prologue
幼いころは、よく褒めてもらえた。
"もうこんなことが出来るのか"
"とても優しい子ね"
"ヘレンがいれば我が家は安泰だな"
そう言って褒められるのが嬉しくて、頑張った。
勉強も剣術も馬術も、作法も。
頑張って出来るようになれば、その分褒めてもらえたから。
…でも、いつからだろうか。
出来て当たり前、と思われるようになったのは。
出来ないことを、言葉にせずとも責められるような視線で見られるようになったのは。
どんなに頑張っても頑張っても、昔のように褒められることは少なくて。
でもそうであれば、もっと頑張ろうと思った。
いつか必ず褒めてくれると信じて。
だって、言われたから。
私が、この家に必要だって。
頑張って、お父様とお母様の期待に応えたら、きっとまた褒めてくれるはず。
そう、"流石ヘレンだ、私の娘だ"と。
妹が私を無表情に見る。
どうして、そんな表情をするのだろうか。
どうして、私を憐れむように見るのだろうか。
私には私の、妹には妹の期待がある。
覚えるものは違うけれど、期待されているのは同じなはず。
なのにどうして。
どうして、妹ばかり褒められているのだろうか。
どうして、妹ばかり楽しそうなのだろうか。
…どうして、私は褒めてもらえないのだろうか。
……きっと、私の頑張りが足りないだけ。
お父様とお母様の、私への理想が高いだけ。
―――そう、何度言い聞かせたのだろうか。
毎日毎日頑張って、それなのに認められることも褒められることのない毎日。
まるで底の無い泥沼で、必死になって泳いでいるみたい。
進めない。
終わりの見えない毎日。
疲労ばかりが溜まって、重くなっていく体。
それなのに、期待をかけられれば頑張ってしまう。
頑張らなきゃって思ってしまう。
ここで頑張れば、きっと褒めてくれると信じてしまう。
でも。
不意に、考えてしまう。
思ってしまう。
言ってしまいそうになる。
「――――いつまで、頑張れば、褒めてくれる?」
ヘレンは絶対にその一言を言わない、言えない。
言ってしまったら、何かが壊れそうで。
自分も、周りも、何もかもなくしてしまいそうで。
だからヘレンは今日も口を噤む。
そして自分に言うのだ。
「―――大丈夫、大丈夫、大丈夫……。
頑張れば出来る、褒めて、もらえる」




