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23話から投稿しております。
たくさんのご感想、さらには誤字脱字報告をありがとうございます!
激甘(当作品内において)です。多分…。
ようやくここまでかけたのも読んでくださる皆さまのお陰です。
感謝を!
「ノア様、どうして……」
ヘレンが戸惑いながらもノアを見上げた。いつもは甘くヘレンを見る瞳が、少しだけ厳しいような気がするのはヘレンの気のせいだろうか。
「……ヘレン」
「?」
ノアはヘレンに近づくと、その頬を軽く叩いた。
「っ……」
あまり痛くはなかったものの、いきなりのことでヘレンは混乱する。叩かれた頬を手で押さえると、ノアがヘレンを強く抱きしめた。
「どうして…誰にも言わなかったんだっ…!!」
「ノア、様…?」
表情は見えないが、その声音は酷く苦しそうに聞こえた。
「ヘレン、私のことが、私の言ったことは、そんなに信じられなかったのか…?」
「!? そ、そんなこと!!」
「ならどうして一人で行ったんだ!!」
イライアスが落ち着いたあと、ヘレンはノアが話があるというので自室へと案内していた。部屋はかつてのままで、更にきちんと掃除をしてくれていたのか、埃っぽい感じは全くしない。
ちなみにゼニアは客室で休み、ミーシャはそれについている。
つまり、部屋にはノアとヘレンの二人っきりであった。
「あ……その、わ、わたしの、せいで…アマリーが攫われたかもしれないって、思って……」
「だから? 一人で何でもできると思っていたのか?」
「ち、ちが……!」
「君が攫われたと知って、私が傷つくとは考えもしなかったのか…!!」
「っ…!」
そうしてヘレンは、ノアが怒っていて、そして悲しんでいることにようやく気付いた。それが、自分の取った行動の所為であることにも。
「ご、ごめんな、ごめんなさい…っ」
ヘレンが言葉を詰まらせながら謝ると、ノアは更にきつくヘレンを抱きしめた。その縋りつくかのような抱きしめ方に、ヘレンは自分の取った行動で傷つく人がいるのだと理解し、そして後悔した。
「…確かに、ヘレンがアマリーを救いたいと思ってくれたのは、素直に嬉しい…。だが、どうしてせめて相談しなかった…! 待っていてくれなかった…!! そんなに、私は頼りなかったのか?」
「違うんです…!!」
ヘレンは叫ぶように言った。そして、言いたくなかった自分の卑しい部分を告白することにした。
「違うんです…! わ、私は、ノア様に、みんなに、嫌われたくなくて、それで…!」
「嫌われたくない?」
ノアはヘレンの話をしっかりと聞くつもりになったのか、ヘレンをソファーへと誘い、その隣に距離を詰めて座る。
ヘレンは、自分の膝の上で握った拳を見つめながら、罪を告白する罪人のような気持ちを感じていた。
「……わ、私のせいで、私がいたから、アマリーが攫われたと知って…それで…」
「…それで?」
「っ……」
「ヘレン」
ヘレンは堪えきれずにほろほろと涙を零した。
「わたしのせい、でっ…わたしが、いたから、こんなことに、なったって…おもわれたら、どうしようってっ…!! それで、エルサ、さま、とかが、わたしを、うけ、いれたことを、後悔、したら、って、考えたら、怖く、なって……」
「……あぁ」
「きらわれる、のがっ…こわく、て…! だって、みんな、わたしに、優しくっ……してくれたのに…! の、ノア様が、わたしのこと、すきだって…いってくれたのに…」
嫌われたくなかった。好きだったから。好きな人が大切にしている使用人が、自分のせいで危険に晒されたなんて。
そう考えただけで、ヘレンは恐怖に襲われた。
「ごめんなさい、ごめんなさい…! 嫌われたく、なかったの…!」
結局、ヘレンは自分のことしか考えていなかったのだ。自分の勝手な行動によって、アマリーがさらに危ない目に遭うことも考えず、ノアがこうして傷つくことも想像しなかった。なんて、自分勝手な人間なのだろう。
断罪を待つ気分で、ヘレンは縮こまった。
「ヘレン……」
「っ」
しかしノアは、ヘレンを抱き上げて自分の膝に乗せると、そのまま抱え込むように抱き込んだ。そんなことをされるとは思ってもみなかったヘレンは、驚いて瞳を瞬かせる。まつ毛に乗った雫が、ヘレンの頬に散った。
「済まない……君のことを何も考えていなかったのは私も同じだ…」
「そんな、ノア様は…!」
「いいや。ヘレンのことを大切に思っていると言っておきながら、結局、君の心を守れていなかった…」
ノアはヘレンの頬に流れていた涙を唇で吸うと、情けなく眉尻を下げた。
「……君が、一人で頑張りすぎてしまうことを、知っていたのにな」
「そんな、私がちゃんと相談できないから…」
「あぁ。それは問題だな。これから一緒に生きようとする相手に相談できないとなると、円満な家庭は築けないかもしれないからな」
「か…!?」
驚き顔を赤らめるヘレンに、ノアは悪戯っ子のように笑みを浮かべた。
「―――こんな時に言う言葉ではないのかもしれないが…ヘレン、愛している」
「―――」
「君のことをまともに守れない、理解してあげられていない私だが…ヘレンを想う気持ちだけは誰にも負けないと言い切れる」
「っ……」
「今回の件に関しては、互いに勉強と思うことにしようか…。今、君は私の腕の中にいる…今はそれだけで十分だ」
「ひっ…」
「最初は母に言われて、いいかもしれないと思うくらいだったが、今は違うよ、ヘレン。私は、ヘレンがいい。真面目で、考えすぎで、人に相談できなくて、弱いところもあって…でも、自分というものをしっかりと持っている君がいい。人に嫌われるのが怖いと泣く君が、いい―――」
「~~~っ」
もう、駄目だった。だって、好きだから。声にならないほど、好きだから。だから、嫌われたくなかった。彼を、ヘレンなりに守りたかった。彼が大切にしている使用人が傷つけば、きっと彼も傷つくだろうと、考えたから。
言い訳に聞こえるかもしれないが、それはヘレンの本音だった。自分が犠牲になることで、彼が…ノアが大切にしている使用人が守られるのであれば、いいと思ってしまった。
「の、のあ、ざまっ……」
「ははっ…酷い顔だな…すごく、可愛い」
「っ……す、き、です……!」
「!!」
本当は、彼に甘やかされてから気づいていた。自分がノアに惹かれていることなんて。でも、イライアスのこともあり怯えていた。
でも、こんな自分でも、彼は愛してくれた。
勉強はでき、努力することも出来るけれど、結局弱いままの子供である自分を。自分勝手で、怖がりな自分を。
「あぁ、ヘレン―――」
ノアは吐息交じりにヘレンの名を呼びながら、その目尻に、頬に、鼻に、額に口づけを落とした。そのあまりの甘さに、ヘレンは目をぎゅっと閉じながらも逃げずに受け入れる。
だって、嬉しかったから。正直に言って恥ずかしさはある。実家だし、幼少期からいた部屋だし、何よりそういった触れ合いには元から疎い。
でも、今は断ったら嫌われるかもなどという気持ちはなく、ただ、受け入れたいとヘレンは思った。
「可愛いな…本当に、可愛い…」
微かなちゅ、という音に、ヘレンの全身は発火しそうなほどに暑い。でも、それを嫌だとは欠片も思わない。
色々と考えなければならないことはある。でも、ヘレンは今の幸せに浸りたいと、そう感じた。
「………」
「!!」
ヘレンはノアの頬に口づけを落とす。そのことに驚いたノアは目を見開き、ヘレンの顎に手をやった。
「!! …ん、んぅ…」
先ほどまでの唇を合わせるだけではない口づけに、ヘレンは息を上げる。ノアはそれに気付いて幾度か唇を離し、ヘレンに息をさせるとまた口づけを重ねる。
「~~~っ、も、らめ、れす…!」
「……本当に、可愛いな」
息切れを起こし、身体をくたりとさせ、さらには呂律の回らないヘレンの額に口づけを落とすノアに、ヘレンは少しだけ悔しさを覚えながらも幸福に浸った。
今までの苦労は、きっとこの時の幸せを感じるためにあったのだと思えた。
******
「とりあえず、落ち着くところに落ち着いた、って感じですかね?」
「何だ、嫌味か?」
「いいえ? もしノア様がそう感じるのだとすれば、疚しいことがあるからではないからですかね?」
その夜、ミーシャは落ち着いたゼニアの元を離れて客室に泊まっているノアの元を訪れていた。
「全く…私が男であればヘレン嬢をすぐさま奪っていたんですけどね」
「止めろ。お前が相手では分が悪すぎる」
「ははっ…」
そこまで軽い会話をして、ミーシャは真剣な表情をした。そのことに気づいたノアも、真剣な表情でミーシャを見る。
「…今回だけです」
「そうだろうな」
「私がヘレン嬢を本気で気に入っていること、気づいていたんですね?」
「お前がここまで何の否もなくついてきた時点でな」
「ならば言わせていただきます。今回の件で、エルサ様への信頼は若干薄れました。もとより知っていたクリストファーの存在。それを我々に言わなかったこと。そしてその後の対応に関しても」
「それに関しては私からも聞くつもりだ」
「左様で。ですが、もしこれより先のヘレン嬢の人生において、さらなる苦労を背負わせるのであれば…あとは言葉にせずともお分かりですよね?」
ミーシャは自信に溢れた笑みをノアに向ける。何も力のない人間であれば強がりかもしれないが、ミーシャにはヘレン一人を隠し、守り切る自信があった。そのことを理解しているのか、ノアは真面目な表情で一つ頷きをミーシャに見せる。
「本当に、お前が一番の強敵過ぎる…」
「光栄ですね。でも、私としても譲る気はありませんので」
ミーシャは、本気でヘレンのことを気にいっていた。ゼニアともうまくやれる女性。そして見た目もその性格も好みだ。子を成せることはないが、これからの人生を彼女にあげてもいいくらいには、好んでいた。…まだ、いいくらい、でしかないが。しかし今までそう感じたことがなかったミーシャにとっては、ヘレンという存在は奇跡にも等しかった。
「残念ながら、私もお前に譲る気など一切ないよ」
「左様で。今のところヘレン嬢がノア様に想いを寄せられているので、無理矢理奪いに行こうとはしません。ですが、ヘレン嬢がこれ以上傷つくような…いえ、苦しみが長く続くようなことが一度でもあれば…」
ミーシャの本気に、ノアはたじろぐもミーシャを見る。
「ならばミーシャ、諦めろ。私は彼女を手放す気など一切ない」
その言葉に、ミーシャは薄く微笑む。
「だといいですね。まぁ、私個人としても、ヘレン嬢の幸せが一番ですので」
ノアには悪いが、同性という意味でヘレンはゼニアや自分に相談しやすいだろう。…ノアに相談し辛いことでも。それを一度でも聞いたとき、必ず彼女を自分の元で守ろうとミーシャは決める。
ミーシャ。カロリアン国のヴィノーチェ領、自警団の副隊長。実力もありながら頭の回転の速さにおいても、そして女性からの支持も誰もが認める女性。
その女が本気になって、おちなかった女性はいないと言われるほどの逸話をもつ――――。




