7th inning : We are soulmates between 60 Feet 6 Inches.
「ウェルカム・トゥ・ザ・ビッグリーグ。緊張してるか?」
ドビーはマウンドに歩み寄り、初登板のルーキーに声をかけた。
すでにアルゲニーズの面々は守備についている。
投球練習も終わり、後はバッターを打席に迎えるのみ。
見渡せば、四万個の目が自分一人だけを見つめているような錯覚に陥る。
いや、それは決して錯覚ではないのだ。
ルーキーは打者と相対する前に、まずこの全方向からなだれ落ちてくるような重圧と戦わなければならない。
「よく分からないであルます。ただ心臓がドキドキして、足がガクガクして、手がブルブルしているであルます」
「……そういうのを緊張してるっていうんだよ」
「しかし本当に登板できるとは思わなかったであルます。どじょーサンのおかげであルますね」
「ドビーだっつの。だから俺に任せとけって言っただろ。監督は俺に全幅の信頼ってヤツを置いてんだから。おっと、俺が口利きしたってことは誰にも言うなよ。ヘタな妬みを買ったらまずもってお前のためにならねぇ」
「ラじゃ、であルます」
素直に右手を掲げる珠姫。
ドビーはキャッチャーマスクの裏でほくそ笑んだ。
――こんなに上手く行くとは思わなかったぜ。
へろへろボールのハナタレ女を引きずり出すことには成功した。
あとは、ロジャース打線がルーキーを木っ端微塵に打ち砕いてくれるのを待つだけだ。
(こいつには悪いが、どのみちメジャーの洗礼を受けるんだ。早い方がいいだろ)
「どうしまスたか?」
「おっと、何でもねぇ。ま、余計なことは考えんな。俺に任せとけ」
自分の心臓に手を添える。
「俺たちはバッテリーだ。六十フィート六インチの運命共同体だ。ひたすら俺を信じて投げ込んできたまえ。赤ん坊が無条件に母親を信じるみてぇにな」
「ワタシは赤ん坊ではないであルますが」
「ここじゃそれ以下さ。レッツダンス・ベイビィ!」
ドビーは珠姫の尻を勢い良く引っぱたき、ホームプレートの後ろへ駆け戻った。