1 初対面のはずなのですが。
手を出してはいけないものに手を出した気分です。
楽しかったからよし。
ふわふわした茶髪を三つ編みにして横に流し、赤い丸い大きなメガネをかけて長い前髪がわりと大きめの目にかかって大変見にくい。
そんなクソダサい私はリズリートと申します。
家名は気にしないでください。今はとりあえずリズリートと。
私は町を歩き中央にあるお城を目指していました。
お気に入りのリュックを背中に背負って中にはたくさんの書類とお菓子が入っています。とても重い。
町には果物屋、肉屋、宿屋、服屋、帽子屋、靴屋…そのたもろもろの店が並んでいます。
それを横目で流しながら見ていると何やら視線を感じました。
視線の先を辿るとそこには小さい男の子がいたのです。
素通りしました。
「えっちょっまってよ!!」
「なんですか」
小さい手で私のスカートを掴み引き止めてきた男の子。
かなり可愛い顔をしていますがこちらを見てきた時に『この角度なら可愛く見えるだろ…へんっ』みたいな顔で見てきたのでこの子は計算高い子です。
そんな子と関わるとろくな事がないので素通りしたのですがダメでした。そしてこいつ握力強えんだよこんちくしょう。
金髪で青い目をしている男の子は整った顔をこちらに向け涙目で私に話し掛けてきました。もう離してくれ。
「おねえさん、ぼくどうしたらいいの?」
「何に困ってんのか具体的に言いなさい」
「…帰り道がわからないの」
「最初に言うべき事を最後にいうんじゃねぇよ」
ふとした時に口が悪くなる時があります。それは今ですね!……え?今までにもあった??…………げ、げふん。小さい男の子はびっくりしたようでした。
言葉の使い方がおかしい男の子は帰り道がわからないと言いました。私自身道を覚えるのは得意ではないので帰り道がわからないことはよくあります。なので男の子に同情しました。
だから道を教えてあげようと思いました。
「どこに帰るのですか?」
「んーとねー、大きいところ!!」
「かわいこぶらなくていいんで早く教えろください」
「ぅ、お城……」
「……おしろ。それなら私も行くんで着いてきます?」
「っ、ほんと?」
「嫌なら別に」
「いく!!!」
「よし」
何でお城に帰るのかとかあざといんだよとかそんなことは気にしません。
早く行きますよ、と告げ男の子の先を歩くと男の子は待ってくれと走ってきました。
白い小さい手を私の手に繋げにぎにぎしてきます。割とテクニシャンですね。
あったかいー、とにこにこしながら見上げてきますが目の奥でちょろいなって書いてあるからこれもきっと計算。
顔が可愛いから許したくなります。タチが悪い。
そして男の子は名乗りました。
どうやら男の子の名前はウィルと言うらしいです。下の名前しか教えなかったので詳しくは聞きません。え、別にめんどくさいとかそんなんじゃ…
「ねーおねーさん」
「あぁ?」
「おねーさんはなんでおしろにいくの?」
「ウィルくんにいう必要あります?」
「ぼくしりたい!」
「……届けるものがあるんです。」
「へー。何をお届けするの?」
「それは秘密です」
「えー!」
ぼーくーしーりーたーいーとグズグズするので手をぶんっと振ってウィルくんの手を離し頭を抑えました。
ウィルくんはきょとんとした顔で私を見上げます。あ、これは素ですね。
「また今度ね」
にっこりしてわしゃわしゃと頭を撫で回しておきました。
それから40分ぐらいかけてお城にたどり着くと私は門番に家名と証明書を見せました。
すると門番は焦ったように敬礼し直して通してくれます。いやぁ、ちょろい。
ウィルくんは驚いたようにこっちを見てきましたが全力で無視して先に進みます。
無駄にでかい扉を開けてもらって奥に見える階段を登り右に曲がりドアを開けて先に進み階段を…と続けるとひらけた場所にでました。
その場所の真ん中、奥の方に豪華な椅子が2つ並んでいてそこにはこの国の頂点の方が2人座っていました。
その人たちを目に入れたウィルくんは顔を輝かせ
「母様!父様!!」
と走っていきま……え?
「やっと帰ってきたかウィル」
「今日はどこに行ってきたの?」
「庶民の市場に!」
な、何、なんだ、何でそんな親しげに、え、いやあの、え?
「あら、リズちゃん。今日もありがとう、いつもごめんなさいね」
トップの奥様は椅子から立ち上がると呆然としている私の元に歩いてきました。
私の元にたどり着くとよしよし、ととても綺麗な手でわたしの頭を撫で、手に持つ書類を受取りました。
何の書類かなんてそんなのは今どうでもいいのです。そんなことより
「ウィルくんは陛下の息子だったのですか」
「ん?そうだよ?…あれ、言ってなかったっけ?」
「初耳ですけど!!」
「いやぁごめんごめん忘れてた」
てへっと右手を王冠の乗る頭に当てててへぺろする陛下。顔が綺麗だから似合うものの年も年なんだからもう少し大人っぽくして欲しいものですね。まぁそんなところも尊敬してますけど。(いろんな意味で)
ウィルくん……ウィル様は陛下の元から私の近くにとたとたと走ってきてぺこりとお辞儀をしました。
「おねーさん……リズ、ありがと!!」
「お礼はいいのですが私不敬罪ですか」
「…不敬罪?………あー…大丈夫じゃない?ねっ、父様」
「まぁリズ嬢には世話になってるしな!!おっけー!!」
「軽いよ陛下びっくりするぐらい軽いよ」
陛下の奥様、クラウディア様は陛下の元へ歩き元の椅子に座りました。
長くて細い足を組み陛下の方に顔を向けにっこりしました。
「ね、あなた。」
「ん?」
「リズちゃんにもう一人紹介したら?」
「…えー……だってあいつは…えー…………」
会話の中に私のことが出てきたのでお2人の元へ早足で向かいました。
ふたりは顔を見合わせて女たらしだの変態だの残念だのあまり宜しくない言葉を発しています。
するとウィル様は私の手を掴み自分にはお兄さんがいることを告げました。
彼の説明によるととてもかっこよくて頭もいいのですがとても残念だということは伝わりました。
嫌な予感しかしませんね。
ですがもともと第一王子の存在は知っていたので特に驚きはしないのですが話すことはおろか見たことさえなかったので性格などは噂でしか知りません。
一言で言うと優男らしいのですがご家族の話を聞くとそうは思えませんでした。帰りたい。
話が終わったのかふたりはくるりと私の方を向きました。
「「ねっ、リズちゃん」」
「は、はい」
「「うちのオズワルドにあってみない?」」
オズワルド。この国にはオズの魔法使いという物語があってその名前からとったそうです。まぁ噂で聞いただけなんですけど。
そしてその名前は第一王子の物。
ものすごく断りたいし帰りたいけど相手は王族です。
断れない。
私は嫌々頷こうとしました。顔が引きつっていた自覚はあります。
「父様!!!ここにあの女の子がきたと聞いたの、です…が……」
あのってなんだろう。出入口となる扉を行儀悪くバァンと開けて入ってきた高身長の美少年…というより美青年。
私のことを目に入れるなりあんぐりと口を開けまじまじと見てきました。
え、なに。
「本物のリズだああああああああああああああああああああああああああ」
と何が嬉しいのか耳がキィーーンとなるうるせえ声を響かせて叫びました。
陛下は耳を抑え顔をしかめ、クラウディア様はあらあら、と笑っています。ウィル様?……さあ。見てませんねぇ。
陛下を父様と呼んだことからおそらく噂の女たらし変態残念王子だと思います。
なぜ名前を知っているのかとか本物ってどういうことだとかいろいろありましたが頭の隅に置いてこちらに全力で走ってくる金髪をどうしようか考えることにしました。
しかし考えが思いつく前にそいつゲフンゲフン王子が私の元にたどり着きぎゅうううっと抱きしめてきました。なんだこいつ。
「ね、僕とキスしよ?」
「こいつは何を言っているんだ」
「えっ失礼!!」
一瞬で悟った。こいつは関わったらいけないやつだ…と。
そしてこれが初対面。第一印象は最悪でした。
「改めて紹介するわ、これはオズワルド・ローランシア。小さい方はウィリアム・ローランシア。二人とも私と陛下の息子」
「気絶したい」
変態に抱きしめられたまま頬擦りされつつ紹介された2人。
ウィルくんはまあいいとしてぎゅーぎゅーしてくるこいつを何とかして欲しい。
礼儀??んなもん知るか。
こいつは右の方で「リズっっ!オズワルドです!!オズって呼んでくれると嬉しいなっ」と最後に星がつきそうな感じで何か言っていますが何も聞こえません。あーあー聞こえません。
足元の方でウィルくんがずるいとか卑怯とかなんか言ってますがそんなウィルくんが可愛く見えてきました。あ、ちなみに先ほどウィル様じゃなくてウィルくんがいいとのことだったのでウィルくんと呼んでいます。
この光景を見たふたりは苦笑いしつつ止めようとしないのでそろそろ真面目に気絶しそうです。
私のお気に入りのメガネがずれそうなのでひとまず変態を引き離しウィルくんを盾にメガネの位置を直しました。
不思議そうな顔ですがこのメガネをとると闇の魔法が…あっいえ何でもないんですちょっと言ってみたかっただけっていうかなんていうか。
変態は残念そうな顔をしながら陛下の元へ向かいました。
「父様、なぜもっと早くリズを紹介しようとしてくれなかったのです?」
「めんどくさくなることはわかってたしな。実際めんどくさいし」
はははと笑う陛下でした。
わかってたなら一生紹介しなくても良かったのですけど。
心の声が口に出ていたのか変態はショックを受けた顔をしてひどいっ!!とかなんとか言ってたけど聞こえないふりをしました。
陛下はそんな事言うなよととりあえず否定していましたが顔と表情があっていません。面白がってますね陛下。
3人でぎゃいぎゃいしているとクラウディア様が思い出したように私のカバンを触りました。
「リズ、お菓子も持ってきてくれたりしてるかしら?」
「あ、ありますよ」
カバンから私の手作りであるドーナツやマカロン、その他もろもろを取り出す。クラウディア様にこの前お菓子を持っていったら物凄く気に入られてそれから一週間に一度、持っていくようにしています。
クラウディア様は私の手にあるものを見ると目をキラキラさせて受取りました。
それを見た変態と陛下は羨ましそうに見てきましたが見て見ぬ振り。陛下には後であげるとして。
クラウディア様はお菓子の一つのマカロンを取り出して口に入れました。
口に入れた瞬間ほっぺに手を当ててくねくね。
ホントに母親なのですか…すごく可愛らしい。ちょっと陛下何デレデレしてるんですか怖い怖い陛下を見てクラウディア様もでれでれしないでお腹いっぱいですありがとうございます。
「僕にもちょーだいっ」
変態がクラウディア様の手からマカロンをぱくり。
目を見開きクラウディア様よりキラキラさせた目でこちらを見てきますこっち見んなボケ。
「……これほんとにリズが作ったの??」
「信じられないなら返してください口から出せ腹から出せ固形のまま出せおら早くしろ」
「ごめんごめん…あまりに美味しくてつい」
おらおらと右手と左手をぐーにして交互に動かして威嚇する。その動作を見ていた変態は私のそばに来ると右側に立ちそっと肩を抱き寄せました。
そのまま顔を耳に近づけてまず耳にフー。ぞわっとしましたやめろください。
陛下とクラウディア様があらあらみたいな感じでこっちを見てきますがほんとにやめて欲しい。
肩を抱き寄せていない方の手で私の頭をそっと撫でた変態。
その間私は硬直して動けません。
金縛りみたいになってますけどウィルくんめっちゃこっち見てますけどそういえばウィルくんお菓子欲しいって言いませんでしたね。
もともと近かった顔をさらに近づけ耳に唇が触れました。
「すごく美味しい」
もともと少し高めの声だったのにすごく低く甘く吐息混じりに囁く変態。
耳に擦れる熱い唇とその声、頭に触れる感触にさらにぞわっとした。
「やめろくださいボケェェェェエエエ!!!!!!!!!!!」
「ぐえっ」
全力の拳を鳩尾に受けた変態は膝から崩れ落ちましたざまぁ。
登場人物紹介とかは全員出てきてからやります(多分)