!」
急に何事かと思えば、ゲミュートの尻尾が動いた拍子にカロの顔を撫でた様に当たったらしい。
それから直ぐにカロは何か思い立った様に立ち上がり、ゲミュートの方へと近づくと背に寄りかかった。
「あーあの時も思ったけど、ふさふさ。気持ち良いと思ったんだよなぁ......」
そう言ったっきり、カロは黙り込む。
黑が覗き込むと、カロは目を閉じていた。すーすーっと寝息まで聞こえる。
「...寝ておるの。...まあ、結構な量の酒を呑んでいたみたいだからのぉ。にしても、寝付きがいいのぉ」
黑はそうだねと返して、ノームと視線が合うと二人して小さく笑った。
「さて、そろそろ戻るかの。カロがこのままでは風邪を引くかもしれんしの」
「それも、そうだね。ゲミュート、カロを家まで送って」
黑はゲミュートの頭上へと飛び立つ。ゲミュートは見上げて、分かったという様に一度ゆっくりと瞬きした。
それを見ていたノームは、よいしょと言って立ち上がり、軽々とカロをうつ伏せにしてゲミュートに乗せる。見掛けによらず、凄い力だなと黑は感心した。
そして視線が合えば、ノームは顔の近くまで寄ってきた。
「オネストが教えてくれたのだがの、カロの背中に竜の翼に似た黒い痣があったとの。片翼だったらしいの」
黑へ、ノームは小声で囁いた。
直ぐに意味を察した黑は、ノームを見返した。
言葉にはしなかったが、焦っていた。
呪いがそこまで進行しているとは思わなかったからだ。
もうそれほど残された時間はないのかもしれないと、黑は思った。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次回は、クーアと鍛冶屋?です。
引き続きよろしくお願いします!




