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エスパーVSファンタジーワールド  作者: ススキノ ミツキ
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第八話 港町スルセットへのお使い 前編

・・・それから一週間が経ち、カインとフィアラに突然話があるとディランが並べられた夕食を前に話し出した。


「二人にお使いを頼みたいんだ。私の幼馴染でボルナスという名の男が居るんだが、10日後結婚して奥さんと魚介系の料理店を始めるという内容の手紙が来たんだ。」


 フィアラが覚えの無い名前を聞いて不思議に思う。


「聞いた事が無いけど・・?」


「昔、この町に住んでいたんだけど父親の仕事の事情で引っ越したんだよ。」


「そうなの。」


「ああ。それでな・・御祝いの品としてドゴリ猪の干し肉と、この町伝統の結婚式に贈るファブ鹿の角で出来た飾りを渡したいんだがタイミングの悪い事に5日後、年一回の狩り師集合会議がある。」


「どうするの?」


「出来れば二人で私の代わりに行って欲しい。」


「ダメよ、お父さん!大事な結婚式なのに行ってあげないと!」


「そうしたいんだが・・狩り師の集合会議は、これからの生活にも重要な会議だからな。ボルナスには悪いが落ち着いた頃、また改めて会いに行こうと思っている。」


「そっか、でも会った事がない私達が行っても・・。」


「いや、フィアラは覚えていないだろうが会ってるぞ。フィアラが、かなり小さい頃だけどもな。手紙にもフィアラの成長を楽しみにしていると書いてたからな。」


「そうなの・・分かった!じゃあお父さんの分も御祝いしてくるね。」


「ありがとう。」


「カイン!フィアラの護衛を頼んだ。」


「分かりました。」


「ボルナスは、ここからずっと東にある港町スルセットに住んでいる。住所はここに書いてあるから町に着いたら検問所で聞いてみてくれ。」


「うん、分かった。取り敢えず東方面の定期馬車に乗ればいいの?」


「ああ、丁度明後日の朝に便がある。丸一日馬車に乗ったらコルライデ町に到着だ。あとはマルロア山脈を越える為に二か所の簡易宿舎で泊まる必要があるな。その次の日、山を越えて平野を東に向かうと夕方には到着するだろう。」


「学校はどうするの?」


「明日、一緒に登校して私から先生に説明しておくよ。」


「そう。」


 フィアラがカインと旅行出来るとあって笑顔になっている。


「おいおい、やけに嬉しそうだな。カインと旅行出来るのがそんなに嬉しいのか?留守番する父さんにとっては複雑だな・・。」


 フィアラは顔を赤くして反論した。


「何言ってるの!?お父さん!コルライデの町は大きいし買い物出来るのが嬉しいの!」


「そういう事にしておくか。」


「もうっ!」


 夕食を食べながら話していたがフィアラはお腹が一杯と一番先に席を立ち、沸かしていたお風呂へ向かう。ディランがフィアラが離れた所でカインに話す。


「カイン・・フィアラには心配させたく無いから言えないが、東方面の道中で最近人が行方不明になる事件が起きている。これを渡しておくからギルドで優秀な護衛を雇ってくれ。」


 ディランが50万ディアを紙幣で出した。


「護衛の相場は、かなり高いみたいですね。」


「まあ、そうだな。往復となると長距離だし優秀な護衛程、依頼額が増えるからな。せめて4つ星以上の二人の護衛でギルドに依頼してくれないか?」


「4つ星・・?」


「そうか・・。カインに説明した事なかったな。世界中に何でも屋と言われるギルドがあるんだが仕事が出来る人間にはギルド本部が評価の星を増やしていく。なんせ、この世界には魔物もいるし危険が多い。いきなり普通の人間に危険な仕事をしろと言っても只の自殺行為だからな。貢献度によりギルドが発行したギルド証に星を増やし、依頼の内容に依っては星の数で依頼制限を掛けている。」


「・・4つ星は、どのくらいの強さですか?」


 この世界の基準では城の正騎士クラスで4つ星、5つ星は3級迷宮二つ踏破と6つ星は2級迷宮の三つ踏破、7つ星は一級神の迷宮を五つ以上の踏破者、8つ星は伝説の最高難度特級迷宮踏破者である。最高の8つ星で有名なのは先々代ロンダルフィア帝国皇帝やファラーシャル聖国の現司祭女王ロルセラーナ、冒険者ギルドの最高管理者で現グランドギルドマスターがそれに当たる。


「お城の訓練を重ねている兵士ぐらいだな。定期便の馬車にも護衛は付いて来るが、3つ星が2人しか居ない。追加で出来れば、4つ星冒険者二人を護衛で雇いたいんだ。」


「そうですか。」


「勿論、カインも強い事は分かっているが親心も分かってくれ。狩り師見習いで体力も付いているとは言え、旅には魔物も多く出る。フィアラは勿論、カインも大事な家族だからな。」


「・・ありがとうございます。」


 カインは、それを聞いて少し申し訳なく思っていた。今までの大切に思っていた家族や友達は、殆ど殺されてしまった・・。身近な者が増え、殺される毎に心が苦しく!・・切なく!・・悲しく!幾度となく、心が崩壊していく・・。だが、守るものが存在する限りカインは闘って来た。諦めたくなかった。出来る限り心を殺して敵を葬っていく。気付くとカインは、グラントとリアナ以外の友や心を許す親しい者も作らなくなっていたのだ・・ディランやフィアラにも日頃の感謝はしているが同様であった・・。


「明日、学校の終わりにフィアラとギルドで雇ってくれ。私は結婚式に渡す鹿の角加工をしておくから。」


「分かりました。」


・・・翌日の夕方ごろ、カインとフィアラはギルドへ向かった。田舎の町のギルドらしく、それ程大きくない。西部劇に出てくるような酒場の雰囲気を持つ建物に着いた。


「ここよ、カイン。」


「ああ。」


 中に入ると木の長机と椅子が20程あり、町の若い女性が一つの机の周りに集まり黄色い声を上げている。他の机に座っている男性達は、不貞腐れながら酒を飲んでいた。フィアラが何事かと近くに座って飲んでいたディランの狩り師仲間に声を掛ける。


「ボドさん、何かあったんですか?」


「ん?ああ、フィアラ。あれな、お前も聞いた事があるだろうが7つ星のメアロス率いる冒険者パーティーが来ているんだ。それで、あんな騒ぎだ。あんな優男の、何処がいいかね・・。」


 7つ星のメアロスは22の迷宮を踏破し、その中の5つは一級神の迷宮であった。その他のメンバーも有名な7つ星冒険者である。


 メアロスは金髪のロン毛で顔もスラリとした鼻筋も通り、アイドルの様に整っている。神との契約は雷雲を司る一級神レスヴェリと洪水を司る一級神マオンジャ、更に三級神のステイリアと契約していた。腰に一級神迷宮宝の愛剣雷系ゼッケアソードを携えている。他のメンバーはクレイリア神と暴風を司る1級神バースヴァルと契約している回復役の女性ネア、2メートルを超す巨体で高山を司る一級神と契約し背中にハンマーを背負うビドン、槍を持ち火柱を司る二級神ボーデルガンと契約している執事風の魔法衣を着た黒い顎髭の細身の男モラエ、最後の一人は真っ白な高級魔法衣を着て顔もローブに付いたフードを目深に被っている正体不明の女性が一つのテーブルを囲んでいた。


 4人共有名であるが正体不明の女性ロレアだけは世間にメアロスメンバーとして知られていない。実力的にはメアロスメンバー全員がロレアを一番の実力者と認めている。一級神迷宮で、どれ程の危機的状況にも拘らず最終的に何とかしてしまうロレアの姿が何度もあった。寡黙で自身の事をあまり語らないがメンバーからは、今までの行動で優しい慈悲深き女性と思われている。具体的には稼いだお金の殆どを訪ねた孤児院へ寄付したり、病気や怪我をした者を癒しているからだ。


 5人は机に座り、この町名産の茶色で透き通りスッキリとした味わいのモーロというお茶を飲んでいる。熱いお茶が苦手なビドンがお茶を冷ましながら口を開いた。


「まったく!あの爺さんには困ったもんだ!あの爺さんに護衛なんか必要ねぇだろ!俺たちより強ぇんだから。もう酒呑んでいいか!?」


その発言に仕方ないといった顔でメアロスが応えた。


「一杯だけにしてくれ。まだ依頼途中だからな。」


「ありがてぇ!ねぇちゃん!出来るだけ、でっけぇ器に一番強ぇ酒をくれ!」


 近くで仕事もそぞろにメアロスを眺めていたお盆を持つ女性店員にビドンが話しかけた。メアロスが眉をひそめて話す。


「おい!」


「メアロス!固いことを言いなさんなって!酒飲んでも、ちゃ~んと仕事はするって!」


「仕方ない奴だな・・。」


 カインとフィアラは女性たちで混みあっている為、依頼カウンターまで近づけない。メアロスを狙って近づいていた女性がフィアラを同じくメアロス狙いだと勘違いして肩で突き飛ばす。


ドン!


「キャッ!」


 押されたフィアラをカインが怪我をしないようにと腰を支えたが、フィアラの左手が酒を飲んでいた巨体の冒険者の顔に軽く当たった。男は怒り顔で酒をダンと音を立ててテーブルに置き、勢いよく立ち上がる!


「おい!じょうちゃん!この剛腕ドンドルに喧嘩を吹っ掛けるなんて良い度胸じゃねぇか!!」


 メアロスメンバーがその大声で気付き、カイン達の方を向いた。


「ごめんなさい!」


 フィアラが頭を下げて謝るも、男は平手を振り上げフィアラを目掛けて振り下ろす。


ブオッ!バシッ!


 カインが振り下ろされた腕を涼しい顔で止めた。


「謝っているだろう。あんたの度量に免じて許してくれないか?」


「なんだぁ!おめぇが相手してくれんのか!?」


 それを聞いてドンドルと同じく巨体のビドンが立ち上がろうとするが、いつの間にか右手に小さな魔法陣を発動しているメアロスがそれを止める。


「ビドン、大丈夫だ。」


「何だよ?いつもならオメェが真っ先に止める癖に。あのままじゃあ、あの小僧やられるぞ。」


「いや・・あの子供は強い。心配ないだろう。」


「ん?あの子供がか?オメェのステータス鑑定魔法か?」


「そうだ・・あの子供は鑑定してもキャンセルされて全く分からない。あの身体の大きな男の方は分かるが・・。」


「だったら!強いかどうか分からねぇだろうよ!」


 ビドンの発言にネアが反論する。


「これだから脳筋は・・。」


「何だとぉ!」


「メアロスのステータス鑑定魔法をキャンセル出来る人間がこの世界でどれだけ居るのか分かってる?」


「そりゃ、殆ど居ねぇだろうな。メアロスのステータス鑑定魔法は熟練されて名人級だ。普通なら何となくしか分からない情報までも読みとれるんだからな・・あ!」


「ようやく分かったようね。余程強い防御魔法か妨害魔法、若しくは異常なまでの魔法耐性でも無ければメアロスのステータス鑑定魔法を防ぐ事は出来ないって事。」


「そうか・・何者だ?あの小僧・・。」


 メアロスメンバーの目線がカインに注がれる中、ロレアだけはフードの下からフィアラを見つめている。カインは腕を持った手に少しづつ力を込めていく。


ミシ・・ミシミシ!・・。


 ドンドルの剛腕が悲鳴を上げる!ドンドルは出せる力を全て注ぎ、カインを吹き飛ばそうとしたがピクリとも動かない!普通の者なら片腕だけで5人吹き飛ばせる自信があったが、まるで巨大な岩を相手にしているかの如く動かず、ドンドルの表情には驚きと痛みによる歪みが生じている。


「!?い!良いだろう!優しい俺様だ!・・か!ら・・!!~~!な!もぅ!どっか行ってやっから!・・放しやがれ!」


 狩り師仲間ボドと農家のタンサリオが止めようと近づいていたが、ドンドルがカインの仲裁を受けた所を見てテーブルに戻っていった。ネアは医療診断鑑定魔法でドンドルの腕を見る。


「我が名はネア。治癒と回復の一級神クレイリアに願う。あの男の身体の状態を見せて・・アキセス。」


「・・あれ完全に折れてるわよ。我慢強い事ね・・。」


 ビドンが驚きながら話す。


「おいおい!あの細ぇ身体で、どうやったらそんな真似が出来るんだ?魔法か?」


 そこで、ギルドのカウンターから一人の立派な白髭を生やした老人がメアロスメンバーに近づいて来る。集まっていた女性たちが何かに操られたかの様に道を開けていった。


「やぁ!やぁ!待たせたの!皆、今日はこの町で泊まる事となった。宿は、この町のギルドマスターが用意してくれるそうじゃ。今日は、もう自由にして良いからの。」


「ありがてぇ!ねぇちゃん!酒をじゃんじゃん!持ってきてくれ!つまみもな!」


 ネアが席から立ちあがる。


「私は先に上がらせて貰うわ。この町で薬の材料を購入しておきたいから。あれ?ロレアは行かないの?」



「ええ。もう少しだけ、ここに居ます。」


「珍しいわね。いつもは誰よりも早く先に出るのに。」


 ネアがギルドを出ていくがロレアはカウンターに辿り着いたフィアラを見ている。ギルドのカウンターに立っていた20代の優しそうな男性はフィアラに話し掛けた。


「おや?フィアラがここに来るなんて珍しいな。依頼かい?」


「うん。明後日からスルセットへ行くつもりなの。そこまで行って帰ってくる迄の護衛を4つ星二人の冒険者に依頼したくて。」


「なるほどな。だったら、食事と移動費込みで42万ディアぐらい出せば引き受ける奴が出てくると思うぞ。ただ、急だからな・・。」


 カインが横からお金の入った布袋をカウンターに置く。


ジャラ。


「ここに50万ディアある。これで出来るだけ優秀な護衛を頼む。」


「ん?確か君はディランさんの所で狩りを手伝っている・・?」


「カインだ。」


「ああ、そうだったな。カインだったな。よし分かった。50万ディアもあれば何とかなるかも知れない。頑張って見つけてみよう。」


・・・そして旅立ちの日の前日、ギルドへ二人は向かった。ギルドに着いてカウンターに向かうと、依頼した男性がこちらを見ながら手を合わせて謝っている仕草をしている。近づくと男性が話し出した。


「すまん!実は依頼を受けてくれた2人が体調を悪くしてね・・。返金するからコルライデの町で雇ってみてくれないか?」


「そうなんだ・・分かりました。」


「悪いな、フィアラ。」


 カインは布袋に入ったお金を受け取る。その姿を二人の人相の悪い男が、まじまじと見ていた。


--見られている・・二人と・・一人・・・。


 カインは怪しい視線を感じつつ、振り向きも何もしない。


--二人は大した事ない・・問題はあいつ。


 カインが感じ取っている方向に、ギルドの建物の柱に隠れて白いローブの女が見ている。メアロスパーティーの一人のロレアであった。ロレアは暫くすると、何もなかった様にギルドをゆっくり出ていく。


「フィアラ。」


「ん?何?」


「悪いが少し用事が出来た。ここで動かずに待っていてくれ。」


「うん、お父さんが家で待ってるから早くお願いね。」


「ああ。」


・・カインがギルドを出るとロレアの姿は既に見えない。カインはロレアの生命エネルギーの波長を感応ESPで調べた。


--500mぐらい先の林か・・テレポート。


 ロレアは魔法を使って身体能力を上げ、町の人達が気付かない程の俊敏さで家の屋根を飛び移りながら町の外れの林まで移動している。小さな森に到着して大きな木に凭れ掛かり、腕を組んで何かを考えている様子だ。


「何故、フィアラを見ていた?」


・・カインはロレアの凭れ掛かる木の後ろに瞬間移動した後、ロレアの背中越しに話し掛けた。ロレアはかなり驚いて後ろに振り返りながら、一瞬で5メートル程飛び退いた。カインが木の裏から、ゆっくりと姿を見せる。


「・・あなた?」


--あのの横にいた・・?


「早く答えろ。」


「何の事?」


「俺には、お前が見ていたのが分かっている。」


「どうして?魔法かしら?」


「どうでも良い。それよりも答えろ。」


「私より他を気にした方が良いわよ。」


「あの2人なら問題無い。雑魚だし、一瞬で対処可能だ。俺は、より危険な方を先ず消す。」


「そう・・分かってるのね。それよりも物騒な話ね。人を見ただけで危険と判断するなんて。」


「単に見ていた訳では無いだろう。早く答えろ。」


「・・答える義務はないわ。」


 ロレアが歩こうとした所をカインは素早く移動して、剣を突き付ける。ディランに護身用に借りた安物の鉄剣であった。腰に着けた魔法鞄の鞘に入れていた物を出している。


カチャ。


「あなた、私とやり合って勝てるつもり?」


「答えろ。」


「問答無用って訳ね。でも私には勝てないわよ。」


 ロレアは白いローブを宙に巻き上げる。


バサッ!


「我はロレア。深き森を司る2級神バロフォルに願う!あの者を縛りつけて!アキセス!」


 ローブが少し降りて視界が開けた場所に、右手をカインへピンと伸ばし手の平を広げている。手の平の前には直径1メートル程の魔法陣が現れていて、既にエネルギーが注がれた後であった。一瞬にして複雑な魔法陣に注ぎ込むロレアの実力はメアロスメンバーから実力一と認められるだけある。周りの木々が少し揺らぐと、枝という枝が伸びてカインを絡め取っていく。カインは容易に避ける事も出来たが動かない。自身の意思で相手の罠に掛かり、それを簡単に破る事で大きな実力の差を見せつけ、情報を引き出そうと言う狙いがあった。カインの常套手段である。


・・カインの身体は葉の付いた枝がいくつも重なり、蓑虫状態となっている。この状態になると、かなり力の強い魔物でも動けなくなるだろう。しかし、カインの身体にはサイコバリアが薄く張られていて、枝はバリアを締め付けるのみであった。カインの表情は変わらず、ロレアを冷静に捉えている。


「じゃあね。」


 カインが動けなくなっていると思っているロレアは、森の奥の川近くに建てられた孤児院を訪ねる為にカインを残し去ろうと踵を返した。


--念動力ESP。


ブチ!ブチ!ブチブチ!バン!!


「え・・?」


 ロレアは異常な音に反応して振り返るとそこには、雁字搦めになり動けなくなった筈のカインが完全に開放されている。柔軟な上に魔法で強化されていた枝は千切れて地上に落ちていた。


「魔法?違うわね。魔法を発動したら私が反応出来ない筈が無い・・そう。あなたは、ゾルデゴーグだったの。こんな所まで追って来るなんて。」


「ゾルデゴーグ?なんの話だ?」


「知らばっくれても無駄よ。枝を切った力は、ラルファルクス王国で使用されていた特殊な神秘の力よね。一族と両親の仇を取らせて貰うわ!」


 ロレアの目が憎悪の目に変わる!


「我はロレア!暴風を司る1級神バースヴァルに願う!強き風を纏め、風刃により彼の者を切り裂いて!アキセス!」


 ロレアの右手の前に複雑な魔法陣が現れて、他の魔法使い達が見れば有り得ない程の速さでエネルギーを注ぎ込んでいる!1級神バースヴァルの魔法を使用可能とするベテランの魔法使いでも、最低50秒程の時間が掛かるものだが僅か15秒で魔法は構築されて放たれる!空気を圧縮した巨大な鎌鼬が次々と魔法陣より放たれていく!目に見えない鎌鼬がカインを襲った。


--感応ESP。


 カインは培って来た戦闘勘で感応ESPを使い、高速で飛んで来る目に見えない鎌鼬を鋭い体捌きで避けていく。


「!?魔法無しで、風刃が見えるの!?」


スパッ!スパッ!スパッ!・・スパッ!


 カインは避けて、いくつもの大きな風刃が大木を切断し簡単に、倒れそうも無い大木が次々と倒れて行く。


ド!ドドン!ズドドン!


「我はロレア!暴風を司る1級神バースヴァルに願う!我の身体に風を纏い給え。アキセス!」


フワリ。


 ロレアが身体強化系の魔法を構築すると、ロレアの身体が少し浮き上がる。腰に挿していた大き目の短剣を抜き取り、一瞬で数哉に迫る。風の如く高速移動しながらカインへ近付くが、カインはその短剣を人差し指と中指の間に挟み、ロレアの突撃を止めてしまう!


パシッ!


「!?水晶姫に似た少女まで、誘き寄せる罠として用意する卑怯者にしてはやるわね!私の姉さんは何処なの!私達一族が守っていた水晶姫も返しなさい!!私の力が、この程度だと思ったら大間違いよ!」


 カインは、それを聞いて自らが思い違いしている事に気が付く。直ぐ傍に居る、未だ実力を隠しているロレアへ否定しようと話し掛けた。


「ん?ちょっと待てッ!あんたはフィアラを狙っていたんじゃないのか!?俺は本当にゾルデゴーグなんて知らない!」


「・・フィアラ?あの少女の名前かしら?信じられないわね!それじゃあ、あの特殊な力は何だって言うの!・・もし、その話が本当なら服の袖を上げてアナタの左腕を見せてみなさい!」


「左腕?・・これで良いのか?」


 カインはロレアの短剣を放して左腕を見やすい様に上げて、袖を右手で捲った。その腕を見たロレアの顔から殺気が抜けて、ロレアは短剣を下ろす。


「・・こんな事もあるのね。ゾルデゴーグ教団以外のラルファルクス王国の民は、もう居ないと思ってたけど。こんな田舎町で同郷の人間と会えるなんて・・。」


「同郷?ラルファルクス王国・・?」


「あなたは知らない様だけどラルファルクス王国は遥かに遠い北西の3000年程前に滅びた王国よ。きっと、あなたの先祖も滅びる前に逃げる事が出来たのね。私はラルファルクス王国で当時水晶姫を警護していた一族の末裔。私は警護の当主では無かったから、全てを知っている訳では無いけれども・・当時、何代目かのラルファルクス王国の王様が魔法とは異なる神秘なる力を使えたと伝えに残ってるの。そして、その王様はその神秘なる力を王国の多くの民達に教えたらしいわ。また、その王様は優れた学者でも有り、魔法や神秘なる力を増幅出来る聖遺武具や聖遺道具を生み出した。その中には、とんでもない増幅器も有って使えば世界を滅ぼしかねない程の力を持つ物も有ったらしいわ。ラルファルクス王国の一部の王族達や貴族達は、それを利用して世界の全てを手に入れようと考えた。それで当時、王国内で権勢を誇っていたゾルデゴーグ教団と結託して王国の転覆を実行したの・・。」


「・・・。」


「それを防ごうとした王様は、強力な聖遺物を何処かに隠した。王様と抵抗していた一族はみんな殺されて、更にその隙を見て聖遺物を求め押し寄せて来た他国の軍隊に王国までも潰されてしまった・・けれども、水晶姫だけは別の場所で私達一族が警護していたから助かったの。」


「水晶姫?」


「そう。水晶姫は、その王様の娘。」


「・・?」


「私は姉さんと違って正統後継者じゃ無かったから、詳しくは分からないけれど。フィアラだったかしら、たしかあの。」


「ああ・・。」


「水晶姫に、そっくりなの。違う所があるとすれば年齢だけ。水晶姫は美しい20歳ぐらいの女性よ。」


「・・何故、水晶姫と呼ばれているんだ?」


「大きな水晶の中で眠る女性だから、私達一族はそう呼んでいたわ。今は何処に有るのか分からないけれど。」


「どう言う事だ?」


「2年前に私達家族と一族が襲われた際、姉と共に消えたの。私は襲って来たゾルデゴーグ教団に誘拐されたと思っている。世界各地を周って情報を集めているけど今の所、手掛かりは掴めてない。この女性なんだけど、貴方は何か知らないかしら?」


 ロレアは、首に掛けたネックレスを外してカインへ差し出す。ネックレスに付いたブローチをカチャリと開けてカインへ見せた。そこには、ロレアに少し似た金髪女性の写真が入っている。


「いいや、見た事はない。」


「・・そうよね。ラルファルクス王国さえ知らないのだし。でも、ゾルデゴーグ教団には気を付けなさい。あなたの特殊な力を見れば、世界を手に出来る強力な聖遺物の手掛かりとして襲われかねない。ゾルデゴーグの左腕には黒い炎が入れ墨されているから、その者の前では決して力を使用しては駄目。あなたも、そこそこ強い様だけどゾルデゴーグ教団は、聖遺物を携えた強力な力を持つ者も居る。気を付けなさい。」


「分かった。」


「それじゃあ、私は行くわ。元気でね。」


「ああ・・。」


--この世界にもエスパーが存在するのか・・。


 カインはギルドにいるフィアラを迎えると、ディランの待つ家に戻った。


「そうか・・雇えなかったのか。心配だが、結婚式に遅れる訳にはいかない。コルライデに着いたら、直ぐにギルドに行って雇ってみてくれ。」


「分かりました。」


・・次の朝、鹿の角の飾りが入った大きなリュックサックを抱えるカインと、ポシェットを持つフィアラが町のバス停ならぬ馬車停で馬車を待つ。他にも、馬車を待つ者が居て兄妹を連れた30代の夫婦に50代の商人らしき小太りの男性が一人と、20代のヒョロっとした男性が共に待っていた。


ガラガラガラガラ。


・・民宿の前に10人乗りの馬車が止まる。運転席には革鎧を着て剣を腰に挿した者が2人座っている。2人は、馬車の運転手兼護衛の様だ。頭の後ろには大き目の鉄の丸盾が飾ってあり、直ぐに取り外して使用が出来る。一人が馬車から降りて、ダルそうに乗れと欠伸をしながら、左手の親指で荷台を何度も指している。


 最初に小さな子供が走って馬車の後ろへ周った。夫婦が追い掛けて荷台に上がろうとする子供に助け舟を出している。お父さんが兄をお母さんが妹の脇に手を入れて持ち上げている。全員乗った所でカイン達も最後に乗り込んだ。荷台には両脇に木の長いベンチが有り、布が引かれている。それ程柔らかい訳では無くお尻が痛くなりそうだ。全員、それを知っているのか荷物からそれぞれ座布団らしき物を出している。カインもディランから聞いていた為に、足下に置いた大きなリュックからカインとフィアラの座布団を出して、それに座った。布の窓が幾つも有って、上からぶら下がる紐を引っ張ると布の1番下に編み込んだ細い木が持ち上がり外を眺める事が出来る。今の時期は馬車で走ると少し肌寒く、開かれた窓は無い。子供達が開こうとするが母親がそれを止めた。


「開けたらダメよ。みんなの迷惑になるから。」


「「えぇ〜〜〜!」」


「だめだよ!我が儘言うなら、もうお祖父ちゃんとお婆ちゃんの所に連れて行けないな。」


 父親がそう話すと、納得はしていない様だが子供達が渋々言葉を返した。


「「・・はぁ〜い。」」


 フィアラが、それを微笑ましいと見ている。50代の商人は鬱陶しそうに眉間に皺を寄せた。20代のヒョロっとした男性は優しい笑みを子供達へ向けている。カインはフィアラの横に座り、誰も見ずに目を閉じていた。


・・・ガラガラガラ。


 あまり馬車の乗り心地は良く無い。慣れている大人達は大丈夫の様だがフィアラと子供達は、揺れで気分が悪くなっている様であった。


「気持ち悪いよぉ〜・・・。」


 顔色の悪い子供達に挟まれた母親が、心配そうな表情で両腕で支えている。フィアラは立ち上がり、その母親に近付くと話し掛けた。


「子供達は大丈夫ですか?良かったら、魔法で治させて下さい。」


 母親はフィアラの青い顔色を見て答える。


「有り難いけれど、あなたも・・。」


「自身を治せる魔法は、まだ覚えてないんです。でも、他の人なら治せますから。」


 フィアラが、何とか笑みを浮かべて話すと母親は申し訳なさそうに話す。


「じゃあ、お願い出来るかしら。」


「はい。」


 フィアラは右手のひらを見せる様に前に出す。


「我はフィアラ。癒しを司る3級神ステイリアに願う。酔いを収めて下さい、アキセス。」


 フィアラの右手前に手の平サイズの魔法陣が現れて、フィアラがエネルギーを注いでいく。魔法陣が少し光ると、白い柔らかな波動が子供達を包み込んだ。子供達の顔に赤みが差していく・・。母親の両膝を枕にした子供は安らぎの表情で寝ている。


「これで大丈夫だと思います。」


 フィアラがそう話すと母親が頭を下げて答え、父親も頭を下げている。


「ごめんなさいね。アナタも調子が悪そうなのに。」


「いいえ。」


ガタガタ。


 馬車が小石を踏んだ為に、少し大きく馬車が揺れた。フィアラは車酔いと揺れた馬車により、蹌踉めく。


「キャッ!」


ハシッ!


 子供達の父親が支えようと立ち上ったが、既にフィアラの腰は立ち上がったカインの腕に支えられていた。カインはフィアラを後ろから支えつつ、声を掛ける。


「フィアラ、大丈夫か?」


 フィアラは直ぐ傍にあるカインの顔をチラリと見て、俯き加減になり顔を赤くすると、返事をした。


「うん・・。」


 寝ていた妹がフィアラの声で目を覚まして、立ち上がろうとした父親へ話す。


「お父さんは必要ないよ。お姉ちゃんには専用の騎士様が、付いてるんだから。」


「そうだな。」


 それを聞いて更に顔を赤くしたフィアラが素早く席に戻った。カインも席へ戻りつつ話す。


「良かったら肩を貸すから、寝たらどうだ?」


 顔を赤くしたまま、フィアラが話す。


「う!ううん!大丈夫!」


「そうか・・。」


感応ESP・・。


 カインは腕を組み、左側に座るフィアラへ感応ESPを使用した。


--バイタルは大丈夫そうだな・・催眠ESP。


 急激にフィアラは眠たくなり、舟を漕ぎだす。意識が途絶え、前のめりになった所でカインは肩に手を回して支え、頭をカインの右腕に凭れさせて、そっと寝かせた。


・・数時間後、運転していた者が声を大きく上げる。


「中継小屋へ着いたぞ〜。」


 馬車が止まり、荷台の幌の出入口が開かれた。辺りは既に暗く、後1時間もすれば真っ暗になると思われる。中継小屋の前には広場が有り、小川も流れていた。2人の運転手が手際良く中継小屋の周りに立つ松明入れに魔法で小さな火を灯していく。

 更に小屋の横にある薪で大きく三角錐を2つ作ると、それにも火を付けた。火は少しずつ大きくなり、周囲の空気を暖めていく。その周りに、それぞれが集まり切り株の椅子に座る。携帯食を落ちている枝に固定し、地面に突き刺すと焚き火で温めて夕食にするようだ。カインもリュックから白い布で包まれたドゴリ猪肉の燻製の塊とナイフを取り出す。猪肉には木の板が糸で固定されていてナイフで板をまな板代わりに切った。殆どの者は干し芋を温めていて、子供達が羨ましそうにカインの突き刺している肉を見ている。それに気付いたフィアラはカインへ話した。


「カイン、悪いけどもう2切れお願い。」


 カインは、フィアラの意図に気付いて答える。


「ああ、これで良いか?」


「うん。」


 フィアラはカインからドゴリ猪の干し肉を受け取り、子供達の前へ歩いた。


「はい。良かったら、どうぞ。」


 子供達は嬉しそうに母親の同意を貰う事を期待して振り向く。


「ちゃんと、お礼を言うのよ。」


「「うん!」」


 子供達はフィアラへ向くと、笑顔で干し肉を受け取る。


「「ありがとう!」」


 フィアラも笑顔で話す。


「どういたしまして。」


・・食事が終わると、それぞれ草の上に布を敷いて焚き火の前で暖を取りながら寝だした。運転手の一人は小屋に入り寝だす。交代で火の当番と、魔物や危険な動物の見張りを行う様だ。小屋に全員入れるスペースは無く、大人が3人寝れるスペースしか無い。子供連れの家族は大きな敷物を広げて父親と母親が挟む様に寝ている。他もそれぞれ荷台での移動で疲れ、既に寝ていた。カインは寒いだろうとフィアラを誘う。


「こっちに入った方が暖かいぞ。」


「大丈夫!寒くないから!」


「そうか?おやすみ。」


「おやすみ。」


・・動物や虫達の声と草むらや木々の音が重なる中、夜が過ぎて行く・・・。

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