狩りへ行こう!2
弓がしなり矢が勢いよく飛んでいく音、唸る狼の声、駆ける音、体当たりした様な音、獣が悶え苦しむ低い唸り、様々な音をカロは背後から拾い聞きながら逃げていた。
他の仲間達が攻撃して足止めしているが、それでも猪らしきものとの距離はそうは離れない。決して人として足が遅い訳ではないが、木々を避けながら走るのは用意ではない。はたまた、猪が頑丈で足が速いのか。
「おい、乗れ」
引っ切りなしに溢れる汗、真っ赤な顔のカロとは対照的に、背後にいたはずのシュッツァーは悠然と横を走っていた。
余裕な姿に、必死になっている自分が滑稽で、カロは泣きたくなる。
足も絡れ始め限界が近いカロは、足を止めた。さすれば、シュッツァーも止まったので、遠慮がちにその背に跨った。
「おい、そんな体勢では落ちるぞ。しがみつけ」
「へ?」
戸惑いながらもカロは、言われた通りにシュッツァーの背中にしがみ付いた。
「行くぞ!」
「お、おう」
シュッツァーが地面を抉るように蹴って力強く走り出す。キレのあるジグザグ走行に大きく視界が揺れ、酔いそうになったカロはぐっと目を瞑る。
状況は見えないが、身に受ける風は吹き飛ばされそうな程に強く、揺れは相変わらず酷い。
はぁはぁはぁ
シュッツァーの息遣いと
ドッ ドッ ドッ ドッ
心臓の音が響いてくる。
シュッツァーも懸命に走っているのが伝わってきて、カロは自分事だけを考えていた事に恥じた。
「お前、囮をかって出たわりに、鈍臭いな」
カロは絶句し、さっきの思いを全力で撤回した。
(囮じぇねぇし。どんくさくもないわ!)
口を開いたら舌を噛みそうな速度なので黙っていたが、カロは苦々しい顔付きだった。
スピードはどんどん速くなり、必死でしがみつくのがやっと。
どれくらい経ったか、シュッツァーの足が止まる。
「おい、降りろ。お前は、ここに隠れてろ。直ぐにかたはつく。」
目を開ければ、洞穴が見える。草木が鬱蒼として茂り、入口は見えにくい。隠れるには丁度良さげではある。
「けど、何もしないのも...」
「何もできないの間違いだろ。弓もまともに射れないでは、話にならん。居ても邪魔だ。大人しく隠れろ」
またもや絶句するカロ。確かにそうだが、そこまで言わなくてもと言う気持ちが顔に出て、ムッと眉を寄せる。
「いいと言うまで、そこに居ろよ」
そんなカロを無視して子供に言い聞かせる様に言うと、シュッツァーは早々に駆け出して行った。
カロは仕方なく座って、胡座をかいた。弓も筒も必死で走ってる時に落としたらしく無い。何もすることがなくて、ぼんやりし始める。
時を知らせる時計がなく、この世界に来て時間の感覚が分からないカロだが、眠気が訪れるくらい長い時は経ったと思う頃、
ギィヤァァァァ!!
と大きな獣の声が響き渡る。何事だと眠気がすっかり覚めたカロは瞬時に立ち上がる。草木をかき分け見たが、ここからは何も見えない。だいぶ離れた場所にいるのか。
落ち着きなさげに洞窟の中を行ったり来たり。洞窟を出ようかと足を一歩出しては引っ込める。
そうしているうちに、ガヤガヤと騒がしい声が近づいてきた。
「いたいた!」
「何か疲れた顔だね!」
「走っただけなのにね!」
双子の胸に刺さる遠慮ない言葉に、カロは心で泣いた。
「まーまー、狩りに慣れていないんですから、仕方無いですよ、ね」
すかさずフォローを入れるクーアの優しさに、カロは心が和んだ。
「そうだな。囮としては鈍臭かったが、エーバーがカロを標的としたお陰で楽に狩れた。あれは一度標的を決めると標的だけしつこく追い回す習性があるからな」
「な!そんなのは、狩りの前に言ってくれ!危うすぎるだろ!」
「そうだな。一番弱い者を必ず標的にするから、最初から話しておくべきだったな。打ちどころが悪ければ、死んでしまうところだった。すまん」
「い、いや、済んだこと...一番弱いってなんだよ!」
「力量が測れないか?どう見ても、お前が一番弱いだろ?」
カロは周りを見回し、狩りの後でも息切れすらなく、何事もなかった様な仲間の姿に、言葉も出ない。
「「そんなことより、にっくにっく肉〜♪」」
揃って、よく分からない肉の歌をウキウキと歌い始める双子。
「そうだな。エーバーの下処理が必要だし、昼餉の支度も必要だな。さっさとやるか。二手に別れるか。オネスト、下処理するぞ。着いてこい!」
「ほーい!じゃねージョリー!お魚いっぱい捕ってね!」
「アイアイサー!」
「え?私も下処理...」
カロがそう言いかけると、クーアがポンと肩を叩いて囁く。
「血抜き、内臓を取出ししたいです?結構、臭いしグロいですよ」
何もできない事が引け目に感じ言ってみたもののクーアの言葉に、カロはリアルではないがグロい想像をしてしまい青ざめて首を振る。
「かく言う僕も、あまり得では無いですけどね。できなくは無いですが、したくない。ということで、もう少し歩いたら河に着きそうですから行きましょう」
「え?河?」
「そうそう、河近い!」
「ええ。河の音が聞こえますよ。聞こえませんか?...あー...エルフと狼獣人は、耳がいいですからね。それでな」
やたらと甲高い鳥なのかやけに煩い声と、キーキー猿か何かの声に、ガサガサと風に揺れた葉の音なのか獣が通る音なのか、あっちこっちから聞こえる音でよく分からない。
「そうか。じゃー行きますか」
楽しげで軽快なステップのジョリーを先頭に、カロ達は歩みを進める。
「そういえば、魚はどうやって捕るんだ?」
「僕は、魔法で短めの細い槍ぐらいなら形成できるので、それで射止めようかと。カロは......釣竿とか?」
「釣竿?どこにあるんだよ」
「ん?あるよ、小屋に」
ジョリーが顔だけ振り向き、カロを見て答える。
「さっきの小屋?」
「ううん。河の近くにある小屋。シュッツァーがたまに釣りするので使うやつ」
「釣するのかー...狼が?」
「元の人の時だよ。今日は、狩りだから獣化してるだけ。バカなのカロは?」
「あ、そ、そうか」
狼の姿しか見ておらず、それが元の姿と思い込んでいたカロ。それもそうかと苦笑いする。
「あーほら、あそこ、小屋見えて来た!」
ぴょんぴょんと軽快に飛び跳ねながら、ジョリーは先に小屋へ向う。前足で、器用にドアを開けて中に入り、釣竿を咥え戻って来た。
「はぁい!」
「あ、ありがと」
若干唾液で湿っているが、構わず釣竿を握り掲げると、カロは闘志を燃やす。
「やる気だね!」
「やる気ですね」
「競争、競争!!」
河へ着けば、三人三様、別れて魚獲りが開始された。
山ほど捕れた魚をクーアが捌ききり、エーバーの下処理班と合流したカロ達。こちら側にも河があった様で、川縁にいた。
そこには、人の姿が一人いる。紺色の艶やかな短髪に右前髪が長く、その前髪に紫色の輝く宝石のような鉱物で造られた筒状の髪飾りを付け、大きな顔の傷に切長な紫色の片目が目立つ。シュッツァーだろうか。
彫りの深い顔立ちで、褐色肌で無駄にない締まった身体が男らしい。というか、何故か上半身裸。しかも、全身濡れている。当然、近くのオネストも濡れ鼠だ。
かく言うカロ達も濡れているのだが。原因は、ジョリーが駆け回った際に水は掛けるは、捕った魚を放って人の顔に叩きつけたりしたからだ。
「捕れたか?」
「捕れた!捕れた!そっちは終わった?」
「ああ、ここに冷やしてある」
シュッツァーが指さした先には、エーバーが河に浸かっている。腹を縦に大きく切られた状態で横たわっている。遠目からだが、出ている舌以外の内臓、目玉はない様だ。
「そうそう、カロは釣りもド下手だった!」
「ぐっ、それは...確かに」
「まー皆が食べる分あればいい。焼いて食べながら、しばし、身体も休めよう」
「「はーい!」」
元気いっぱいの双子とは対照的に、カロは大きな溜息を吐き出す。見かねて、クーアがポンポンと優しく背中を叩いた。
張り切ってみたものの、カロは釣れたのは四匹程度。それに比べ、他の二人は何倍も獲ったのだからやるせないのもむりもない。
小高い丘で、カロ達は昼食にした。そこには、一度掘り起こした様な土がこんもりしている。そこには青い花が添えられていた。
「ここ、何で盛り上がってるんだ?」
「それは、エーバーで食べない部位を穴を掘って埋めたんだ。エーバーの舌以外の内臓は、毒があるから食べれないしな」
「そうなのか。でも何で埋めるんだ?」
「他の肉食獣が喰うから喧嘩になるしな。一番は、供養だ。ちゃんと残さず食べるか、感謝の気持ちを込めて供養するんだ」
「なるほどな...」
カロは、盛り上がった場所の方を向くと、目を瞑って手を合わせた。
「さて、ぼちぼち焼くか。魚は誰が持ってる?火は出せるか?」
シュッツァーは、拝み終わったカロを見ている。
「私が持ってる。火出せるけど... シュッツァーは、出せないのか?」
「俺は、と言うか、狼獣人《ルプス》は防御魔法特化型だ。それ以外は、ほとんど使えん。まぁ中には、例外の奴はいるがな。空間魔法も相性的な問題なのか、あまり容量が少ないぐらいだ。使えなくても、困らんがな」
「そうか。そういう人もいるのか」
頷きながら、カロは空間魔法から魚を取り出し始めた。
近くの小枝に魚を刺し、カロがやっと役に立つ時、焚き木に火を点ける。
焚き火をして食べた魚は、身がホロホロで美味しかった。シュッツァーが隠し味と腰にぶら下げた袋から、白い粉を掛けたのがまたいい。多分、塩だと思われるが。
腹も膨れ、濡れた服も乾いてちょうど良く温かで、眠気が襲ってきたカロは自然と瞼を閉じていった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次回は黑主体の話となります。
※賑やか狼獣人の話はその後になります。
すみません。
引き続きよろしくお願いします!
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