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君と私と竜と白と黒  作者: 雨月 そら
温かな思い出
22/102

サプライズ

 風呂から上がると脱衣所で脱いだ服はなく、狼獣人(ルプス)の民が着ている茶色の羊毛できた着物風の服と白い浴衣の様な薄い布と白いふんどしみたいな布が置かれている。


 「あれ?着てた服は?」


 「あんな、砂と泥だらけの服をまた着るつもりか?女衆が洗うのに持っていったんだろ。そこに置いてあるのを着ろ」


 「あ、うん。うーん?これはどう付けるんだ??」


 シュッツァーの言う通り身に付け様とふんどしみたいな布を手にし、付け方が分からずカロは首を捻る。


 「あれ?カロは付け方知らないの??じゃー、僕、教えるー!」


 着替え終えたオネストはそう言って、カロの手に持つふんどしみたな布を掠め取る。


 「え?おい?教えるって、それ持ってたらダメだろ!」


 「ヒヒヒ」


 オネストは悪戯をする時の様な悪い笑みを浮かべて脱衣所を駆け回る。それを追いかけるカロ。

 そんなやり取りを、温かな目で他の人々は見守っていた。

 丁度良い温かさの風呂は疲れた身体を癒したと思っていたカロだが、オネストとの追いかけっこで結局は疲労してしまう。

 ともあれ、途中、見かねたシュッツァーに助けられ、カロは無事に服を身に付けられた。


 「そろそろ夕餉の支度ができた頃だ。大広間へ行くぞ」


 シュッツァーがそう言うと、カロ達は大広間へと向かった。


 大広間では、食欲をそそる美味しそうな匂いが漂ってきた。

 その匂いに釣られ、カロの腹は小さく鳴いた。後ろで、釣られたかの様にグーグーと怪物が鳴いているかの様な音が聞こえる。振り返ると、双子がお腹空いたと腹を押さえている。

 自然と双子と目が合って、同時に笑った。

 大広間には沢山の狼獣人(ルプス)の民が集まり賑やかで、カロは何事かと驚く。

 テーブルの上には驚く程に大量の様々な料理と飲み物が並べられているのだが、真ん中がポッカリ穴が空いた様にテーブルの上が空いている。


 「おお、来たのぉ。皆、待っておったでの。さーさー、そんな所に立ってないで、こっちに来るでのぉ」


 ノームがカロに向けて手招きしているので、近づいて隣のイスへと座った。クーア達はこちらには来ず、風呂で会った二人に強引に連れられて違う席へと座っていた。

 

 「揃ったかの?さー皆、近くのジョッキを持つでの!」


 周りを伺ってから、いつになく明るく楽しげなノームの言葉を合図に、皆が一斉に木製のジョッキを手に取り立ち上がる。

 カロは出遅れてキョロキョロ見回し、最終的に残ったジョッキを手に取ってから遠慮がちに立ち上がる。


 「カロとクーア、よくミニエーラへ来たのぉ。今日は、二人の為の歓迎会でのぉ」


 「え?」


 カロは目を丸くした。自分達の歓迎会だとは思いもよらなかったからだ。そんなカロ置いてけぼりに、ノームは話を続ける。


 「久しぶりの訪問者で、皆、楽しみにしていての。時間が許す限り、ここでゆっくり楽しんでいってほしいでのぉ」


 「ノーム様、毎度話が長いぞー!」


 どこからか笑いながらの野次が飛ぶ。すると一斉に笑いが上がった。恒例のようだ。


 「おお、すまんの。では、乾杯!」


 「「乾杯!!」」


 皆が一斉に声を張り上げる。まるで遠吠えの様にも聞こえる。

 皆、ジョッキを互いにぶつけ合って飲み始めた。

 カロも周りに習って、ノームや他の人々とジョッキをぶつけ合った。

 周りは、ガヤガヤと実に楽しげに盛り上がり始める。

 周りの熱気に釣られる様に、カロは黄金色の飲み物をぐっと飲んだ。


 (あれ......これ、この味、白ワインか?)


 「おお、カロはいい飲みっぷりだのぉ。葡萄(レザン)の果汁酒は美味しいからのぉ」


 やっぱりとカロがそう思った時には、一気に飲みすぎてふらっと視界が揺らめいて酔いが回る感覚がする。

 慌てて首を振ったカロは、酔いを覚ます為に近くにあった水を頼んだ。

 それから暫くて、メインディッシュのエーバーを焼いた大きな肉の塊が運ばれ、空いたスペースへ置かれる。

 それを見て、期待していたとばかりに、わぁと歓声が上がった。

 香ばしく肉の焼けたいい匂いがカロの食欲をそそる。


 「さー食べなさい!」


 運んできた内の一人の女性が、ナイフで取り分けて木皿に乗せると、カロへと一番に寄越す。


 「ありがとう」


 「どういたしまして!」


 元気よく言って、ニコニコと笑う女性。ここの女性達は、気が強いが優しい、肝っ玉母さんみたいだなとカロは思った。

 それから、食べたり飲んだり、狩りの話をしたりとカロは楽しんでいた。


 「楽しんでいるか?」


 「「ヤッホー、カロ」」


 狩りの話の途中から、シュッツァーと双子が近寄ってきた。

 三人はカロを囲うと、ジョッキをカロの方に掲げる。意図を察したカロはジョッキをぶつけた。

 その後、案の定、双子に狩りでの事を揶揄われた。周りは、爆走の渦だ。

 それから暫くして、双子はノームの方へ行き、シュッツァーはカロの隣へ腰を下ろした。


 「狩りは、慣れもあるからな。そのうち、上手くなるだろ。まー弓の実戦はもっと積まないとだがな。まずは、そのひょろっこい身体を鍛えた方がいいな」


 (え?そんな私は、貧弱なのか?...んーまー狼獣人(ルプス)の民に比べたら、そうかもな)


 カロは周りをチラリと見てから、自分の腕辺りを見るとため息を吐いた。決して、カロは貧弱ではなく程々に筋力はあるのだが、この世界の基準と比べるとそうなのかもしれない。


 「...あーうん。頑張るよ。あっ」


 「何だ?」


 「そういえば、歓迎会の為の狩りだったんだな」


 「ああ、そうだ。ノーム様の方針でな。一緒に狩りをして食事を取れば、打ち解けも早いだろうとな。恒例行事みたいなものだ。教えなかったのは、単純に驚かせたかったからだな」


 「なるほどなー...」


 初めは何でいきなり狩りかと驚きはあったカロだが、確かに打ち解けやすくなったと思う。

 今では、誰とでも気軽に話ができる。まるで、家族か友達か。

 ほっこりと温かな気持ちになったカロは、顔がいつになく和らいで、嬉しそうに笑みを浮かべた。

 それから、たわいのない話を交わし、カロは聞きたかった事を思い出す。


 「そういえば、狼化から人化した時に何で服来てたんだ?狼化した時は何も身に付けてなかっただろ?」


 「ああ、その事か。これのお陰だな」


 シュッツァーは、自分の前髪に付いている紫色の輝く宝石のような鉱物で造られた筒状の髪飾りを指差した。


 「これは、カムビと言って、魔法石(マギア)で出来ているんだが、魔法が発動するとこれと一緒に身につけている物は全て光の粒子になって見えなくなるそうだ。だが、直ぐ側で浮遊しているらしい。発動条件は獣化で、自動的に発動し、人化で元に戻る様だ」


 「へー便利な物があるんだなぁ〜」


 へらへら笑いながら、カロはカムビを見ている。顔はほんのり赤く、明らかに酔っている。それもそのはず、話しながら何だかんだと飲んでいたのだから。


 「大丈夫か、お前?」


 「大丈夫だよ!あーそーだー!思い出した。気になってたんだけど、何で、河で落ち合った時に上半身裸だったんだ?」


 「...あぁ。内臓とかの下処理して、血が身体に付いたから洗っていたからな。血生臭いの御免だ」


 「なんだー、そーかー。あははは!」

 

 酔ったカロをシュッツァーは訝しげに見てから、小さく溜息を吐く。立ち上がって、近くにあった水が入った木のコップを持ってくる。


 「とにかく、飲め」


 「んー、うん」


 カロは勧められまま、一気に水を飲み干す。ぷはーもう一杯とでも言う様に、コップを掲げる。

 それから暫くして、カロはトイレに駆け込んだ。


 出すものを出したら、カロは少しずつ酔いが覚めてきた。

 大広間へ続く通路を通っている時、ふと壁に掛かった布に描かれた一枚の絵画に目が止まる。

 四匹の龍が四方に分かれて描かれている。


 「それが気になるかのぉ?」


 足音もせずにノームが横に立っていたのに驚きつつ、カロは頷いてノームを見やる。


 「昔は()()()()()(ドラゴン)を描いたものだの。竜王、またの名を精霊王と呼ばれていた。ウンディーネから、多少は話しを聞いてるかの。今は......何処へ行ったのかのぉ」


 一瞬、ノームの言葉が途切れ、眉を寄せると瞳には悲しみの色が浮かんでいた。

 どう言葉を掛ければいいか分からず、カロは黙ってノームを見ていた。


 「どうしたかのぉ?んん?カロ、おぬし、酔っておるな?」


 そう言ったノームは、柔かに笑みを湛えて、いつも通りだ。先程の表情は気のせいだったかの様に。


 「そんなことは、ないですよぉ」


 カロは少し不機嫌そうにムッとして口を尖らせた。

 

 「そうかの?酔っておらぬのら、眠いのではないかのぉ?」


 そう言われた瞬間、カロは言葉の魔法が掛かった様に、瞼が重く眠気が襲ってくる。


 「疲れておるのかものぉ。さーさー、皆には言っておくからのぉ、先に寝るといいかの」


 「...そ、そうかな。そうしようかな」


 ノームの言葉に誘導される様に、カロは欠伸を漏らしながら部屋へ向かった。


 カロは部屋に着くと直ぐに眠ってしまったのだが、パッと目が覚めた。

 灯は消えていて、真っ暗闇。

 その中で、カロの頭上辺り、蛍のように点滅したが光一つ、ふっと、くるりくるりと弧を描いていた。

 カロが気付くと、すーと部屋から出て入口辺りで止まる。着いて来いと言う様に。

 その光を追いかけないといけない気がして、カロは後を追った。


 家の外、空にはあちこちに蛍の様な光が辺りを明るく照らす。

 追った一つの光もスッと空へと消えるのをカロは目で追って空を見上げたのだが、何となく見られている気がして、視線を落としてその方向へと向ける。

 そこには一匹の立派な角が生えた全身が白く光っている鹿がいた。

 じっとカロを見ている。

 カロは、気になって近づいて行く。

 鹿はくるっと背を向けて、ゆっくり駆け出す。

 カロは近づかない方がいいのかと足を止めた。すると、鹿も止まってカロを見ている。

 また、着いて来いということなのかと思い、カロは足を踏み出した。

ここまで読んで頂きありがとうございます。


次回は、黑視点となります。


引き続きよろしくお願いします!

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