椿4
ふあ・・・
つばきは、手で、隠しながら、大きなあくびをした。
昨夜、青西優人から貰った連絡先に、返信するか悩んで、寝不足であるのだ。
貰ってしまったからには、返信するのが、礼儀ではないかと思うつばき。
意外に、律儀な考えを持っている。
しかし、つばきは、青西優人が、苦手だ。
見かけのチャラさと、それを証明するあの噂が原因だ。
もともと、彼は、つばきの好みではない。
仕事ぶりは、いたって悪くない。
優秀な先生だと思う。
患者にも人気だ。カフェと同じで、きっと笑顔を振り向いて、時には、患者に寄り添って、励ましたりしているのであろう。
素敵な人だ。
そういうできる男性は、つばきは、好みでない。
どちらかというと、ちょっとダメな男性を好む。
そのダメな男性を素敵な男性にするのが、好きなのだ。
惚れっぽい気質なので恋多き女性なのはたしかだ。
それでも、恋に一途な相手ではないとダメだという、心情をもっている。
だから、チャラい男性は、苦手なのである。
噂が、また、凄いのである!
本当に、ひどい・・・。
それを分かっていて、告っている看護士や事務員がいるのも知っている。
人は、それぞれ・・・。
恋も、人それぞれ・・・。
でも、私は、ちょっと・・・嫌なんだよね。そういうの。
はぁ・・・。
今度は、ため息をついた。
エレベーター前。
更衣室をでて、クリニックに、向かうため、エレベーターを待っている。
来るの遅いな・・・。
そう思った瞬間。
普段、この時間、出会うはずのない声がとんできた。
「おはよう。中大路先生。」
青西優人である。
京都弁ではなく、標準語だった。
つばきは、振り向き、あいさつを返す。
この時間いるはずがないので、何でいるか悩んでいると、彼は、笑顔で、言った。
「ん?あ、オレ、変更で、今日の朝に担当になったんだよ。」
つばきは、納得した。
他にも、二人、エレベーターを待っている人たちがいる。
これ以上会話しなくても、大丈夫だとつばきは思う。
エレベータが、開く。
つばきたちは、乗り込む。
一人、降り、もう一人降りる。
最上階にあるクリニック。
ここのフロアに行くのは、この時間は、クリニック勤務の人だけである。
二人っきりになり、居心地が悪くなるつばき。
何で、連絡くれないのかと、詰め寄られないか、内心、ドキドキである。
そんな時、いいにくそうに・・・口を開く青西優人。
「な・・中大路先生。」
「あ・・。はい!」
大きな声を思わずだしてしまうつばき。
気づくと、青西優人は、つばきの隣に立っている。
声をかけたが、その先を言おうとしない、青西優人。
つばきは、連絡しないことに怒られるのか、礼の秘密を脅されるのか?ヒヤヒヤして、クールな表情は、消えている。
「その・・・。黙っていてほしい。」
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つばきは、青西優人が、言わんとすることが、理解できない。
「カフェで、働いていること。・・・副業禁止だろ?うちの病院。ちょっとの間、頼まれているだけだからさ。」
やっと、意味を理解した。
解雇されるといけないから、副業のことを黙っていてほしいということだ。
もとから、言う気はなかった為、思いがけない発言に、つばきは、驚いた。
「わかりました。黙っておきます。」
つばきは、笑顔を添えた。
微笑なのだか、十分美しい笑顔である。
これだけで、男性の心が動いてしまうのは、仕方ないというところだ。
青西優人も、例外でない。
目を見開き、目の下が少し赤く染まっている。
少し目線をそらしてから、いつもの患者向けの笑顔を、つばきに向ける。
「じゃあ、口止め料で、ご飯、おごるよ。中大路先生は、なにが、好き?」
つばきは、エレベータの扉を見ていたが、思わず、青西優人の、方に、顔を向けた。
クールな表情が、困惑に満ちている。
ギブアンドテイクの関係を望んではいない。
恩を売っているわけではない。
つばきは、これ以上、青西優人と、関わりたくないのだ。
クールな表情には、戻せないが、やんわりと断る。
青西優人は、「いや、それじゃあな・・・。」と、一人ブツブツいっている。
早く、最上階に到着してほしい。
この二人っきりの状況は、危険すぎる。と、つばきは、強く感じた。
女の勘は鋭いとは、よくいったものだ。
そう、つばきは、それを感じながらも、青西優人を、見た。
いつのまにか、つばきを見ていた、彼の視線と交わう。
何かを決心した強い瞳。
白衣を着た彼は、優しい先生ではなく、何故か、色っぽさを感じた。
彼から、さっきの笑顔は消え、切れ長の瞳が、つばきを映す。
少し距離が詰まったことに、つばきは、気づいていない。
つばきの鼓動が高鳴り続けている。
彼の唇から、ひときわ甘い声が漏れた時、生まれて初めてではないかと思う程、つばきの鼓動は、激しく打ちつけた。
「中大路先生、オレのモノになってくれへんか。そないしたら、安心できる。」
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良い三連休を☆