2 物に釣られた
リズちゃん口悪すぎィ
そして。
「ごめんって!多分もうしないから怒らないでよおおおお」
「うるせえ多分ってなんだ多分って」
「しないという保証はできないからね!!」
あのあと騎士たちがどたどたやってきて『うちのバカがすいません』って謝りながら変態を自室につれて帰りました。第一王子にバカとか言っていいんですかねあれ。不敬罪ですよねあれ。あいつら処罰の対象ですよねあれ。
クラウディア様が一緒に行きなさいというから無駄に長い時間をかけてこいつの部屋に入った私ですが騎士たちが出ていった瞬間にこいつがむくっと起き上がって抱きしめてきたので頭突きをかましておきました。
あまりダメージがなかったこいつはへらへら笑うと高級そうな椅子に座れと促したので仕方なく座ってあげました。
そして今に至ります。
私の前に広がるのは高級絨毯の上でぺこぺこしているイケメン。ちょっとだけおでこが赤い。
口の端にさっき食べたマカロンがちょっとだけついているので間抜けですね。
私は腕を組み足を組み威圧的な姿勢でぺこぺこしている変態を見下ろします。
不敬罪はもういいです。
わ、私の耳にちゅーして頭撫でて心臓が爆発しそうだったのですからこれくらいしても…も……あれ……ダメかなこれ…?
「ね、ほんとにごめんね!」
「……」
「ごめんってええええええええ」
「………………シュークリームで許してあげます。」
「っほんと?」
「嫌なら別に」
「喜んで!!!!」
変態は下げていた頭をバッとあげてキラキラした顔をさらにキラキラさせどこから取り出したのかとても美味しそうなシュークリームを出してきました。
少し大きめのシュークリームは横に割れており中からは美味しそうな色をした美味しそうなカスタードスリームが覗いており上にはふわふわした白い砂糖が乗っかっていました。
仕方なくうきうきしながら受取り口に運ぶと柔らかい生地に甘すぎないほど良い舌触りのカスタードクリームがとろけます。うんま。
さらに進めると奥の方にチョコクリームらしきものが見えました。
目が輝いたと自覚するほどわくわくした私は一気に口に入れました。すると先ほどのよりも少し甘いが不快にはならない美味しいクリームが…と。
とりあえずうまい。なにこれうまい。
「ぼ、僕が作ったんだけどさ…美味しい??」
「なぬ…?へんた…ダメ男…ざんね…ぼけな…オズワルド様が作ったのですか?」
「いろいろ口から出てはいけないものが出ている気がするけどそうだよ!!リズじゃなかったら不敬罪だよ!!」
なんと…このぼけなすがこんなに美味しいシュークリームを……?
シュークリームが作れるやつに悪い奴はいないと近所のルバートさん(仲のいいおじさん)がいっていたのでこいつは悪い人ではないのでしょう。
いや、まあ悪い人ではないのでしょうがなにせ第一印象があれだったからちょっと…
「気に入ったのならもっとあげるよ」
「ありがとうございます愛してます流石ですオズワルド様まるで王子様のようで、あ、王子様でしたねまるで女神様のようですありがとうございますありがとうございます」
ガンガン高級そうなテーブルに頭を打ち付けて礼を述べた。この人いい人ですルバートさん。この人いい人です。好きです。
私の愛してます発言に何故か顔を赤くしたとオズワルド様(株の上がり方)は若干どもりながら持ってくるね、と部屋を出た。
私はそれを見送りながらオズワルド様の部屋を見渡しました。
見えるのは趣味のいい家具。
アンティーク調が好きなのかそれらしきものがたくさん並べてある中で一つだけ異彩を放つものがありました。
明らかに手作りの見覚えのあるリボン。
赤いそのリボンは私が足首に巻いているものと同じような素材で出来ており先が少しほつれていました。
棚の上に大事そうに置いてあるそれをもっと間近で見ようと立ち上がり近寄りました。
すると先程は気づかなかった写真立てがリボンの横にありました。
反射で見えなかったので少し顔を傾けるとそこには幼い私とおそらくオズワルド様だと思われる少年少女のツーショット写真。
「これは…」
手に取ってみると裏には リズリートとオズ ときったねえ字で書いてありました。
どういうことでしょう。私たちは昔会っていたのでしょうか。
確かにオズワルド様は今日あった時はじめましてとは言いませんでした。
それどころか懐かしそうにリズ、と。
陛下やクラウディア様にも呼ばれましたがオズワルド様のリズはなにかの重みが違いました。
ま、まあもしかしたら昔仲良しだったかも知れませんが今は今ですし!
「キ、キニシナイキニシナイ」
震える手で棚の上に写真を戻しました。
その際また目に入ったのは私の足首のリボンと同じようなリボン。
もう一度写真を見ると私の足にはリボンはついていませんがオズワルド様の手には赤いリボンが二つ。
やはりなにか関係があったのかもしれませんね…。
庶民の私と王族のオズワルド様が幼少期になにか接点があったとしたらその記憶は私に残っているはずですしいろいろな違和感がありますがそんなことより今はシュークリームです。オズワルド様作のシュークリームが食べたいのです。
そう思いさきほど座っていた椅子に座り直しました。
さっきより姿勢をよくして行儀よく。
ですが目線は、足元のリボンに向かっていました。
「おいこらオズワルド様、なぜ来たのですか」
あれから2日たち、私の住んでいる家にオズワルド様が来ました。なぜ来た。
護衛もつけず変装もせずのほほんと玄関にたっていたオズワルド様を1度殴りつけ家にいれました。
なんかもう王族に対する態度じゃありませんけどオズワルド様ですし。
この国はわりと治安はいいほうですしオズワルド様は慕われていますがだからといって第一王子が護衛もつけずひとりで呑気にこんな田舎まで歩いてくるとは何事ですか。
私の家は城からおよそ2時間ほどの場所にあり歩いてくるには少し疲れるはずです。
しかもわりと険しい小道を歩いて花畑を通ってこないといけないので不便なのに。
なのにオズワルド様がきました。なんなんだこいつは。
「リズに会いたくて」
最後に星が付きそうな感じでウインクされましたがいらっとしかしません。そもそも来るなら先に来ると言ってもらわなければ困ります。いやそれ以前になんで私の家知ってるんですかね権力ですかね。
視線で人が殺せそうな顔をした私はとりあえず座れと一番柔らかい椅子を指さしました。
オズワルド様はありがとうとゆっくり腰掛けました。
私は棚からお茶を取り出してオズワルド様に出す、と見せかけて自分で飲みました。
それを見たオズワルド様はえっと声を出して残念がったので仕方なくオズワルド様にも入れてあげました。しかたねぇな。
「で、私に会いたいだけじゃなかったのでしょうオズワルド様。」
「んもー、オズワルド様じゃなくてオズ、って呼んで欲しいのにぃー」
「いいからさっさと要件を話せ」
「すいません。いやぁ、実はうちの魔術師たちがぜひリズとお話したいっていうからさぁ……」
「……魔術師?」
この国にはなんと魔法があるのです。属性は火土緑水光闇でひとり二つほど。稀に三つ使えるすごい人がいますが本当にごくわずか。
そしてオズワルド様がいる城にはそんなすごい人たちの集まり、『魔術を愛しちゃおうぜ!同好会』というものがありネーミングセンスを疑います。
そんな人たちが私に逢いたい理由とは。
「うん。だってリズちゃん全部使えるんでしょ?」
「わぁバレてるーあははは」
秘密にしていたつもりだったのにあっさりバレていました。
まぁ使えると言っても火属性はライター程度、水は水鉄砲、土は泥団子とかしょぼいものばかり。
しょぼいもの全部じゃなくて凄いもの二つが良かったのですけど。
おそらくなぜすべて使えるのか、とかそこら辺を調べたいのでしょうがそんな調査はすべて無駄になるでしょうね。
「でも私大したものは使えませんよ」
そう言って指先に某温泉の魔法使いおばあちゃんのように指先に火をともしました。
反対の手には水を浮かべて困惑した表情を浮かべます。
それを見たオズワルド様は私の火がついている手を取りふっと消しました。
そのまま手を両手で包み顔を近づけてきました。こいつは顔を近づけるのが好きだな。
「うん…でも、リズに来て欲しい。」
ね、お願い。
なんだかんだ言って別に嫌いではないこのイケメン顔で困ったように首を傾げられた私は即答で頷いていました。あれ、もしかして私ってちょろい?
「あ、そうだ。オズワルド様」
「ん?なぁに、リズ」
「あのシュークリーム、美味しかったです。ありがとうございました…オズ。」
呼んでほしそうにしていた名前を呼んだ瞬間目を見開いたオズワルド様はぎゅうううっと抱きしめてきました。い、今のは私が悪かったので突き放したりはしません。ものすごく恥ずかしいですが仕方ないです。
オズワルド様はすりすりと頭を私の肩に押し付けて可愛いやらやばいやら悶えていましたがその中で一言だけリズリートと。そう呼びました。
びくっと震えた私は顔が熱くなり今見られていなくて良かったなぁと密かに思いました。こんな顔見られてたら死ぬ。(多分前髪とメガネで殆ど見えてないけど。)
そして何故かオズワルド様がうちに泊まることになりました。帰れ。
「リズー一緒の布団で寝よー」
「何いってんですか別に決まってるじゃないですか」
「ええっ!?そうなの!?」
「なにびっくりしてるんですか。ほれ、とりあえずそのきんきらきんからこっちに着替えなさい」
そう言って眩しい服を着ているオズワルド様に偶然あったお兄ちゃんの服を投げつけました。
お兄ちゃんより身長が高いので少し小さいかも知れませんがまあないよりいいでしょう。私のだと小さすぎて入らないと思いますし。
上下灰色のスウェットを受け取ったオズワルド様はにっこりして服を脱ぎ始めました。
なぜここで脱ぐ。
引き締まってる上半身とか全然見たくないといえば嘘になりますが見えたらもう帰ってこれない領域を見せようとするんじゃありません。
そう思いながらガン見していた私は夜ご飯を作成中です。作成っていうと美術とか技術みたいですね。
今日の夜ご飯はぱっと頭に浮かんだものでクリームシチューです。
人参を大きめに入れたい私はゴロゴロした感じで切っていました。
すると後ろから忍び寄ってきた着替えを終えたオズワルド様が右の方からひょい、とのぞき込みました。
「えー!人参がでかいー!!」
「嫌いなのですか?」
「嫌いとまでは行かないけど苦手なんだ」
苦笑して椅子に戻っていったオズワルド様。
こころなしか背中が丸まって見えたのでゴロゴロした人参をひとつひとつ、半分に切っておきました。
後は具を入れて待つだけなのでテレビを見ていたオズワルド様の隣に座りました。
横から見ても整った顔立ちでまつげが長いなぁとか髪サラサラだなとか羨ましいなくそとか思いながら見ていると不意にこっちを振り向いたオズワルド様。
にっこり笑って私の長い前髪を撫で付けてきます。何をするんだ。まさかなにかぬぐっていたりとか…
「リズは、前髪切らないの?」
「…切りませんね。メガネも外しません。メガネを外す時はきっと……。いや、まぁいいでしょう。前髪は切りませんし外しませんよ。」
そう一方的に話して私は前を向きました。テレビが目に入るのでそれを見ているふりをします。
本当はオズワルド様から視線をバシバシ感じるのですが全く気付いてませんよーという体でテレビを見てくすりと笑いました。
「む、できましたよオズワルド様」
「おおおおおおお」
オズワルド様の前に作ったクリームシチューをどん、と置いて精一杯のドヤ顔をしました。ほれ、食ってみろ。うまいぜ。みたいな感じで見つめていたらオズワルド様が口に運びました。
「……にんじん。」
「にんじん?…あぁ、小さくしましたよ。苦手だとおっしゃってましたから」
「…ぁ、ありがとう……」
おまえはコミュ障かってぐらいぼそっと呟いて顔を赤らめたオズワルド様はそのまま黙々とクリームシチューを食べ続けました。美味しそうで何よりです。
そのあとオズワルド様はお風呂に一緒に入りたがったので蹴っ飛ばしてお風呂に入れ、寝る時間になりました。
そしてここで問題が起きるのです。
二つあったと思っていた布団が一つしかなく、うちにはソファはありません。やばい。ピンチ。
そこまで寒い季節ではないのですが何もなしで雑魚寝するのは流石に寒い。
それに気付いた私はとりあえずオズワルド様に布団を渡し、来客用の部屋に押し込みました。おやすみ、と挨拶してから1度自分の部屋に戻ります。
「さて、どうすっかね」
別に寝られないことは無いのですが如何せん寒いと思うのです。
オズワルド様が寝た隙に布団に潜り込んで起きる前に脱出すればいいのでは、などと考えましたがそんなのは無理です。私は朝は弱い。
とりあえず寝巻きに着替えて床に座り込みます。床冷たっ。
私の隣の部屋が来客用の部屋で、つまり隣にはオズワルド様がいます。ほんとにあの人王子様なんですか。こんなのこのこやってきていいんですかね。
しかも私まだ会って二回目ですよね(多分)。
初対面から馴れ馴れしかったしもしかしたらああいう人なのかも知れませんが乙女(笑)の心臓にはわるいと思うのです。よくないよくない。
しかもあんなかっこいい顔で近いし低いし高いし甘いし優しいしもうなんなんだあいつは。もう私何言ってるかわからない。
「んあああああもういいよ!!!!寝る!!!!!」
私は棚からタオルを引っ張り出して雑魚寝することにしました。
ものすごく寒そうだったので何枚も取り出してすやぁと五分もしないうちに眠りにつきました。
「もう、リズってば…」
真夜中。
リズのいる部屋のドアが静かに音を立てて開き、布団を持った金髪が忍び込む。
「寒そうにしてさぁ……」
リズを抱き抱えて一度ずらし、布団を敷いた金髪はすっとリズを布団の上に下ろし、毛布をかける。
そのまま自分も布団に潜り込むとリズのふわふわした髪を撫でて愛おしそうに見つめる。
撫でている手がメガネにかちゃ、とあたり前髪がずれる。
その寝顔は幼く、どこか小動物を思わせる。
だが睫毛は長く、綺麗な鼻筋に唇。
思わず顔を寄せたくなった金髪は寸のところで停止しておでこに唇を寄せた。
「おやすみ、リズリート」
そのままリズの隣で手を握り、目を閉じた金髪。
「ぎょえええええええええええええええっ!!!!!!」
「ぶぐええっ!!」
翌朝目が覚めたリズから鉄拳を食らったのは言うまでもない。
不敬罪確定だと思うんです王国的に成り立ってないんじゃないかと思うんです。