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蟲の皇子  作者: 雨竜秀樹
第1部
30/31

第30話 魔竜の背にて

--人は何を得て、何を失い、何を奪うのか?

--好きな言葉を入れたら良い。人はそれだけの可能性があるのだ。大いなる善を行うことも、吐き出すほどの邪悪も、そして何を成さずに無為に過ごすことも、あらゆることができるのだ。


     ―― 砂漠における賢者と悪魔の問答より ――




 魔竜アジ・ダハーカの出現から程なくして、様々な勢力が多額の賞金を懸けた。国家間の戦争や内乱などの面倒事に首を突っ込みたがらない冒険者たちも、その手の問題がない魔竜相手であればと、命知らずにも戦いを挑む。

 もちろん戦いに参加する36人の猛者たちは、この砂漠の都エルカバラードにいる冒険者の中でも、最高の実力者たちだ(むろん彼らを後方で支えるものたちもいるが、直接戦闘を行うメンバーには入っていない)。


(どうやって仕留める?)

(あの手のデカブツは体内から攻撃するのが相場ですが……)

(まともな構造をしているとは思えんな。おそらくだが、内部は害虫の巣窟だぞ)


 飛竜(ワイバーン)や鷲獅子 (グリフォン)、太陽鳥(ジャターユ)などの飛行生物の背に跨りながら、冒険者たちはどのように攻めるか話し合う。

 もちろん直接言葉をかわしているのではなく、思念による会話だ。魔法や奇跡、あるいは希少な魔法道具などを使用することで、ある程度の距離ならば思念でやり取りするのは、彼らレベルの冒険者であれば普通のことである。


 そんな冒険者に対して、魔竜の体から産み落とされた忌むべき生き物たちの中で、空を飛ぶことができる者たちは冒険者の方に迫りくる。


(とりあえず、害虫をどうにかしましょう)


 真っ黒な天馬(ペガサス)に乗った魔法使いが、剣印を刻んで呪文を唱える。


「لهب سيف عاصفة」


 燃え盛る剣が現れて、ブーメランのように回転しながら魔竜から産み落とされた生き物を次々に燃やしていく。

 しかし、燃え上がる死骸からは毒煙が吹き上がる。


「偉大なるハルヴァーよ、我らに加護を!」


 蝙蝠の翼と蠍の尾を持つ猿顔、獅子体の魔獣マンティコアに騎乗した暗黒司祭の祈りに、邪神は加護を与えた。

 冒険者たちの体に紫色の光がやどり、毒素は中和される。だが、魔竜は3つある頭の内1つを向けて、毒吐息の代わりに蟲を吐き出すことで、失われた戦力を回復させる。


(きりがねぇぞ!)

(困りましたね)


 剣術なら負け知らずの戦士や狙いを外さぬ腕を持つ狩り人も、尽きることを知らぬ蟲の大群に苦戦を強いられる。

 例え相手が第7位――災厄竜であろうとも、冒険者が集団で挑めば、犠牲は出るかもしれないが勝算は十分にあった。

 少なくとも、冒険者たちはそう考えていた。だが、魔竜は狡猾にも彼らとの直接対決を避けて、冒険者たちの動きを封じることに専念している。


(残り2つの頭は毒煙を吹き続けています。加えて、討ち漏らした毒蟲も地上にどんどん降りています。このままじゃ、依頼人達が全滅しますよ)

(この都の権力者が、そんな可愛げのある連中かよ。だが市民に犠牲が広がるのはマズイな。このままじゃ、エルカバラードは廃墟になっちまう)

(おやおや、この都の邪悪さを見て、正義の心に目覚めたのですか?)

(バカ言うな。俺達は正義でも悪でもない。ただの金の亡者だろ。だけど、金を使おうにも、使う相手がいなくなりゃ意味がない)


 そんな軽口を叩きながら、彼らは押し寄せる蟲を相手に奮戦する。

 戦士の持つ魔法剣が嵐を呼び、狩り人は様々な魔力を込めた矢を放ち、魔法使いは次元を歪ませる大魔術を使い、司祭は仕える邪神の力を引き出して、なんとかして魔竜に接近しようとする。


 そんな彼らの努力をあざ笑うかのように、アジ・ダハーカは翼を羽ばたかせながら後退した。


(クソ、なんか手はないか?)

(これ以上の魔法となれば、エルカバラードにも大きな被害が……、戦い終わった後で報復の危険を呼ぶのはちょっと……)

(これ以上の加護を願うと、邪神様に支払う代償が無くなるわ)

(ボクなら1つだけ、とっておきの手があるよ)

(そうだよな。そんな手があるわけ…………なんだって?)


 戦士の思念による言葉に対する返事の中に、1つだけ異質な『声』があった。



  ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 魔法の絨毯を操りながら、ダークエルフの少年は各ギルドが冒険者たちを動かせていたことに満足していた。


「冒険者たちの念話を妨害する術も使われていない。これなら容易く割り込むこともできる」


 イヴァはそう言って、宝石箱から1匹の羽虫――半透明の薄翅蜉蝣(うすばかげろう)をつまみ上げると、耳飾りのように取り付ける。

 存在感のないこの虫は思念の波を読み取る力を有しており、イヴァが念話による通信を傍受するために品種改良した蟲である。


 どうでも良いことであるが、魔法の絨毯を片手で運転する行為は帝国法の飛行生物及び飛行道具の取扱法に違反している。さらに言えば、イヴァは帝国が発行している免許書を持っていない。本人曰く、身長制限に引っかかったとのことである。


「よし、割り込んだ」


蟲の皇子(ヴァーミン・プリンス)〟は冒険者たちの会話を傍受すると、彼らの位置と自分の位置を確認して、予定通りに事をすすめる。


(はじめましてかな? ボクはイヴァ=ラットハートラート)

(エルカバラードの領主!)

(〝蟲の皇子〟!)

(金持ちのエロガキ!)


 冒険者たちはイヴァの名を聞くと、大きく別けて3つの反応を返した。すなわち、期待と落胆と疑問だ。最初の2つはイヴァの良い評判と悪い評判によるもので、最後の反応は、依頼人となる立場の人間が現れたことによるものだ。


(そうか! アンタは凄腕の蟲使いだったな。この虫どもを支配して、活路を開いてくれるんだな?)

(評価してくれて嬉しいけど、残念ながらそれは買いかぶりだね。ボクが操れるのは、基本的に自分が品種改良した蟲だけだ。相手が野生の蟲であるならともかく、魔竜から産み落とされた眷属のような蟲を即座に操るなんて不可能だよ)


 すると別の思念が、イヴァには切り札があったと告げる。


(そう言えば、〝蟲の皇子〟は蟻の軍団(フォルミカ・レギオン)と呼ばれる切り札を持っていると聞いたことがある。ソイツを使うのか?)

(残念ながらそれもハズレ。あの竜相手に、アレはほとんど役に立たない)


 嘘ではない。

 少なくとも相性は最悪で、蟻の軍団は実力の2割も発揮できずに敗れるだろう。


(問答はもう十分ですよ。貴方はどうやら我々に協力をさせたいようですが、自分の手の内を晒したくないらしい。本来なら話はそこで終わりですが……、今の我々は砂漠で水を失ってく旅人のような状態です。例え蜃気楼だとしても、オアシスに向かわなくてはなりません。できることがあるなら……、内容にもよりますが何も聞かずに協力しますよ)

(悪いね。君たちならそれほど難しいことじゃないよ)


〝蟲の皇子〟がやってほしいことの内容すべてを聞き終えると、冒険者の1人が呻くような思念を返した。


(簡単でもないってことか……、言っておくけど報酬は……)


 遮るように、イヴァは必要ないと伝える。


(魔竜討伐の報酬は、君たちが受け取ればいい。ボクが欲しいのは、竜と最前線で戦い、勝利したという事実と実績だけだから)

(箔付けって奴か。一応聞いておくが、実はあの魔竜はアンタが呼び出した品物で、俺たちは自作自演の片棒をかつがされているなんてことはないだろうな?)


 疑わしい思念に対して、ダークエルフの少年は些かうんざりしたように答えた。


(疑り深くて結構だけど、それなら君たちじゃなくて、ボクの子飼いにやらせるよ。冒険者は不確定な要素が大きすぎるからね。実際、失敗する確率のほうが高い賭けなんだ。それでもまあ、領主としてやらなきゃならない。だってこのままじゃ、麗しの我が都が灰燼に帰すことになるんだから)

(そう信じたいものだね)

(神々の名にかけて誓って欲しい? それとも何か書面を用意する? これ以上の問答で時間を使うのは、有害無益でしか無いと思うけど?)

(それもそうだな。わかった。アンタの案に乗ろう。一応、後で俺達は政治的な取引とは無関係だっていう公文書を出してもらうぜ)


〝蟲の皇子〟は(了解した)と思念を返して、話し合いはまとまった。


 すると、イヴァの周囲に冒険者たちが集まってくる。蟲との戦いに傷つき、疲労してはいたが、それでも余力を遺している。

 彼らは指示された通りに、害虫を迎撃する組とイヴァの乗る絨毯に加護を与える組に分かれた。


「――防御、砂塵の加護」

「الدرع قوي روح جمع حشرة أمير」

「忘れられた天と地の支配者に乞い願う」


 力強い異国の詠唱、聞いたこともない異教の神への祈りが、ダークエルフの耳に届く。魔力に長けたエルフ族でありながら、イヴァにはこの手の才能はない。簡単な魔法であれば扱えるが、今この場にいる魔法使いたちと比べれば児戯でしか無い。

 それを羨ましいとは思うが、悔しいとは感じていない。


(必要な時に、その力を借りられたらそれで十分だからね)


 今まさに、その時であった。

 十重二十重の防御結界により、イヴァとペルセネアが乗る絨毯は、まるで巨大な弾丸のような状態になった。


「打ち上げろ!」


 害虫と戦いながら、射出するタイミングを図っていた冒険者が大声で叫んだ。

 その瞬間、何人かの術者が加速と爆発の術を使う。そして2人を載せた絨毯は、まるで投石機から打ち出された大岩のように吹き飛んでいく。

 絨毯に乗ったダークエルフの少年と女蛮族は、数多の防御壁の影響で急加速などによる体の不調を感じることもなく、分厚い害虫の囲みを破り、魔竜の張った障壁に穴を開けて、魔竜が退くよりも早く、本体にまで到達した。


「害虫共の群れと魔力障壁、この2つを一瞬だけ破ることには成功したみたいだが、あの2人でどうにかなるのか?」


 後を追うにも、すでに穴は塞がれている。後数回程度なら同じ方法で援軍を送ることはできるかもしれないが、それはつまり10人足らずで魔竜と戦わなければならないことを意味している。

 50人で戦い、なんとか勝利できるかもしれないという状況で、たった2人が魔竜を打ち倒せるのか?

 その問いに対する答えを秘めたまま、〝蟲の皇子〟たちは魔竜と接敵したのだ。



  ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「ボクらの優位性(アドバンテージ)は、魔竜を召喚した人物と、召喚して使役している方法を知っているという点だ」


 イヴァはペルセネアに、己の考えを語る。


「つまりボクらが狙うのは魔竜本体でもなく、術者である仮面の魔法使い、さらに言えば彼の持つ魔導書だ。あれを破壊ないし、魔法使いから取り上げれば、魔竜は消え去るはずだよ」

「なるほど、だが仮面の魔法使いがいる場所はわかるのか?」

「もちろん、鋼鉄ミミズで貫かせた時、ミミズの一部が入り込んでいる。そこから追跡した結果、十中八九、アイツは魔竜の背の上にいる」


 一割の可能性で、相手が蟲による追跡を見抜き、ダミーとして蟲を置いているというのも考えられた。その場合、万事休すである。

 その他にも、冒険者の説得に失敗する可能性や、冒険者たちの実力が足りずに魔竜にまで接敵できない可能性など、不安要素は存在していたが、それら全てを解決して、イヴァとペルセネアは魔竜の背の上にいる魔法使いの姿を見つけた。


 山のような巨体の上に、まるで豆粒のような大きさであった。だが、蟲が死んだ後に発する微弱な香りを頼りに、イヴァはまっすぐに魔法使いのもとに向かう。


 魔竜が襲い掛かってくる可能性もあったが、イヴァにとって幸いなことに眼下の生き物を殺戮することに酔いしれているらしい。おそらく直接攻撃をしなければ、興味を引くことも無さそうである。


「まさかここまで来られるとは……。己の無力さに絶望し、おとなしく膝を屈していれば良いものを!」


 迫りくるイヴァ達の姿を見て、仮面の魔法使いは驚きと不愉快さが混ざったような声を出す。


「――深淵の底より来たれ。忌まわしき這いずるモノよ。アディス・ウラエウス」


 即座に召喚魔法を唱えて、無数の翼ある毒蛇(コブラ)を呼び出す。

 遥かな昔、神聖の象徴である毒蛇(コブラ)が堕落した怪物――アディス・ウラエウスは召喚者の命令を受けて、イヴァとペルセネアの乗る絨毯に襲いかかる。


「殺せ! いや、足止めで良い。魔法の絨毯を引き裂いて、動きを封じなさい」


 ここにたどり着くまですでに多くの防壁を失っており、あとひと押しかふた押しで、絨毯は飛行能力を失うだろう。

 その後は、移動能力を失った2人を物量で押しつぶせば良い。


「私の実力を過小評価しましたね。アジ・ダハーカの制御で精一杯とでも思ったのでしょう」


 確かに、魔竜の制御には少なくないリソースをつぎ込んでいるが、それでも別に魔物を召喚する余力はある。


「最後の最後で……」


 魔法使いの台詞を最後まで口にすることはできなかった。

 突如、背後から半月刀による一撃が襲い掛かってきたのである。


「な、なにぃ?」


 普通であれば声をだすこともできぬ傷を受けながらも、魔法使いは首を動かして自分に致命傷を与えた者の姿を見ると「馬鹿な」と口を動かす。


「……」


 そこにいたのはペルセネアであった。

 情熱の炎が燃えるような赤い長髪を風になびかせながら、舞踏の名手のように円を描く動きを見せる。

 鋭い気合の声と共に半月刀が真横に振るわれ、守りの魔物を召喚する間もなく、仮面の魔法使いは体を両断された。同時に、魔法使いが手にしていた魔導書も無残な姿になっている。


「君が見ていたのは、幻鏡甲虫(ミラージュ・スカラベ)の生み出した幻影だよ。僕たちは反対側から回り込んで、不意討ちしたんだ」


 魔法の絨毯に乗ったままのイヴァが、勝敗がついたのを見て現れた。


「聞きたいと思うことは答えたから、こちらからも質問をさせてもらうよ。第一に魔導書の力で呼び出された魔竜は、ボクの見立てではすぐに消えると思うのだけど、それで正解かな?」

「悔しいですがその通り、数分で蜃気楼のように消えるでしょうよ。無論、眷属である毒蟲とともにね」

「それはよかった。被害は甚大だけど、15年前の戦争に比べたら、たいしたものじゃない。じゃあ次の質問だ」


 存在が消え始める魔竜の背からペルセネアを回収すると、イヴァは(おびただ)しい数の肉食甲虫(スカラベ)を放つ。体を貫かれても、両断されても、生きている魔法使いであっても、全身を食い尽くされては流石に無事ではすまない。もしもそれでこの世に留まれるとしたら、その時は神々に仕える司祭の出番である。

 もっともイヴァは、相手に不死者のたぐいが放つ死臭を感じていない。おそらく何かしらの理由で死ににくい体を手に入れた生き物であるとの見立てている。

 仮面を取って正体を見たいという欲求もあったが、イヴァはそれを無視して、次の問いかけを行う。


「君の目的は――エルカバラードを滅ぼすことだったみたいだけど、いったい誰の命令で動いていた?」


 悪徳の都を支配下に置き、利益を貪ろうとするのなら、まだ理解できる。

 あの自由と平等を謳うスレヴェニアですらも、エルカバラードを占領するための策謀こそ練っているのだ。

 それだけの価値ある都を滅ぼそうとするなど、正気の沙汰ではない。

 盗賊ギルドの〝ギルド・マスター〟も、自ら滅ぼすような動きをしていたが、最終的にはそれを止める者が現れるのを待っていたのだ。


「……秘密協会(スツィル・ジャメリア)


 意外なことに返答があった。


「秘密協会? お遊びで似たような名称を使っている連中ならたくさん知っているけど、君みたいな実力者を有している組織は初耳だな」

「そして、忘れられない名前になりますよ。〝蟲の皇子〟様、今回は貴方の勝ちですが、次はどうでしょうか? 冥府の底から見守らせていただきますよ」

「……じゃあね。仮面の魔法使い、名前を知らない君」


 イヴァは指を鳴らす。

 肉食甲虫は、敗者の体を肉の一片も遺すことなく喰らい尽くそうとする。地獄の刑罰にも勝る苦しみを受けながら、仮面の魔法使いは断末魔の代わりに愉快そうな笑い声を上げながら死者の国に旅立つ。


 魔竜の姿も薄れ始めて、その眷属である害虫も姿を消し始める。

 一夜の悪夢はひとまず終幕を迎えたのだ。


「トラブルが絶えないのは、困ったものだけど、それよりも被害状況の把握と対処が必要だね。ザハドに急いで連絡を取らなくちゃ」


 イヴァがホッとため息を付いた瞬間、少年の首に死の輪がかかった。



  ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 女蛮族の手により2度も仕事に失敗した暗殺者は、盗賊ギルドの間からずっと、透明化の秘薬を使い、彼らのすぐ近くに潜んでいた。


 彼らの飛び乗った魔法の絨毯の端を掴みながら、知られることなく相乗りして、魔竜を召喚した魔法使いが倒されるその瞬間までずっと、気配の欠片を感じさせることもなく、ほとんど密室と言って良い場所にいたのである。


 そして好機が訪れるや否やペルセネアが絨毯に登るのと同じタイミングで上に登り、気を抜いたイヴァの首を締めるだけだ。


 常識などはるか昔に忘却しているダークエルフの少年でさえ、このタイミングで暗殺が行われるとは夢にも思っておらず、流石に今回は女蛮族の刃も振るわれる事は無かった。


 イヴァとペルセネアならば、攻撃を行えば、姿形が透明であろうと気が付かれるだろう。だが気がついたときには遅い!


(終わった)


 暗殺者は死の輪を閉じる。

 ダークエルフの少年の首を絞めたまま落ちて、自分は途中で浮遊の薬を飲む。

 そうすれば自分が浮かび上がるタイミングで、イヴァは大木に吊られた死刑囚のような状態となる。


「まさか、こんな場所で保険が役に立つとわね」

「!?」


 死の輪が閉じない。

 今まで幾多の要人を屠ってきた絞殺具(ギャロット)が見えない何かに阻まれている!


「ペルセネア!」

「はぁああ!!」

「――ッ!!」


 イヴァの叫びと、ペルセネアの気合、そして暗殺者の舌打ちが重なる。

 狭い場所は暗殺者の有利に働かなかった。3度目にして、女蛮族の刃は恐るべき暗殺者の息の根を止めることに成功する。


「やったな」


 その言葉を肯定するように、透明化の秘薬が効力を失い、暗殺者の亡骸が浮かび上がる。トドメとばかりに、魔法使いの死骸を喰らい尽くした肉食甲虫が羽を使い群がってくる。


「ご主人様、どうやってこいつの凶手を逃れたのだ?」

「見えないと思うけど、ボクの首の周りは透明蛞蝓(インビジブル・スラッグ)が巻きついている。気持ちが悪いのと動きが遅いのを除けば、かなり役に立つ防御用の蟲だよ」


 加えて体力を奪い取る特性もあるので、長時間の使用は危険である。本来は奴隷を調教するための蟲であり、自分に巻きつけることになるとは思わなかったが……。


「あ、けどこれ、少し癖になるかも」


 何とも言えない不快感が、死の危機を乗り越えたことで幸福感に変換される。


「何はともあれ、今度こそ本当に終わりだ」


 復興支援に加えて、今回の責任追求、領主になるための根回し、やるべきことは多いが、おそらく直接的な戦いはこれで終わりだろう。


「さあ、黄金宮殿に戻ろう」


 やるべきことをやり、得るべきものを得る。

 領主会談はまだ先であるが、すでに誰が領主になるのかは決まったのだ。



魔竜討伐に参加した冒険者パーティー一覧。


「夢幻同盟」✕4人

 戦士・狩り人・暗黒神官・ 魔法使い

今までの主な功績:

 ノルスヘイドの巨人討伐

 黒のピラミッド攻略

 第24次死霊軍撃退などなど


「7つの秘跡」✕7

 元素魔法使い・妖術師・幻術師・死霊魔術師・自然崇拝者・召喚術師・付与魔術師

今までの主な功績:

 槌の戦い調停

 魔獣荒野踏破

 王殺しの賞金首ゼネック捕縛などなど


「不名誉騎士団」✕12

 騎士✕3・聖騎士✕3・暗黒騎士✕3・死霊騎士✕3

今までの主な功績:

双頭魔王イスホベとの7日7晩の戦い

覇王の剣探索と破壊

至高竜の卵を返還などなど


「不死王の杖探索団」✕5

 遺跡荒らし・盗賊・遊び人・踊り子・賢者

今までの主な功績:

大地下迷宮を第7階層まで到達

開かれた異次元の門を封印

魔界を探索中、万魔殿(パンデモニウム)を発見


「流血の焔」✕8

 戦士✕4 神官戦士 暗殺者 精霊使い 魔女

今までの主な功績:

帝国闘技場チーム戦ベスト4

混沌領域にて、悪魔の軍勢と戦い勝利し、姫を奪還

賞金団体、快楽教団の殲滅


     ―― 以上 ――


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