椿6
つばきの目の前に座る男性は、コンビニで買ってきたお弁当を食べている。
唐揚げ弁当。
つばきは、自炊の為、コンビニに行くことは少ない。
あまり見ることが少ないコンビニ弁当を観察していた。
見た目は、唐揚げも大きくジューシーそうな感じだ。定番の卵焼きに、ひじきの煮物、キャベツにトマト。白ご飯に、ごましおがかかっていて、真ん中に小さな梅干しが入っている。つけものもある。
シンプルだが、十分、おいしそうである。
つばきは、四姉妹の長女である。一人、弟もいる。実家は、愛知だが、子供たちは、東京で、住んでいる。訳あって、四姉妹は、ひとつ屋根の下で、暮らしている。弟は、一人暮らしだったが、来月結婚するため、すでに、一緒に住んでいる。
四姉妹は、家事分担をしている。
つばきは、平日、月曜日~木曜日、朝食とお弁当担当である。
朝から唐揚げあげるのも、たまにはいいかしらと、考えていた。
ひじきの煮物も、最近、食べてないので、良いかなと。前日に、下ごしらえしておけば、いいしなとも考えていた。
一方、青西優人は、呼び止めたのは、いいが、このあと、どう話をするかを悩んでいた。
まったく眼中になかったつばきが、とにかく気になる。
しかも、この美しさは、半端ない。
気になると、自分で認めてしまうと、つばきが、目の前にいるだけで、自分のすべてを奪い取られるというか魅了されるというか・・・自分らしくいることが、とても難しい。
カフェの件もあるので、口約束より、たしかなものを得たいのが青西優人と、いう男性だ。それには、彼なりの理由がある。38年生きてきて、経験したあることが、物語っている。
「青西先生。朝のことなんですが・・・。」
つばきが、沈黙を破る。
青西優人は、お弁当を食べながら、つばきを見る。
何かを決意した瞳が、かわいく見えるなと思う青西優人。
「私、先生のモノには、なりません。ドライな関係、望んでません。見返り求めてないですし・・・。」
はっきり言い切った割に、最後は、弱弱しく言葉を濁す。
「ドライな関係?」小さくつぶやいて、何やら考える青西優人。
青西優人には、噂がある。
凄い噂である。
『看護士と事務の女性に手を出している。一時的な遊びで、実際に、何人もの女性が泣いている。』
今は辞めたが、クリニックの事務の女性から、直接、つばきも聞いた一人である。その辞めた女性は、遊ばれた一人だったと・・・。
その噂を知っていても、遊びでもいいから思い出が欲しいと思う女性もいる。
青西優人には、そういう色気が漂う魅力があるのだ。
本人も、つばきが言わんとしたことを理解する。
青西優人も、自分の噂を知っているのだ。
そして、強気な笑みで、つばきをからかう。
「かなんな(嫌だな)。中大路先生。朝のアレ、嫌らしいことや思うたん?先生は、口止め料のうても、言わへん人やとは思うけど・・・やっぱ、何かあらへんと・・・ね?」
標準語!
標準語だったら、こんなに動揺しなかったはずだと思うつばき。
顔が赤く染まり、心臓が高鳴る。
アラフォーの域に入った自分が、10代の様に、動揺してしまう。
言葉が、うまくでてこない。
やっと言えたのが・・・・、
「い・・・嫌らしい以外に、何が・・・あるんですか?」
だけである。
美人が、動揺するのも、傍から見たら、かわいい。
むしろ、いつもクールなつばきの動揺は、男性だったら、自分だけが独占したいほど、かわいい行動である。女性が見ても、好感を持つかわいらしさである。
本人は、気づいてないが。
青西優人も、例外ではない。
めちゃめちゃかわいい!と、思い、最後の一個の唐揚げを、思わず落としそうになったほどだ。
「ほんまに、かわええな。期待してんみたいで、悪いけど、友達になって欲しい。て、いう意味やで。」
ニヤッと笑った後、ハハハと、無邪気に笑う。
その笑顔に、心臓を鷲づかみされるつばき。
静かに、とくん、とくんと、ときめいている自分がいることに気づく。
「ま・・・間際らしいです。普通に言って下さい!」
恥ずかしさとほのかなときめきを打ち消す様に、乱暴に答える。
「かんにん。かんにん。普通の友達より親密な友達になって欲しおして(欲しくて)・・・あ、もちろん、嫌らしゅうあらへんなぁ(嫌らしくないね)。」
青西優人は、あっけらかんとしている。
いつもと同じ笑顔を振りまいている。
つばきだけが、大人の関係。つまり・・・肌と肌をあわせる・・・関係だと勘違いしていたのだ。
恥ずかしくてたまらないが、それを気にしないと言う態度も、気にくわない。
こういうところが、女性に好かれる魅力なのだろうか。
基本、笑顔。思わせぶりなことを言いながら、至って、普通。
間違いなく噂通りの男性だ。
プレイボーイとは、このことを言うのだろうとつばきは、思った。
相変わらずのトーンで、青西優人は、つばきの返事を促す。
「中大路先生、OKって、ことで、ええでなあ(いいよね)?」
「それで、青西先生の気がおさまるなら・・・。友達なら・・・まあ・・・。」
本当は、断りたい。
しかし、青西優人から逃げる勇気がないつばき。
このあたりで、妥協するのが得策だと思った。
されど、この思いは、すぐに、後悔に変わる。
「おおきに。嬉しいな!じゃあ、早速、今から、飲みに行こ。」
いつもの笑顔で、青西優人は、強引に、つばきを誘ったのである。
読んで下さって、ありがとうございます。
短編のはずが・・・ちょっと長く・・・中編くらいになるかも?!です。