冷凍うどん
「今日のお夕飯、うどんで良いかな」
柚月の帰りは遅くなるらしく、どこかで夕飯を食べるか作るかして欲しいと来たメールを見てアンドレアスが呟く。ついでに柚月の分も夕飯は作っておくかをメニューと共に聞いたら頼むと返信が来た。
家に近いスーパーに寄り、小さくしたブラッキーをポケットに突っ込む。
「めんつゆと天かすはあるし~、買うのはツナ缶とコーンの缶詰めとうどんかな。あとビール買ってあげよ。柚月っていつもおつまみなに食べるっけ?」
「この前は柿の種を食べていたな」
「あ、梅味ある。これにしよ。あとチーザ。それと缶チューハイ………はいいや。サイダーにしとこ」
三連のコーン缶とツナ缶、五食入りの冷凍うどん、そして大きめのビール缶二本とサイダー、スナック菓子の入った籠はそこそこ重い。それに腹も空いてきたし、最後に惣菜コーナーになる里芋と煮転がしを入れるとレジに向かった。
◇◇◇
「おなかすいた」
冷凍庫にうどん、冷蔵庫に飲み物を入れると、アンドレアスはおもむろに煮転がしのパックを開けた。箸を取り、パックに入ったまま、一口大の丸い里芋を口に運んだ。
ほっこりと柔らかく、甘辛い煮付け。噛むとねっとりしてくる里芋は少し濃い目の味付けだ。コップに水を注ぎ、里芋と交互に飲んでいく。里芋をつまみにして一杯やってる気分だ。前に柚月の前で言ったら何とも言えない顔をされたのだけれど。
賑やかしにもならない程度に入っていた人参とこんにゃくだけ先に食べると一つ里芋を口に放り込み立ち上がる。口の中でチマチマ里芋を削り、咀嚼しながら冷蔵庫を引き出し冷凍うどんの袋を開け、一人前だけ取り出した。小分け袋にはいったままレンジに入れて四分に設定して温めボタンを押す。その間に、アンドレアスはジェノアード家に貰った太いキュウリを野菜室から一本取り出した。家庭菜園で作ったらしいキュウリはまるで作った当人を彷彿させるかのように太くて長くて重く……つまりデカイ。店で買うものより三倍は大きいんじゃないだろうか。
軽く水で洗い、両端の端を切り落とすと千切り用の歯を着けたピーラーで下ろしていく。愛用のピーラーは柚月でさえ感心するほど切れが良く、するすると千切りが量産されていく。丸々一本を千切りにすると押さえていた部分のキュウリを口に放り込んでピーラーをサッと流水ですすぎ、どんぶりにキュウリを盛ってゴマドレッシングをたっぷり掛けた。
ピピッ ピピッ
温め終えたレンジの合図を聞いて、アンドレアスはもう一つ用意していたどんぶりに水とたっぷりの氷を入れるとうどんを取りだし、慎重にビニールを裂いて氷水にうどんを投入する。うどんを氷水に揉むように冷やして氷水だけ流しに捨て、つゆを入れる。一缶ずつ開けた缶詰めの中身もだいたい半分ー少し缶に残ってる方が多めなくらいー入れると、ザラザラと冷凍されてた天かすを投入すれば完成だ。
「いただきます」
缶にラップを掛けて手を合わせ、うどんを啜る。ほどよくひんやりしたうどんはコシがしっかりしていて、喉越しが良い。天かすがしなしなにならないうちにささっと啜る。ツナとコーンが逃げてなかなかうどんと一緒に食べれず、気づけばうどんの無くなったつゆにほとんどの具材が沈んでいた。これも見越してつゆはそこまで多くしなかったので、どんぶりに口を付けてつゆごと全部掻き込んだ。
空になったどんぶりを置いて、今度はキュウリに口をつける。
「……こっちにも少しツナとコーンを入れれば良かったかな」
キュウリは野菜室にいれてたお陰てひんやりしてるし、好物のゴマドレッシングも掛かってて美味しくないわけではない。しかしキュウリ丸一本分は、飽きる。しかし腹はまだ少し減ってるし、残すつもりも無い。
「ラー油…………あー、これも買っとけば良かった」
唐辛子入りのラー油はほとんどの無くなっていて、沈殿した唐辛子の粉だけになっている。仕方なく蓋を外し、箸でペースト状になったラー油をほじくり出してキュウリに掛ける。
「……うん、うまい」
唐辛子の粉がたっぷり入ってるお陰でかいつもより辛味が強く、美味しい。キュウリも全部食べ終えて、とりあえず流しに食器を置いた。
「あー、満腹」
ベッドにダイブして中型犬サイズにしたブラッキーを抱き枕にする。
「柚月が帰る30分前くらいになったら教えて」
「わかった」
ブラッキーの返事を聞くと、アンドレアスはそのまま寝た。
◇◇◇
「レイ………起きろ、レイ」
「ん………ぅ…?」
「アークライトの仕事がそろそろ終わるようだ」
シラタマからの通信が来たらしいブラッキーの言葉に、アンドレアスは目を擦りながら起き上がる。時間を聞けばそれほど眠ってなかったらしい。
起き上がってビール用のコップを冷蔵庫に入れてキュウリを取り出して刻む。サラダ用とうどん用にそれぞれ千切りと細切りだ。それとサラダの彩りに少しだけ人参も細く刻む。
ブラッキーから柚月の状況をアナウンスされながらサラダを盛り、小さなパックに入った豆腐を皿に盛って鰹節と醤油を掛けて冷奴を作り、うどんをレンジに入れてその間に風呂を洗って風呂自動を押しておく。
どんぶりに氷水を入れたところで、ガチャリと音がした。
「おかえり」
「ああ、今帰った」
「タダイマ、ママ!オジーチャン!」
シラタマに軽くハグをして温め終え終わったうどんを氷水に入れ、先程と同じように締める。それにつゆとツナ、コーンとキュウリ、天かすを盛ってテーブルに乗せた。
「ドレッシング、ゴマと青じそあるけどどっちがいい?今日のサラダほぼキュウリだけど」
「胡麻」
「あとビール買ってきたけど飲む?これ」
「ああ、飲みたい」
ゴマドレッシングとビール缶、冷やしておいたコップを取り出してテーブルに置く。プシュッとプルタブを引く音が聞こえた。
「じゃあお風呂入ってくる」
「ああ」
◇◇◇
「お先に」
「ああ、御馳走様」
「お粗末様でした」
風呂から上がれば、柚月は柿の種の小分け袋の一つ開けてビールを飲んでいた。食器は食洗機に入れられて洗われてる。アンドレアスもコップとサイダーを取り出すと柚月の前に座り、チーザの封を開けて小皿にザラザラ開けていく。
「乾杯」
サイダーを注いだコップを出してみると、柚月も軽くコップを合わせる。アンドレアスのはただのジュースで少し格好がつかないけれど。
「今日ツナ缶とコーン缶と冷凍うどん買って、缶詰め二つずつとうどん三つが残ってる。あとラー油切れちゃった」
「わかった」
チーザを一つ摘まんでかじる。濃いチーズの味をサイダーで流し込んだ。おいしい。正直炭酸はもっと微弱でも良いのだけど。
「そう言えば明日も遅くなる?」
「いや、もう済んだから明日はいつも通り帰る」
「わかった。………ふぁあ…」
コップに注いだ分のサイダーを飲み干して目を擦る。少し眠くなってきた。サイダーを冷蔵庫に仕舞うと歯を磨いてコンタクトを外す。
「じゃ、先に寝てる」
「ちょっと待て」
呆れた声の柚月に椅子に座らされ、ドライヤーの冷風で髪を乾かされる。そしてシラタマと会話してたブラッキーを押し付けられた。
「ありがと。あ、ビールもう一本あるから」
「いや、良い。これで風呂に入ったら炊飯器をセットして俺も寝る」
「じゃあおやすみ柚月、シラタマ」
「ああ、おやすみ」
「オヤスミナサイ、ママ」
シラタマにおやすみのキスをして、アンドレアスはふらふらとベッドに入る。
「おやすみブラッキー…」
「おやすみレイ、良い夢を」
収まりが良いように枕を調整して、アンドレアスは目を瞑る。寝息が聞こえたのは、その数秒後だった。
シラタマ→柚月のウチノコ。可愛い。頭が白玉のような丸くてふにふにした二足歩行ロボット。ショタ




