第5話
入学式が終わり、俺は教室にいた。他の生徒たちもそれぞれ教室に分けられていき、楽しそうに談笑をしている。
せっかくだし、前世は作れなかった友を作ろうと思ったのだが、何故か人が寄り付かない。いやまぁ、なんか入学式でも怯えられていたから納得でもある。
そういえば前世で担任から「お前は人に来んなオーラを出している。それから直せ。」と言われたことがあった。もしかしたらそれなのかもしれない。
「まずは……笑顔だったな。」
俺は出来る限りの笑顔を試した後に、生徒と目を合わせて笑顔を振りまく。
「ヒッ……すいませんでした!」
生徒は怯えたような顔をして、いきなり謝ると足早に教室を出て行った。
え、そんなに俺の笑顔はダメだったのだろうか。セシリア姉さんの笑顔やクローキス、イシュアの笑顔はかっこよかったし、綺麗なので問題は無いと思うのだが……少し傷ついてしまった。
しかもそれを見た生徒が顔を合わせないようにしながら視界に入らないようしてくる。ショック過ぎて、俺は机にダラーんとしながらグダる。
「なんでだよ……これじゃあ前世と同じ?」
前世でもこんな感じの事は珍しくなかった。まぁ正確には無視られてしまうことが多かった……の方が事実だが、怯えも追加されるとなると悲しい。
今日はもう授業はないので、俺は立ち上がると寮に戻ろうとした。立ち上がるのを見た生徒たちはビクッとしながらササッと道を開けてくれて悲しい。まるで俺が虐めているみたいで悲しくなる。
「……はぁ、俺ってそんな嫌われてるのかな。」
学園の敷地に停めておいた車に乗ろうとすると、隣に人影を感じた。誰だろうと顔を見ると知ってる顔で驚いた。
「ティル。学園はどうだ?……って言ってもまだ入学式しか見てないな。これから一緒にご飯を食べに行かないか?」
「クローキスお兄さん……勿論行きます。」
そこに居たのはクローキスであり、俺の兄上様というやつだった。あまり会いたくはなかったが、仕方ないとも思う。
「ここに親はいない。こんな時くらいは敬語なんてものはやめて話そうぜ。」
「わかったよ。」
「おう。それじゃあ学園の敷地内にとあるカフェがある。そこで一緒にご飯だ。」
クローキスはそう言うと、ゆっくり歩いて案内してくれる。時々生徒とすれ違うが、やはり怯えられてしまう。クローキスは気付いてないのか、何事もないかのように歩いていく。
「あの車はお前のか?」
「うん、俺が作ったよ。」
「俺でもあんな凄い車は作れないな。イシュアの兄貴でも作れないかもしれない。流石は俺の弟だな。」
両親はこう言った言葉をかけてくれることはなかった。
こういう言葉をかけてくれるのは付き人やクローキス等の兄や姉だった。まぁ魔力が無いことを知った今では親の態度にも納得をしてるし、兄や姉が優しくしてくれるのも哀れみからか多少は複雑だ。
「ありがとう。クローキスお兄さん。」
「……今は車を頑張って作るといい。いつかお前が魔法を使って英雄になる未来を作ってやるからな。」
クローキスはまだ俺が魔法を使えないということを知らないと思っているらしい。騙すのは良くないが、それで優しくしてくれるクローキスを傷付けたくないので、笑顔で頷く。
「そう言えば学園はどうだ?結構設備も充実してるし、研究も楽しめるだろ?」
「うん。車のチューニングも楽しめそうだよ。」
「チュ……そうか。なら良かった。」
この世界に存在しない言葉で話してしまった。前世とは言語が違うのに、いきなりチューニングだけ日本語で言われても理解できないのも当然だろう。こう言ったミスは減らさないといけない。
「クローキスお兄さんはどう?五大英雄の後釜適正だとか話してなかったっけ?」
「……そうだな。俺が継げたらいいな。」
クローキスは笑顔が固まりつつも、俺の前だからかすぐに微笑む。五大英雄についてで何かあったのだろうか?
五大英雄とは、この国のトップだ。そして五大貴族やその直下貴族等から、各貴族組から1人だけ選ばれる優秀な英雄のこと。
俺のパイロクロア家やその下の家の中からは、クローキスが選ばれていたはずだった。理由はパイロクロア家が本気で育てた子であるのと、長男は王家に、長女も縁談が多くて五大英雄になることは出来ないらしい。
故にクローキスはかなり期待をされていて、熱と木々を操る事で有名なパイロクロア家の次男として相応しい人だ。
「……あ、ここ?」
「そうだ。」
クローキスはカフェに入る。そしてお菓子を選ぶと奥の方の席に座る。俺もクローキスに顔を合わせるように反対側に座ると、店員が持ってきてくれたお冷を飲む。
「冷えてて美味しい。」
「あまり水を飲みすぎるな。これから来るお菓子はかなり美味いからな。沢山食べられなくなるぞ。」
俺は来るお菓子をワクワクしながら待っていると、外に数人の集団が見えた。制服を着てるので、この学園の生徒なのは分かるが、かなり物騒な顔つきぶれだ。
「……悪いなティル。お菓子はまた今度になるかもしれない。」
「え、なんで?……あの集団と何かあるの?」
「……深くは聞かないでくれ。大切な弟に聞かれるのは良くない。」
クローキスは立ち上がると、店員に金を渡して外に出ていく。俺も慌ててポケットから金を店員に渡すと、すぐに店から出る。
「……よぉ、クローキス。子供連れて今度はなんだ?恐喝か?」
集団のリーダーはそう言ってクローキスにメンチを切る。というか恐喝とはどういう意味だろうか?全く理解できない。
リーダーには何か見覚えがある。どこかで見た顔つきなのだが……誰だろうか?
「うるさいな。雑魚に相手をするほど俺は暇じゃない。おれの気分がいいうちに失せろ。」
「鍛錬を怠るお前に雑魚呼ばわりか……舐めたことを言うな。」
リーダーの言う言葉に首を傾げてしまう。クローキスは昔から鍛錬を良くしていた。両親やイシュア、セシリア姉さん等と試合をしていたのをよく覚えている。
クローキスの強さは破格で、毎回負けたりしてはいるが、スキルや魔法を使わずに周りと戦う様はカッコイイ。1度だけ習ったばかりの雷魔法を見せてくれたが、大樹を燃やし尽くした記憶がある。
「……ムカつく。」
流石に知らない人にバカにされるのはムカつくので、ポケットから車のパーツを取り出す。そしてリーダーに向かって投げつける。
この体は運動オンチではないらしく、真っ直ぐ飛んでいき、リーダーのおでこに勢いよくぶつかる。
「……い、いってぇな。何しやがる。」
「ティル、お前は手を出すな。」
ガチ切れ寸前のリーダーに対して、クローキスは俺を後ろに隠して構える。
「……今なんて言った?」
「は?何言ってんだコウガ。」
リーダーらしき人はコウガというらしい。どこかでコウガという名前は聞いた覚えがある。なんか知ってる人の名前なのだが、思い出せない。
「アイツ、いやあの子の名前だ。ティルと言ったか?」
「……ああ、俺の弟のティルアスだ。」
「…………今回だけは見逃す。またあんなことをすれば次こそは処分だからな。」
コウガは背を向けると仲間を引連れて帰っていく。
何を見逃すのかも、処分とかもよく分からないが、とりあえず何事も無かったので良かった。クローキスの方を見ると、心配そうにこちらを見ていた。
「守ってくれてありがとな。だけどあんな危ない事はしちゃダメだ。俺の強さは知っているだろう?」
「……分かった。」
確かにクローキスは強い。手を出さなくても問題はなかったかもしれない。だが俺は短気なのでバカにされて平常心ってほどいい人じゃない。今度からは一応気をつけるようにしよう。そう思いながらクローキスと一緒にカフェでお菓子食べに行くことにした。
感想は美味しかった。まるでプロの洋菓子だった。
あ、また更新遅れるかも……
出来る限り早く投稿するので許してください。