蕎麦
アンドレアス・ウォルナッツ→ナビゲーターとかいうロボット操縦して悪人やっつける仕事してる人。女。21歳。ハーフだけど日本語しかわからない。
ブラッキー→大きさを自由に変えられる真っ黒い狼型ロボット。町を守るウチノコと呼ばれるロボットの1。とても良い声をしてる。アンドレアスの保護者。
「ん」
いつも行く紅花のスーパーの特売品のコーナーの前で、アンドレアスがはたと立ち止まる。視線の先にあるのは蕎麦。そろそろ気温も上がり、時期柄も丁度良い。
アンドレアスは正直蕎麦は好きでも嫌いでもない。それにどちらかと言えば素麺やうどんの方が好きだったりする。しかし今だけは、少し蕎麦に軍配が上がった。アンドレアスの夕食が決定した。
めんつゆは料理にも使えるので濃縮タイプのもの。そして一人で使うには多いのではと思われる大きめのサイズの天かすの袋と(アンドレアスはこれが好きなのだ)、そして気分で一味も篭に入れる。
夕食に思いを馳せていると空腹感に気付き、アンドレアスはそのままレジに向かった。
「ただいまブラッキー」
「お帰りレイ。ただいま」
「お帰りなさい」
いつものように言葉を交わして、小さくなったブラッキーを持ち上げたアンドレアスはそのまま手を洗うついでにブラッキーを洗う。タオルで水気を取りって首にのせ、鍋に水を張って火を着けた。
湯が沸くまでに着ていた服を脱いで脱衣かごに放り込み、ゆるい部屋着に着替える。買ってきた蕎麦の裏を見てタイマーを設定し、開封して一人前だけ取って残りをジップロックに入れる。保管するスペースもないのでとりあえず冷蔵庫行きだ。
湯が沸くと蕎麦を放り込み、セットしていたタイマーを起動して箸で鍋をぐるりとかき回し、蕎麦を湯に沈める。そうすれば熱い熱いとそそくさと扇風機の前に避難した。
「……お腹すいた」
しかし空腹に待ちきれなくなったアンドレアスは冷蔵庫を空け、三パック重ねられていた豆腐の一つを開ける。ごま豆腐のような四角いプラスチックに入っている豆腐は値段は安いが滑らかで、アンドレアスも気に入っていた。
蓋を取り、スプーンでそのまま一掬いし、空いた穴にゴマドレッシングを流し込む。スプーンで救った豆腐にドレッシングを付けて口に入れた。ひんやりした豆腐は喉通りが良い。一味を入れても美味しいかもしれないと思った矢先、タイマーが蕎麦の茹で上がりを知らせる。スプーンをくわえたまま火を止め、ざるに蕎麦をあけて冷水を注ぎ掻き回す。
めんつゆと水を目分量でどんぶりに入れ、蕎麦を入れる。天かすはたっぷり。一味はとりあえず三振りした。ついでに一口しか食べていない豆腐にも二振り。
「いただきます」
ゴマドレッシングと一味を軽く混ぜ、豆腐と共に口へ運ぶ。ピリッとアクセントが効いて美味しい。そして次は天かすがカリカリを失う前にと、蕎麦を啜る。
「ん……?」
悪くは無い。
蕎麦は少しもっちりしてる。つゆは丁度良い濃さだ。桜えびの風味がかすかにする天かすも美味しい。しかし一味が足りない。刺激が弱い。
今度は勢いよく五回振り掛けて混ぜ、そして啜る。先程より強い唐辛子の風味とチリチリとした程よい辛み。大正解だ。
ご機嫌なアンドレアスはそのまま蕎麦を啜り、天かすが取り残された汁を飲み干す。
「たまには良いね。蕎麦も」
豆腐を食べながら、アンドレアスは幸せそうに目を細めた。