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幸を呼ぶ猫  作者: 梅桃
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6・私の先生は本だった。

 どうせまだ社交は終わらないからその間にその実験とやらで試すと言われ、手を引かれてあれよあれよという間に会場より離れた塔に連れて行かれた。


「あの、ですが……父に一言……」

「どうせお開きになるまで居座る組なのだろう。それまでに実験が終われば問題ない。無理なら一度帰り、ニ・三日中に来ればいい。効果が出ればそのままいろ。連絡はこちらから入れるから心配するな」


 そう言われながら、引きずり込まれるように塔に連れて行かれたという訳なんだけど。


 どんな実験何だろう。

 変な事でなければいいんだけど。


「魔道具はつけているのか?」


 塔の部屋の一つに入るなり、そう問われて頷き、ネックレスを取り出して見せる。


「魔道具の中では以前であれば上等品だな」

「幼い頃は……十になるまでは、皆……私を家族として案じてくれていた証拠なのです……」


 だけど、高価な物を付けさせたのにそれでも改善されなかったから、だんだんと見限っていくようになってしまった。


「魔力を一定量放出させるタイプのものだな。器の大きさに対して魔力量が多く、且つこの魔道具の放出量が余剰分の魔力量よりも少なかった場合、ほとんど意味はなさない。そこで何もしなかった場合、残りの魔力が少しずつ蓄積されていく。結果、緩やかに悪化していく。器に見合わない魔力を持った者は上手く魔法を扱う事は出来ず、下手をすれば暴走しかねない。が、現状維持を保っているのなら、お前はその辺上手くやっていたのだろう?」


 と、私に向かって指を差しながら言う。


 その通りだと頷いた。


「私なりに考えて、細くゆっくり時間をかけて出来るだけ空っぽに近付くように、それを日に数回行っていました」

「考えて? 誰からもやり方を教わらなかったのか?」

「初めは……ほんの少し多かったくらいで……改善されない理由がはっきりと分かるほど魔力量が多くなった時には、邸の者は皆……そっぽを向いておりましたから……」


 下手に魔力を扱えば暴走して大変な事になるということだけは分っていたけど、じゃあどうすればいいかっていうのは分からなかった。


 私の前世の記憶が蘇ったのは、魔力不適合症特有の高熱を出した時だった。


 前世の私のおかげで、こっちでは十一歳の子どもだったけれど、理屈が理解出来た。


 一気に放出させるから暴走する。

 なら細く放出させれば負担にならないしその可能性は低くなる。

 そして、時間をかけて空っぽに近い状態に持っていって、少しでも多く放出させる。

 そうすれば、この魔道具が魔力量を超えるまでの暫くの間は魔道具としての役割を果たしてくれる。


 そう考えた。


 細く魔力を流して長い時間をかけてするのは相当に疲れる。

 器が小さいとは言え魔力が多すぎて時間がかかるから。

 最低でも一時間。慣れるまではそれ以上かかってた。

 精神的疲労もあって一日に多くても五回が限界だったけど、それでもだいぶ楽になった方。


「前世のおかげとはいえ、幼く知識もなかった中、それを毎日ですか……」


 アーツ様が深く息を吐いた。


 それに加えて、ダイエットや魔力を整える魔術や苦い薬を色々試し、その合間にも独学に近い状態での勉強もこなした。


 前世も今も頭はいい方ではないけど、新しい事を知るのは嫌いじゃなかった。

 前世との違いを比べながらする事で、なんとかといった感じだけど。

 マナーやしきたり、ダンス、刺繍、そのほとんどの先生が本だった。


「教師もつけて貰えなかったのですか」

「さすがにそれは酷すぎないか」


 見限られる前はそれなりに指導はして貰えていた。

 その後はほとんど独学。


 その癖、体裁を整えるためだけに必要な社交にのみ駆り出される。


「それでですか。目に付くほどではないですが、細々とした所が微妙だったのですね」

「なるほどな。聞かねば分からぬものだな。片方の話だけを鵜呑みにしてはいけないと気を付けていた割には、踊らされていたのだな」


 分って貰えた。

 それだけで、こんなに嬉しい。

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