生まれる前の言葉
梔子は枯れず
ただ一輪として朽ちず
果てしなく昇る夏雲の白さを
その面に留めて
漣は凪がず
ただ一波として静まらず
絶え間ない青い流れにいつか
遠く帰るために
空は果てず
ただ一色には消えず
夏の夕焼けの最も強い赤は
不意に飛ぶ白鷺の血の一滴に溶け
純金の鈍さをまやかしと呼んでいる
細いうなじの少女の声は
いついつまでも
どこであっても
そこに確かにある
声の奥底に遡り見つけた
語り継がれることのない炎と
そして
時が遡る星々の海の銀の魚を
生まれる前の言葉と呼んだ
ようやく肩の力が抜けた気がする。角張っていた意味たちが意識の奥底で丸みを帯びた。言葉たちがまるで、醸したての新酒のように湧き出しているのを感じている。そしてようやく二百字制限が気にならなくなった。6年余かかったけれど。