真実と嘘1
「あれ?ノーム、様?」
ノームに気付いたカロは、そう言って近づいて来た。まだ、黑が目覚めたことには気づいていない。
「ほほ。名前の後に様はいらないでの。わしには、かしこまった話し方で寂しいのぉ。シュッツァー達と同じ様に話して欲しいのぅ。それで、こんな夜更けにどうしたかの?」
「え?他のみんなは様付けだから偉い人なのかと思って。...あー、うん。そう言うなら、そうする。いや、その、何か急に目が覚めて、蛍みたいのが飛んでて追ってたら光った鹿がいて、それを追ってきたらここに着いたというか...」
「ほほーぅ。光る鹿とのぉ。ここにはいないがの」
「え??そんな!さっきまで目の前に......いない。え?何?...ゆ、幽霊??」
「そんな訳ない。寝ぼけてるの?」
「へ?......黑?」
カロは驚いた様に辺りを見てから、視線を黑へと向けてきた。
「目覚めたのか、やっと...」
破顔したカロは黑へと近寄り、ゲミュートの尻尾から黑を両手で掬い、目線が合うぐらいの位置まで持ち上げた。
「そんな嬉しそうに。寂しかったの?」
「な!なわけない!何言ってんだよ、寝坊助。なかなか起きないから、すこーし、心配はしたけど...」
「ふーん。まぁ、いいけど」
黑は平静を装っていたが、元気そうなカロに、ほっとした。
自分が眠りに落ちていたことで、カロとの意識の繋がりが切れてカロがどんな状態か知り得なかったから。
カロの感じていることが全て分かる訳ではないが、感情の高まりは伝わってくるのだ。特に、不安と恐怖、においては。
「...ところでさぁ...なんだ、えーと、何でそんなに眠ってたんだ?あー?マナ?不足か?これからもこういうことはあるのか?」
じわじわと、不安、が伝わってくる。カロが感情を言葉で吐き出したせいか。
「...そうだね。これからもあるかも知れない。...まずは、カロ、君と私のことを分かる範囲で話そうか。記憶はまだ曖昧のままだろうし?今までのことを整理して、記憶が戻る手掛かりを探ろう」
「...そう、だな」
黑はじっとカロの瞳を見た。
カロの戸惑いが僅かに伝わってくる。
それは無意識に封印した、
思い出したくない記憶
の所為かもしれないと黑は思った。呪いのせいもあるが、カロはそれに関わる記憶を忘れている。
黑は忘れてもいいのではという気持ちもあった。
ずっとカロのことを外側から見ていたから。
カロの悲しみも苦しみも知っているから。
でも、それは本来のカロではない。経験した全てが、カロという人物を形成したのだから。
だから、思い出させないといけない。ただ、今ではないというだけ。
「まず、不思議に思ったことは?」
「不思議?...んーまー、急に異世界に来たこと?...か」
「なら、何故、ここの言葉を理解し、話せるのか、カロは理解している?」
ずるい質問だと黑は思った。ただ、納得させるには必要なこと。
「え?ああ!!何でだろう。それが当たり前みたいに感じていたから、何の違和感も感じてなかった。え?ええ?何で?」
「そうだろうね。そう感じるのも無理はないと思う。まずは、そこからかな...」
黑は話しを続けようとして、少し迷っていた。今から話しをしたことで、カロの感情が落ち込んでしまわないかと。
今までは、周りにも協力をしてもらい、カロが、悲しみ、苦しみ、に囚われない様に、考えられない様にしていたのだから。
でも、今は、カロを、信じるしかないと黑は決意した。
「何故、理解できるのか。それは、カロ、君のその器、身体のせいなんだ」
「はぁ??意味分が分かんないんだけど?」
カロの片方の眉が吊り上がり、疑わしそうな目を黑に向けてくる。
「まだ説明の途中。焦らないで聞いて欲しいものだね」
「え?あーはははは」
焦る気持ちも分からなくはない黑ではあったが、話を続けないと、気持ちを落ち着かせることもできないと思ったのだ。
「カロ、君の身体は、私の身体であって、本来の君の身体ではない」
「...え?何それ。...なら、私の身体は?え?どういうこと??」
「まず、地球で起こった爆発は覚えているよね?そのことが原因で君の魂と身体が分離してしまった。たまたま、私が君を助けたことによって、魂だけは救うことはできた。ただ、魂だけでは消失してしまうから、一時的に私の身体に移したわけだ。けど、魂が二つ存在するのは難しいから、よく分からないけど近くにあったドラゴンナイツに、私は魂を移したという経緯がある。今の状況はあくまで仮の措置だから、このままではいられない。それと、身体は......取り戻す方法ならある」
「...んん??すると、私の身体はどこかにあるってことか...?」
黑は小さく頷いた。ただ、本当のことを言えない事が、心苦しかった。
この時、感情が出ない機械の器でよかったと黑は思わずにはいられなかった。
「でもさ、黑の身体なら、何で姿が私のままなんだ?」
まだ納得いかない顔のカロは、眉間の皺がより一層深くなる。それでも黑は、話を続けないとと思った。
「...私の身体は魂に寄り添って形を具現化する。つまり、カロの魂が入ったことにより、カロ自分がこうだっていうイメージが反映された感じかな」
「...んー、...まーそう言うなら、そうなんだろうな。で?何で、この世界の言葉ができる?」
「私の身体に入ったことにより、私と私の身体とカロはマナを通して繋がっている状態にある。私の身体は外のマナを取込むことで成り立っていて、核となるマナを通さないと取込めず、核が宿っているのは私の魂の方にある。だから、私の影響を受けやすい。例えば、私の言葉遣いだったり、魔法の力だったり。私の魔法の中には、言葉を理解できる能力もある。それが、カロに引き継がれた感じかな」
「そうか...魔法。なら、私が使える魔法も黑の魔法?」
「いや、それはカロの潜在能力かな。この世界は今は誰でも魔法が使える世界だから、その影響を受けた形だね」
「はぁー、うん、何かしっくりこないけど、まー何となーくは分かった様な気もする。......ん?ていうか、黑は何者??」
「あっはははは!」
黑とカロは、急に笑い出したノームを驚いた様に一斉に見やる。
「やっとそこに辿りついたのかの。黙って聞いていたが、限外で笑ってしまってすまんの。まずは、我々のことを話した方がよかったのではないかの?クロ」
黑ははっと気づいた。確かに、自分達が何者かを説明することを失念していたことに。
今まで、自分のことを説明することなど無かったから。




