夜更かし
「美味しいよねぇこの時間の焼きそば」
心なしか楽しそうなアンドレアスの隣で、焼きそばの封を切っていたディートヘルムが肩をすくめる。
休憩室で湯を沸かし、コンビニで買ってきたカップ焼きそばに注ぐ。時計はとうに今日を通り過ぎていた。作業が長引く日の夜食は大抵牛丼なのだけれど、今日はいつもより少し遅かったので早く食べれるものにしたのだ。
「なんかさあ。凄い背徳感。わかる?」
「わからなくもないが…」
「あと深夜のコンビニって楽しい」
「そうか」
タイマーが鳴る。湯を切り、ソースを掛けて混ぜると、アンドレアスは悩ましげな顔でディートヘルムにマヨネーズだけ寄越した。
「…お前はこういうものが好きだと思っていたのだが」
「カラシ苦手」
意外そうに言うディートヘルムにそう告げれば、「なるほど」とアンドレアスの分のマヨネーズも開封する。
後入れのふりかけを掛け、割り箸を割ろうとしたところで、ディートヘルムが手を止めアンドレアスを見る。
「…なら何で普通のマヨネーズが付いてるのを買わなかったんだ?」
「こっちのが量多いしちょっと安い」
「なるほど」
こちらは想像に易かったのか、ディートヘルムはやや呆れたように眉根を寄せた。アンドレアスはそれを横目に焼きそばを啜る。よく知った少し濃いソースの味のする、暴力的な炭水化物。僅かに入った甘い火薬も好きだ。
美味しい。一つ食べ終わると胃にずっしりと来る。満足だ。ああでもやっぱりマヨネーズがあった方が美味しかったかもしれない。後の祭りだ。
満腹になると眠気がすぐに来た。ごみを捨てて歯を磨き、作業場に戻る。そして巨大化させたブラッキーに埋もれて目を瞑った。電気を消したディートヘルムがブラッキーの背にもたれたのを感じる。
「…おやすみ」
「ああ、おやすみ」
後ろから聞こえる規則正しい呼吸音。すぐそばに誰かいると言う安心感に、眠気がどっと強くなる。
朝のタイマーを設定してないなぁと頭の片隅で思い出したがディートヘルムがいるからなんとかなるだろうと思考を放り出し、ブラッキーに頬擦りして小さくあくびをする。そしてほんの少しすると、アンドレアスはすやすやと寝息をたて始めるのだった。




