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君と私と竜と白と黒  作者: 雨月 そら
廻り始めた運命
15/102

別れの前に

 黑達がいる場所に、異変を感じた二フリート率いる近衛小隊が駆けつけて来た時には、すでに事は終わった後だった。

 (もっと、早く来てくれれば)

 自分の力不足のせいなのに、そう思ってしまうことに嫌気を感じた黑は眉を顰め、顔を俯かせた。

 腕の中のスピカに自然と視線がいく。

 どうすれば良かったのか、答えの出ない黑。スピカに答えて欲しくて見つめ続けても、意識を失っているのか目を開ける気配はない。

 二フリートの張り上げる声や近衛隊の忙しく動く足音はどこか遠くに感じていた黑は、ただ、溢れる感情から目に涙が滲むのを隠すように、スピカの肩に顔を埋めた。

 

 あれから近衛隊のよって、イシュカ城に戻ってきた黑達は、城の中にある、オフホワイトの汚れ一つない清潔感漂う、ベットがいくつも連なるだけの殺風景な病室のベットの上にいた。

 黑はあの後、疲れがどっと押し寄せたのか意識が薄れていってしまったのだ。

 周りの騒がしい声に、目が覚める黑。


 「ばーちゃん!ばーちゃん!」


 「アテネ隊長、骨が折れてるんですよ!安静にして下さい!」


 「こっちにも治療班は来てください!」


 様々な会話が飛び交う中、黑は一番にスピカのことを思い出し、重く気怠い身体を無理矢理起こしてベットを降りた。

 探す手間もなく、隣のベットに寝かされていたスピカ。近寄って顔を覗けば、顔色は良く、安らかに呼吸をしている。眠っているだけのようだ。

 安堵にくしゃっと顔を緩める黑は、やっと周りを見渡せる余裕ができた。

 白い袖のないポンチョのようなものを身につけたエルフが、室内のあちらこちらに忙しそうに動いている。その中で一際エルフが集まるベットに、自然と視線が向く。


 「なんでだよ、ばーちゃん。目を開けてよ、ねぇ。お願いだから」


 横たわるアンに泣き崩れて、そう呟いているのはクーア。

 周りのエルフ達は立ち尽くし、困惑した顔付きで互いに無言のまま視線を交わしている。

 そのエルフの中を破り込んで、クーアの隣、アンの顔の横辺りに黑は立った。片手を伸ばすと、そっとクーアの肩に触れる。


 「力を...貸して欲しい。アンを助けたい」


 涙でぐしゃぐしゃの顔を上げたクーアは、涙に濡れたままの瞳を黑へ向け、静かに頷いた。

 それを確認してから、近くにあった椅子に腰掛けて、黑はもう片方の手をアンの額から目までをそっと覆う。

 クーアの肩に触れている手に力が入ると、クーアの身体が淡い青の光に包まれた。その光は黑の身体を伝って、アンに触れている方へと緩やかに流れていく。

 目を瞑った黑は、キラキラと星屑のような光に包まれ、淡い青の光と糸を編むように混ざり合うとアンへと流れて、徐々に徐々に全身をさざなみのように優しく包み込んでいった。

 それほどの時が経ったか、長いようで長くもないのか。引き潮のように光がさーと解けて消えていくと、黑は両手をゆっくりと離した。額にはうっすらと汗が浮かび、疲労の色が顔に浮かんでいた。


 「ごほ、ごほごほ」


 小さく咳き込む、少ししゃがれた女の声が聞こえてきた。アンが目覚めのだ。

 じっとアンを見つめていたクーアは、身体を前に乗り出した。


 「ばーちゃん、大丈夫?痛いとこはない?」


 「なんじゃ、騒々しい。声がでかいわ。耳が痛い。ちっと、落ち着け」


 「ご、ごめん」


 「全く...大人になったかと思ったが、まだまだ子供じゃな」


 アンは毛布から片手を弱々しく取り出すと、クーアの頭に伸ばして髪をくしゃっくしゃにするように撫でた。


 「こんなんで、カロ達と一緒にちゃんと旅へ出かけられるか、心配になるじゃろ」


 「僕は行かない。...ばーちゃんの側にいる」


 「全く、本当に子供に逆戻りか?」


 小さくアンはため息をつくと、ぽんぽんと頭を撫でて一旦手を離す。もう片方の手も出して、両手で首に掛かっている深海の海のような綺麗な青い石のティアドロップ型のネックレスを外すと、クーアの首に掛けた。


 「ほれ、これを持っていけ」


 「これって......」


 「もともと、それをお前に預けようと思ってたんじゃ。きっと必要になる時が、来るじゃろうからな」


 「で、でも」


 「...お前はお前のやるべきことをするんじゃ。...それに、それは預けるだけじゃ。返すんじゃよ。...それまで、わしは死にゃーせんよ」


 いつもと違い、子供をあやすように優しい声音のアンとクーアは無言でじっと見つめ合う。


 「...分かったよ」


 納得したような顔を見せたクーアは、袖で涙を拭き取るとにっと笑った。でもどこか、悲しげでもある。

 そんなふたりを静かに見守っていた黑だが、ふらっと眩暈をするのを感じる。

 よろけそうになるも、椅子から立ち上がる黑。周りのエルフ達は、心配そうに見てくる。中には支えようと手を差し伸べるものもいたが、首を小さく振って断った。

 おぼつかない足取りで、意識が段々と混濁していくのを、頭を軽く振って歩みを続ければ、カロのベットに辿り着く。覗いた顔色は問題ない。

 安心してか力が抜けていった黑は、カロを覆うように倒れ込んだ。

ここまで読んで下さり、

ありがとうございました。

感謝の気持ちでいっぱいです。


次話からは、ミニエーラへと舞台が変わり、

カロへまた視点が変わります。

楽しい話が入れられたらなと思っています。


次話もどうぞ、よろしくお願いします。

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