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Everlasting  作者: 水無月
行きつく未来

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9




「ひっく……うっ、うぅ…」

「オーイ、嬢ちゃんよォ、泣いたって仕方ねーぜ?」




 アマリーは、自分の浅はかさに涙をこぼしていた。まさか、良い人だと思っていたクリスが、このようなことをするなんて。

 目を覚ましたアマリーは、最初自分の状況がよく理解できていなかった。薄暗く、黴臭い小屋のような場所に、転がされていることだけは何となくわかった。


「い…た……」


 体を起こそうにも、手足が縛られていてうまく起き上がれなかった。それに、頭がくらくらする。


「オ? 起きたのかい、嬢ちゃん」

「ひっ…! だ、誰ですか…!?」


 背後から聞こえた野太い声に、アマリーの身は竦んだ。自分はいったいどうなってしまっているのだろうと考え、クリスの顔が浮かぶ。


「く、クリスさんは…!? ここは、どこ…!?」


 気を抜けば、恐怖で涙を零しそうになるため、アマリーは虚勢を兼ねて大きな声で男に問うた。


「クリスぅ? ……あぁ、嬢ちゃん、気づいていないのか? アンタは騙されたんだよ、あの男にな」

「え!?」

「そんで今のアンタは、あの男が本当に欲しいものの取引材料だ」

「と、りひき…?」


 アマリーはくらくらとする頭で必死に考えた。そして、ヘレンの事を思い出す。そうだ、クリスはヘレンの事を探してここまでやってきたと言っていた。そのヘレンとの取引材料が、自分…。そこまで考えて、クリスが最初からそのつもりであったのだとアマリーはようやく気付いた。


「だ、だまし…たの…?」

「いいやぁ? 最初からそのつもりだっただけじゃねぇのか?」


 男はつまらなさそうにそう返す。しかし、アマリーからすれば騙されたも同然だった。


「どうして!! ちゃんと話し合えば……!」

「くっ、あっはっはっはっは! 嬢ちゃん、いいとこで暮らしてたんだなぁ? この世にゃあの男みたいのがうじゃうじゃいるってゆーのによ!」

「おいおい、声が外まで響いてんぞ。いくら町から離れたからって油断すんな」

「っ!」


 すると、また一人、男が小屋へと入ってくる。隻眼の男は、酷く不機嫌そうだった。


「おぉ…戻ったのか。んで、首尾はどうだよ?」

「あぁ、やっぱり甘ちゃんだな。もう少しすれば契約も終わる」

「はーーーっ、やぁっとあの男と離れられんのか…」

「終わるって……へ、ヘレン様は…!?」


 男たちの会話を聞いたアマリーは、それだけが気になった。自分のせいで、ヘレンにもしものことがあれば、この先自分はどうやって生きていけばいいのだろうか。

 しかし、男たちはそんなアマリーに無情な言葉を突き付けた。


「あ? そんなの、決まってんだろ?」

「お前のせいで、あの嬢ちゃんはあのクソヤローに捕まったよ」

「!!」


 どうして、という思いと、見捨てられなかったことへの安堵に、アマリーは自分自身に吐き気がした。自分さえ、あのような男を信頼しなければ…いや、そもそも、ちゃんと報告していれば…。

 後悔ばかりが頭をよぎり、ぼろぼろと涙が零れた。


「いやいや泣くなよ、嬢ちゃんよぉ? あんたみてーな子の為に、お貴族様が体張ったんだぜ? 喜べよぉ、捨て駒扱いされなかったってな!」

「っ、ひ、どい……なんで、こんな…」

「…一々小うるさい餓鬼だな。なんで、どうしてばっかり。自分の頭で考えることもしない。だからあの男に目をつけられたんだろうがな」


 アマリーは、他人が傷つくくらいなら自分が傷つくことを選ぶ子だった。そう、亡き両親に教えられていた。だから、貧困街で生きていた時、自分が騙されたと知っても、周りが傷つかないのであればいいかと思っていた。

 だが、それは間違いだった。

 自分が騙されることで、周りの人が傷つくことがあるのだと、アマリーはようやく知った。シエルが言っていたことが、ようやく分かったアマリーは、自分の甘すぎた考えと不甲斐なさに涙を零すしかできなかった。


「っ……」


 謝りたかった。自分のせいで、こんなことになってしまったと、皆に謝りたかった。


「んで、どうするんだよ、この嬢ちゃん」

「アイツには報復が怖いから逃がせって言われたがな」

「おいおい、俺たちのことこれっぽっちも考えてねぇじゃねぇか」

「あぁ、ヴィノーチェに手を出したのがバレれば、あそこの当主がヤバい。ただでさえ、あの女から情報を仕入れたのがバレたらヤバいって言うのに…これでこの餓鬼を解放したら俺たちがあぶねぇ」

「あぁ……ジェシカだっけ」

「おい、馬鹿!!」

「げっ」


 アマリーは、聞き覚えのあるその女性の名前に、自分の記憶を必死で掘り起こした。


「……ノア様の…?」

「あーあー、気づいちまった。この嬢ちゃん、ホンモノの馬鹿だ」

「まぁ、口に出さなくても聞かれた以上、逃がすわけにはいかなくなったがな」

「っ!!」


 ジェシカとクリスが繋がっていた。きっとヘレンのことを伝えたのはジェシカだ。だが、ヴィノーチェに…いや、ノアにとってヘレンの存在の重要性を漏らしたのは自分だ。きっとクリスはその信憑性を確認するためにもアマリーに近づいたのだ。


「っ……! あ、あたしを殺すの…?」


 折角得た情報も、殺されてしまえば伝えられない。アマリーは、どうにかして時間を稼いで、ここから逃げ出さなくてはと思った。戻ったとしても、きっと自分は罰せられるだろう。でも、せめて。


「殺すわきゃねぇだろ。死体の処理だって意外と面倒なんだぜ? そんな面倒なことするかってーの」

「え…?」

「餓鬼、喜べ。お前は生かしてやる。だが、今のお前じゃなくなるがな」

「今の、あたし…?」


 アマリーは隻眼の男の言っていることがいまいち理解できなかった。


「お? あれにすんのか?」

「それが一番面倒がないだろ」

「ひでぇ奴だな! 嬢ちゃん、あんたのこれからを教えてやるよ。あんたはここで薬付けになって、そのイイ趣味をもったお貴族様に売るのさ」

「……っ、やだやだやだ!!」

「イイ薬なんだぜ? なぁんも考えらんなくなる。タノシイこと以外、な」

「ひっ……!」


 男の下卑た笑みに、アマリーは恐怖で体が強張った。そんなことをされれば、たとえ自分が見つかったとしても意味がない。

 アマリーは自分の未来を想像して、ガタガタと震えた。


「おいおい、そんな怖がるなって。ダイジョーブ、決めたらそんなことも分からなくなる」


 にたにたと笑う男の背後では、隻眼の男がごそごそと何かをしている。

 これは、罰なのだろうか。自分が、ちゃんと報告をしていなかったから。その所為で、ヘレンの身が危険に晒されているから。


「っ!! いやぁああああああ!! だれか!! だれか、助けてーーー!!」

「おい、うるせぇぞ!!」

「黙らせろ!」


 バキリ、と男がアマリーを殴った。パッと血の味が口の中に広がる。それでもアマリーは泣き叫ぶことを止められなかった。


「やめてやめてやめてーーー!! だれか! シエル!! エルサ様ぁあああ!!」

「さっさとやる、そいつを黙らせろ!」

「わーってる!!」


 男がアマリーを羽交い絞めにし、隻眼の男が何かをアマリーに近づけてくる。もう、絶望しかなかった。

 しかし次の瞬間。


「確保ーーー!!」


 古びた扉が勢いよく開かれ、人が小屋の中になだれ込んできた。


「なっ!?」

「じ、自警団だと!?」

「そいつらを確保しろ!!」


 小さな小屋の中は、一瞬で人で埋まり、騒然とする。アマリーは何が起こったのか分からず、涙を流したまま茫然とした。

 そんなアマリーの背中を優しく撫でながら拘束を解いた人が、アマリーに優しく声をかけた。


「君は、アマリーだね?」

「…は、ぃ……」

「よかった、見つかって。私は自警団のジャクソン。君を助けに来た」

「っ……~~~うわぁあああああん!!」


 アマリーはその言葉をゆっくりと飲み込んで理解する。


「おい!! くっそ、放せ!!」

「あの野郎!! 俺たちを囮にしやがった!?」

「詳しい話は詰所で聞く!! さっさと歩け!!」


 泣き叫ぶアマリーの背後では、男たちが汚い言葉を吐きながら自警団に連行されていった。






「アマリー!!」

「シエル! トンクスさん!!」


 保護されたアマリーは、ジャクソンに抱きかかえられたまま詰所へとやってきていた。朝も見たはずのシエルたちの顔が、もう何年も見ていないかのように懐かしく感じ、アマリーはまろぶように駆け出してシエルに抱き着いた。


「アマリー、アマリーっ…! 無事でよかった…!」

「シエル、シエル…! もう、会えないかと…!」


 そんな二人の抱擁を、トンクスは厳しい声で邪魔した。


「アマリー、疲れているのはわかるが、話を聞く。いいな」

「っ……はい」


 厳しい表情のトンクスに、アマリーは顔を青褪めさせながらも頷いた。その場にはシエルとマーカス、そしてジャクソンがいた。


「まず、男のことを話しなさい」

「はい…クリスと名乗った男の人で、狐目が、印象的でした…。とある方…ご家族と聞いたんですけど、頼まれてヘレン様を探しに、バーゲンムートからやってきた、と……」

「それで」

「あ、あたしは、エルサ様達に、直接、言わないのかって、聞いたら、ヘレン様は、ご家族と喧嘩をしたって…それに、ご病気になられたことがあるから、皆が知るのは良くないって……」

「……」

「クリスさんは、ご病気のこと、ノア様たちは知らないだろうって…再発することもある……そのことを、知られるのは、良くないって…へ、ヘレン様は、そのことを内緒にしているのだろうって、思ったんです……」

「続けなさい」

「っ……でも、お屋敷のことを話してはいけないって言われたので、ヘレン様に手紙を届けることはするって、言ったんです。クリスさんは、会いたいって言ったけど、ヘレン様は会わないって仰ったので、最後に、ヘレン様がお会いになられないって伝えに行こうとして……」

「……それで連れ去られたわけか…アマリー、シエルと自警団の皆様に感謝しなさい。シエルが昔からの伝手を総動員した。昔からの知り合いの子供たちに聞いて、お前の居場所に当たりをつけることができたんだ」

「っ…助けて下さって、本当にありがとうございました…!」

「だが、今回の一件で命を落としていてもおかしくなかった…たくさんの人を巻き込んだんだ、分かっているな?」

「はい…」

「はぁーーーー……」




 トンクスの深いため息に、アマリーはびくりと肩を揺らす。

 涙目で自分を見てくるアマリー、そして表情を強張らせたままのシエルを見て、トンクスは内心で裏切られた気持ちになっていた。


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