狩りへ行こう!1
カロは、乱暴に肩から背中にかけ揺られて、目が覚めた。
見れば、よく似た狼二匹が、カロを器用に頭で押していたようだ。
「起きたね!」
「起きた、起きた!行こう、行こう!」
双子は顔を見合わせて、嬉しそうにヒソヒソと小さな声で言えば、今度はカロの服を引っ張り出す。
半ば強引に毛布から出されたカロは、よく分からぬまま、寝癖も直さず半分寝惚けたようなまま、双子の後をついて行くことにした。その時、同室のクーアは居なかった。
昨日は、夕食を終えたら満腹感と安堵感からか急に眠気が襲ってきた。
ノームに早く寝た方がいいと勧められ、食事を取った大広間から幾つか繋がる通路を抜けてドアの付いてない3〜4人は寝れそうな、天井がドーム型の部屋へ案内してもらった。構造は他の部屋も同じなのかもしれない。
それからカロは、敷かれていたふたり分のふかふかで手触りが良さそうな羊毛らしき寝具の一つに包まると、直ぐに寝てしまったのである。
双子に連れて来られたのは、家の外。薄らと明るくなったばかりの空は、まだ群青色広がっている。昨日からファーコートを着たままだが少し肌寒い。
そこには待ち構えていたように、ノームと、まだ真新しい縦に大きな傷がある片目を瞑った全長2mくらいはありそうな紺色の毛に紫色の瞳の狼と、クーアがいた。
「これで揃ったかの。期待して皆、待っているからのぉ。大物を頼むでの」
カロ以外は頷いているが、何を言っているか理解できずに不思議そうな顔をしていると、ノームが気付いて小さく笑った。
「そうか、カロは眠くて、話を聞いておらんかったのかの。今日は、夕食用に狩りをお願いしたんでの。......とすると、クロをわしが預かったのも、覚えていないかの?」
「え?どういう......名前...」
カロは眠気が一気に吹っ飛び、ノームを訝しげに見た。意味が分からないし、名乗っていないのに名前を知っているのか。
「クロが早く起きられるように、マナが多く集まる場所へ休ませておるでの。直ぐに会えるから、そんな顔をせずに安心するがよいの」
黑と離れている事に漠然と騒つく心にカロは、不安な表情を隠せない。会ってからそんな経ってもいない人を易々信頼していいのかと思っていた。
そんなカロに、クーアが近寄って来る。
「心配いりません。信頼置ける方です。ノームに任せておけば、クロ君を元気な状態にしてくれますよ。それと、ノームと僕とスピカはちょっと知り合いでして。と言っても僕は、直接は会ったのは今回が初めてですが。カロ君とクロ君の名前は、昨日僕が教えたので不安にならなくて大丈夫ですよ」
微笑みながら優しく語り掛けるクーアにやっと安堵し、カロは頷いた。ただ、クーアの笑みは何処となく哀しげに見える。
「あ......いや、なんでもない。そう言えば、スピカは?」
詮索し過ぎかと思い直して、カロは話題を逸らす。
「スピカさんでしたら、寝室ですよ。狩りは男だけで十分でしょう?」
それもそうかと、カロは頷いてそれ以上は追求しなかった。
「今日は、重い荷物運びになると思うからのぉ、力のあるシュッツァーが一緒に付いてくでの。狩りも、頼りになるでの」
そう紹介されたのは、紺色の狼。無口なのか、頭を少し下げるだけだ。
さっそく、準備に取り掛かるノーム。それを手伝うクーアを横目に、近くにある軽トラぐらいの長さのやけに大きなソリが置かれているのが目に付く。
案の定、双子と紺色の狼に、昨日のソリが繋がり、後ろにそのソリも繋がる。一体どんな獲物を乗せるというのか、今から不安しかないカロであった。
ノームと別れを告げ、ソリに乗り込み走り出してから、だいぶ時間が経った。
正直、カロはお尻が痛かった。砂漠地はそんなに揺れはしなかったが、熱帯雨林に入ってからは地面が砂利の上を走ってるような感じでガタガタ揺れるのだ。スピカはよく乗っていられたなと思うカロなのであった。ふと、クーアの方を見上げれば、平然と乗っていて、自分自身に苦笑する。
熱帯雨林に入ってからは日が上り、むっとした湿気で着ているファーコートが暑い。パタパタとコートを引っ張り風を入れ、ふと気付く。一体何日風呂に入っていないかと。スンスンと衣服の臭いを嗅ぐ。
「大丈夫ですよ。一日くらいお風呂に入らなくても、匂いませんよ。それとも、キュアノスで寝ていた時の事を心配してます?」
頭上からクーアの声が降ってきて、言い当てられた事に顔を引き攣らせながら見上げるカロ。
「で...向こうでは...」
「それこそ心配ないですよ。僕が責任もって、着替えさせて、身体は毎日拭きましたから。起きた時、寝巻きだったでしょ?」
クーアに平然と言われ、内心は感謝の気持ち半分と恥ずかしさ半分の複雑な気持ちで、カロは愛想笑いして頷くしかなかった。
また暫く走ると小屋が見え、そこでやっと止まった。
「クーア、ハーネス取って!取って!」
「早く早く!」
双子が同時に振り向いて、クーアを見ると、うずうずしているのか尻尾をブンブン振って催促している。
クーアはソリから降りると、狼達のハーネスを外して、双子をニコニコしながら撫でている。
「行こう!」
「GOGO!」
双子は自由になった途端に、ぴょんぴょんと楽しげに飛び回り、鬱蒼と茂った林の中を駆けて行ってしまった。
シュッツァーは、クーアの服のの端を引っ張り、小屋へと誘導している。明らかに、カロは頼りにされていない。
小屋から出てきたクーアは、ファーコートを脱いで、弓と矢の入った筒をふたり分持っていた。
ファーコートを脱いでるのを見て、暑さ身に染みて、カロも脱ぐと小屋へと置きに行った。
「はい、カロ君」
丁度小屋から出てきた所、弓と弓筒を渡されたカロは、苦い経験を思い出して、渋々ながら受け取る。
「まーまー、弓も慣れですよ。最初は皆、下手ですから」
含み笑いをしているクーアを、横目に少しムッとするカロだが、実際下手なことには変わりない。虚しくて、ため息が出る。
「オネストとジョリーが、そろそろ連れてくる頃合いだ。ここに来られても困る。先へ急ぐぞ」
渋い声が聞こえて誰かと思えば、無口だったシュッツァー。言うや否や、早々に駆け出す。
慌てて、カロ達は後を追い掛ける。しかし、クーアは難なく付いていけるものの、カロはそんな俊足な足を持っておらず、遅れ始め、ふたりの姿が豆粒程遠くなってしまう。
息も絶え絶え、ひとり迷子のように道なき道を走っていれば、やっとの思いで合流できた。クーアとシュッツァーが足を止めていたから。
ふたりとも臨戦態勢で、クーアは弓を構え、シュッツァーは今にも飛び掛からんと身を低く構えている。
カロひとりだけ、状況を把握出来ておらずに突っ立ったままだ。
ミシ ミシミシミシ ドーン
何か倒れるような音が近くでし、狼の威嚇する声が響き渡る。
流石にカロも顔付きが変わり、弓を構える。だが、時折、地響が伝わってくる感じからするに小物とは思えず、僅かながら恐怖心で手が震える。
やはりとカロが思った瞬間、有に2m超えした二つの牙が鋭利に尖ったそれは大きな猪らしきものが現れた。
(なんじゃこりゃ!!)
思った瞬間、猪らしきものと目が合ったような気がしたカロは、思わず弓を放ってしまう。残念な事に明後日の方向へ弧を描いて飛んでいく弓。
それが、猪らしきものにターゲットにされたらしく、カロ目掛けて走ってくる。
(や、やばすぎる。私は、アホか!アホすぎるだろ!!)
カロは、恐ろしくて青ざめながら、全力反対方向へと逃げたのだった。




