第二話 ファンタジーワールド
「お父さん!あそこ!川岸で誰か倒れてる!」
・・二人の父娘が、倒れて血を流すカインに近付いた。服は血色に染まりボロボロになっている。カインは、その状態で死んだ様に動かない。
「ん?こりゃ、酷い怪我だ!私はこの子を家に運ぶ!フィアラは医療師のビアロさんを呼んできてくれ!」
「分かった!」
カインはそう話したフィアラの父親ディランが背負い、家まで運ばれていく。・・フィアラが呼んで来た初老の医療師は、カインを不思議そうに見ながら回復魔法を掛けていた。
「この子は一体・・?」
「そんなに重傷なんですか!?」
「いや!違う。逆だ・・出血が多かったのに、それ程傷が無いんだ・・。出血からすると、かなりボロボロの身体であった筈なのに魔法を掛ける前にドンドン傷が塞がっている。」
「どういう事ですか?」
「通常の人間とは、自然治癒力が違うのだろう。ディラン、悪いことは言わない・・この子をどこか遠くの深い谷にでも捨ててきた方がいい。」
「怪我人になんて事を言うんですか!?」
「こんな驚異的な自然治癒力を持つのは魔族や魔物しか居ないだろう・・。いや、魔族でもここまでの治癒能力は無いかもしれない。私はもう帰る・・ディラン!いいな!早く捨てて来るんだ!」
初老の医療師ビアロは去って行く。
「お父さん!まさか本当に、この男の子を捨てに行かないよね!」
「当たり前だ!怪我人を放り出す訳にはいかない!だが・・あのビアロさんの言いようだと町の騎士団が来るかも知れない。この子をデグル山の狩小屋に運んで身を隠そう。」
「分かったわ。」
荷車にカインを乗せて身体を隠す様に、藁を被せる。その後、3人で狩小屋へ移動していった。小屋に着くとカインをベッドで休ませディランは川に水を汲みに出ていく。
「・・・・ん・・・・・んん・・・ここは?」
「&$>&=&#’%&%$+”#%$”!_?$>?#。」
--ん、この娘は何を言ってるんだ?・・・!!?・・リアナ!!テレパシーESP!
「良かった!目を覚ましたのね!身体は大丈夫?」
「リアナ!!良かった!無事だったんだな!グラントは?・・グラントも無事なのか!?」
カインがフィアラに抱き着いて喜んでいる。フィアラは顔を赤くしている。
「きゃっ!!・・あの~、放して下さい。リアナって誰ですか?私はフィアラです。グラントさんて言う人も知りません。」
カインが放すとフィアラが少し離れる。フィアラはリアナと瓜二つで目がぱっちりした14歳の美少女であった。
「本当に違うのか・・。」
「えぇ・・それより、もう少し休んだ方がいい。酷い怪我をしてたんだもの。今、お父さんが水を汲みに行ってるの。戻ってきたら何か食べれる物を作るね。」
--そうか・・空間の亀裂内部がどこかの空間と繋がってしまって、そこへ飛ばされたのかもしれない。それにしてもよく似てる・・。
「聞いてもいいかい?」
「えぇ、何を?」
「ここは、どこだい?」
「デグル山にある父さんが狩りをする時に使っている小屋よ。」
「いや、そうじゃなく星の名前を知りたいんだ。」
「星?星ってなんなの?」
--?星の概念が無いのか?言葉もテレパシーESPを使わないと上手く伝わらないし・・。
「この世界の事なんだが。」
「・・・?記憶が曖昧なの?この世界はラスターディアという世界よ。あなた、名前は?憶えてる?」
「あぁ、カインだ。」
「良かった、名前は憶えてるのね?他に何か憶えてない?」
「いや、この世界の事は何も分からない。」
「そう、困ったわ。」
--でも、ビアロさんが言ってた様な魔族でなくて良かった。
小屋の扉を突然ノックされる。ドン!ドン!ドン!
「ディラン!居るなら開けなさい!」
フィアラは小声で話す。
「大変!どうしよう!あの声は騎士団長のグウェル様だわ!」
「別に悪いことはしてないし、開けても良いんじゃないのか?」
--もし襲って来ても、人が俺に勝てる訳ないしな。
カインが小屋の鍵を外して扉を開ける。フィアラがそれを見て狼狽える。
「あ!」
小屋の外には馬に乗った騎士が27人で小屋を取り囲んでいた。
「全員、動くな!!ん?見たこと無い子供だな・・何だ、もしかしてビアロさんが言ってたのは、お前さんかい?・・・ハハハハ!こんな子供が魔族なわけ無いだろう!耳の横に角も生えていないし。フィアラ、ディランは何処にいる?」
--魔族?
「あの・・獲物を狩りに行ってます。」
「そりゃそうだな、狩りの為の小屋だからな。ビアロさんの早とちりにも困ったものだ・・悪かったな、騒がせて。」
「いえ・・。」
「よし!戻るぞ!」
「「「「「「「「ハッ!」」」」」」」」
グウェル率いる騎士団は小屋から去って行った。
「ふ~、良かった。お父さんが戻ってきたらクリントの町に戻りましょ。もう、追いかけられる事もなさそうだし。」
「あぁ。」
「でも、何もしてないって言っても、カインが扉を開けた時にはヒヤヒヤしたわ!」
「悪かった。」
「ううん、あれで良かったの。鍵を掛けたまま閉じこもっていたら、絶対怪しまれたもの。でも、騎士団に囲まれてもカインは全然動じないのね。」
「・・記憶喪失だからかな?」
「ごめんなさい!悪い意味で言ったんじゃないの!」
「いや、大丈夫だ。全くそんな風に思っていないし。それより、御礼を言って無かったな。助けてくれたみたいでありがとう。しかも、何か迷惑まで掛けた感じだな。」
「ううん、いいの。困った人が居たら助けるのは当たり前だもの。」
--既視感だな・・。本当にリアナじゃないのか?
カインは昔、リアナが言った言葉を思い出して笑う。
「フッ・・。」
「何か可笑しかった?」
「いや、知り合いに似ていると思って。」
「何か憶えてるの?さっき言ってたリアナって言う人?その人の事は憶えているのは、きっと大切な人だったのね。」
「ああ。リアナも、その兄のグラントも大切な親友だ。今、何処に居るのかは分からないが・・。」
「ごめんなさい!余計な事を聞いちゃって。」
「良いんだ、きっと幸せに暮らしている筈さ。」
「・・他はやっぱり思い出せない?」
「そうだな、何も・・。」
そんな会話をしていた所に水を汲み終わったディランが戻って来て扉を開ける。
「あぁ、起きたのかい?」
「お父さん、騎士団長のグウェル様が来たの!でも、カインを見て魔族な訳ないって言って出て行ったわ。」
「そうか、良かった。じゃあ町に戻っても大丈夫だな。それじゃあ、ついでに狩りでもして帰るか。」
「あっ助けて頂いたし、何か手伝います、」
カインがそう話すとフィアラが軽はずみな行動だと窘める。
「狩りは危ない魔物とか、こちらに向かって来る動物とかもいて結構危ないのよ!」
--魔物?なんかさっきから変な言葉が出て来るな?何かの物の例えか?
「まぁ、私が付いているから大丈夫だろう。」
「もう!お父さん!私が付いて行くの反対するのに!」
「カイン君は男の子だし、強そうだからね。フィアラは悪いけど、ごはんを作って待っていてくれ。それじゃあ、カイン君行こうか。」
「はい。」
二人は小屋を出て山を登っていく。登りながらディランはカインの素性を問い掛けている。
「いや名前以外、この世界のことは何もわかりません。」
「そうか、記憶喪失か・・それは困ったな。まぁ、時期に思い出すだろう。弓矢は使ったことがあるかい?」
「いえ、ありません。」
「そうか、射ってみるかい?」
「はい、やってみます。」
--矢は放った後、念動力ESPで操作すれば当たるだろう。
「初めは当たらなくてもいい、思いっきり射ってみるんだ。動物や魔物達は鼻が利くのが多いからな。近付く時は風下から近づくんだよ。」
「分かりました。」
ディランが獲物を見つけて小声でカインに知らせる。カインは周りにいる動物や魔物の位置は能力を使うまでもなく全て分かっていたが狩り師であるディランを立てる為に黙っていた。
「カイン君、あそこにミミグ鳥が居る。狙ってみなさい。」
「はい。」
--どうする?・・当てて良いのかな。取り敢えず能力を使わず討ってみるか。
カインは矢を放ちミミグ鳥を見事、射ち落とす。
「おぉ~~~!上手じゃないか!本当に初めてかい?」
「はい、なんとか当たりました。」
「いや、その弓は本格的な狩り師のものだ。簡単に素人が上手く引けるものじゃない。君はもしかしたら記憶を失くす前、狩り師をしていたのかも知れないぞ!」
--・・・・・。
「よし!カイン君、いやカイン!良かったら記憶が戻るまで家に住めばいい。平日はフィアラと一緒の学校に行って、休日は私の狩りを手伝ってくれないか!」
--助けてくれた恩もあるし。どうせ、行く宛も無い。戦争の無い場所でゆっくり暮らすのも良いかもな。
「お願いします。」
「そうか、じゃあ今度はドゴリ猪を狙ってみよう。普通は罠を仕掛けて狩る獲物だ。でもカインと私で連続で放って、急所に当てれば何とか狩れると思うんだ。いいかい、急所である頭の耳の後ろを狙うんだ。」
「分かりました。」
--取り敢えずディランさんの矢を急所に当てるかな。
・・・・・30分程山道を歩いて行く。
「おかしいな?この前、逃した奴がこの辺りに居る筈なんだがな・・。」
「もしかして、遠くに居るあれですか?」
「君は目も良いんだな!やっぱり狩り師だったんじゃないか?取り敢えず狙えるところまで風下から近づこう。あとは指をこうしたら一緒に射ってみてくれ。」
「分かりました。」
風下に周り込みドゴリ猪が風上を向いた瞬間に気配を殺して近づく。矢が届く場所まで来るとドゴリ猪が斜めを向いた瞬間にディランが合図を出す。
--矢はあそこだったな。
ディランの放った矢を急所に当てる様に念動ESPで誘導して当てる。カインの矢は背中に突き刺さる。ドゴリ猪は暴れるが、両方の矢を更にESP能力で深く押し込むと大人しく横倒しになった。
「おぉ~、やったぞ!これで暫くは豪華な食事だ。」
「よし!この調子であそこに居るミウェ兎を狩ろう。小さいけど魔物だからな。ファイヤーボールという火の魔法を使ってくる。飛んで来たら私の後ろに隠れるんだよ。私が盾で防ぐから。」
--え?魔法!?
「魔法ですか!?」
「し~~~、獲物が逃げる。」
「あ・・すみません。」
「いや、魔法の存在も忘れてるのかい?」
「えぇ、まぁ・・。」
「フィアラも学校で習っているから一緒に行ったら習えるよ。それよりあの獲物だ。かなりすばしっこいからな。何処を狙ってもいいから合図したら射ってみてくれ。」
「はい。」
--この星には魔法があるのか・・ふっ・・・ファンタジーワールドか。楽しそうだな。
ディランがカインに合図を送る。その二人の後ろには体長4mもあるビアトル熊が迫っていた。カインはそれに気付いていた。通常の2m~3m程のビアトル熊と違って、今まで4人の狩り師の命を奪って来た狩り師食いと呼ばれる山の主であった。山奥深くに生息している筈だが獲物を追ってディランの狩り区域まで降りて来ていた。狩り師食いは、その巨体にも拘わらず音も気配も殺して背後から近づいて来る。
--ディランさんは気付いてないのか?どうするかな・・・能力は隠しておきたいし。でも、あんな危なそうな奴は狩っておいた方がいいな。後ろ向きのまま自然の罠にかかった感じで、退治しておくか。
カインはディランの合図で矢を放って外れそうなディアンの矢とカインの矢を念動力ESPでミウェ兎に突き刺す。同時に背後にいる狩り師食いの首の骨を折って木の枝に絡ませる。たまたま山を転がり落ちて木の枝に絡まって死んだように演出してみた。
「やったぞ!カイン!命中だ!・・うわっ!!こいつは狩り師食いじゃないか!!?こんな所まで降りて来たのか!!運が良かった・・。こんな奴に襲われたら一巻の終わりだったな。しかし、こいつ転げ落ちて木に絡まったのか?・・さっきは居なかった筈なのに?・・。」
「ディランさん!!それより獲物沢山取れましたね!」
「・・・あぁ、そうだな!まさか狩り師食いまで持って帰れるとは、今日は運が良すぎるな。ビアトル熊の毛皮が高く売れるんだよ!しかも狩り師食いだ、200万ディアにはなる筈だ。取り敢えずカインは先にミウェ兎とミミグ鳥を持って小屋に帰っておいてくれ。私は毛皮を剥いでドゴリ猪を山一輪車に縛って小屋に戻るから。」
「良かったらドゴリ猪も運んでおきましょうか?」
「ハハハハ!助かるけどな。さすがにカインでもそれは無理だ。あのサイズでも250kgはある。山一輪車でのコツが分からないと動く事も出来ないぞ。」
「そうですか。じゃあ、先に戻っておきます。」
カインは惑星ガルダで何十トンもあるロボット兵器を念動力ESPで軽々と動かし破壊していた為、カインにとっては250kg程度のドゴリ猪など埃を運ぶ程も感じない。また、肉体も改造されていた為に超能力無しで背負ってでも軽々と持つ事も出来た。
「あぁ、そうだ。フィアラに少し遅くなるから先にカインと食べる様に言っておいてくれ。」
「分かりました。」