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エスパーVSファンタジーワールド  作者: ススキノ ミツキ
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第七話 初めての迷宮 後編

 カインは次の階へ進む為、次から次へと部屋に入っては魔物を青銅剣で斬り伏せていく!そのスピードとパワーはステイリアから見ても尋常では無かった!数匹の魔物から飛んでくる魔法や牙、角等の攻撃を紙一重で避け一撃で葬り去っていった。ステイリアは半顕現状態でカインの後ろに守護霊の様に上半身を浮かべている。


{カイン!強っ!!速っ!!}


--「それよりステイリア、ハグレ神とは何だ?」


{・・この世界は偉大なある神様が創られたのだけれども我々もその時、同時に創られた。当時は一級神の上に、もっと力の強い特神っていう神様もいたの・・でも多くの特神達は大きすぎる力を人間の為に使おうとせず、人間を乗っ取り支配しようと考えた・・。}


 ステイリアがカインの後ろで飛びながら話している間も次々と魔物を倒しながら進んでいる!


{特神と契約を結べる強い力を持った人間が殆ど生まれなかったから、それも理由かも知れない・・。人間を乗っ取る事で特神たちは好き勝手な行動を始めたの。迷宮以外に魔物が出るのも特神達の仕業。又、人型の強力な魔物、魔族まで創りだしたわ。それを知った創造神様は特神達を神域の奥深くへ閉じ込めたのだけれど、それも長くは続かず異世界の悪神によって解き放たれたの。今も創造神様の創られた幾つかある世界のどこかに潜んでいて迷宮を乗っ取ったり、国通しの戦争の引き金を引いては人を苦しめようとしている。}


「・・・・。」


{人々を苦しめた事で閉じ込められたのを逆恨みしているみたい。ハグレ神っていうのは神域を追い出された神として人々が名付けたの。}


--「そうか大体分かった・・ではこの迷宮より下の階でどこに人が居るか分からないか?」



{カイン!今までの話を聞いてた!?危険なの!!早く外に出ないと完全に迷宮を乗っ取られたら生きて外へ戻れた人は居ないのよ!!それだけ強力な力を特神達は持ってる!それに!もっと深くに潜ると私も拒絶されて神域へ強制的に戻されちゃう!!}


「悪いが助ける奴がいてな。どうだ?」


{・・そうなの!?・・・困ったわね・・。}


--{カインだけ戻る様に言っても聞かないだろうし。}


{分かったわ!・・ちょっと待って。}


 ステイリアは右手の人差し指と中指を右のこめかみに当て目を閉じた。


{レーシャ!聞こえる?ステイリアだけど!あなたの迷宮の一つがハグレ神に乗っ取られようとしているの!ここに私と居るカイン以外の人間が何処に居るか分からないかしら!}


{・・・・9・・・か・い・・・・11・・・・・。}


{カイン・・ここの迷宮神であるレーシャにも殆ど分からなくなっているみたい。・・だけれど多分地下9階と11階って言ってたと思うわ!}


--「分かった、そこまで分かれば十分だ。」


 その時!カインの周囲が変化して禍々しい黒へと変色していく!


{ダメ!カイン!!思ったよりも浸食が速い!私ももう直ぐこの迷宮から飛ばされちゃう!!}


「後は任せてくれ。」


 ステイリアが薄くなり消えていく。


{気を・・・て・・。}


「さて、急がないとな。」


--千里眼ESP・・やはり靄が掛かっているか。テレポートESPを適当に行うと生徒たちを殺しかねない、走るしかないな。


 カインは刃こぼれや歪んで曲がりを起こした青銅剣を捨てる。サイコソードを生み出して残像を残したかと思うと消える様に走って行く!部屋に入っては魔物達を次々と切り捨てていった。魔物達も迷宮の変化と共に強化されていたが全くそれを感じさせない!


ズバッ!バシュ!・・・・・・ゴ!ドス!


・・カインは9階に到着して生徒である生存者を感応ESPで調べ出す。


--ここまで来れば分かる筈!・・あそこか!


 地下9階の分岐個所を二度右へ曲がった部屋から人のオーラを感じ取った。急いで部屋の前に辿り着くと部屋の中から女性徒の声が聞こえる。


「誰かぁぁ~!!お願い!助けて~!!ドネアスしっかりして!死んじゃあダメ!!」


 カインが部屋に入るとモルアという女性徒以外、5人の生徒が床にグッタリと倒れていた。ドネアスという男子生徒は仰向けになり瀕死の状態で腹部からドクドクと大量に血を流している!モルアは隣りで傷を塞ごうと必死に回復魔法を掛けているが全く効いておらず血が止まらない!その間にも三角コーンを小さくした様な角を持つ犬型の魔物デルドレッド二匹が牙を見せモルアへ襲い掛かろうとしていた。カインが部屋に入るとモルアがこちらを見て叫んだ!


「!!?グロブ先生助けて!!急に魔物が強くなって皆が!ドネアスもお腹から血が一杯出て止まらないんです!!」


 カインは念の為、先生であるグロブに姿を変えモルアに見せている。黒く染まったデルドレッド二匹がモルアを殺そうと走り、飛び跳ねた!カインはモルアの前に走り込み、両手で二匹の頭の角を掴む。そのままモルアの前を通り過ぎ、回転して一匹のデルドレッドを部屋の壁に投げ飛ばす!更に回転するともう一匹を壁に激突しているデルドレッドへ追いかける様に投げた!


ドン!ドス!!



 見事に先に壁に激突した一匹を貫通して突き刺さり一匹は動かなくなる。二匹とも壁に釘付け状態となりモルアがグロブの流れる様な動きを見て驚く!


「凄い!先生!?」


--グロブ先生ってこんなに強かったんだ!!?皆助かるかも!!


  カインはモルアに近付く。


「モルア、ちょっと失礼するよ。」


 カインはドネアスの横に座り、お腹の出血部に右手を近付けた。感応ESPと透視ESPを併用して出血個所を探していく。


--3か所か・・サイコバリア・・これでよし。暫くは持つだろう。


 カインが出血した血管をサイコバリアで包み出血を止めるが、それを見てモルアが再び驚く。


「え?血が止まったの??先生が魔法を使った素振りなんて全く無かったのに・・・。」


 そうしていると一匹のデルドレッドが角が刺さったまま暴れ、壁と仲間の身体から角を抜いて床に降りた。床に降りたデルドレッドの角は血で生々しく赤色に染まっている。再びカインへ飛び掛かろうとするデルドレッドへカインは立ち上がり右手を向けた。


「我が名はグロブ!土地を司る3級神、グラルドグ神に願う!我が敵に石飛礫を!」


 カインはグラルドグ神と契約していない。地面に落ちている小石をサイコバリアで包み、空中に浮き上がらせた。それをデルドレッドへ飛ばしていく!勿論、魔法陣も出ていない。


「先生!そんな石飛礫じゃアイツに絶対効かない!!」


 強化された魔物にカインが石飛礫を飛ばすのを見て、半ば抗議する様にモルアは叫んだ。だがモルアの予想は外れ、次々と飛ばされた小石がデルドレッドを貫通して穴だらけに変えていく!・・そしてデルドレッドはバタリと横たわった。


--え?どういう事!?何をやっても全く効かなかったのに只の石飛礫で一瞬にして倒すなんて・・・。


 カイン扮するグロブがモルアに振り向く。


「モルアさん。」


「は!はい!」


「今からあなた達を安全な場所に移動させます。気絶してる人を全員集めますので一人づつ手を握らせていって貰えますか?」


「はい!先生!」


 カインは全員を軽々と持ち上げ並べて寝かせた。モルアは何をするのか気になりながら、グロブの強さを信じて言う通りに手を繋がせていった。


「モルアさんは先生の手を握って眼を閉じて下さい。」


「はい。」


--千里眼ESP・・駄目だな、外が見えない。やはり迷宮は異世界か・・迷宮外に跳ぶのは無理だな。ならば一階は?よし!まだ浸食されてない!


--テレポートESP!


「モルアさん、眼を開けて良いですよ。」


「ここは・・?」


「迷宮入り口前の通路です。」


「え!!?どうやってここに!?」


「それより早く他の先生たちに、この異常事態を知らせて下さい!私は他の生徒達を探します!」


「はい!」


--どうやって、ここまで移動したの!?


 モルアは不思議に思いながら迷宮を出て行く。カインはモルアの視界から離れた所から、以前いた場所を思い出しテレポートを行う。移動した場所は少しだけ位置がズレていたらしく床が削れている。直ぐにそこから11階を目指して走り出した!・・

 モルアが出ると既にフィアラ達が手分けして異変を生徒たちに伝え、それを更に伝言しデルドアの班以外は避難を終えていた。迷宮の部屋は出口側から入ると魔物が消失する。それを利用して素早く避難していた。モルアが外に出るとグロブが話し掛けて来た為、困惑した表情となっている。


「モルアさん!?他の班員は!?」


「え!!?グロブ先生!!?何故ここに!?」


「混乱されているのですか!?」


「・・??いえ、迷宮の入り口に倒れていますけど・・・。」


「大変です!!モストリオ先生!!」


「ええ!行きましょう!!」


 グロブは近くに居た教師であるモストリオと共に迷宮へ入って行く。入り口付近の通路で倒れている生徒を重傷の度合いで一人ずつ運んで行く。


・・・一方クラウドはデルドアの居る部屋の前まで辿り着く寸前であった。


「ハァ~~!!回転斬り!!」


ガンッ!!


「グァッ!!・・。」


 デルドアが放った渾身の回転斬りを剣であっさりと弾き飛ばされ、吹き飛び転がっている!


「くっそ!強ぇぇなぁ!!」


 デルドアは回転しながら勢いよく立ち上がり剣を構えた!デルドアの相対している魔物は下半身が馬のリビングアーマー系の魔物で通常のリビングアーマーよりも機敏性が良く強い!更に迷宮変化の影響も受けて鎧も肌も闇の色に染まり、強くなっていた。他の生徒たちは恐怖で部屋の隅に腰を抜かして動けない!


「オッラァ~~!!」


カン!カン!キン!!ドス!


「グァ!!」


 再度デルドアが連続で剣撃を放つが全て受け止められ前足で腹を蹴られて吹き飛ぶ!


「・・まだ・・ま・・だ・・・ゴホッ!・・ぐ・・・・。」


 デルドアは地面を転がった後、俯せに倒れて血を吐き意識を失った!!そこに剣を構えたリビングアーマーが止めを刺す為にゆっくりと近付いて行く!振り上げた剣をデルドアへ突き刺そうと床に向け振り下ろした!!


ガン!!


「選手交代です。」


「「グロブ先生!!」」


 その声に生徒二人が振り向き反応した。カインは部屋に入るなり下に落ちていた石を振り降ろされた剣に蹴り飛ばすと同時に念動力で誘導し当てている!標的から逸れた剣は床に刺さっていた!


--デルドアの状態が悪そうだな。


 カインは右手を生徒たちに向ける。


「貴方達は休んでいなさい。」


 生徒たちは感応ESPを応用した催眠ESPでバタリと眠り出した。リビングアーマーは立っているカインを標的に変え、走り出す!


「お前は邪魔だ。」


 カインは生徒に向けていた右手を今度はリビングアーマーに向けると、リビングアーマーの身体が浮き上がった!リビングアーマーは必死に足を動かしているが地面から浮いている為、何も出来ない!カインが開いた右手を閉じ握り締める・・と同時にリビングアーマーの上半身が形を変え凹み、潰れていった!


ガシ!メキ!メキ!・・・ドサ!カランカラン!


 馬の部分と潰れた鎧が床に落ちて音を立てる。カインはサイコソードを消してリビングアーマーの落とした剣のカットラスを拾い上げサイコバリアで包んだ。無駄なエネルギー消費を減らす為である。デルドアを担いで他の生徒たちが重なり合い倒れている背中に触ると迷宮の入口へテレポートした。その瞬間!最後の浸食かの様に迷宮の扉が黒く染まる!迷宮の外ではカイン達を心配した生徒達が騒いでいた!扉の前でルセナが叫ぶ!


「あ!カイン君が!?ダメェェ~~~!!」


 ルセナが慌てて扉を拳で叩き続ける!


ドン!ドン!ドン!ドン!!・・・・・!!


「ひ!ら!けぇぇ~!!」


ドン!ドン!・・・!!


 ルセナが扉を開けようと他の生徒が持っていた盾を奪って取り上げ、それを更に叩き付ける!


「貸して!!」


「ルセナさん!止めなさい!!扉が黒く染まってしまえば開く事は不可能です!」


 グロブが悔しそうな表情を見せながらルセナに話した。


ドン!ドン!ドン!・・・ドン!


 ルセナはグロブを睨みつけながら扉を盾で叩き続ける!


「ふざけないでよ!先生が迷宮に入るのを止めたからこんな事になったんでしょ!カイン君を返してよ!!」


ドン!ドン!ドン!


 傍に居る教師のモストリオがそれを否定する。


「ルセナさん!グロブ先生を責めてはいけません!あの時、貴女が迷宮に入っていれば貴女も助かっていません!これは事故だったのです!!・・。ハグレ神の乗っ取り兆候はありませんでした。仕方ありません・・・。」


「事故って!・・事・・故って何よ!・・カイン君~~~!!うわぁぁ~~!!」


ガラン!


 ルセナは盾を落とし、泣きながら地面に崩れ落ちた!他の女生徒達も泣いている。この場でカインが絶対戻って来ると信じているのはフィアラだけであった。根拠のない自信であるが両手を祈る様にギュッと握りながら少し涙を流している。本来、ハグレ神の乗っ取りで生きて帰った者が居ない事はフィアラも知っていたが、カインが無事に戻って来る様な不思議な感覚があった。


--カインなら大丈夫!!カインお願い!!早く戻って来て!!


 カインは迷宮の扉を常人では有り得ない程の力で押すが、全く動く気配はない・・・。


「ダメか・・力ずくは無理だな。」


--超能力を使って入り口付近を空間毎ねじ曲げれば開くかもしれないがデルドア達もいるし危険だ。


「やはり元凶を叩くしかないか。」


 カインは今も高エネルギーを感じている地下20階までテレポートしようとする。本来、部屋毎の試練を勝ち抜けた者だけが次の階に降りられる様に作られている為テレポートしようとした瞬間、カインの姿が一瞬消えるが又戻されてしまった。


--壁がある感じで上手く行かない・・出力をもっと上げてみるか?


「ハァァ~~!!」


 カインは腕を下に降ろした状態で交差し、身体から周囲へ超高濃度のエネルギーが放たれる!カインは瞬間移動して消えた!地下20階の大きな広場、ガーディアンの間に辿り着く。かなりの広さでサッカーコート二面分はあった。床には30cm角で正方形状の石が敷き詰められている。岩肌の天井までは5メートルもあり、その広い空間でカインの前には禍々しい腐食の波動を放ちながら目を閉じている黒の鎧兜を着た一人の男が立っていた。男は右手の剣をカインに向け、目を閉じながら話し出す。黒騎士の立っている頑丈に作られた地面は少し溶けていた。波動はサイコバリアで身を包んだカインにも少しであるが届いている。


「ほう!久々の人間だ・・。しかも私に近付いて平気な者とは珍しい!強き一級神とでも契約したか!?人間よ!」


 カインは応えず素早く走り近づくと、サイコバリアで包んだ剣を上段から振り降ろした!


ガン!!


 黒騎士はカインの異常に重く、鋭い剣を黒の魔剣で受け止める!強力な装甲を持ったアンドロイドさえも身体能力で倒せるカインの剣が上に押し戻されていく!!黒騎士が赤く光る眼を開けて、全く動揺せずに話した。


「問答無用か・・しかもこの力?額に神化シンカの神文字は無い様だが貴様は一級神の神降ろしを行っているみたいだな。そうでなければ人間にこの力は出せぬ。面白い!だが貴様と違い我はこの人間を乗っ取っている!どういう事か分かるか!愚かな人間よ!貴様たち人間が神化しようと、特神である我が人間を操れば限界まで神化の力が使えるのだ!!」


 更にカインが力を込めるがそれさえも通じず剣は押し戻されていく!カインはサイコバリアで包んだ剣のカットラスをサイコキネシスESPで動かした。再びカインの持つ剣が黒騎士に迫る!!


「な!何!!?貴様!本当に人間か!?」


「さあな。」


 カインの剣が黒騎士に迫る途中で力では分が悪いと見た黒騎士はカインの剣の重さを利用して後ろ斜め後方に跳んで退いた!剣を腰の鞘に戻し右手を前に突き出すと魔法陣を生み出す!


「ならばこれならどうだ!我はロークヴォルド!腐食を司る特神なり!!魂を縛られし人間どもよ!アヤツを襲え!!」


 黒騎士の周りの床から徐々に盛り上がって来るドロドロの何かが次第に人間の形を取り出した!その中には子供の姿もある。右手は剣の様に尖り、数は300を超えていた!


「そいつらは我が今まで溶かしてやった人間だ!魂を捕らえて飼ってやっている!お前に子供が斬れるかな?ちゃんと痛みも感じるぞ!」


 ロークヴォルドは兜の下で薄ら笑みを浮かべていた。


「悪趣味やろうが・・。」


 人間の姿を取った者達がカインへ一斉に襲い掛かる!カインは出来るだけ、その攻撃を剣で流しながら右へ左へと移動していた。次第に逃げ場が減っていく!死角の後ろから襲い掛かる子供の剣を左手で受け止めた!動きを止められた小さな男の子が苦しそうにカインに話し掛ける!


「・・お・・兄ちゃん・・・僕・・を・・殺して・・お願・・い・・。」


 他の人間たちも声を搾り出してカインへ願った。


「「「「「「「・・殺・・して・・・・ア・・イ・・から・・・解放・・・して!・・。」」」」」」」


「分かった・・。」


  カインは少し下に俯き、険しい顔でそう応えると宙に浮き上がり、広場の端まで高速で移動して地面に降りる。カットラスを捨て両手を外に向けると二本のサイコソードを創り出し握り締める!徐々に大きくなるサイコソードをゆっくりと前に出して二つを重ねた。二つのサイコソードは一本に纏まり、強烈なエネルギーを放ちながら巨大なサイコソードと変貌した!!


グォォォォォン!!!


「ハァァア~~~!!」


 サイコソードを横凪し、更に長く伸ばしながら全員消滅させていく!


ズバババババババ~!!


 ロークヴォルドはカインのサイコソードが迫るのを上空に回避しながら笑った。


「ハハハハハハ!!血も涙も無い奴だ!」


「「「「「「「・・・・あり・・・がと・・う・・・。」」」」」」」


 囚われていた人間達が消えながら、そう口を動かした。


--嫌な過去を思い出させやがって・・。


 カインは惑星ガルダで、脳に埋め込んだ筋力増強用コンピューターを乗っ取られた多くの同胞達と闘った事もある・・・。カインはいち早く能力でそれに気付くが治す方法も見当たらず友達でもあった人間達を殺せない。それにより乗っ取られた者は自身の肉親や友達を手に掛けてしまう!血の涙を流し、声に出せず心で殺してくれ!と訴えかける者をカインは気が狂いそうな心の中、葬り去ってきた。カインは手に掛けた者の家族や恋人達に殺した言い訳をしなかった。ロボット軍団に親しい者を殺された人達が、生きる力を失くして多くの自殺者が出た為だ。カインを恨むことで少しでも生きる力を生み出し!そして・・いつか幸せになってくれたらと考えていた。守る者達が存在した、その時は・・。


「すまない・・仇はとってやる!!」


--俺に出来る事は、それだけだ。


 ギュオン!!


 カインは巨大サイコソードを凝縮させ、超エネルギーのサイコソードを右手に創りあげる!!右の袖はサイコソードのエネルギーに耐えられず一瞬で塵と化した!サイコソードから漏れたエネルギーは太陽のプロミネンスの様に床に落ちる。落ちた先の床が消滅し穴が空いた!それを見たロークヴォルドは危険を察知して先制攻撃を仕掛けだす。


「我はロークヴォルド!腐食を司る特神!我の腐食の波動で目に見える物全てを溶かし尽くせ!!」


 腐食の神ロークヴォルドの前に魔法陣が現れ、魔法陣より黒き強烈な波動がカインとカインの周囲全てを襲った!地面と天井あらゆる物が全て溶けだす!サイコバリアの鎧で防いでいるにも拘わらず服のあちらこちらに穴が空きカインの手の皮が爛れ始めた!


「フハハハハ!溶けて無くなるがいい!」


 カインが腕を、前に出し交差させる!


「サイコバリアー!」


 カインはサイコバリアの壁を前に生み出し黒き波動はそれに遮られ止まった!カインの肌も自己治癒能力で綺麗な状態に戻って行く!


「何!?止めただと!!人間にそんな力がある筈ない!」


--今度はこちらのターンだ。


 カインはロークヴォルドの波動が弱まっていくのを見るとサイコバリアの壁を消し、ロークヴォルドに一気に詰め寄る!


「人間如きに!ヌオォォォォ~~!!」


 それを見たロークヴォルドは魔法陣から生み出す黒き波動を強めた!強力な波動により再び床、壁、天井等、すべてが溶かされていく!!凄まじい波動がカインを襲った!カインの足が止まる!!


「これで貴様は終わりだ~~!!」


--テレポート!


 カインはロークヴォルドの背後に瞬間移動して、ロークヴォルドの頭上からサイコソードを振り降ろした!


ギュオン!!


 ロークヴォルドがゆっくりと、顔のみギギギと気持ち悪い様な動きで背後のカインに振り向く。


「どう・・や・・って・一瞬・・で・我の・・・は・・いご・を・・??」


 斬れていないかと思えば頭上から下半身に掛けて一筋の亀裂が入っていた。少しずつ開きつつあるが隙間を戻そうと黒いスライム状の物で引っ張りあい、復活しようとしている。


「何・・故こ・・れ程の力を・・虫け・・が持って・・いる?もし・・や・・空間・・の特・ん・・と・・・契・・を?」


「俺が契約しているのは3級神のステイリア神だ。それにしても往生際が悪いな。」


 カインが再びゆっくりとサイコソードを頭上に掲げていく。


「馬・・・鹿な・・そんな筈?我・・はロークヴ・・ォルド。オマ・・エの契約魔法陣よ・・姿を‥」


ヴァォン!ザシュ!


 カインがもう一度斬ると、ロークヴォルドは力尽きる様に二つに分かれていった。


「・・現・・・せ・・。」




 ロークヴォルドが唱えた何かでカインの背後に魔法陣が現れる。その魔法陣はステイリア神との契約魔法陣であった。神だけが見える物でカインには見えていない。ロークヴォルドは力尽きていく中、最後の力を振り絞る!


--・・そん・・な・・本当に・・・ステイリ・・ア神だと・・・いや・・違う・・・ま・・だ・・・隠れ・・・現・・。


 ロークヴォルドはステイリア神の契約魔法陣の裏に隠れていたリノルアーリア神の契約魔法陣を覗いてしまった。その瞬間ロークヴォルドが超光に包まれる!・・存在そのものが無くなる様にロークヴォルドは二つに分かれたまま驚愕の表情を見せ、塵も残さず消えていく・・・。リノルアーリアの契約魔法陣を覗く事はリノルアーリアに創られた神にとって禁忌に値する所業であったのだ。


--な!!!?・・・リ・・・・・・様・・・・・・・・。


「倒した様だな・・・。」


 ロークヴォルドの消えた辺りから急激に迷宮の様子が元の姿に戻って行く!!カインはデルドアを助けにいく為、テレポートしようとしたが不意に声が投げかけられた!


{カイン・・聞こえますか?}


--「ん?ステイリアか?いや声が違うな。」


{私はレーシャ。高原の風を司る3級神です。}


「・・・。」


{あなたの事はステイリアに聞きました。この迷宮を救って頂き感謝致します。只の人間が特神を追い出せるとは信じ難いですが・・。」


--追い出したのではなく倒したんだがな。


--{流石!あのリノルアーリア様と契約している人間だわ!私も契約すれば、リノルアーリア様にお会い出来るかも!!}


{・・迷宮を出た後で3級神の契約部屋に来て私と契約いたしませんか?私の方がステイリアよりも上手に魔法を教える事が出来ますよ。}


{こら!何言ってんのよ!レーシャ!私だって上手だっつ~の!!}


 3級神域の契約泉の傍でレーシャとステイリアが言い争っている。レーシャは汚れの一切ない白い巫女服に似た服を着ていた。ステイリアよりも少し身長が高く目が細い美人系顔である。髪は後ろで束ねられている。


{私と比べたらね・・・。}


{へへぇ~んだ!!私なんかカインに一杯魔力貰っているから顕現だって出来るんだもんね!!2級神にだって直ぐに上がれるかもよ!}


{う・・それは羨ましい。}


「悪いが喧嘩に付き合っている暇はない。怪我人がいるんでな。」


{この子供の事ですね。}


 カインの前に薄らと光が浮かび、その中に倒れたデルドアが映っている。


「そうだ。」


{この程度の傷であれば私の迷宮の力で治せます。}


 デルドアの頭上に魔法陣が現れて光が降り注ぐ!デルドアの傷は消えていった。


{これで問題ありません。}


「悪いな。」


{いえ・・先程も言った通り、貴方には大変感謝しております。本来ラストガーディアンを倒した者に与える筈のリスロエン迷宮宝もハグレ神によって溶かされてしまいました。ラストガーディアン等、比較にならない程強いハグレ神を退けた貴方を讃え、私が最も力を注ぎ創った全身甲冑ホワイティアレイングを授けます。}


 カインの前に魔法陣が現れ、その中から真っ白に輝く全身甲冑が浮かび上がった!それを見てカインではなくステイリアが驚く!


{えぇ~~!!いいの!?あれって1級神の迷宮宝にも劣らない物だから、レーシャが1級神になった時の迷宮宝にするって言ってたじゃない。}


{ええ・・でもこの迷宮は200年以上掛けて創った私の分身の様なもの。それと迷宮宝を比べる事なんて出来ません。もし私と繋がっている迷宮をあのまま乗っ取られてしまえば私の力も奪われて最悪の場合、消されてしまったかもしれません。}


{え!!?乗っ取りって、そんなに危険なの!?}


{ふ~・・貴女はそんな事も知らなかったのですか?今まで284の迷宮が乗っ取られ、219神はハグレ神に吸収されているのに・・。}


{他の神は!?}


{迷宮を放棄する事で助かっています。でも迷宮を放棄など簡単には出来ません。強烈な痛みや喪失感に襲われながら放棄する必要が有ります。下手をすれば、それで消滅してしまいますし当然、力も相当減る事となります。}


{そんな!?カイン!!私の迷宮が乗っ取られそうになったら助けてね!!お願いよ!!}


「さて・・どうするか?」


{そんな!カインと私の仲じゃない!分かった!デートとキスして上げるからお願い~~!!}


 契約泉の前でステイリアが両手を合わせて拝んでいる。


「くく・・冗談だ、ステイリア。いつでも頼ってくれ。もちろんデートとキスは要らない。」


{ふ~~・・。}


--{でもこんな美女神のキスを要らないなんて、なんか複雑な感じ・・。}


 カインはステイリアを放ってレーシャに話し掛けた。


「それよりこの全身甲冑目立ち過ぎるし大き過ぎないか?こんなのが入る魔法鞄は持ってないぞ。魔法鞄はかなり高価と聞くしな・・今持っているのも学校からの借りものだ。」


{着ればその者に合わせて大きさも変わるし、これも授けます。」


 カインの前に剣用の白い鞘が現れる。


「これは?」


{魔法鞄の一種・・魔法鞄としては、かなりの優れものよ。ただし、魔法鞄として使う時は剣を抜かないと使用出来ないから剣も収納しておいた方が良いわね。}


{レーシャ!迷宮宝を授けるのは一つまでよ!大丈夫!?}


{元々その全身甲冑に付ける為に創っていた物だから。}


{なら、きっと大丈夫ね。}


「二つ迷宮宝を送ると何か起きるのか?」


{分からない・・でも神にもルールがあるから。}


「そうなのか、有難く頂いておこう。」


{通常の魔法鞄と違って鞘に手を当てながら、反対の手で別の収める物に触り収納!と念じるだけでいいわ。取り出すときは出す物を思い浮かべて手を翳し、取り出しと念じてね。簡単でしょ。}


「確かに。」


 カインは魔法陣の上に浮かんでいる白い鞘を握り全身甲冑を触ると甲冑は消えた。


{それじゃあカイン、契約部屋に来てくれる時を楽しみに待っています。}


「ああ。」


 ステイリアとレーシャの声が聞こえなくなり、カインは千里眼ESPを発動する。デルドアは迷宮の入り口でまだ寝ていた。黒く染まった入り口も通常の扉に戻っていく。


--テレポート。


 カインはデルドアの傍に現れ、デルドアを背負うと入り口の扉に手を掛けて開いた。眩しい明かりが洞窟内を照らす。外では涙を流して目を腫らした女生徒達が驚きの表情でカインを見ている。カインに教師のグロブが駆け寄ろうとした。しかしそれを阻止する様にルセナが泣きながらカインに抱き着いていく!他の女性徒達も一斉に雪崩込み、抱き着いて行った。グロブは波に押されて近付けない・・。


 フィアラは涙を拭きながらカインへ微笑み、手を振った。


--よかった・・。


 カインはそれに応えて、女生徒の圧力を受けながらフィアラに手を振り返した。


「フフ・・本当に良かった・・・。」


 デルドアは女生徒の圧力を受けて目を覚ますと声を上げる。


「なんだこりゃ!?」


 カインに抱き着いていたと思っていた女生徒がデルドアの声で、カインではなくデルドアに抱き着いていた事を知り悲鳴を上げる。


「キャ~~~!!エッチ!!」


バチン!!


 デルドアは傷は癒えているものの、疲れ果てた身体に強烈なビンタを貰った!


「な・・ん・・で・・・・。」


 再びデルドアはカインに背負われながら気絶する。顔には真っ赤な手形が付いていた。カインがその女生徒に話す。


「お手柔らかに頼む。デルドアは、さっきまで酷い怪我をしていたからな。」


「ご!・・ごめんなさい!!」


 グロブはハグレ神の乗っ取りから戻って来たカインに話を聞きたくて我慢できない様である。


「皆さん!!ちょっとカイン君と話をしたいので通して下さい!」


 女生徒達が惜しそうに離れていく。グロブはカインに近付くと話し掛けた。他の教師3人も聞いている。


「カイン君!中の様子は!?ハグレ神は!?」


「ハグレ神の事は分かりませんが、迷宮は元のまま問題なさそうです。入った時と全く変わっていません。」


「デルドア君の班だけ、まだ戻っていないのですが知りませんか!?」


「ああ、それなら入り口の所で寝ていますよ。デルドアの服がボロボロでしたので念の為デルドアだけ連れて来ましたけど、他の生徒は無傷の様です。」


「そうですか!」


 グロブは他の教師を見て頷いた。他の教師二人が急いで迷宮へ入っていく。・・全員避難が終わると今回の遠足は中止となった。


・・・次の日・・学校に町の騎士団が来て事情聴取を受けたがカインはいつの間にか気絶させられ、起きたら迷宮の入り口付近で倒れていたと話す。生徒全員、状況を詳しく把握していない上に迷宮が元に戻った事で、今回はハグレ神の乗っ取りでは無く別の異常だったと収まった・・・。




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