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後編(さゆりの視点)

 富永さゆりは校内新聞のレイアウトのことを考えていた。

 やはり、夏の地区予選一回戦で敗退した野球部に、紙面を大きく割くわけにはいかないだろう。

 さゆりは滝口タケオへの興味もあって野球部の試合を観に行った。試合後に整列するナインの後姿も写真におさめた。

 それがこの夏、野球部にとって最後の一枚になるなんて……。


 せめて、さゆり自身が撮ったその一枚だけでも紙面に載せてあげよう。そう思って現像したての写真を取り出した。

「あれ……えっ、ウソ!」

 さゆりは思わず目を疑った。

 十人いる。野球はたしか九人でやるはず、ナインっていうくらいだし……。

 十人だ。何度見ても古屋第二のメンバーが十人、写っている。


 おかしい、これはどう考えても、おかしい。

 この写真は試合終了直後に両チームが整列している場面を撮ったものだ。フィールドにいたプレイヤーしか写っているはずがない。

 ほら、やっぱり。さゆりは確信した。相手チームはきっちり九人だ。古屋第二だけ一人多いのだ。


「心霊写真……」

 ぞぞ、と怖気が走った。もしかして、自分はどえらいものを撮ってしまったのではないか。さゆりは両腕を抱いたまま、その場にうずくまった。

 どうしよう。誰に相談するべきか。滝口くん? だが、相談された彼も困るのではないか。

 この写真は野球部を撮ったものだけれど、紙面に掲載するかどうかは新聞部の問題だ。

 新聞部顧問の藤沢先生に相談するのがベストと思われた。



「……どう思われます?」

 さゆりは無理を言って藤沢響子を駅前のファーストフードに呼び出した。

 響子は三十路に入ったばかりの美人教師で、公立中学ではありえないくらいお色気むんむんだった。美少女のさゆりから見てそうなのだから、余程である。

「へー、心霊写真ねえ」

 写真を見ながら響子はMサイズのコーラをずっ、と啜った。


「ま、あれだね。どっちにしても、この写真は校内新聞には載せられないわね」

「……」

 さゆりは複雑な心境だった。常識的には響子の言うとおりだと思う。だが一方で、こんなビッグなネタを捨ててしまうのは、あまりに勿体ないとも思う。

「納得いかない?」

 響子が聞いた。まるでさゆりの心情を読んでいるかのようだ。

「……掲載できないっていうのは、わかります。でもアタシ、すごく気になるんです。うちの学校に、あの野球部に、成仏できない霊がいるんじゃないかって」


「そうね、たしかに」

 響子は窓際から外を見て言った。

「アタシも気になってたんだよねー。……十五年前に事故で亡くなった子と同世代だから、アタシ」

「えっ、藤沢先生、その子のことご存知なんですか?」

 ゆっくりと響子は首を振る。

「ううん、その怪談……七不思議? ってのを聞いたのは、この学校に赴任してから。めずらしいよね、元野球部キャプテンの幽霊なんて」

「でも、実際ここに」

 さゆりはことさら写真を強調して見せた。


「じゃあ可愛い教え子のために、一肌脱ぎますか」

 言って響子は微笑んだ。文字通り服を脱ぐんじゃないかと、さゆりは心配になった。



 一週間後。さゆりはおなじファーストフード店でふたたび藤沢響子と会った。前回と違ったのは、響子がひとりの男性を連れていたことだ。

「ちぃす、東堂です。よろしくっす」

 男性は、なんかチャラい感じだった。響子の彼氏だろうか。さゆりは無理くり笑顔をつくって会釈した。

「高校時代の同級生。まちがっても彼氏じゃないから、そこんところ、よろしく」

 響子は引き攣りそうな笑顔でそう言った。


「東堂くんは野球少年だったの。……あと一歩で甲子園だったんだよね?」

「むかしの話っす」

 響子が振ると東堂は無表情で答えた。そうか、野球つながりか、とさゆりは内心で期待した。

「彼はあなたの先輩なんだよ?」

「え……ってことは、古屋第二の出身ですか」

 さゆりは身を乗り出した。つまりこの東堂という男は、十五年前の野球部を知っている……。


「えーと、現役世代きみたちの七不思議? 響子ちゃんから聞かされたけど、なんか、すげー意味わかんない」

 そして東堂は驚愕の事実を告げた。

「オレの知っているかぎり、キャプテンが事故死したなんて話は、なかったよ」


 言葉にならず、さゆりは金魚のように口をパクパクさせるのみだった。

「たしかにあの当時、野球部はゴタゴタしてて、キャプテンが辞めたり入れ替わったりっていうのは、よくあった。でも幽霊話なんてのは一度も聞いたことがないな」

「それじゃあ、作り話だったんですか……」

 さゆりは目に見えて落胆した。だが、するとこの心霊写真はどうなる?


「事故死した少年の話は聞いたことある?」

 響子が聞くと東堂は膝を打って言った。

「あー、あった、あった! いま思い出した。でもそいつは野球部とは無関係だったよ。オレとはクラスが別で、話したこともないし……たしか転校生だったかな」


 転校生。なぜかその言葉がさゆりの胸に突き刺さった。


「名前とか、おぼえてる?」

「んー……ちょっと待って」

 東堂は必死に思い出している。さゆりには嫌な予感がビンビンする。やめて、名前を言わないで……。



「そう、滝口だ」

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