パラレル
俺が深夜4時を過ぎても、まださっき起きた異次元の出来事を考察しているのは、明日が…正確には今日が土曜日で学校が休みという理由だけでは無かった。
次の日が休みであっても、ほぼ同じ時間帯に眠りにつくのは、前に一度生活サイクルを崩して苦い思いをしたからだ。
高校生になったばかりの時、変わったのは、ただ進学したという事実のみで、自分自身は中学三年の時から何一つ変わっていないのに、とてつもなく大人になった気分になって意味もなく夜更かしをしていた。
そうなると、当然授業中に睡魔が襲ってくる訳で、高校初の中間テストは散々な結果に終わった。それだけならまだしも、授業合間の小さい休み時間まで及んで寝ていたから、クラスメイトと打ち解ける時間も棒に振ったのだ。
中間テストの悲惨な結果で目を覚まし、夜更かしを辞めても、気付いた頃には、クラスである程度のグループが確立されていた。
周囲で砕けた物言いが飛び交う中、俺への中途半端に気を使われた対応は、合唱コンクールを経るまで続いたのだ。部活をしていなかった俺にとって、それはそれは致命的な苦しい期間だった。
そんな事から、夜更かしをしない俺が何故こんな遅くまで起きて考えごとをしているのか。
答えは単純明快。狭間の王からのメールが送られてくるのを気にしていたからだ。メールなんて起きた時に確認して返せば問題無いと思いつつ、彼との別れ際の「返してね」という言葉が頭に強く残って、届いたらすぐに返信しなくてはいけないという強迫観念に囚われていたのだ。
さっきからもう寝ようと、暫く目を閉じては、頭の中で彼の言葉がリアルに再生されて、気が付けば暗がりの部屋の中で、目の前に眩しい携帯の画面を開いてしまう。
そして今度は、暗がりの中の携帯画面の光が瞼に焼き付いて眠りを妨げる。
何度も溜息をついて、ふと我に返り、画面の左上を見るのを繰り返す度に0:00、1:00、3:00と何も変わらない状況の俺に対して、頭の数字だけは1つ2つと増えていくのだ。
3:00という数字を見た時にいよいよだと憂鬱感に駆られて、一度眠りにつくことを諦めて、画面を閉じ、暗闇を見つめながら考察に入って、今に至る。
嫌な夢を見た時とは違う疲労感。確かにあれは現実だったように思う。根拠は無いが身体が行動で示している。
嫌な夢だと理解してるなら、高校一年の時のトラウマを乗り越えてまで、寝ずに何度も携帯の画面を開かない。
部屋に戻ってから僅かに感じる違和感は、もしかしたら彼の言う通り、異世界に来ているからなのかもしれない。
高名な魔術師が居たり、モンスターやお姫様も居ない、ただ転生者が居なくて、「あのページ」が存在する事以外に変わりない異世界。
転生というからには、俺も一度死んでいるのか。
テレビでうさん臭い異世界専門家が話してるのを聞いたことがある。別の世界に移動する際に人間の身体が受けるエネルギーは相当なものだそうで、一度原子レベルに分解されてから異世界で再構築されて、その器に意識が定着するとか言ってたっけ。
ネットでも、転生者が召喚されるのは、大体床に描かれた魔法陣の上だから、その魔法陣に組み込まれた術式が分解された原子を再構築して意識を定着させる魔法だとか考察されてた。もし分解された状態を死んでると捉えるならば、やはり俺は一度死んだ事になるのかもしれない。
…待てよ。ネット?
もし、今俺がいる世界が本当に転生者の居ない異世界だとしたら、ネットに転生者の事は当然書いてないはずだよな?
それに気付いてからは、恐る恐るだった。携帯画面を開く処から、検索画面に行くまで全ての行動が、慎重。
いつもなら転生者についてのニュースが表示される。もしそれらしきニュースの一つさえ無かったら、昨日起きた出来事が全て現実の事だったと了解しなくてはならないから。
狭間の王が現実なら、彼の言う通りに、俺は戦わなくちゃいけないという事になる。その恐怖が俺の指先から肘までの動きを鈍くさせていたのだ。
「異世界 転生者」と打ち込んで、検索を押した結果は、安堵していいのか絶望していいのか複雑な感情を芽生えさせる。
小説家になろうぜ!-異世界に転生した俺は、魔物と共存する世界を作る事にしました。
小説家になろうぜ!-異世界に転生したんだが、俺はもうダメかもしれない。
小説家になろうぜ!-異世界の中心で愛を叫ぶ
小説家になろうぜ!-異世界男
この世界でも異世界という概念が存在する事に安心したのと同時に、テレビで赤裸々にいつでも見れるはずの異世界をわざわざ舞台にしたネット小説が数えきれない程ある事に不安を覚えた。
後者に関して、少なくとも元の世界ではあり得なかった。
元の世界では…と言ってる時点で、もう心の奥底ではわかっていたのかもしれない。ただ認めたく無い防衛本能が、この検索結果を複雑な物に変えているだけなのだ。
まるで狙ったかのように届いたメール報せは、多分恐らく絶対に狭間の王が送信者だろう。訳のわからない異世界に放り込まれた俺は、気が付けば、先程まで恐怖の対象でしか無かった狭間の王からのメールに、唯一自分の実情を理解している者からの物だと安堵の感情を抱いた。