第三話 神々との契約
カインは小屋に戻りフィアラへディランの言う通り伝える。
「そう、じゃあカインさん食べましょ!」
「ああ、カインでいいよ。」
「分かったわ、私もフィアラでいいから。」
「分かった、頂きます。美味しい!この肉料理凄く美味しい!」
「口に合って良かったわ。それはさっきカインが狩ったって言ってたドゴリ猪よ。中々捕れないし味も良いから結構、高級肉なの。だから、お父さんかなり喜んでいたんじゃないかしら。」
「確かに、かなり喜んでいたな。」
「ふふふ、そうでしょ。」
「あぁ、その時に俺の記憶が戻るまで狩りを手伝って欲しい事と、一緒に暮らそうって言われたよ。」
「え!?そうなんだ!じゃあ、今日は歓迎パーティーね!!」
フィアラは笑顔で喜んでいる。
「良いのか?急に世話になって・・。」
「言ったでしょ。困った人を助けるのは当たり前だって。それに人数が多い方が賑やかで楽しいもの!」
「そうか、じゃあ宜しく。フィアラ。」
「宜しく、カイン。ところで明日はどうするの?」
「ディランさんはフィアラと一緒に学校に行けばいいと言ってたけど手続きが必要なんじゃないかな。」
「多分、お父さんも一緒に行って手続きしてくれるんだと思うわ。」
「カインは学校の事は憶えてる?」
「いや、分からない。」
「そう、例外もあるけど大体は12歳から入学出来て18歳で卒業になるの。その後は武術や魔法が優秀な人は王国の騎士になったり、学術を勉強して魔法学者や魔道機開発者を目指したりする人もいるかな。」
「フィアラは何か目指しているのか?」
「ええ、私は今14歳なんだけど、お父さんが狩り師で怪我をする事もあるから防御結界魔法と医療魔法を覚えて、学校を卒業したら補助をするつもり。」
「そうか、医療魔法って病気も治せるのか?」
「ええ、もちろん。」
「どんな、病気でも?」
「そうよ、ただ病気によっては上級魔法を覚えないと治せないわ。クレイリア神殿の高位神官様だったら全ての病気を治せると思う。」
「クレイリア神殿?」
「回復と治癒を司る神様を祀っているところなの。魔法は神様と契約して使うことが出来るのよ。契約した神様によって使える魔法が異なるの。人によっては神様との相性もあるし覚えても魔法を上手く使えない事もあるんだけどね。」
「そうなのか。じゃあ、全ての神様と契約すれば全ての魔法を使えるわけだ。」
「それは無理。神様と契約した時点で、その神様との契約を破棄しない限り、起きている間は寝るまでにずっと魔力を捧げないといけないの。高位の神様だと凄く沢山取られるし、魔力が尽きて死ぬ事はないけど結局魔法が使えないもの。」
「そうか、契約した神様が多いと魔力が直ぐに尽きて使えないのか。」
「そう、でも使っている内に限界魔力量も増えるわ。人によって、増え方も違うけど。」
--俺は、生まれた世界が違うから魔法を覚えるのは無理かもしれないな・・。でも、リアナが病気になった時の悔しさは今でも忘れられない。リアナはもう居ないけど出来れば俺も覚えてみたいな。
「俺にも医療魔法・・覚えれるか?」
「カインなら、きっと大丈夫!私と同じクレイリア1級神の下にいらっしゃるステイリア3級神と契約すれば良いと思う。」
「そうか、それはどうすればいいんだ?」
「レンテス学校の横に契約神殿があって1級神、2級神、3級神の契約神殿があるの。」
「この町では学校の先生が管理者も兼ねているんだけど、生徒であれば契約神殿の予約なしでお願い出来るわ。入学手続きの時に先生にお願いしておけば大丈夫。」
「ディランさんも魔法を覚えているのか?」
「うん、3級神のグフィシタ神と契約していて身体強化を主とする魔法を使えるの。」
「さっきの狩りでは使っていた様に見えなかったが。」
「騎士団が追って来ると思ってカインを運んで身を隠すのに使ってたから、魔力が尽きたんだと思う。」
「そうか、ディランさんにも迷惑をかけたな。でも何で身を隠したんだ?」
--こっちの世界に来た時、気付かない内に何かやってしまったのか?
「カインの傷を治すのに医療師のビアロさんを呼んできて医療魔法を掛けて貰ってたんだけど、そのビアロさんが魔法より早く治っていく傷を見て魔族だ!って言って出て行ったの。」
「そうだったのか。」
--小さい頃から肉体改造されて自然治癒力がかなり上がってるから、普通の人に怖がられても仕方ないかもな。
「自然治癒力の上がる魔法でも掛けていたの?」
「いや・・・・。」
「ごめんなさい、記憶喪失だものね。」
「良いんだ。じゃあ明日、楽しみにしてようかな。」
「そうね、無事神様と契約出来ればいいわね。」
ディランが戻り、更に食事を楽しんだ後に町にある家に戻った。
「それじゃあ、明日は学校だし二人とも一緒にお風呂に入って来なさい。」
フィアラはそのディランの言葉に照れて顔を真っ赤にしながら怒る。カインは困っている。
「お父さん!私もう子供じゃないんだからね!一人で入るの!もうっ!」
「何照れてるんだ、まだ子供じゃないか。」
「もう!お父さん嫌い!!カイン!案内するから早く一人で入って来て!」
「あ、あぁ。」
フィアラはカインにお風呂の場所を案内する。カインはそのまま、タオルやディランさんの古着の着替えを受け取り、お風呂へ入った。
・・・次の日、3人でレンテス学校まで向かう。学校は家から約30分ぐらい歩いた町の中心近くにあった。学校の門前まで着くとディランに二人で待つように言われる。
「二人はここで待っていなさい。カイン、手続きが済んだらフィアラに学校を案内して貰ったらいい。」
「分かりました。」
ディランが一人中に入って二人が待ち15分が経つ。するとフィアラの同級生らしい男の子が登校してきた。フィアラが挨拶をする。
「おはよう、ジョット。」
「フィアラ!そいつ誰だよ!おい!お前!!あんまりフィアラに近付くな!」
--ん?ああ、こいつフィアラが好きなのか。
「どうしたの?ジョット。カインは悪い人じゃないのよ。記憶喪失だから記憶が戻るまで私の家に住むことになったの。仲良くしてね。」
「な!!?一緒に住むだって!そんな得体の知れない奴、記憶喪失なんて嘘じゃないのか!!」
「酷い事を言わないで!!ジョット!」
「ふん!いつか正体を暴いてフィアラの家から追い出してやるからな。」
ジョットはそう話した後に、学校へ入っていった。
「ごめんなさい、カイン。いつもはジョットも優しいんだけど・・?」
--鈍感な所までリアナに似てるな・・。
「いや、良いんだ。」
・・・少しほど待つとディランが戻ってきた。
「二人とも、待たせたな。カインの手続きが終わったよ。」
「ただ、カインは16歳で記憶もないし12歳のクラスから入る訳にも行かないから、フィアラと同じクラスに入る事になった。学校側はフィアラに補助を頼みたいらしい。」
「任せて、お父さん。」
「頼もしいね。」
「宜しくな、フィアラ。」
「うん。」
「それじゃあ、私は今から帰ってビアトル熊の毛皮を市場に持って行く。二人とも怪我だけには気をつけるんだよ。」
「「はい(うん)。」」
「じゃあ行きましょ、カイン。」
「あぁ。」
・・フィアラとカインが教室に入ると、担当教師であるクロブと生徒42名が既に入っていた。
「カイン君、フィアラさん、こちらへ。」
クロブ教師がいる壇上に呼ばれる。
「「はい。」」
「はい!!皆!席に座って、こっちを向いて~!」
「今日からこのクラスに加わる皆の仲間です。カイン君は16歳だが事情があって、このクラスとなった。皆、仲良くするようにね。カイン君、自己紹介を。」
「はい・・カインです。かなり遠い所から来たので何も分かりません。色々と教えて下さい。」
「「「「「「「「「キャ~~~!!格好いい~~~~!!」」」」」」」」」」
「「「「「何だよ、あんな奴・・・・・。」」」」」
「はい、皆静かに!!あと、訳あってフィアラさんの家に住んでいる為、フィアラさんにカイン君の学校での補助をお願いします。フィアラさん宜しく頼みますよ。」
「はい。」
今度はクラスの殆どから不満の声が上がる。
「「「「「「「「「「「えぇ~~~~~~~!!」」」」」」」」」」」
「カイン君、それじゃあ先生とちょっと一緒に来てくれるかな?神様との契約に行こうか。フィアラさんも一緒に来てください。」
「はい!皆~!先生が戻るまで魔法の練習を第3訓練室で行う事!!」
「「「「「「「はぁ~い。」」」」」」」
・・10分程歩いて学校に併設している契約の神殿に到着する。神殿は世界中にあるが此処に有る物はかなり小規模な物であった。それでも隣にある生徒600人収容出来る小学校の半分の大きさがある。神殿は当初真っ白な建物であった筈であるが、劣化して肌色の褪せた色に見えた。形は円盤のドーム状である。それが3つ並んでいて3級神殿から順に大きく作られていた。
「さぁ、カイン君。早速、契約部屋に行こうか。」
部屋に向かおうとすると、女子生徒に呼び止められる。
「グロブ先生!!また、デルドア君が喧嘩を始めたんです!」
「またですか。困ったものだ。フィアラさん申し訳ありませんが一緒に来て下さい。先生よりフィアラさんのいう事を聞くみたいなので一緒に止めてください。」
「はい。」
--そいつも、フィアラのファンか。
「カイン君、申し訳ありませんが少しここで待っていて貰えますか?」
「分かりました。」
・・・しばらく待っているとそこに、ジョットがやって来た。
「カインとか言ったな。」
「あぁ。」
「先生からの伝言だ。奥に行った一番左側の部屋に入って待っていてくれとさ。」
「グロブ先生はここで待つように言ってたんだが。」
「そのグロブ先生がさっき言ってたんだよ!!」
「そうなのか。」
カインは契約部屋に入った。入るなり扉からガチャっという音がして鍵を閉められる。
--クク・・これがイジメってやつか?前の世界ではファイブS級の俺に盾突く奴は殆ど居なかったから、新鮮だな。出ようと思えばテレポートESPで直ぐに出れるが・・・さてどうするか?
カインは部屋を見渡した。部屋は直径10m程の円形状になっており天井にはプラネタリウムの様に沢山の輝く文字が散りばめられている。
--中々綺麗だな・・。
《皆、見てみろ!この小僧!!魔力も無いくせに、私達1級神と契約しようってのか?》
声のしているそこには泉があり、泉の中に映っているカインを見定めている者達がいた。人型の者や動物型の者、異様な形をした者もいた。その泉は契約泉と言い一級、二級、三級神域の全ての至る所に存在する。
《本当ですわね。しかもどうやら異世界から来た子供みたいね。》
《わしゃ、身体をいじくっとる人間は、すかん!》
《本当なのね、あちしも嫌いなのね。》
《あらあら、だからあなた達は未熟者だと言うのです。》
《誰じゃ!わしゃ、一級神になって2万年以上!?・・リ!リノルアーリア様!!?何故、この様な所まで?》
声を発した者は他の神よりも神秘的な雰囲気を醸し出し、美しいという単語では及びも付かない美貌をもつ女神であった。髪は超ロングヘアで銀髪の一部を後ろで束ねてアップ型にしている。いつの間にか現れた純白のドレスに身を包んだ女神を見て契約泉にいる全ての神が驚いていた。
《フフフ、面白い魔力を感じたので。》
《魔力?あの小僧の魔力なんぞ、何処にあるので?》
《分かりませんか?この世界とは異質な魔力ですが確かにありますよ。しかも、この神域フィファスロアトラの神全てと契約しても十分なほどの魔力が。》
《《《《《《《《《!!?》》》》》》》》》
《何と!!?》
《しかも、異世界の神はこの者にかなりの試練を与えた様ですね。記憶を覗くと分かります。自らを犠牲にしても守れなかった悔しさ、深い悲しみ・・・・。強い子ですね・・。》
《まぁ、時間は掛かるでしょうが、努力さえすれば魔法も使える様になるでしょう。私が契約致します。》
《《《《《《《《《!!?》》》》》》》》》》
《しかし、あの小僧は契約の仕方も何も知らない様ですぞ。》
《フフフ、後で何とでもなります。とりあえずは仮契約を。》
《我が名はリノルアーリア!我は破壊と創造を司る極神!!そなたはカイン!!我が名において契約を認める!ステファロビアトリデ!!》
《よろしくね。カイン!》
カインの頭上にある天井の文字全てが輝き、大きな五芒星の魔法陣が現れる。頭上に出来た魔法陣からカインへ光が注がれた。
--ん?なんだ!この光!?・・おかしいな?ESP能力を使って無いのに、大した量ではないけどエネルギーが少しずつ抜けていっている?俺が制御出来ない筈が無いんだが・・?
--!?テレパシーか?よろしくって・・誰だ?・・・。
そして契約の扉が開かれる。開けたのは教師のグロブであった。
「カイン君!一級神の契約部屋に勝手に入っては駄目ですよ!神様の中には怖い神様も居るのですよ!早く出て下さい!」
「あ、はい。すみません。」
--さっきのは、何だったんだ?
「それじゃあ、改めて契約の仕方を教えましょう。カイン君はフィアラさんと同じステイリア神と契約したいのでしたね。」
「はい。」
・・・3級神の契約部屋の前でグロブが説明を始める。
「それではこの3級神の契約部屋に入り、まずこう唱えるのです。我はカイン!ステイリア神と契約を望む者!と。神がそれに応えて下されば頭上に五芒星が現れます。光が注がれた瞬間にアキセス!!と唱え、神に感謝するのです。それで契約完了となります。ただ、契約完了しただけでは魔法は使えません。それは学校で皆と一緒に習ってください。」
「分かりました。」
カインは3級神の契約部屋に入ると教えられた様に唱えてみる。
「我はカイン!ステイリア神と契約を望む者!」
《ん?この子なの?私を呼んだのは?・・って魔力が無いじゃない!どうやって、契約するのよ!!はいはい・・契約無効と。さようなら。》
契約泉でカインを見ているのはピンク色のセーラー服に似た服を着ているステイリアであった。ステイリアの容姿はポニーテールの髪型をした黒髪で中学3年生ぐらいの少女に見える。
--何も起こらないな・・やはり異世界の俺ではダメなのか・・。
《ステイリア!待ちなさい!!》
《え!クレイリア様!?一級神のクレイリア様が何故、この3級神域に?》
そのステイリア神の傍の地面に魔法陣が現れ、中心の上部からもう一人の神が現れた。顔はステイリアと良く似ている美女で髪はロングのストレート、服装はステイリアのスカートを伸ばした物を着ている。
《それよりも早くあの子と契約を結ぶのです。》
《しかし、あの子には魔力が無いんですよ!》
《魔力はあるそうです。》
《え!?誰かが言ったのですか?》
《あの子の後ろをよく見てみなさい。早くしないと、あなた消されますよ。》
《ヒッ!!ヒエ~~~!リノルアーリア様!!》
カインの後ろにカインに気付かれ無い様に半顕現したリノルアーリア神が早く契約しろと手招きしていた。
《はっ、はひ~~~!!御心のままに~~!!》
《我が名はステイリア!我は癒しを司る3級神!そなたはカイン!我が名において契約を認める!アキセス!!》
カインの頭上に五芒星が現れ、光が注がれる。
--上手くいったのか?
「アキセス。感謝いたします。」
3級神域に居るステイリア神の横にリノルアーリア神が現れる。
《それでいいわ。クレイリア、もう良いわよ。》
《御心のままに・・いつでもお呼びください。》
クレイリアが姿を消した。
《あのぉ~、お聞きして宜しいでしょうか?》
《何ですか?》
《リノルアーリア様・・先程、あの子の後ろに半顕現しておられました?》
《ええ、そうね。》
《・・という事は信じられませんがリノルアーリア様も、あの子と契約されたのですか!?》
《そうです。あの子、魔力も凄いし心も強く崇高で私のお気に入りなの!必ず幸せにしてみせるわ。あなたも協力してね。》
《リノルアーリア様が契約しておられるのに、私が契約する意味があるのですか?魔法も全て使えますよね。》
《あの子はね異世界から来たから魔力が異質なものですし、魔法を上手く使うには、かなり努力が必要なの。もし、私が手を貸して魔法を発動し暴走させてしまった事を考えてごらんなさい。》
《リノルアーリア様の魔法を更に暴走・・世界が滅びそうですね・・。》
《そう、だからあなたにカインが魔法を上手く使える様になるまで付き合って欲しいの。》
《分かりました。確かに契約してみて、分かったのですがあの子の魔力・・・異質ですけど凄すぎますね。契約後にいつも少しずつ魔力を貰ってますけど、あの子からは少しずつ来る筈の魔力が大河の様に流れて来てます!》
《そうね。あなたには、かなり多過ぎるわね。このままでは、あなた・・魔力を吸収しきれずに爆発して消えてしまいそうね。》
《え!!?そんな!リノルアーリア様!お願い致します!!何とかして下さい!!》
《大丈夫です、落ち着きなさい。どう、減らしたわよ。》
《ふ~~・・ありがとうございます。》
ステイリア神は思っていた。
--これは大変なことを引き受けさせられたなぁ。
《それだけ魔力を貰えれば3級神のあなたでも顕現する事も可能です。カインに色々と魔法に関する事を教えてあげて下さい。私の事は当面内緒でね。》
《えっ?リノルアーリア様は?》
《私は久しぶりにラスターディアに行ける様になったので旅行をね。》
《そんな!リノルアーリア様だけ!》
リノルアーリア神がステイリア神をジロリと見る。
《・・何でもありません。》
《じゃあ、宜しく!カインの傍なら私に連絡できるから、何かあったら連絡して。》
リノルアーリア神が姿を消した。
《はぁ・・。》
カインが契約部屋を出るとグロブとフィアラが待っていた。
「どうでしたか?カイン君。無事、ステイリア神と契約出来ましたか?」
「はい、頭上に五芒星が出たので多分・・。」
「そうですか!おめでとうございます。」
「おめでとう、カイン!」
「あぁ、ありがとう。」
「それでは、皆の下に戻って魔法の訓練を致しましょう。」
「はい。」