ようこそ、ミニエーラへ2
「おっと、忘れるところだったのぉ。山越は寒いでの、これを着るとよいかの」
ノームが空間魔法から出したのは、ふわふわそうな毛並みがよいフード付きのポンチョ型ファーコートのような服。ノームが羽織ってる服と同じようだ。ただ、ノームは背丈が小さく、ファーコートにすっぽり覆われしまって、下半身はブーツだけしか見えない。
耳や尻尾の効果もあり、何とも可愛らしいなと密かに思うカロ。
そんな事を思われているとも知らぬまま、ノームはカロ達にそれぞれコートを渡すと、後で洗濯するからと着ていたナイトケープを回収していた。
「さて、スピカの乗るソリが必要だの」
今度は、犬ぞり用のソリと皮のハーネスに編み紐が着いたリードを空間魔法から取り出す。
ハーネスをオネストとジョリーとナビールに取り付け、リードをソリにきつく結び付けた。双子はワクワクしたようにぴょんぴょん跳ねている。
「ふむ、前にスピカが乗るとして、後ろに立ってもらわないとかの。じゃぁ、アンちゃんの孫の方がいいかの」
(何故、スピカの名前を知っているんだ?クーアがアンの孫って何故分かる?知り合いか?)
ノームの話を聞きながら、そんな事を思っていたカロだが、そもそも自分はどうするのかと、はっと気づく。
ノームを見て、私は?という意思表示を込めて、自分に指を刺すカロ。
「おぬしは、もちろん、ゲミュートに乗るに決まっているでの」
「......え?あの大きいのに?」
ゲミュートを見れば、犬のお座り状態でも背の高さはカロあまり変わりなく、二足で立ち上がったら2〜3mはありそうである。
馬にさえ乗った事がないカロは、乗れるか心配で、それは表情に出ていた。
「そんな心配そうな顔しなくても、わしと一緒だしの。わしにしっかり掴まれば大丈夫だからの。さーさー夜になる前に行こうかのぉ」
スピカとクーアは頷いて、キャキャと楽しげに双子が騒いでいる方へ行くと、ソリに乗り込んだ。
ノームは肩の鷹を飛び立たせると、伏せの体制になったゲミュートにぴょんと軽く飛び乗る。後は、カロだけ。
ゲミュート跨ったままノームは、カロに片手を伸ばす。カロは意を決して、その手を取るとノームの後方に跨った。
「ほれ、しっかり掴まるでの」
ノームに手を引かれ、促されたままノームの腰に両手を回す。そうすると屈む体勢になり、ノームの背中と密着して、背のバランスもあり、カロの顎がノームの頭に乗る形となった。
「何だか、こそばゆいが、まぁよいかの。さぁー、一気にいこうぁのぉ」
鋭く天に届くような高さの、要塞のように頑丈そうな山を狼達が走り出す。岩のような斜面を爪を引っ掛けながら蹴り、カロ達を乗っていても、軽々と登っていく。
走れば走る程にスピードが速まり、振り落とされそうな勢いだ。
上に登って行けば行く程に気温が下がり、頬に当たる風が冷たい。それでも、ノームの耳が丁度よくカロの顔を温めてくれる。
ふと、その温かみを懐かしく思うも、何故なのかは分からない。ただ、思い出そうとすれば、頭がピリピリと電流が流れたように痛む。
カロは、苦痛を感じてまで考える必要はないかと考えるのを辞めた。ただ、何処か寂しい感じがして、ノームをぎゅっと抱きしめてしまう。
「どうしたかの?怖いのかの?それもあと少し。ほれ、頂上が見えてきたでの」
あっという間とは、こう言う事を言うのか。山の斜面から平らな場所、頂上へと着いた。
見上げた空は赤い陽は沈みかけ、橙、黄、そして広がる群青へと変化していた。
陰る空は、満点の星々が煌めいている。川が流れているような星々は、天の川のようだとカロは思った。
そこから下を見れば、天を刺すかの如く鋭くそびえ立つ山脈が大陸を囲っていた。その山の上を、何処から集まってきたのか、蛍のように点滅した光る丸い物がふわりふわりと飛んでは、粉雪のような光を注いでいる。山脈はその光りで輝いて、宝石のように煌めいていた。
大陸の大半は鮮明な赤、青、黄、白、藤色と多彩な色をした砂や岩石でなる砂漠が広がる。だが、みずみずしい緑が映える熱帯雨林に大きな河川が流れ、大きく綺麗な円を描いた湖も見えた。
キュアノスは屋久島の自然を思い出させるような美しい景色だが、こちらも負けじと美しいとカロは思う。
キュアノスは、そう、昔に借りたアニメ映画に出てきた精霊が住まう森のようで近寄り難い雰囲気とすれば、ミニエーラは宝石箱のようでもあるが何処か温かみを感じた。
この景色を見せてやりたいと、ノームから手を離し、空間魔法に入れていた黑を取り出す。
カロが目覚めても、一向に反応のない黑。揺すっても、何度声を掛けてもだ。
カロが起きたら、必ずおはようと声を掛けてくれていた黑は、電池が切れたかのように、今はただの機械の塊のよう。
どうしたのか分からず、内心は凄い慌てていたカロ。黑のことはよく分からないことが多いのに、この世界にひとり取り残された気分だった。それほど、頼りにしていたのかと驚く程に。
不安で、クーアに聞いてみたら、眠っているので心配にないとのことだった。
そんな訳で、安堵したものの、急にこちらへ来ることになり、入れる場所が見当たらず、落としてたら困るし、慌ててたのもあり、致し方なくしまったというわけである。
「おーい」
掌に乗せて、景色が見れるようにしながら呼び掛ける。やはり、反応がない。
「ん?どうしたかの」
そう言って振り向いたノームは、カロの手の中を見やる。
「ふむ。疲れているのだろう、暫くは起きないと思うがの。...まぁ、この景色ならいつでもまた、見れるでの。今は、ゆっくりさせてやればいいかの。お腹も空いただろうしの、早く帰ろうのぅ」
そうかと思って、頷いたカロ。確かにここまで何も食べていないので、腹も空いている。
気絶したあの後、何かあったのかもしれないが分からないからこそ、側に置いておきたいと思い、空間魔法には、もう戻したくなくて、ノームの腰に捕まりながら両手でにギュッと黑を握りしめた。温かみのない、冷たい感触はあたり前だが寂しさを感じた。
それから一行は、一気に坂道を駆け降りていった。恐ろしいスピード感で、怖かったのは言うまでもない。
山を降り、砂漠を越えた先に小さな丘が見えてきた。
降りた先の丘には、ドアと窓が付いており、上の方には煙突が幾つか刺さっている。一つしかないドアにノームに促されるまま入れば、中は沢山人が入れるくらいのかなり広い空間で、天井もドーム状になって高い。
真ん中に長い木のテーブルと椅子があり、椅子は大人用と子供用が幾つも並んでいた。今は腰の曲がったお婆さんがひとりいるだけだが。
ここの部屋のは至る所に通路があるので、ここ以外にも部屋があるのかもしれない。
そのテーブルには、大きな鍋と帰ってきたカロ達の分の木の皿とスプーンが置かれていた。鍋からは温かな湯気が立っていて、シチューのようなミルキーで食欲をそそる匂いが漂っていた。
カロは思わず腹の虫がなってしまい、紛らすためにへらっと笑って、恥ずかしいげに頭を掻いた。
ニコニコと可愛らしく笑いながら、ようこそと言って、お婆さんがスープをよそってくれる。
そういえば、ノビールからもようこそと言われていて、ここの人達の口癖かなとぼんやり思いつつ、お婆さんに感謝の言葉を返して、スープを頬張るカロ。
温かなスープは寒かったせいもあり身に染みて、尚且つ、ジューシーな肉と甘くホクホクの野菜が深みのあるスープと合間って、口の中でとろけて、実に美味しく感じるカロ。
今日は、満足な気分で寝れそうだと思うと同時に、テーブルの上に乗せていた黑が目に入り、早く目覚めろと心の中で呟いた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回はハンティングです。
よろしければ、また読んで頂けると嬉しいです。




