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終末幼女  作者: どくいも
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感想ありがとうございます!

嗜好があってくれる人がいて嬉しいです!


ファンがいる限り、もう少し続けたいと思います。

 〜★夏の月面シャトル旅行★〜


 いつの間にか日中は汗ばむ季節となりましたが、皆様方はいかがお過ごしでしょうか?


 さて、今年も恒例となりました社員旅行を行います。


 今年は皆様の要望にお応えして、月面基地にお邪魔し、観光やスパを楽しんでもらおうと思っております。


 なお、月面にはシャトルでの移動となりますので、事前に健康診断を受けていただきますことをご了承下さい。


 ・日時 8月10日(金)〜8月17日(金)

 ・行先 月面基地第5区【ンガイ】

 ・集合 太平洋第6基地

 ・諸連絡 参加者は部署名、社員ID、氏名を総務課にご連絡ください。

 参加申し込みは7月15日までです。

 旅行中のトラブルは担当者までご連絡ください。

 集合時間は厳守でお願いします

 その他ご質問や不明点がございましたら、お気軽に総務課までご連絡ください。


【株式会社 ウィズダム・スター・テイーメント】



 ◆◇◆◇



 正常な生活へ復帰するには骨の折れる困難な過程をへなけらばならなかった。

 5年以上も歳月を共にした相棒の喪失は想像できる以上に厄介な問題を生み出しており、私の場合、順応しなければならない事柄が無数にあった。

 やらねばならぬことは大量にあり、その責務も罪もある、しかし、それでも後悔は自分のすべての動きを絡めたり、無気力という名の鎖でこちらを縛り上げるのであった。


「ならばこそ!それを脱却する為には、簡単にできることからやっていくべきなむ!

 という訳で、まずはゾンビ対策なむ!トゲ付き大鉄球の罠を作るのな!」


「バカだなー、ゾンビには飛んでくるのもいるのな。

 それなら罠よりも確実な鉄板でシェルターを作るべきなむ」


「そもそもそんな大量の鉄、どこで仕入れるなむ?

 加工法もな」


「それならなむは食料集めを提案するのな!」


「ゾンビーフ、ゾンビ肉なむな?」

「漁業の可能性……」

「それならジョニーの肥料の方が早いのな」

「はなびーはなびーー!!」


「なあ、もうちょっとこちらに感傷に浸らせてくれない?」


 なお、こちらの心象とは逆に場の空気は死ぬほど軽かった模様。さもあらん。

 先の悲劇で、大いにこちらの心がかき乱されており、この娘らもそれはわかっているはずだ。

 なのに何故、この娘らはここまで底抜けに明るいのだろうか?


「それはな、私達が吾郎姉様とおか母さまの願いで生まれたからのな。

 明るく賢くチャーミーで!それがなむ達のモットーなむ!」


 やや平坦目の胸を張らながら【ショゴ()】たちはそう高らかに宣言した。

 彼女らのこんな場違いの明るさと愉快な気質は大体が吾郎の無邪気なお願いのせいである。

 彼女は喋り下手だった故に、妹は喋り上手に。

 寂しくないように複数人。

 そんな吾郎の夢と希望がたくさん詰まったのがこの【ショゴ夢】であった。

 さらには、此方が落ち込んでいると集団で胴上げをして励ましてくる機能付きだ。

 なんでや。


「でもそういうの好きでしょ?」

「かつげかつげ」


 ついでとばかりに、わっさわっさと神輿のように担がれるのであった。


 ……ショゴ=吾郎を失ったのは大激痛である。

 大量の肥料と備蓄は手に入ったが、そんな物信頼できる戦闘員と比較すればゴミみたいなものだ。

 その代わりとして新たに作られたショゴ夢たちは、戦闘員としては大いに不安が残る出来だ。

 肉体的素質や武装の不安はどうしようもないので嘆いても仕方がないが、この経験不足だけはあまりにも無視するには大きすぎる。

 初代は別として、二代目や三代目はそのせいで早死にした。

 ましてや、このショゴ夢達は本来ならば雑用やサポートがメインになる予定だった為、戦闘用の個性を持たせていない。

 こんな状況のまま、この娘らだけで街中散策などさせたらあっという間にゾンビに蹴散らされることは間違いないだろう。


「……ま、久々だが大丈夫だろ」


 故に、私が取れる選択肢は、私がこのショゴ夢達がまともな戦力になるまでは私が彼女らをきっちりと守り、教育していくことだった。

 幸いにも、このショゴ夢達は30近くはいる上、高い共感能力と学習能力を持たせたはずだ。

 集団で遠征を繰り返せば、数人は犠牲になるだろうが、何人かは使い物になるだろう。


「壊れては……うん、ないな」


 そう決意を固め、蔵からいくつかの常人用の武器を取り出す。

 一つはその重厚な重さと硬さがこちらに死と安心感を与えてくれる拳銃。

 もう一つは鉄より硬い木製の大小さまざまな杭。

 さらに、防護服としては貝や蜘蛛の糸などを元にした、無数の生態鉱物でできた衣服。

 これらはショゴ=吾郎が完成してからはすっかりお役御免となった、自分用の護身具であった。


「おお〜!!かっこいいなむ!」


「ねぇねぇ!なむも!なむ達も!」


 当然ただの人外幼女に過ぎない身では発砲すら難儀するが、そこは経験と不死性でカバーできる。

 試しに、いくつかの空き缶を蹴り上げてもらい、そこに素早く発砲する。

 すると無事に六発中六発命中。

 痺れた手首と銃痕が誇らしく感じられる。

 ショゴ夢達が大いにはしゃぐ中、これならばなんとかなりそうだと僅かな安堵感を感じられた。


「……久々に不死者として、新兵の引率、頑張りますか」


「あー!私も手伝うなむ!」

「任せるのな!」


 かくして私は改めて、ショゴ夢達を連れながら、自らも武器を取り、ゾンビ蔓延る街中へと出かけるのでありましたとさ。


 ……そう、不死や武器など、この世界ではなんの役にも立たないことを、すっかり頭からすっぽ抜けながら……


「そうだな、初めの目標は……図書館でいいだろ。

 あそこなら人も動物もほぼいないだろうし」



 ◆




「あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝アアァァァァ!!」



 ──無限に続く、地下への階段で、一人の幼女の悲鳴が響く。



「あ〝つ〝い〝

 もえる、がらだが!いだい〝ぃい〝ぃいいいい!!!!」


 全身を赤く染め、汗を咲き出す幼女の姿。

 皮膚は裂け、傷口からは漿液が漏れ、血は既に枯れ果てていた。


「止まれ、とまれ、止まれヨォォオォォ!!」


「かあさま、かあさま!!!」


 周りの娘達の声も悲しく響き、彼女らがの知る《一般医学》でできる治療しようともした。

 ……しかし、そんなものこの場においては全く意味がなかった。


「……ギィィィ!!!!!」


 なぜなら、今、彼女らの間に起きているのは()()()()の外にある自体だからだ。

 幼女が叫び、嗚咽った瞬間に、彼女の全身の傷口含む、穴という穴から汁が溢れ出した。


 ──ただし、溢れ出してきたそれらは、すべてが血ではなく《紙魚(しみ)》であった。


 ダニよりもなお小さい、ゴマ粒程しかない大きさの《蟲》。

 フナムシにも似たその虫が、彼女の傷口から、口から、いや眼腔の隙間、ありとあらゆる穴という穴から、その身を潰して蟲汁をぶち撒けながら、溢れ出てくるのであった。


「まって、まって、まってぇぇぇぇ!!!!」


「なんでよぉ!なんでなのよぉぉ!!!」


 当然、周りの少女は自らの親の体から湧くそれを全て取り除こうとするも一向に終わりは見えなかった。

 何故ならそれらの《紙魚》は彼女の体の中で()()()()()()()()()()からだ。

 血管の中から、胃や肝臓の中も、ましてや骨髄にも。

 それらは、臓器や骨髄に皮膚、ましてや()()()()まで、彼女の体すべてを餌や()()にしているのであった。



「……って……、こ……てぇ……」


「ひぃ!!!!」


 蟲塗れの体をなんとか起こしながら、喋る幼女に驚く少女達。

 ……無論、本来ならば、こんな状態になればどんな生き物でも既に死んでいる。

 肉は食われ、血を飲み干され、ましたや脳すら食われ続けている状態で何故生き続けることが出来るだろうか?


「……殺し……てぇ!!

 お……願い、殺して……よぉ……!!」


「ヒィィイ!!!!!」


 けれども、彼女は()()()()()

 ただ彼女が《不死》故に。

 全身を化け物に侵されようとも、その血肉のほとんどを【這うもの】に喰われ溶かされようとも。

 この生の苦しみからは、ましてや忘却することなど絶対に許されないのであった。


「……【や〝……れ〝】……!!」


「……あああああ〝あ〝あ〝!!!

 い〝やた〝た〝あ〝あ〝ぁぁぁぁぁ!!!」


 だからこそ、彼女は周りにいる愛娘達に《命令》するのであった。

 その瞬間、今まで幼女の周りにおり、甲斐甲斐しくも無駄な治療を続けていた少女達は一斉に武器を握った。

 あるものはナイフを、あるものは拳銃を、またあるものは鈍器に回転鋸刃(チェーンソウ)で、己の素手と歯で。


「がああぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」


 ショゴ夢達は、自らの産み親に全力で武器を振り下ろした。

 血涙を流しながら、有らん限りの声を上げながら。

 生まれたばかりの幼子に、夢と希望()()知らぬ無垢な子に。

 おのれの意思に反する【絶対命令】で。

【愛する者】を【全力で壊し続ける】。


「ぎひぃ……いがぁ……」


「いやだよぉ……いやだよぉ……!!」


 何よりもその作業が辛いのが、そこまでしてなお、【彼女らの母は救われない】ことだ。

 全身を力任せに引き裂いても、骨一つ残さず砕いても。

 彼女らの母は死ねもしないし、救えもしない。

 何せその母を蝕む《紙魚》共は米粒よりなお小さく、骨の髄にいたる部分まで全身に寄生しているのだ。

 バラバラにし、粉にしても、《紙魚》は何処かしらには残ってはいるし、1匹でも残ればあっという間に元の木阿弥だ。


『痛いよ、苦しいよぉ、殺して、殺してぇ……』


 果たしてそれは、どちらの台詞であったか?

 かくして、これが彼女らが初めて行った【愛すべき親子の共同作業】であったとさ。





 なお、この狂演が終わる頃には、彼女達の人口は半分ほどにまで減っていたのでありましたとさ。

 めでたくなし、めでたくなし。









※微グロ注意


ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想をくださると非常に励みになります。


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