椿3
つばきが帰った後、青西優人は、彼女の使った食器類を下げる。
キッチンへ持って行く。
使い終わったコーヒーカップや皿が、たまっていることに気づく。
洗おうとした時、店長の小梶の声がする。
「さっきの女性、綺麗やったね。」
振り向くと、何か言いたげそうな顔をしている。
「そうやなあ。仕事やと、クールなんやけど、意外な面見れたな・・・。」
「優人早いな!連絡先、渡しとったやろう。」
!!!
青西優人は、洗いかけのコーヒーカップを思わず、落としそうになる。
???
どこで、見られた?
さりげのう渡したし。
おっきな声もだしてへん。
キッチンから、見えたのか?
青西優人は、平静を保とうと、息を吐く。
「バレてへん思うたのか?まあ、優人にしては、ええ心がけだ。」
再度、息を吐く。
「そないなんちゃうで。仕事とプライベートのギャップに、ちょいだけ、かわいく思えただけ。」
目の下あたりが、赤くなっている。
その姿を見て、ニヤニヤしながら、小梶店長は、言葉を続ける。
「かわいくね・・・。職場一緒なら、アプローチもしやすいさかい、ええんちゃう?」
青西優人は、普段通りの顔をしながら言った。
「勘違いせんといてや。もともと、あないな美人すぎる奴、興味あらへんで。」
そう、彼は、美人すぎる女性は、タイプでない。頭の良すぎる女性もタイプでない。
良すぎるのではなく、ほどほどで、良いのだ。
少しハデな美人でいいのだ。
つばきほどの美人だと、最初から、ターゲットから外れるのである。
だから、ちょっとかわいく見えただけで、ちょっと気になっただけで、連絡先を渡しただけだ。
決して、好意をもったのではなく、ちょっとかわいいと思っただけだと、言いたいのだ。
かわいいと思っただけで、十分、好意を持ったことになるのだが、まだ、彼は、気づいていない。
「そうやなあ。左手の薬指には、指輪は、なかったさかい、独身?やけど、彼女、相手いんでなあ。(相手いるよね。)あれだけの、美人だしね。」
青西優人は、急に、押し黙った。
何かを思い出している。
「相手?」「聞いたことがある気がするが・・・」と、ブツブツ言っている。
小梶店長は、それを見守っている。
店内の様子もうかがいながら。
さすが、店長である。
青西優人も、頭を使いながらも、手は、しっかり動かしている。
食器類を、洗い終わり、手をふき始めたころ、小さく声をあげる。
「あっ、失恋や。」
小梶店長は、その声を聞き逃さなかった。
「なんで?」
と、すかさず、聞く。
「大物・・・。相手、大物すぎる・・・。あかん。」
「は?・・・彼女の付き合うてん人、大物?間違いあらへん?」
興味がないと言い切ったはずが、しっかり興味を持っていたことには、本人は気づかず、うなだれている。
間違いないかと?聞かれて、何テンポか後に、返事をする大西優人。
「たぶん・・・。あんまり、中大路先生と関わったことあらへんさかい、自信あらへんけど・・・」
はぁ。
と、ため息をつく。
再度、考えて、自分が、気落ちしていることに気づく。
おかしい!
おかしい!!
うちのタイプちゃう。
ちょい、かわいく思えただけや。
あら、美人すぎる。
おつむも良すぎる。
うちの、守備範囲外や。
美人すぎて、惑わされただけや。
落ちつけ!
何とか自分を取り戻した青西優人は、フロアに戻ろうとした。
その時、小梶店長が、問題発言を、した。
「優人、副業、いけるのか?たしか・・・内緒って言うてへんかったかな。」
青西優人の顔が、青くなる。
今更ながら、つばきに、副業がバレたことに、気づく。
「やってもうた!」と、心の中で、激しく叫んだのであった。
読んで下さって、ありがとうございます。
今週中に、もう一話、更新できるように、頑張ります!
少しでも、楽しんで頂けると嬉しいです。