第五話 ミーノの父親
・・・・家に着くとディランが御馳走を用意して待っていた。フィアラが驚いて尋ねる。
「お父さん!?どうしたの!?これ!!」
「凄いだろう!市場にビアトル熊の毛皮を持って行ったら、ちょうど大きな毛皮を探している貴族様の使いが居て322万ディアで買ってくれたんだ!信じられないだろ!」
「それでこれを?」
「ああ!それもあるんだが、この御馳走の殆どは他の狩り師からの祝いの品だ。今まで狩り師食いがいたせいで山に入るのも危険だったんだが安心して入れるって言ってな。私が退治した訳じゃないって言ったんだが、まぁ受け取ってくれ!と言われて仕方なく貰ったんだよ。」
「そうなの・・でも、食べきれないわね。お父さん、リュノさんの所にお裾分けを持って行っていい?」
「そうだな・・ただ、なんて言えばいいか・・・?」
「・・そうね、狩り師食いにトレントさんが襲われて亡くなっているからビアトル熊の話はせずに持って行って来る。」
「そうだな、たまたま多く獲物を取れたと言って渡して来たらいい。カイン、悪いけど量が多いからフィアラを手伝って一緒に持って行ってくれないか?」
「分かりました。」
「あと、これも持って行ってくれ。ドゴリ猪を食用に処理しておいたんだ。干しておけば一か月は食べ物に困らないだろう。」
「いいの?お父さんの好物じゃない。」
「ああ、お金にもかなり余裕が出来たし獲物は又捕れば良いからな。これからは、カインも手伝ってくれるし。」
「分かった。じゃあ、行って来るね。」
「行ってらっしゃい。」
「行って来ます。」
フィアラとカインは山の麓に住んでいるリュノの家を訪ねた。フィアラの家から歩いて約15分の所にある。二人が家に着きノックする前に扉がバーン!と開かれた。
「あ!フィアラ!ごめんなさい!うちのミーノを見なかった!?」
家から出て来たリュノが血相を変えてフィアラに尋ねる。
「いえ、見なかったですけどミーノがどうかしたんですか?」
「畑から帰って来たらこんな手紙を残して突然居なくなったの!!私!トレントを亡くしてあの子まで居なくなったら、もう!!どうしたらいいか!?・・ミーノ!!お願い!返事して~~~!!」
リュノはデグル山に向かって駆けて行く!フィアラに手渡された手紙の内容には5歳の女の子の文字で、こう書かれていた。
”おとさんをやまをさがしてくます”
「大変!!お父さんに知らせなきゃ!カイン!悪いけどお父さんに知らせてくれない!もうすぐ夜になるし、人を襲う魔物達も活発になるから!私!リュノさんと一緒にミーノを探して来る!」
「分かった、ディアンさんには伝える!ミーノちゃんは何歳ぐらいの子供なんだ?もし、戻る途中に居たら連れて来るから。」
「5歳のおさげ髪の女の子よ!それじゃあ、お願いね!」
「ああ!」
フィアラもリュノの後を追い駆けていく!
--感応ESPで、まず、ミーノを探そう。
カインは見つけ易い様に、まずデグル山の山頂にテレポートESPで瞬間移動した。瞬間移動は千里眼ESPで木々を避けた場所を選んで移動している。木々があっても問題ないがカインが現れた場所と、カインが移動する前の空間が入れ替わってしまう為だ。急に現れたカインに驚き小動物達は逃げていく。その小動物を獲物に狙っていた魔物のデバングレットが新たな獲物であるカイン目掛けて魔法で大量の石飛礫を放った!
デバングレットは狼型の魔物では高レベルの存在で鋭い牙が上下から生え、獲物への最後の止めは必ずその牙を使用する。全長2.3㍍もあり動きは俊敏で鋭い牙は岩をも貫通させることが出来た。獲物を見つけると素早い動きで攪乱し、得意な土魔法で弱らせていく。大きなビアトル熊でさえ山で会うと逃げていく程であった。
カインに石飛礫が大量に向かってきたが、カインはチラッとそちらを見て大量に飛んで来た石飛礫をテレキネシスESPでデバングレットに跳ね返した。その後、何も無かった様に目を閉じて感応ESPで山を探していく。山に居る沢山の生き物の中から小さな子供のオーラを感じ取った。デバングレットは返された石飛礫で傷を負う。怒りの唸り声を上げてカインの目を閉じた瞬間を見逃さず、勢いよく首を狙って飛び跳ねた!感応ESPを使用しミーノを探しながら身体を捻って噛みつこうとするデバングレットの頭を無造作に掴み、約170KGある身体をそのまま近くにあった巨木に叩き付けた!
ドン!!
カインがゆっくりと目を開けて、静かに声を発する。
「邪魔をするな・・殺すぞ。」
デバングレットは血を流しながら、まだ諦めず襲い掛かろうと勢いよく立ち上がった!・・がカインの視線を見て何かを感じ取ったのか今までどんな大きな生き物にも立ち向かっていった魔物がクゥ~ンと子犬の様に鳴いたかと思うと一目散に逃げて行く。カインは先程見つけた子供に照準を合わせて、その上空に瞬間移動した。カインは木々の間からミーノを認識する。
--あの子か?良かった・・全身に擦り傷があるけれど無事みたいだな。さて、どうするか?能力は隠しておきたいが、このまま放っては子供もフィアラ達も危険か。まずは安全を確保だな。
カインは子供を狙おうとしている3匹の魔物達、又近くに居る7匹の魔物を全て山奥に瞬間移動させていく。その後、フィアラ達の上空に瞬間移動して同じく周りにいる近くの魔物全てを別の場所にテレポートさせた。
--これでよし!後はあの子か・・。無理やり連れ戻しても又、山に入ってしまうと困るな。・・・なるほど・・あの子の父親はこんな感じか・・?
カインはミーノの思考を読み取り、ミーノの傍にテレポートした。
「あ!!お父さん!!怖かったよぉ~!!うわぁ~~ん・・・。」
カインはミーノに幻覚を見せて自身を父親であるトレントに変えている。
「ああ、もう大丈夫だ。駄目だぞ!山は危険なんだから、もう入ったらダメだ!!」
「だって!!いつまで待ってもお父さんが帰って来ないんだもん!」
「お父さんはな・・今ここに居るけど本当は遠い場所にいるんだ。だけど、いつもお前達の事を思っている。ミーノは私や母さんを困らせるのは好きか?」
「ううん・・。」
「じゃあ、もう山に入っちゃ駄目だ。心配で父さんも母さんも心が苦しくなるんだぞ。」
「分かった!」
ミーノがカインの腕の中で涙を拭き、顔を上げてニコリと笑い答えた。
「さぁ・・目を閉じて。母さんの所に戻ろう。」
「うん。」
カインはフィアラと共に居るリュノの下にテレポートする。リュノはミーノと居るトレントの姿を見て驚く。そのトレントはミーノの背中をそっと押してリュノに微笑むと消えていった。その時カインの右袖に付いていた二つのボタンの内、一つが落ちる。デバングレットを吹き飛ばした時に木の枝に引っ掛けて糸が切れかかっていたのだ。
「あなた!?そんな!待って!!・・ミーノを助けてくれたのね!ありがとう!うぁ~~~!!」
リュノがミーノに駆け寄り抱きしめる。
「お母さん!ごめんなさい!泣かないで。もう山にお父さんを探しに行かないから。さっき、お父さんと約束したの!お父さんとお母さんを心配させる事はしないって!」
「うぁ~~~~!!トレント!!うぁ~~~~!」
ミーノがリュノの背中を子供ながら擦って慰めている。フィアラはホッとしながらリュノの家の外に掛けてあった灯りを二人に向けると、地面に落としたカインのボタンが光を反射してキラリと光る。
--何かしら・・あれ?これって・・・。
カインの現在の服は父親の古着を直した物を着ていてフィアラも、そのボタンに見覚えがある。フィアラはそれを拾いリュノ達と共に山を下りていく。
カインも上空からフィアラ達の帰り道に危険が無い事を確認すると、ディランの家の前にテレポートした。家に入りディランに報告する。
「おかえり、カイン。フィアラは?」
「ディランさん!大変です!リュノさんの子供が亡くなったトレントさんを探して山に入ったみたいなんです!」
「なんだって!?大変だ!フィアラは!?」
「ミーノを探しに行ったリュノさんを追って行きました!」
「カイン!山の何処から入ったか案内してくれ!私なら足跡を辿れる!取り敢えずフィアラ達と合流してミーノを探そう!」
「分かりました!」
・・・ディランとカインは急ぎ、リュノの家を通り過ぎて山に向かうと家に戻って来るフィアラ達三人の姿が見えた。
「はぁ・・はぁ・・はぁ。良かった!フィアラ!皆!無事だったんだな!!」
「うん!お父さん!皆、無事よ!」
「そうか!良かった!!」
「ディランさん!ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。」
「ごめんなさい。」
「いや!無事ならそれでいい!ふぅ~~・・でも、不思議だな?夜のデグル山に入って魔物に襲われ無かったのか!?夜は山の魔物の活動が活発になる筈なんだが・・?」
「ううん、まったく居なかったわ。」
--!!・・そういえばこのボタン!やっぱり!!カインの袖に付いてるのと同じだわ!・・でもどうやったの?魔物を追い払ってくれて、お父さんを同時に呼びに行くなんて不可能だし・・ただの勘違い・・・?
「ん?どうしたんだ?フィアラ?」
「ううん・・何でもない。」
「よし!ミーノも無事だったし!無事祝いで御馳走といこう!」
「あ!!大変!リュノさんの家の前に、お裾分けの食べもの全部置いたままだ!!大丈夫かしら!」
リュノの家に戻ると食料は無事で、その大量の食材を見てリュノから再度礼を言われる。リュノの家で賑やかに御馳走を食べた後、三人は帰宅して風呂に入り眠りについていく・・・。