忍び寄る影4
黑が迷い動けないでいると、右の指先にひんやりと冷たい感触を感じる。
黑は自ずと指先へ視線を落とせば、スピカの指が黑の指先に触れ、交差し、絡み合っていた。
「...大丈夫...信じて」
自然と、黑とスピカの視線が合わさり、スピカが黑へ囁く。黑は小さく頷き、スピカの指を握り返して離した。
黑は胸のぐらいの位置で片方の掌を上へ開くと、その掌の中で球体の柔らかな光が現れ、それを一度握るとくるっと前へ開き、壁を作るように半円描く。
星屑が散りばめられた障壁が、黑とカロを囲うように現れた。
それと同時、スピカの手の甲が光ると粒子が集まり、その手の中には青白く光るヒルト部が花が重なり合うような美しい曲線のレイピアような剣が握られる。
地面をぐっと蹴り飛ばして、男の方へ向かうスピカ。構えた剣先が男の肩に後一歩で届くという瞬間、ロキがその間に瞬間移動したように現れる。
ロキが剣先をそっと撫でるように振り払うと、剣は脆く崩れて消え去った。
「...やっぱり」
確信したようにぼそっと呟くロキ。不気味ににっと口端を上げ、鋭い視線を向けると、素早くスピカの腕を掴み、回転させると背後からもう片方の腕で首を締め上げる。
苦痛の表情でもがくスピカを、一驚して凍りついたように固まる黑。瞳の色は、動揺が隠せない。
「...どうする、黑?さぁーどうする?はっ、はははは!」
実に愉快そうに高らかと笑い、挑発するようにスピカをこれ見逃しにさらに締め上げるロキ。優越感に満ち溢れている。
憎しみの色を隠せない瞳をロキに向けた黑は、強く唇を噛みすぎて僅かに血が滲む。
「ロキィィ!!!」
感情を剥き出しに発した言葉と共に、瞳に強い光が宿り輝き、黑から溢れ出る気が爆発したように強い波動となって広がる。
周囲を飲み込んだ波動は、電撃のような感覚と身体が硬直しそうなほどの重い圧力が掛かった。
波動を受けた男はショートしたように、力なくアンを離す。
波動ではっと目が覚めたクーアは、アンが落下しそうな光景を目の当たりにし、痺れる全身を歯を食いしばって、力を振り絞って地面を掻きむしるようにして立ち上がるとアンへ駆け寄る。
地面に叩きつけられそうなアンを既で抱えたクーア。
チッと小さく舌打ちしたロキの隙を見逃さず、瞬時に反応した黑が飛び掛かった。
スピカの首を絞めているロキの腕を爪が食い込み血が滲むほど掴んだ黑は、力任せに外させる。
ゴキっと骨が折れるような音がロキから響く。
怒りに支配されて、冷静さ欠ける黑。スピカの手を取ると、突き放すように強くロキを地面へ突き飛ばす。
冷淡にロキを見下した黑だが、負傷した肩を片手で庇うもロキは高揚したような嬉しげな顔で、不快感に眉を寄せた。
「はぁ、はぁ。いいね、その顔。......でも、顔色悪そうだね。ねぇ、黑。隠せてないよ?まだまだだね、黑も、スピカも、ね。まぁ、お楽しみは、これからだもんねぇえ?直ぐに終わったら、面白くないしね?」
しんどそうに、だがどこか楽しげにそう言って、ロキはよろよろと立ち上がる。抑えていた手をぐっと掴めば、モワッと黒煙のようなものが立ち上がる。
黑は無言のまま、表情を変えることなく一連の動作を逃さず観察していたが、内心、力が徐々に弱まっているのを悟られたことに焦っていた。
「はぁーやめやめ。今回は、この辺で帰りますかぁ〜」
負傷していた肩を軽快に二、三度くるくる回した後、ロキは少し屈んで男の服を鷲掴む。近くのクーアに丁度、視線が合う。
力が入らず動けずにびくつくクーアを、ケタケタと笑う。
「まーまー、落ち着いてさぁー」
その光景を見ても黑は、黙って見ていた。動きたい衝動を抑えたのは、少しずつ戻っている冷静さからで、また後手になるのを恐れたのもあるが、ロキの視線を感じてもいるからだ。
「...あー、でも、目障りなんだよね」
ロキはそんな黑を分かっていたかのように、クーアに顔を近づけボソッと小さく囁くと、ぐったりとして目を閉じているアンの瞼の上に素早く片手で覆う。
「やめろ!!」
黑が気付いて叫んでいた時には、ロキの手からは黒煙のようなものが立ち上り、アンの頭部を包み込んだ後。
「命だけは取らないであげるよ。まぁ、長くないかも?だけど。はは、じゃーねぇー」
ロキは口早に、男を引き摺りながら、後ろ手にぽっかり空いた黒い穴へと後向きのまま飛び込んで消えた。
何も考えもせず、咄嗟に追いかけようと身を乗り出そうとした黑だが、ぐったりと力なく持たれ掛かってきたスピカを見て驚愕する。
胸で抱えるスピカの顔は、血の気が引いていつもより余計に白い。
何も気付けず、自分自身が情けなくて、眉間に強く皺を寄せて歯痒さに奥歯を強く噛み締める。
スピカを抱きしめて、天を仰げば、声ない声を上げる。見開いている瞳には、熱い涙が浮かんでいた。
ここまで読んで下さり、
ありがとうございました。
感謝の気持ちでいっぱいです。
次回でキュアノス編も終わります。
次話もどうぞ、よろしくお願いします。




