表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
間と間を繋ぐモノ  作者: δ
1/1

セーブとセーブ

異世界での死に戻りモノとなります。モチーフは,「Under Tale」という作品です。

現実世界は関係無い,オリジナル世界観の作品となっております。

「プロローグ・回想」:……

…………ごめんね。


僕らはいつも夢を見る。水の中を泳ぐ夢。空を飛んでいる夢。おいしい物を食べて,見た事もない景色を見る夢。そう,夢の中ではなんにでもなれる。なんでもできる。でも,現実には僕らは何もできない。ただただ成す術無く過ごすしかない。

夢は自分の映し身。

夢は自分の理想。

夢は本当の自分。

夢は自分の過去であり今であり未来。

これが夢であったならばどんなに良いだろう。僕らは,この気持ちを「後悔」とか「願い」と呼ぶのだろうか。


「オープニング・現実」:時戻りと僕

 戦には,必ず勝者と敗者が存在する。引き分けなんて甘いものは存在しない。所詮は,強者が敗者を淘汰する人生のイベントの一つに過ぎない。負けた者はいなくなり,やがて勝ち残った者が支配者として君臨する。今僕は,そのイベントの渦中に居た。時は正午を少しばかり過ぎたところか。太陽が真上に昇り,善も悪も関係なく焼き尽くそうと照り付けている頃。場所はミレオス砂漠の中央平野。砂漠と言っても辺り一面が砂の山と言うわけではなく,見晴しの効く小高い山々が周りを取り囲んでいて逃げ場の無い戦場には

おあつらえ向きといった地形である。兵の群れが動き,衝突を繰り返すたびに土煙が舞い上がり辺りその視界を奪って一瞬の判断を鈍らせる。魂が絞り出す怒号と金属でできた武器の擦れる金切音がどこに居ても聞こえ,血飛沫と千切れた首や腕がどこにでも転がっている「日常」とは遠くかけ離れた世界。生きるためには殺すしかない世界。自分にとって初めての経験。いつ気が狂ってしまうかもしれない状況の中で,なぜか心はとても穏やかであった。

(よし,大丈夫。訓練したことを思い出せ。)

そう自分に言い聞かせるように心の中で唱えながら左手の中の剣を強く握りしめる。目の前の兵士の群の中に向かって雄たけびをあげながら斬りかかり,無我夢中で左手を振った。手がずっしりと重くなり,肉の塊を切っている感触に怯む事無くその剣を振りきる。やがてすっと軽くなり,横で何かが落ちたような鈍い音がした。初めて敵を倒した事に浸る間も無い。息を荒げながら休む暇なく,刻々と動く波に呑まれながらその左手が動かなくなるまで振り続けた。だが,やがて胸に何かが熱くこみ上げるような感覚がする。少し下を向くと,鎧を軽々と貫いた剣が自分の胸元に突き刺さっていた。やがてその剣は引き抜かれ,全てを理解する前に身体が前に倒れる。胸がどんどん熱くなり,身体が次第に動かなくなっていく。口が鉄臭くなり,視界がどんどん揺らいで行く。死とはこういう事かと消えゆく意識の底で思いながら,その深みへと沈んでいった。

 やがて目が覚めると,見慣れたいつもの寝室。ついさっき自分は胸を貫かれて死んだはずだと慌てて手を胸に当てるが,そこに穴はない。自分の胸が有るだけである。

(おかしい。明らかにおかしい。自分はさっき死んだはずなのに,どうして今生きていられるんだ? あり得ない。)

普通ではとても考えられない状況に自分が直面していることを知り,自分が激しく動揺しているのを感じた。

(何が起こっているんだ? 落ち着け僕。まずは状況を整理しよう。えーと,まず自分は戦に参加していて,無我夢中で戦っていたら胸を刺されて死んだんだ。敵を殺した感触も残ってる。なのに今,自分はここに居て胸の傷も無いし痛みも無い。どう考えてもおかしい。何がどうなっているんだ? 訳が分からない。)

やがてノックされたドアの音と,よく知った声に僅かながら落ち着きを取り戻す。

「おーい! 入るぞー?」

聴くか聴かないかのうちに部屋の扉が勢いよく開けられ,誰かがずかずかと入ってくる。性格を表したかのような燃える赤色の短く刈った髪に気の強そうな(実際強いんだけど……)顔立ち。まだ戦場ではないのに身に纏っている鎧は,いつ戦に行っても良いようにというカレンなりの考えなんだろう(せっかちなだけかもしれないが)。カレン・アレスタがこうやって部屋に入るのはいつもの事だ。もう少し遠慮と女の子らしい振舞いを身に着けて欲しいという思いを一旦飲み込んでから話す。

「カレン。いつも言っているだろう? もう少し静かにしろって」

「良いじゃないの! ほら! 起きた起きた。もう皆食堂よ! ヴィルじゃないんだから急ぎなさいよ」

(あれ?この光景,今朝にも見たような……)

思わず考え込む僕を急き立てるようにして布団から押し出し,彼女は僕を半ば重い荷物でも引っ張るかのようにずるずると食堂に運んだ。今朝も食堂は,髭の濃いおじさんから僕等のような新兵までごった返している。カレンと僕は激流に流されるかのように奥に進んで行き,誰も座らないテーブルの前に出る。誰も座らない……という言い方では語弊が出るだろうか。正確には,「彼が座っているせいで」誰一人座ろうとはしないのだ。カボチャのような頭に,手入れのまるでされていない毛むくじゃらの髭。子供かと見紛うような身長とは裏腹に,同じく毛むくじゃらの腕は大根よりも太い。種族でいえばドワウフ族。関係でいえば師匠であり,親代わりに僕等を育ててくれた彼の名はヴィルクス・ダグデイン。周りの人は「めんどくさがり屋のヴィル」と呼んでいるが,その性格はドラゴンが突進してきたってその進路を曲げなかったほどに頑固で考え方が古臭い。僕等が彼の前に腰掛けると,彼は読んでいた新聞から眼だけを上げて何かを支持するようにカウンターの方を見てから再び新聞に目を戻した。これは,いつもの彼の合図。見たのはカウンターだから,朝飯を取って来いって意味だ。まあ,誰だってあんな人ごみの中に入りたくは無い。彼も当然そうだろうから僕等にやらせるのだろうが,彼が言うには「集団に負けない力と長時間待つ忍耐力を身につける訓練」なのだそうだ。カレンと僕はお互いに目配せをしてから席を立つ。カレンが主菜と食器で,僕がその他スープやサラダ,飲み物を担当する。これもいつもの事だ。ただいつもと違うのは,僕が席に戻ったのはカレンよりも10分も後だった。

「遅かったわね。何か考え事でもしていたの? まあ,ラパスにはそんな頭は無いか」

カレンはいつも一言余計だ。だが,今朝の僕にはその一言に反応するほどの余裕は無かった。戦場の勢い,血の味,そして死ぬ時の痛み。全ての記憶が鮮明に残っている。ヴィルが僕に一瞥をくれたが,すぐに食事の方に目を向ける。性格とは反対に新聞を畳んでから手を合わせて静かに「いただきます」と言う。(ヴィルが丁寧にやる,数少ない事のうちの一つだ)カレンがそれに続いて「いただきまーす!」と言ってから食べ始め,僕も慌てて「いただきます」と言って朝ごはんを食べる。いつも味わって食べる食事だが,今日はそんな余裕は無かった。僕が遅かった事を除けば,起きてから今までに起こったことは全て死んだときの日の朝と一致していたからだ。

 食事も終わり,食器を片付けてから自室に戻る。帰る途中,後ろから誰かが付いてくる気配がした。振り向くと,そこに居たのはヴィルだった。

「ヴィル。どうかした?」

「……おまえ,何か俺に隠してることないか? 食事の時,やけに静かだったからな」

心の中を見透かされるような目を向けられ,思わずドキッとする。

「な,何でもないよ。今日は初めて戦に行くからね。少し緊張していただけだよ」

ヴィルは何か考えるような仕草をしてから,

「そうか。ならいい。もしなんかあれば,いつでも俺に言えよ。一応お前の教官なんだからな」

最近ヴィルは,特に父親の顔を見せてくれていない。教官として接する為でもあるのだろうが,昔と比べて気軽に「父さん」と呼べなくなったのは少し淋しい。ヴィルはそう言うと,僕に背を向けた。僕はあの事を言おうか言うまいか決断できずにいたが,咄嗟に昔父親に言われたことを思い出した。

「カレン,ラパス。将来,自分一人では判断が付かないような問題や困難にぶち当たる時があるだろう。そんな時は,周りを頼りなさい。絶対に一人で抱え込んではいけない」

随分と昔の事だが,この時の事を今でも鮮明に覚えている。そういえばそんなこと言われたなと考えながら,それに従う様に去っていく父親に声を掛けた。

「と,父さん!」

思いがけず呼ばれたその呼び方に虚をつかれた様子を隠せない様子だったが,

「なんだ」

と振り向いて返事をしてくれる。

「…………あのさ,朝見た光景を死んだ後に見た事ってある?」

「……」

ヴィルはしばらくの間,呆気にとられたように少し口をあけて僕を見ていたが,やがてその口を閉じてゆっくりと僕に近づいてきた。僕の手が引っ張られ,額と額が当たるほど顔が近づく。周りに聞かれるのを恐れるかのように周りを軽く見渡してから,静かにゆっくりと口を開いた。

「ラパス。お前も「時戻り」をしたのか?」

「時戻り……? それが何かは分からないけれども,時間が戻ったような体験をしたのかもしれない。僕が朝起きてから食事を摂るまでに起きた事が,死んだ日の朝の光景と一緒なんだ」

「それが「時戻り」だ。リルはそう呼んでるな」

「リル? リルってまさか……」

「お前も知ってんだろ? フェンリル・ミュントスだ。王国最高の頭脳とも謳われる参謀サマだな」

半分馬鹿にするようなヴィルの口から出たど偉い人の名前に目を白黒させている僕を

「そうとなれば,報告せにゃならんな。ふむ。ラパス,ちょっと付いて来い」

と言いながら,荷物でも引きずるかのように僕をずるずると引っ張るヴィル。それにしても,ヴィルはさっき「お前“も”」って言ってたような……。それって,他にも僕みたいな体験をした人がいるってことなのだろうか。

初めまして。作者のδ(デルタ)と申します。初めての投稿作品となります。読みにくい所等多々あるかもしれませんが,最後までお付き合いくださると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ